255.ギルド支部で問題相談

「スヴェイン錬金術師ギルドマスター! それに、ミライサブマスターまで!?」


「あの、私どものギルド支部運営に問題がありましたでしょうか!?」


 ミライさんと一緒にあーでもないこーでもないと議論、と言う名の無駄な時間を過ごした翌日、僕たちは現場視察の名目でギルド支部を訪れました。


「ああ、安心してください。イーダ支部長、ロルフ支部長補佐。あなた方に問題があって来たわけではありません」


「単なる私たちの現場視察です。……さて、ギルドマスター」


「はい。ミライさん」


 僕は早速、遮音結界などの結界を支部長室に展開。


 これで邪魔者が入る余地はありません。


「さて、イーダ支部長、ロルフ支部長補佐。この部屋は僕の結界で保護しました」


「は? なにを……」


「単純に外へ音を漏れなくするためです。この際ですからギルド支部の問題はすべて聞きます。なにがありますか?」


「ええと、本当によろしいので?」


「はい。この場に限り言葉遣いなどについてもギルドマスター、私ともに不問といたします。ギルドマスターは単なる技術者。私は一般事務員から引っこ抜かれただけのサブマスター。お互い腹を割って話し合いましょう」


「それでは……申し訳ありませんが、ギルド支部はあまり機能していません。このままではあと数カ月で完全に機能不全を起こします」


「それはなぜでしょう?」


「現場の事務員から私たちが侮られからです。私たちがギルド支部長や支部長補佐に任命される前、ただの一般事務員だったことが影響しています。それが知れ渡っているために私たちを見下し、ギルドのお金に手をつけるものまで出る失態を……」


「過ぎたことは結構ですよ、イーダ支部長。私もギルドマスターもそれを責めに来たわけではないのですから」


「はい……」


「しかし困りました。イーダ支部長もロルフ支部長補佐もミライさんが選んだ人材であることに変わりません。つまりは、各管理職よりも適任だと考えてのことでしょう?」


「もちろんです。本部の管理職が抜けては運営に問題が出ることも少しは考慮しました。ですが、管理職たちは多少とは言え叩いた結果埃が出た身。ギルド支部を任せるにあたり不適格と判断し候補から除外しました」


 ……本当にギルド員全員の身辺調査を行ったのですね。


 いまが大切なときですし構いはしませんが、今後はほどほどにさせなくては。


「それにしても支部長を一般事務員が侮る、ですか。あまりにも好ましくない」


「はい。できることならばギルド支部長を変えていただきたいです。例えばアトモさんのような実力者に」


「……ふむ」


 確かにアトモさんなら文句を言うものはいないのでしょう。


 僕はよく知りませんが、この国では偉い『金翼紫』だったそうですし。


 ただ……。


「アトモさんがそれを引き受けてくれるか、ですね」


「難しいと思います。アトモさんもいまはご自身の研究が楽しい様子。ギルド支部長などという椅子は求めないでしょう」


「僕としてもアトモさんにはもっと実力をつけてもらわねば困ります。かと言って、今のままではギルド支部がまとまらない」


「申し訳ありません。大任を任せられたのにお役に立てず……」


「いえ。私たちの考えが甘かった、とも言えます」


「はい。僕たちのときに誰も反発しなかったので気に留めていませんでした」


 さて、イーダ支部長とロルフ支部長補佐も交えて話し合いを始め、問題点は浮き彫りになりましたが解決策が見えてきません。


 はて、そういえば……。


「役立たずだったらしい前錬金術師ギルドマスター。あれはなぜギルドマスターに?」


「ああ、あれは縁故入門でそのままギルドマスターの地位に収まっただけです。ギルドマスターがいらっしゃる前のコンソール錬金術師ギルドはある地方貴族の縁戚がとっかえひっかえ入門してはギルドマスターに就任するを繰り返していましたから」


 想像以上の役立たずでした。


 これでは何の参考にもなりませんね。


「同じように考えれば『カーバンクル』様方のどちらかに名目上の支部長となってもらう方法もありますが……」


「彼女たちはそれを望みませんし聖獣たちも反発するでしょう。まして、それで従うのは技術者のみで事務員は余計反発します。問題解決にはほど遠い」


「ですよね。ああ、どうしましょう。事務員が従わないなんて夢にも考えていなかったですよ……」


 本当に困りました。


 こういうときどうすればいいのでしょう?


「スヴェイン錬金術師ギルドマスター、なにか妙案はありませんか?」


「十歳まで貴族として暮らし、それ以降は隠遁生活。その後、山から下りてきてギルドマスターの椅子に座らされた僕がいい案を持っているとでも?」


「お貴族様でしたら領地経営とか人心掌握とか習ってませんか?」


「領地経営でしたらさわり程度に習いましたが、本格的な教育は『星霊の儀式』後の予定でした。アリアも同様です。人心掌握など習ってもいません」


「……役立たず」


「本当に最近は遠慮しなくなりましたよね、ミライさん」


「そもそも、貴族家の嫡男が十歳まで領地経営も人心掌握も習ってないなんておかしいじゃないですか!?」


「仕方がないでしょう。僕もアリアも『星霊の儀式』までに目的の職業となるためぎりぎりの指導計画だったのですから」


「普段は職業優位論を否定しているくせにご自分は職業を選んだのですか!?」


「職業を選ぶことまでは否定していませんよ。それに僕も武家の貴族家嫡男としての面目……はどうでもよかったのですが、錬金術師になるという夢はありました。アリアも『魔法使い』から上位の『職業』に就く目的があったのです。錬金術師ギルドにいるからシュミットに触れる機会が少ないのでしょうが、シュミット家の流儀はシュミット講師陣よりも厳しい……らしいです。領地経営や人心掌握術は念のためと言うことでシャルが学んでいたので大丈夫でしたよ」


「ああ言えばこう言う……それに結局は一番年下の公太女様に押しつけてるじゃないですか!?」


「ああ、もう! ギルドマスターもサブマスターも落ち着いてください!」


「そうです! ケンカをしてもなんの解決にもなりません!」


「それは……失礼しました」


「それもそう……」


 ん?


 ケンカ?


「ギルドマスター、なにか思いつきましたか?」


 ミライさんが僕の顔をのぞき込んできますが、いまは無視です。


「イーダ支部長、ロルフ支部長補佐。あなた方、一年近く僕の運営するギルドで働いている生え抜きですよね?」


「ええ、まあ」


「前ギルドマスター時代からいましたが……それが問題でしょうか」


 シュミットの流儀になってしまいますが、仕方がないでしょう。


 ギルドマスターもシュミットですし。


「ケンカ、しちゃいましょう」

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