57.夕食後の団らん
「あのね、それが私が作った『ライト』の魔宝石です」
コウさんとマオさんが帰宅しての夕飯後、ニーベちゃんが今日の成果をふたりに報告しています。
ふたりの手にはそれぞれ、ニーベちゃんが作った魔宝石が載せられていました。
「……信じられんな。本当に魔力とキーワードだけで魔法が発動する」
「『ライト』は光魔法の入り口ですわ。使えるものには極簡単な魔法ですが、こんな簡単に扱えるなんて……」
「冒険者ギルドでティショウに指輪を貸していたが……これも同じ原理か、スヴェイン殿?」
「はい、原理は同じです。ただ、込められている魔法ランクがまったく異なるので必要な技術は段違いですが」
「なるほど。ちなみに、これはどれくらい使えるのかな?」
「僕が作れば4時間程度は使えます。ニーベちゃんが作ったそれは……30分も使えば効果を失いますね」
「そうですか。私の技術ではそれくらいですか……」
「ニーベちゃんが悪いわけではありませんよ。僕が作る場合、宝石保護や圧力分散などの術式も加えるので長持ちするだけですから」
「そうなのですね……私も勉強すればその技術を学べますか?」
「ええ、できますよ。まずは基本を覚える必要がありますがね」
「はい、頑張ります!」
「ニーベにもいい目標ができて本当にめでたいな。それから、作業部屋だったか。それも明日から準備させることにしよう」
「お願いします。錬金術を学ぶには可能な限り質のいい作業部屋……アトリエが必要になりますから」
「ふむ……それならば、最初から最高級の設備をそろえるのはどうなのだ?」
「初めから設備が多すぎても混乱します。僕はおばあさまが作業をしていたところを見ていましたし、メモや書物も残してくださいました。ニーベちゃんにはそれがないので、可能であれば錬金術の腕前が上達するにつれて必要な設備を増やしてあげてほしいのです」
「なるほど、理にかなっている。スヴェイン殿が常にそばにいるわけではない以上、使える道具を制限して、できないことまですることがないようにというわけか」
「そういう意味合いもあります。錬金術の道具や素材、錬金結果のアイテムには毒物であったり爆発物も含まれます。危険性を認識して扱わないと、作業者自身が危険ですから」
「スヴェイン先生、私はそこまで子供じゃありません!」
「子供ではなくても危険なんですよ? そもそも、僕も師匠から聞いて初めて知ったのですが、錬金術師の職業を持った人でもポーションを作るようになるのは『星霊の儀式』を終えてから、というのが一般的らしいのです。僕はなにも知らずに5歳から作り始めましたが、それが異常だったらしいです」
「そうなのですね……」
「そうだな。錬金術のような危険が伴う職業の場合、10歳になるまでは初歩の技術しか学ばせないという職業も多いと聞く」
どうやらそういうことらしいです。
僕の家族は、よく止めなかったものですよ。
「そういうわけですので、ニーベちゃんにはしばらく鑑定、付与術、薬草栽培、魔力水の錬金。これだけをこなしてもらいます」
「……お待ちになってくださいな、スヴェイン様。いま、薬草栽培と聞こえましたわ?」
「はい、マオさん。薬草栽培も勉強のうちですよ?」
「薬草栽培はグッドリッジ王国以外、成功しておりませんのよ?」
「僕は生産方法を知っています。そうじゃなければ、あのように大量のポーションを卸せませんよ」
「……その通りだな。しかし、薬草栽培の方法をそんな簡単に教えてよいのか?」
「ニーベちゃんの面倒を見ると決めてしまいましたし、錬金術のスキルを鍛えるのにはこれが近道なのです。栽培方法は秘匿していただけると助かります」
「わかった。方法については秘匿すると約束しよう」
「よろしくお願いします。では、ニーベちゃん、明日は朝早くから畑作りを行いますよ」
「わかりました。寝る前に魔力操作で魔力枯渇を起こした方がいいんでしたよね?」
「はい。難しそうでしたら無理をしなくても大丈夫です」
「いえ、これも努力です。湯浴みが終わりましたら早速試させていただきます。おやすみなさいませ」
ニーベちゃんはあいさつを済ませると、浴室へと向かいました。
……さて、ここからはニーベちゃん抜きのお話ですね。
「コウさん。僕たちはあと1週間程度で一度この街を離れようと思います」
「1週間か……それまでにニーベに基礎的なことは?」
「一通り教えられるでしょう。ただ、作業部屋の改装と蒸留装置の手配だけは大至急行ってください」
「わかった。そちらは3日で終わらせよう。ちなみに、蒸留装置が必要な理由は?」
「ニーベちゃんとハヅキさんにはお話しましたが、錬金術で使う蒸留水を作るために使用します。本来であれば錬金術で蒸留水も作成するのですが、蒸留水の作成概念を教えている時間がありません。ニーベちゃんには蒸留装置で概念を覚えてもらい、自力で錬金出来るようになってもらいます」
「承知した。……それと、別件で相談なのだが娘の店で作ったような変わったアイテムをなにか作れないだろうか?」
「変わったアイテム……
「はい。スヴェイン様に教えていただいた金属で作ったアクセサリーなのですが、とある婦人のお茶会で大変ご好評をいただきましたわ。しばらくはそちらの生産だけで工房はかかりきりになりそうですの」
「それは……すみませんでした」
「いえ、私どもとしては大きな商機をいただけたのですから大変喜ばしいことですわ。ただ……」
「そうなってしまうと、今度は私の商会が目立たなくなってしまってな。最初は娘の店からそのアクセサリーを卸してもらい、私の商会で販路開拓をする予定だったのだ。だがな……」
「その前に十分過ぎる注目を集めてしまったと」
「そうなる。なにかいいアイディアはないだろうか?」
「うーん……商売は僕の専門ではないんですよね」
「申し訳ありません。私も得意では……」
「いや、少し聞いてみただけだ。……それにしても、このチーズはおいしいな」
「ですわね。ほんの少しコショウを和えただけでこんなに食べやすくなるだなんて」
「本当にお酒が進む味ですわ。……飲み過ぎに注意が必要ですが」
「ラベンダーいわく、食べ過ぎにも注意が必要らしいですよ? チーズは栄養が豊富らしいので、あまり食べ過ぎると太りやすいとか」
僕のその言葉で3人の手がピタリと止まりました。
ですが、数秒後にはまた動き出しましたね。
「……1日くらいなら問題ないさ」
「そうですわね」
「食べ過ぎ、飲み過ぎは体に悪いですわ」
その様子を見てあることをひらめきました。
いえ、そんな大したことでもないのですが。
「コウさん、チーズを販売していた方とはまだ連絡が取れるんですよね?」
「ああ。明後日まではこの街に滞在していると……そうか、チーズか!」
「ラベンダーから聞きましたが、チーズにはもっと種類があるそうです。あの方の村では作っていないかも知れませんが、探してみるのも悪くないと思います」
「そうだな。あの者と話をしてどのようなチーズを生産しているか聞いてみよう。その上で、チーズの食べ方とともにチーズを販売すれば大きな宣伝になるか」
「はい。試してみる価値はあるかと」
「そうだな。早速、明日にでも人を向かわせよう。それでなのだが……」
「はい、今回購入したチーズをおわけすればいいんですよね?」
「ああ。商会で販売する分もほしいが、自宅で楽しむ分も確保したい」
「わかりました。明日にでもラベンダーにどの程度残せば問題ないか聞いてみます」
「助かる。しかし、食べ方を変えれば本当に味も変わるものなのだな」
「そういえば今日のスープはチーズのスープだったとか」
「うむ、あれもうまかった。調理方法を研究すればおいしい食材はまだまだ眠っていそうだな」
「お父様、それを研究する部署を専門に立ち上げるのはいかがでしょう?」
「それも悪くないな。明日、他のものにも意見を聞いてみよう」
ここまで話が進んだところで僕とアリアも明日の準備があるため、部屋に戻って休むことにしました。
今日の午後からニーベちゃんに教えたことをノートにまとめてみると、まだまだたいしたことは教えられていません。
その様子を見ていたアリアも同感なようで、明日は薬草栽培の方法も含めていろいろと教えたいと思います。
それとは別にニーベちゃん用の参考書も必要になるでしょう。
人にものを教えるとはこんなにも大変なのですね……。
セティ様も苦労していたのでしょうか。
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