101.『武具錬成』(実践編)
「さて、インゴットを入れちゃいますよ」
今回の武具錬成で使うのはミスリルとガルヴォルンです。
普通の鍛冶屋だと『相性が悪い』と突き返されるそうですが、武具錬成においては強度としなやかさがちょうどいい感じになるんですよね。
錬金台にインゴットを入れるとそこから一メートルほどの光の柱が立ち上りました。
僕が錬金台に放り込んだ金属を見て更に躊躇をし始めたのは【アクアボルト】の皆さんでした。
「おい、最初に入れたのはミスリルだよね? あとから入れたのはなんだい? 魔法金属というのはわかるが、それにしては妙に黒く光ってたんだが……」
「ああ、これですか。これはガルヴォルンと言って、主にダークエルフ族が大昔に作っていた魔法金属です。ミスリルが光の魔法金属とすれば、ガルヴォルンは闇の魔法金属ですね」
「なんだか物騒な響きなんだが……」
「そんなことはありませんよ? 純ミスリルの武器は鋭いですが柔らかく、すぐにすり減っていきます。対してガルヴォルンは強度が高く強靱な魔法金属です。ふたつを武具錬成で混ぜ合わせることによって、その長所同士を引き継がせるのです」
「……本当かねぇ」
「まあ、実際にやってみてください。ヨライネさんが最初でしたよね。どうぞこちらへ」
「は、はい」
おっかなびっくりといった様子でこちらに歩み寄り、錬金台の前にたどり着きます。
これで大丈夫ですかね?
「それでは光の中に手を入れて欲しい武器をイメージしてください。きちんとしたイメージが出来ていないと失敗しますから、気をつけてください」
「は、はい。頑張ります」
「まあ、何回かは失敗するでしょう。失敗したら失敗品を光の柱に戻してください。そうすれば素材に戻りますので」
「はい、大丈夫です」
ちっとも大丈夫じゃなさそうですが……まあ、いいでしょう。
武具錬成ばかりは何回も失敗してイメージを固めるしかありませんからね。
「イメージ、イメージ……あ、これじゃない……」
ヨライネさんが光の柱から取り出したのはショートランスと小さめのシールド。
ふむ、シールドで牽制しながらショートランスで突き刺すタイプですか。
「うう、うまくいかないです」
「ヨライネさん、まずは片方ずつイメージしてはいかがでしょう? 同時にイメージしようとすると、よほど慣れない限りはイメージがブレるものです」
「はい。あ、でも、武器を作るという約束なのに、シールドまで作っていいのでしょうか?」
「手に持って戦うものは全部武器ですよ。なので気にしないでください。素材が足りなくなるわけでもありませんし」
「はい! ありがとうございます!」
ヨライネさんは今度は落ち着いて槍と盾を別々にイメージし始めました。
それでも満足できる槍を作り出すのに八回、盾は十回もかかりましたがね。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いえいえ、僕のことはお気になさらずに。ほかの方で武具錬成を試したい方はいますか?」
「うーん、ヨライネのできを見てから考えさせてもらうよ」
「はい。では仕上げと行きましょう」
「仕上げ?」
「この槍、まだ相手に突き刺さるほど刃がついていないんですよ。だから研磨ですね」
「あ、でも、鍛冶屋は……」
「僕が研磨します。と言うか、そこらの鍛冶屋に持ち込んでも研いでもらえませんよ。正確には研ごうとしても砥石の方が負けて、研磨が出来ません」
「えっと、錬金術師、なんですよね?」
「錬金術に関わる技術は一通り修めていますのでご心配なく。それでは貸してください」
「はい、どうぞ」
ふむ、意匠は持ち手部分以外はこだわらず、実利一辺倒な槍ですね。
突き刺すだけでなく、払うことで先端が剣になるようにも考えられていますし、なかなかのものでしょう。
さて、研磨を始めますか。
僕は研磨用の道具一式を取り出し、研磨を始めます。
武器の研磨は久しぶりですが、腕は衰えないものですね。
「……あの、使っている砥石はなんでしょう?」
「知らない方が身のため、とだけ答えておきます。僕らは簡単に集められますが、冒険者の方々にとっては命がけでしょうし、Dランクのあなた方では決して手に入らないものです」
「わかりました! これ以上聞きません!」
この砥石、竜の歯なんですよね。
贅沢な使い方ですが、魔法金属の合成品ともなればこれくらいは用意しないといけません。
研磨を終えた槍は、一段と鋭さを増し、それが武器であることを誇らしげに輝いています。
次はエンチャントですが……これは本人に希望を聞きましょう。
「ヨライネさん。これからこの槍と盾にエンチャントを施します。【自己修復】は確定として、ほかになにを望みますか? 残り枠はふたつずつです」
「ちょ! 【自己修復】って高ランクエンチャントの中でも上位の方じゃないか!?」
「そうなんですか? 僕が作る装備には常にかけているものなのですが」
「ええと、【自己修復】は必須なんですか?」
「必須です。そうじゃないと、切れ味が鈍ったときなど、鍛冶屋に持ち込んでも調整してもらえずに困りますよ?」
「なるほど……では、槍には【清浄】と【浄化】を、盾には【剛健】と【重量軽減】をお願いできますか?」
「……ふむ。【浄化】は死霊系のモンスターに特攻が付きますからよくわかります。残り三つは?」
「……ええと、私、モンスターの血を拭うのが苦手でして、【清浄】があれば汚れないかと。盾は強度上昇と軽く扱えるようになるためです」
「なるほど、では【清浄】ではなく【浄化】をその目的で使ってください。【浄化】は不浄なるものをすべて消し去りますから」
「……そんな豪華な使い方が出来るんですね」
「それで残った一枠には【自動回収】を付けましょう。そうすれば、戦闘中に不慮の事故で槍を手放すことになっても、少しの魔力で手元に帰ってきますから」
「ええと、【自動回収】も上位エンチャント……」
「僕に言わせれば一般レベルのエンチャントです。次に盾にかけるエンチャントですが、【剛健】と【重量軽減】じゃもったいないです。【金剛防御】と【所持時重量無効】を付けましょう」
「ぴぇ」
「おいおい。どれも上級エンチャントだってーの……」
「僕なら失敗しませんよ。【所持時重量無効】は戦う感覚が変わります。そこも含めて考えていただきたいのですが……いかがでしょう、ヨライネさん」
「そのエンチャントでお願いします!」
「ちょっと、ヨライネ!」
「リーダーは黙っていてください! こんな上級エンチャント、本当にかけてもらえるチャンスなんてありません! なら、このチャンスに賭けるべきです!」
賭けるほど成功率が低いわけではありませんが……。
ともかく、決断はしていただけたので早速エンチャントを施していきましょう。
「ニーベちゃん、エリナちゃん。これからエンチャントを行います。覚えるのは遙か先、神霊の儀式でふたりが目標を達成した暁になります。今はどのようなものかだけ見ていてください」
「わかりました!」
「先生の技、拝見いたします」
ふたりも呼んで、いよいよエンチャント開始です。
まずは槍の方から。
最初は【浄化】、次に【自動回収】、そして【自己修復】、それから……。
「うわぁ、四回もピカピカ光りました!」
「四回だって!? さっきは三つだって言ってなかったかい!?」
「【エンチャント強化】の枠も取らせていただいていたのです。なので四回ですね」
「【エンチャント強化】って……伝説級だよ?」
「僕にはちょっと難しい程度のエンチャントですよ。失敗しませんけど」
「やべぇ。アタシらがこんなものを持ってるってばれたら取り上げられちまう……」
「個人認証もかけますので、他人が使ってもちょっと強いだけの武器ですよ」
「そうかい? いや、それでも、ちょっと強いだけの武器に収まるのか……?」
「諦めろ。スヴェインはこういうやつだ」
「バード先輩……」
「大人しく残りの三人も武器を作ってもらえ。技術料金貨五枚なんて大安売りは間違いなく今日だけだぞ」
「ですよねぇ……」
「こんなの白金貨が十枚以上積み上げられてもおかしくない案件だ。まったく、アイツはなにを考えているのやら」
残りの盾にもちょちょいっとエンチャントを施します。
試し切りがしたいというので、ちょうどいい感じの鋼鉄の鎧を取り出して試しに貫いてもらいました。
すると、なんの抵抗もなく鎧に風穴があいたそうですよ。
盾の方の性能も確かめて見たいというので、バードさんが弱めの一撃を放って受け止めてみましたがそちらもびくともしませんでした。
ただ、盾を持つ腕が完全に軽いというのはやはり違和感があるそうなので、下位の依頼をこなして慣れるそうです。
それからは、残りの皆さんも次々と武器を完成させて、僕と相談しながらエンチャントも決めていきました。
僕の口から出るエンチャントの名前が上級だったり伝説級だったりするので、腰がひけていましたが……まあ、慣れていただきましょう。
僕はこんな感じですし。
触媒を使ったエンチャントならもっと強力なものもかけられますからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます