935. 戦闘終了後のギルド評議会にて

「……以上が今回の戦闘による被害です。はっきり言って、邪竜族側の街道が潰れていないのが奇跡ですね」


 僕たちの除染の合間を縫って今回の戦闘による被害を共有するためのギルド評議会が開催されました。

 僕は除染作業であちこちを飛び回っていたので、除染した地域の地図しか用意していませんでしたが、これでも十分な資料となるようです。

 皆さん、ここまで深刻な被害が出ているとは思えなかったのでしょうね。


「話はわかった。除染作業というのはいつまでに終わるのだ?」


「そうですね。冬が始まる前には終わらせるつもりです。逆を言うと、それくらい汚染がひどいということになります」


「聖竜の里から増援は呼べないのか?」


「もう1匹、古代竜エンシェントドラゴンを呼んであります。それでもこのペースです」


 僕の説明を聞き、皆さん歯がゆそうな表情をしています。

 特に深刻そうな表情をしているのは、やはり商業ギルドマスターでしょう。

 商業ギルドとして使える輸送路の制限をかけるかどうか悩むところですからね。

 頭が痛そうです。


「それでは邪竜族の被害はわかった。『パンツァー』殿が戦っていた相手の被害はどうなのだ?」


「こちらはさらに深刻です。大地の穢れのようなものはありませんでしたが、流れ弾で街道がぐしゃぐしゃになっています。聖竜やほかの竜にも頼み再整備をお願いしていますが、安定した街道に戻るには半年以上かかるでしょう」


「半年……ですか」


「半年ですね。これから冬になり、雪が降り始めるとどうしても道がぬかるみます。コンソールはあまり雪の降らない地方ですが、たまに降る雪がネックですね。水はけのよい街道を整備するとなると、やはり時間がかかります」


 商業ギルドマスターは完全に意気消沈といった様子で黙り込んでしまいました。

 破壊された街道を通じて輸送していた輸送隊はかなり多かったはずです。

 迂回路もあるにはあるはずですが、3日ほど余計に使うこととなるはず、それはたまったものではないでしょう。


「『パンツァー』殿の方面の被害もわかった。それで、『パンツァー』殿が戦った竜族というのはまったくわからないのだな?」


「はい。まったく見当もつきません。『パンツァー』からは『人竜族』という竜族の情報が挙げられましたが、『パンツァー』すらもおぼろげに聞いたことがある噂話程度の種族とのことです。これと決めるのは危険でしょう」


 評議会の議場にいた全員が黙りこくってしまいました。

 自分たちは確かに襲われたが、理由も相手も不明、そんな気持ち悪さに襲われているのでしょう。

 僕だって落ち着かないです。


「とりあえず、本当に『人竜族』であった場合、見分けることは不可能とのこと。街の警備を厳重にして竜たちの守りも強める、それくらいしかできることはないでしょう」


「……そうだな。いま浮き足だっても仕方がない。できることから始めよう」


 このあともいくらか対策案が出ましたが、結局は普段の警備をもう少し強めるというところで落ち着きました。

 街の方でもいきなり竜族が襲ってきたことで動揺が広がっているようです。

 街に被害が出なかったことで、逆にこの街の安全は保証されたと喜んでいる者たちもいるようですが、彼らもあまり浮かれさせないようにしましょう。

 なにせ黒幕の正体がまったくわからないんですからね。

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