460.マジカルコットン:実践練習
昼食休憩も終わり講師陣から午後の予定、すなわちマジカルコットンの作製実習を告げられたのですが……ここでも一波乱が。
「仮弟子。なぜあなたが一番最初に聖獣樹の織機の前に座っているんですか?」
「ごめんなさいごめんなさい! でも皆からの推薦なんです! 講師の皆さんからも推薦されちゃったし、私もなにがなんだか……」
うん、サリナさんもパニックですね。
ユイも内心混乱しているみたいですし……どうするのでしょうか?
「……仮弟子。あなたに試験です」
「はい!」
「これから三十回マジカルコットンを織らせてあげます。一回も成功しなかったら破門、家からも追い出します」
「そんな!?」
「嫌ですか?」
「頑張らせていただきます!」
ユイ、初心者に三十回で魔法布を織れは厳しいですよ?
さすがに度が過ぎています。
止めるべきでしょうか?
「スヴェイン、マジックポーションの用意を」
「はい?」
「この実習、必ず未経験者は魔力枯渇を起こします。回復用のポーションをお願いします。自然回復なんてさせません」
「……ユイ、鬼にも限度があります」
「何事も経験です」
「まあ、ペガサス用のマジックポーションはありますから大丈夫ですが」
本当に職人モードのユイは鬼です。
無理をさせすぎるようでしたら、僕が無理矢理にでも止めましょう。
ほかのシュミットの皆さんも怯えてますから。
……ユイって服飾リーダーだったのは聞きましたが最年少ですよね?
「ともかく、サリナ。あなたからなら仕方がありません。これがマジカルコットンの糸です。織機の通し方は普通のものと一緒。わかりますよね?」
「はい、習っています」
「よろしい。では、始めなさい」
サリナさんは織機に糸をセットして聖獣樹の織機を発動……させようとした瞬間にふらつき倒れそうになったところをユイに支えられました。
「あ、あれ? めまいが……」
「魔力枯渇です。スヴェイン、マジックポーションを」
「はい。自分で飲めますか?」
「それくらいなら……あ、少しだけ頭がすっきりしてきました」
「とりあえず、私に寄りかかったままでいいので聞きなさい。あなた、魔導具と聞いて全力で魔力を流そうとしましたね?」
「あ、はい……」
「聖獣樹の織機だからなんともありませんでしたが、もっと低級の織機だったらそれだけで織機を痛めています。織機を発動させたいなら必要な魔力量の見極めができるまで、ゆっくり少しずつ流して魔力循環ができるようにしなさい」
「わかりました、ユイ師匠……」
「さて、そろそろ回復しましたよね?」
「あ、はい」
「では、続きを。幸い織機が発動しなかったため糸も切れていません。発動したあとは魔力ムラや循環の寸断があったら糸が切れますのでご注意を」
「はい!」
「返事だけではなく結果も残すように」
完全回復したらしいサリナさんから離れたユイは、再び織機の様子を見つめます。
今度はサリナさんも慎重に魔力を流し織機を発動させることに成功、ただし数回シャトルを動かすと……。
「あっ!?」
「手元に集中しすぎて魔力が途切れました。糸を張り直してやり直しです」
「はい……」
その後も幾度となく失敗を繰り返し、数えること十八回目。
「……あれ、糸がなくなった?」
「おめでとう。マジカルコットン、成功です」
「え? 私、できたの?」
「よく頑張りました。私の読みでは早くて二十回超え。おそらく三十回ぎりぎりでしたから。まあ、できなくとも蹴り出すつもりはありませんでしたが」
「え、師匠?」
「一反織れた程度で満足しない! あなたに与えられたチャンスは三十回です! 早く次を織る!」
「は、はい!」
サリナさん、織れた嬉しさとユイに急かされているのとでマジカルコットンへ普通に触れている事実を見落としています。
あれくらいできないと織れないのかも知れませんが。
サリナさんが成功したのは全部で六回。
最初の十八回目のあとは二十一回目、二十四回目、二十七回目、二十八回目、三十回目でした。
あとの方になるほど成功率が上がってると言うことはまぐれ当たりではないという証明ですね。
なお、この間にもマジックポーションは数回飲んでいます。
「サリナ。あなたは織れたマジカルコットンで服を作ってきなさい」
「え? いきなり服?」
「フローネ、サリナの指導を任せます。私は次の機織り者を監督しなければなりませんので」
「はーい。あなたの仮弟子なんだから最後まで面倒を見てあげたら?」
「それでは甘えが出ますし服飾ギルドに入れた意味がありません。と言うわけで、次の挑戦者、早く来なさい!」
僕はユイにマジックポーションを渡してサリナさんの様子を見にいきます。
サリナさんは服飾講師のフローネさんから指導を受け、布の端ではさみを入れる練習をしていますね。
ただ、その練習も一時間ほどで終了。
布を裁つために適切な魔力の込め方がわかったみたいです。
そのあとは慎重にブラウスを作る作業に移りました。
その作業も何回もこなしているのかすべて補助線すらなしでこなしています。
そして、何回か布をダメにしながらも一着目のブラウスが完成し、仕上げ処理の前にエンチャントを行う手順となりました。
さて、サリナさんはどうでるか。
「えーと……えい!」
サリナさんのかけたエンチャントで服が光った回数は三回、しかも内容は……。
「【擦過傷耐性】初めて成功した……」
「おめでとう、サリナ!」
「ありがとうございます、フローネさん!」
「さあ、布が傷む前に仕上げ処理!」
「はい!」
魔力固着も難なく成功。
そのあとも子供用ブラウスを三着作ることに成功し、エンチャントも三回以上成功しました。
サリナさんも成長していましたね。
「……さて、まもなく終業時刻です。今日の実習はここまでにしましょう」
ユイの声が響き渡り今日の講義は終了、ユイの出張講義も終了です。
ちなみにマジカルコットンを一反でも織れたのは七名、服までできたのはサリナさんを含めて三名でした。
残りの二名はユイの引っかけに気付いてもいませんでしたがね?
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