期末試験編 完
戦いは終わり、カカオのいた世界ごと消滅させて帰ってきた。
「戻ったぞー」
「おかえりー」
「早かったわね」
みんなでお菓子食いながらまったりしていた。俺にも冷えた紅茶を渡してくれる。本当に俺の身を案じたりしないよね。
「はーいみんなお疲れさま! 色々とトラブルもありましたが、これにて期末試験終了でーす!!」
やっとだよ。いやあ長かった。何年か経っているんじゃないかと錯覚するほどだ。
「今回でしか経験できないことがいっぱいあったと思います。よくがんばりました。それぞれ成長も見られてよかったわ。がんばったみんなには、ご褒美があります!」
少しざわつく。学園からのプレゼントとは、きっとすごいものなのだろう。
「勇者科は特別な科。それぞれが欲しそうなものを見繕ったわ。せっかくだからお金よりこういうのよねえ。ってわけで、リストあげるから一週間以内に決めましょう!」
なるほど、あとでちゃんと見ておこう。言い方からして金じゃないし楽しみだ。
「順位が上だとかなりやばいものがもらえるわ。さらにこのあとお疲れさま会ってことで、料理とかたっぷり用意してあるから、食べて休んでね!!」
どうやら全員追試は免れたようだ。
料理のある会場は豪華で、まるで貴族のパーティーのようである。
「肉がうまい」
「肉ばかり食べてはいかんぞ」
「野菜テリーヌを持ってきたよ!」
「馴染みのないもんが来た」
「こういうのもおいしいのよ」
別に難しい場じゃないので各自好きに食う。上物だねえ。こういうとこ学園好きよ。
「あっくん発見! やっぱり食べるの優先してるじゃん!」
四人で飯食っていたら、8ブロックのみんながやってきた。それぞれ好きな料理を皿に盛っている。
「おう、おつかれ」
「探したわよもう」
「おつかれさま会なのに国王様いないんだもんねえ」
「どうせギルメンのとこだと思ったよ」
「アジュがお世話になりました」
「いえいえこちらこそ、アジュさんにはお世話になりまして」
堅苦しい挨拶が始まりそう。とりあえず冷めないうちに食うか。
「鴨肉があった。希少部位」
俺が牛肉を食べているのに気付いたのか、イズミが鴨肉をわけてくれる。
「柔らかくてうまい」
「しれっと混ざっておる」
「やるわねイズミちゃん」
「別に畏まらなくていい。あー……とりあえず、だな」
最後くらいちゃんと王様っぽいことをしておこう。食い物は置いて、真面目に話す。
「今回の試験、本当に世話になった。王様なんて柄じゃないが、それでも運営できたのは、お前らがいたおかげだ。そこはしっかり礼を言う。助かったよ。おかげで試験突破できた」
これは本音なのでちゃんと言おう。かなりサポートしてもらった。礼にはちゃんと礼で返すのだ。
「いいわよそんな、アジュくんに助けられたのだって一度や二度じゃないんだし」
「いい国王だった」
「私も勉強になったので感謝しています」
お礼の言い合いになった。実際他のメンバーとじゃうまくやれていたかわからない。感謝しておくぞ。
「本当に支えてもらってすまぬ。どうせ朝とかうだうだしておったのじゃろ?」
「やっぱり自宅でもそうなの?」
「ぐだぐだーってしてるよね」
「朝起こす係がいるわ」
俺への愚痴みたいになってきている。まあいいさ、迷惑かけた自覚はある。最後だし好きにさせよう。次はお高い魚を食うぞ。
「普段からもう少し真剣ならいいと思います」
「肝心な時にしか役に立たんからのう」
「あっくんはキリっとすれば結構イケてると思うよん」
よく俺なんかの話題で盛り上がれるな。楽しそうだから水をさすことはしないが、本人目の前で盛り上がられると不思議な気分だ。
「というわけで、あんまりリリアちゃん達に負担かけちゃだめだぞ」
「わかっている。お前らは自分のブロックの挨拶とかいいのか? 今のうちに行ってこい」
「そうだねー、ちょっと行ってこようかな」
「なんだかんだ愛着は沸くものね」
「では少し解散して挨拶回りじゃな」
こうして三人がいなくなったので、完全に暇になった。8ブロック連中はなぜかこの場で食い始めているので、なんとなく思い出話とかしてみる。
「よくまあ冬の雪国なんぞで生き残れたよな」
「逆に資源の豊富な土地ならもっと攻められていたかもしれないよ?」
「可能性はある。9ブロックと両立は厳しい」
「9ブロックって試験突破できたんだな」
国ほっぽって逃げてよく合格できたな。戦争も負けっぱなしだろうに不思議だ。
「なんでも2ブロックに雇われていたらしいですよ。その過程で学園側から2・5ブロックの報告書を書かせたとか」
「なるほど、無自覚にスパイさせたのか」
「自覚させたら使い物になるか怪しいな」
その地のレポート書かせて、内情をばらされていたわけか。本当に攻め落とさなくてよかった。味方にしたくねえ。
「みんな強くて賢くてよかったにゃあ」
「全員有能なのは奇跡。各自役割分担ができていた。無駄がない」
「できることとできないことが浮き彫りになったねえ。みんな最初の印象と変わったよ」
「いい方にな」
こいつら癖はあるがまともだからな。何かあれば手を貸すくらいやぶさかではないぞ。恩は返しておくものだ。
「イズミちゃんとルナには何か依頼するかもしれないわね」
「おぉ? いいよいいよん。がんばっちゃうよーい!」
「仲間の依頼は大切。優良顧客は逃さない」
「その時は頼らせてもらうさ」
実力と性格がわかっている相手は助かる。俺のような完全な人見知りには、ゼロから他人と何かするのは無理なのだ。
「それじゃあみんな、何かあったら助け合って、二年生もがんばろー!」
「おおー!!」
珍しくとても綺麗に終わりを迎えた。いい経験と思い出ができたので、俺としても大満足の結果である。
そして私物をまとめて業者に頼んだら、久しぶりの自宅へと戻る。当然疲れたので寝た。次の日の昼まで寝た。うむ、やはり自分の部屋は最高だな。
「アジュがだらだらしてる」
「もっとだらだらするぞ」
シルフィがベッドに来た。試験の気疲れを理解しているからか、別に起こすつもりじゃなさそうだ。
「あそんでー」
「眠いからやだ」
「むー」
俺の横でごろんと横になる。大きく動かないのはえらいぞ。
「ふへへー、お部屋久しぶり」
「やはり自宅が一番だ」
「だね。おうちだからくっつけるぞー」
「却下します」
擦り寄ってくるシルフィは、やんわりと避けておこう。冬だし自宅だが、あんまり許すといつもいそうだしな。
「ふっふっふ、そのくらいでは諦めないシルフィちゃんだぞー」
「しぶとい」
「シルフィちゃんはアジュがなでなでを怠ると現れるのだ」
「特殊な妖怪だな」
「たまには甘えたいのであった」
口調がギャグっぽいのは、俺の抵抗感を減らそうとしているな。手口が巧妙になりおって。
「撫でられ待ちをします!」
「どんな宣言だ。ほらイロハが来ちゃったじゃないか。撫でてもらえると勘違いしているぞ」
シルフィの横で順番待ちみたいに待機している。無言でこっちを見るなお前は。
「布団に潜ることで回避だ」
頭まで布団をかぶって寝る体勢に入る。今は遊んであげられませんよー。
「追うわよ」
「まてまてー」
瞬時に左右に入られた。こいつら物理的な壁を無視できるから強い。
「寝かせろ」
「寝ながら撫でればいいのよ」
ちょいちょいと肩に手を置かれる。遊んで欲しい犬がやるやつだ。
「あまりくっつかないように。はしたないぞ」
「はーい」
目を閉じて、眠るまで頭を撫でてやる。なんか家に帰ってきたなって実感の湧く俺はもうやばいと思う。
「これがいつもの日常というやつじゃよ」
しれっとリリアがまとめに入った。懐かしさすら感じる環境だ。この家に戻りたいと思っていたが、いざ戻ると感動より安心が勝るのだなと、なぜか穏やかな心になった。
「夜眠れなくならないようにな」
「そうしたら眠れるまで話したりすればよい」
「今日だけだぞ。明日からはちゃんとすること。毎日は節度がないからだめだ」
「ちゃんとしてないのはアジュのほうだと思います」
「お昼まで寝ていてはいけないのよ」
そこは言わないでください。ちゃんと必修の日は起きるから。
「しばらくはのんびりいこう」
この時間をもっと大切にしてもいいかもしれない。起きなくて済むし。そんなことを考えつつ四人で眠りにつくのは、やはり悪いもんじゃないな。
三学期期末試験編 完
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