最終戦 マーダラー・パニッシュメント

 意味がわからなかった。今しがた天空城で幹部二人を倒したと思ったら、宇宙に超でっかい天空城を見つけた。しかもよくわからん化け物と融合して動いている。


「どうすんだこれ……」


 タクトを倒した方の天空城最上階。ここで俺達は次にどう動くかを話し合っていた。


「これは予想外でござったな」


「こっちは囮の城ということかしら? ならどうして幹部を犠牲にしたの?」


「犠牲にしてでもあの化け物城を隠したかったとか?」


「そんな理由でみんなの命が失われるなんて……」


 敵の意図が読めない。宇宙にデカブツが浮いていることなんて想像していなかった。つまり天空城を見せびらかす必要がない。粛々と隕石ぶつけりゃ大打撃のはず。


「とりあえず三幹部のラストはあの中だよな?」


「でなきゃこっちの拠点にいるかだねい。ってなわけであじゅにゃん」


「あれにみんなで乗り込むのか?」


「ごめん私むーりー……動けないぜい」


「僕も無理だ。正直さっきの隕石を砕く力すら残っちゃいない」


 この城だって完全に制圧したわけじゃない。アランさんとももっちは置いていくとして、あの化け物は俺が倒さないとダメなんだろうか。


「拙者はどちらでもいけるでござるよ」


「そうだな……この拠点は制圧して、資料とか回収したら消して欲しいし……」


 いまいち考えがまとまらず、また空を見上げる。流れ星が複数飛んでいた。

 その光景は、戦場でなければ見るに値するものだし、隕石だと思わなければいい。だって別に全部落ちてくるわけじゃ……。


「それが狙いか!」


「何かわかったの?」


「隕石だ。さっきのも特殊な魔力みたいなものが混ざっていた。自然現象じゃないんだ」


 ようやくわかった。回りくどいんだよ。無駄な手間かけやがって。


「あの城の化け物が隕石射出機なんだ。今のイガとコウガは拠点に鎖国状態。ピンポイントで隕石を撃ち出せるなら、忍者を各拠点に集めさせて、隕石のラッシュで潰せる」


「なんと!? それはまた大胆な計画でござるな」


 どういう頭していたらこんな計画思いつくんだよ。思いついても実行するな。


「この城の中心から熱源反応。落ちながら自爆する気じゃなこれは」


「厄介事を増やすな! コタロウ、ここの資料は!」


「既に回収済みでござる」


「総員撤退! 脱出したらこの城消せ。イロハ、俺と来い!!」


 ああもう、どうして面倒事は重なるんだろう。この空を流れる流星は、やはりどこかへ落ちているのだろう。これ以上手間がかかることは避けたい。勢いよくジャンプして宇宙へと飛んだ。


「あらためてでっかいな……っと!!」


 こちらを認識しているのか、隕石を流星群のように撃ち出し続けてくるので砕く。やはり何かの魔法というか呪いや怨念を込めて威力を上げているな。


「醜悪な見た目にお似合いの術ね」


 天空城の何倍も巨大な城にくっついた化け物。黒いドラゴンが正面から首を出し、手足は虎だろうか。裏側からでっかい蛇が何匹も生えている。城を甲羅に見立てるなら、まるで亀のように融合していた。


「あれがマーダラーの秘密兵器か」


 隕石を吸収し、城に取り付けられた大砲から大量に撃ち出している。

 背中から射出された隕石が大きくカーブし、星の裏側へと吸い込まれていった。


「この位置から星の裏側を狙っただと!?」


「想像以上に面倒ね」


 適当に飛んできたものを打ち砕く。念の為イロハがみんなのいる場所に落ちそうなものを消してくれるが、別の動きをするものは広がりながら横に伸びて消えていく。


「はあ……これ落とさないとダメか……」


 宇宙へ飛び立つ前に、それなりの数の流星を見ている……フウマに被害とか無いだろうなおい。


「さっさと倒してしまいましょう」


「ワタシは……マーダラー……」


 城から声が響く。同時に星そのものを飲み込めそうなビーム砲がこちらに飛んでくる。隕石以外にも武装が積んであるのか。


「邪魔だ!!」


 星に当てるわけにもいかず、殴り飛ばしてかき消した。いかんな、この星はかなりの耐久度だろうが、表面が焼けただれるくらいの威力はあるだろう。めんどくっせえなもう。


「忍者に死を、忍者に苦痛を、忍者に絶望を」


「あの城から人の気配がないわ」


「無人だってのか?」


「ワタシはマーダラー・パニッシュメント。原初のマーダラー」


 城と化け物で一個の魂というわけだろうか。それから人の声がする。どうにも歪な敵がいたもんだ。


「我らを滅ぼした忍者に破滅を」


「お前達が殺戮を繰り返さなければ、忍者に目をつけられることもなかったんじゃないのか?」


「殺し、奪い、塗り潰す。それこそが存在意義。そのために作られしマーダラー」


 会話中にもビームが二本飛んでくる。面倒だ。リフレクションキーで反射させて砲台を潰す。


「その大砲は使わせないぜ」


「忍者に復讐を」


 城のあらゆる箇所から大砲が飛び出し、一斉に隕石を撃ち出し始める。半数以上は俺達を無視した軌道だ。星にぶつけるつもりだろう。


「流星対決といこうか」


『シュウウウウティングスタアアアァァァ! ナッコオオオオォォ!!!』


 久しぶりの必殺技キーだ。両拳に込められた光が、無数の流星となって煌めいていく。光が輝きを増す度に、撃ち出された隕石は消えていった。


「この世界に生きるすべての忍者に絶望を……」


 突然城が光速を遥かに超えて移動し始め、弾幕シューティングゲームみたいに弾をばら撒き始める。隕石とビームとマシンガンのようなものを出す砲座に、口から吹き出す火炎と、両手の爪からくる斬撃がプラスされていく。うざい。全攻撃が光速の千倍くらいで飛んでくるぞ。


「お前その図体で戦闘機みたいな……」


 復活した巨大な蛇が巻き付いて動きを止め、そこにダメージ無視でビームを叩き込む戦法のようだ。蛇を引きちぎり、ビームを蹴り上げ、


「フウマ忍法影風車!!」


 影でできた丸い手裏剣がドラゴンの首を跳ねる。だが瞬く間に復元され、その途中も射撃が止まない。星への被害を食い止めつつ戦うのは面倒だ。


「忍者が憎いらしいが、もう復讐したい忍者はずっと昔に死んでいるはずだ」


「我らは忍者を殺すために生まれた。忍者を殺し、忍者より上の存在であると知らしめる。証明する。それが存在する理由。忍者が残っているのなら滅するのみ」


「ただ恨みだけで存在しているのね。交渉できる存在ではないわ」


「フウマよ、貴様らの罪は重い。忍者を伝説の存在へと昇華させ、脚光を浴びるものへと変えた。我らと同じ裏で手を血に染める集団を、称賛と喝采の輪へと立たせた。貴様らを滅ぼすことで、ようやく格付けが終わる。マーダラーが上であると、真に優れていると評価されるのは我らの技術であると」


 その声は憎しみに震え、怒りに燃えていた。攻撃も苛烈さを増していく。


「忍者の死で我らの価値が証明される。その存在は裏において絶対のものとなり、再び混迷と戦乱の世に近づくのだ。その時こそ、我らの真価が認められる」


「アホか。しょうもない理由で俺達を巻き込みやがって。存在意義を他人なんぞに委ねるなよ。自分の価値なんて自分で決めるもんだぞ」


 狙いは裏の存在としての地位か、それとも力による動乱の世界か、なんにせよ俺達の平穏を脅かすだけの敵である。


「殺戮を、恐怖を、絶望を、焦燥を、怨念を、怨恨を与える。我らの悲願を成すために、消えてしまえ!」


 レーザーがどこまでもこちらを追尾し、網のように周囲を固めてくる。指向性を持たせられるか、少しこの技術は欲しいな。


「影武闘!」


 影の巨人兵が盾となり、文字通り尖兵となってパニッシュメントへと吶喊する。


「我らの悲願を、天誅の成就をここに! 天より星に罰を!!」


 それを無数の弾丸で散らし、180度ターンを決めつつこちらへ飛んでくる。ブースト機能もあるらしい。戦艦のようでもあり、戦闘機のようでもある。少なくとも住みたくはない城だな。


「いくぜ雷遁!!」


「合わせるわ、合体忍法・雷撃凍滅波!!」


 雷と吹雪が混ざり、砲台を凍結させ、内部のエネルギーを誘爆させて設備を破壊していく。それでも城そのものがでかすぎるのか、全体には行き渡っていない。


「無駄だ。いくらでも再生する。そして死を。逢魔砲発射!!」


 さらに長い砲塔が現れ、最近感じた嫌な気配が収束していく。四死逢魔を連射するための砲台か。厄介なものを。


「苦しみにのたうち回りながら死ぬがいい!!」


「死因の押し付け合いでもしましょうか。影筆!!」


『死因をマーダラーに反転させる』


 影筆で宇宙に書かれた文字は、放題にも染み渡り、城を内部から破壊していく。城が腐り、溶け出し、燃え始め、爆発が起こる。どうやら四個に絞る必要すらない技らしい。ボスなら改良された技が使えても不思議はないか。


「今のうちに終わらせる」


「ありえん。ここまで忍者と差があるはずがない!」


 確かにこいつは強い。正直宇宙で超光速移動する戦艦みたいなものだから、人間がどうこうするのは極めて難しい。コタロウさんか三日月さんクラスじゃないと苦戦は必至だろう。


「お城部分が邪魔ね。テュール!!」


 イロハの背中から、神の右腕が現れる。豪腕で城部分を薙ぎ倒し、破壊にて砲撃を止めた。


「何故だ。何故勝てぬ。同じ殺しの技術。同じ裏の存在。同質の技を得て、死をも恐れぬ軍団を駆使してなお、何故勝てぬ」


「忍者とは、誰かに寄り添い忍ぶ者よ。フウマもイガもコウガも、その在り方は時代によって変化していく。主に寄り添い守るため、忍者としての誇りを守るためであり、同族を食べさせていくためであったり、けれど理由は違えでも、忍者は一人ではないわ」


「それは我らとて同じこと」


「仕えるべき主がいて、付き従う誰かがいてこそ、忍者の本領は発揮される。ただ快楽と衝動で殺しをするマーダラーには、一生本質は掴めない。根絶もできないわ」


 ただ裏で趣味と実益を兼ねて殺し屋をやっていたマーダラーと、守るために戦いを続けてきた忍者の違いが出たのだろう。その原動力と技術には、真似できない歴史があるのだ。


「誰かを慕う気持ちがある限り、守る力を求める人がいる限り、忍者は消えないわ。たとえ小さな灯火になろうとも、それは次代へと受け継がれていく」


「その火を消すことこそが望み。我らの宿願!」


「忍者はそう簡単には消えないさ。消えるにはもう、この世界に深く根付いている。お前らの執念を超えて、恐怖を乗り越えてそこにある」


『ソード』


 いつもの剣を取り出し、イロハの鎧専用の必殺技キーを取り出す。


『魔狼剣! 一筆入魂!!』


 蒼い輝きが剣を満たしていく。その力が影筆のように敵を、世界を塗り替え書き換える力を宿し終わる。


「まだだ! 再生さえ終われば!」


「それは無理よ」


 影筆で『再生能力の剥奪』と地面に記されている。起死回生の手を完全に封じられたパニッシュメントには、ただ消滅の未来しか残っていない。


「消えろ。その醜い姿も、薄汚い怨念も!」


 力を込め、剣に『マーダラーの完全消滅』の文字を浮かび上がらせる。これで指揮系統もろとも破壊できるはずだ。全力で背中に突き刺してやる。


「ガアアアアアァァァァ! おのれ忍者! ワタシは、マーダラーは消えぬ!」


「いいやここまでさ。歴史にも残らず、裏の王にもなれず、マーダラーの歴史は終わる」


「おのれ……おのれえええええええぇえぇぇぇ!!」


 巨大な怨念は、宇宙の塵となって消えた。これで長かった忍者絡みの戦争も終わる。


「お疲れ様。戻ってゆっくりしましょう」


「ああ、戻ろうか」


 足元で美しく輝く星を見る。外から見てしまえば、今までの戦いが嘘のようで、傷ついた印象はない。


「とりあえず……星の被害は俺達のせいじゃない。それだけははっきりと真実を伝えよう」


 あとは忍者のみなさんにお任せします。

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