そして忍者は寄り添い生きる

 俺とイロハが地上に降り立った時には、もうすべてが終わっていた。

 本拠点に降り注ぐ隕石は、リリア、シルフィとコタロウさんが処理。忍者は現場から撤収して、被害状況の確認に入っている。そして俺達はイガの屋敷に戻ってきたわけだが。


「他国にある拠点がいくつか潰されたと」


「全滅ではないし、隕石が落ちた場所も皆殺しというわけではない。しかし被害は出た」


 やはり完全には防げなかったらしい。俺達が宇宙に出る前にがんがん隕石飛んでいたからね。どうしようもないね。


「イガ・コウガはしばらく辛い戦いになる。信頼回復と、各拠点の復興という

己との戦いになるだろう。破損のひどい拠点は更地にするか、いっそ放棄するしかあるまい」


 深刻そうな顔で忍者の行く末を話し合っている。俺は当然だが部外者なのでいるだけ。


「いっそしばらくフウマの傘下にでも入っちゃう? みんなで忍者だー!」


「頼むからやめてくれ」


 やめろフウマに吸収されたら、お館様である俺の立場が重くなっちゃうだろ。絶対に食い止めよう。マーダラーの侵攻より本気で食い止めよう。


「流石に冗談であるが、フウマ一強に拍車がかかるかもしれんな」


「そうなったところで、フウマに他国侵攻の意思などないでござるよ」


「国を大きくすることは、忍者の本分ではないわ。あくまで里のみんなを守るため、尽くすべき主のために戦うものよ」


 フウマって信念とかぶれないよなあ。結束が強いと言うか俺にはよくわからない概念だ。忍者というものは奥深いね。


「そうか。案外我々に足りなかったのは、よき主かもしれんな」


「いいんですよ、国なんてそれぞれで。忍者の国ってのは珍しいでしょ。それも特色です」


 だから俺を見ないでくれサンダユウさん。絶対にお館様にはならないからな。


「けが人の手当と各国への説明と修理費用と……気が遠くなるわい」


 実際問題として、イガ・コウガはかなり厳しい立ち位置になりそうだ。

 フウマは元々鎖国状態で、地産地消が完璧なため特例である。


「それでも、僕達が力を合わせればできます。マーダラーにだって勝てたんです。今までだってそうでしょう。協力して助け合って、忍者をやってきた。その時代に戻るだけです」


 アランさんはこんな時でもくじけない。また一つの流派に戻るのか、一時的にまとまるのかは不明だが、きっとそう悪いものじゃないだろう。忍者は悪人じゃない。シークレットサービスか特撮ヒーローかという違いはあるが、そこには積み上げてきた実績がある。


「そうそう、アランさんとももっちのおかげで、天空城も無事消えましたからね」


「うむ、大義でござった」


 一応の確認だ。今回も俺達の存在は秘匿される。そもそもどこの誰なのかばれないように顔を隠していたし、手柄はイガ・コウガで山分けしてくれると復興も早いのだ。


「そうだな。コウガ五人衆とイガ三大天の活躍により、無事天空城は落とされ、宇宙に存在した本拠地も撃破。誠にめでたい! であっとる?」


「ばっちりです。さっき宇宙のやつの資料渡しましたよね。あれで説明つくはずです」


 イロハにより詳細をまとめた資料ができた。無論俺達の名前はない。これを両者のトップが確認し、かくして俺達の名は歴史に乗らずに消えていく。


「今日は祝勝会じゃ。戦闘参加者なら誰でも入れる。存分に楽しんでいってくれ。それくらいしか、今はできぬ。もし困ったことがあれば、エリザにでも押し付けてくれい。落ち着いたらイガは格安で依頼を承ろう」


「私を盾に……まあ今回はあじゅにゃんにお世話になったし……最悪ハーレム入りも辞さない!!」


「それはやめとこうね」


「許可しないわよ」


「無駄な苦労を背負い込むことはないじゃろ」


 俺より早く止めに入ったか。あんまりメンバー増やしたくないし、今がとても心地よい。普通に依頼する側でいたいかな。


「表立って動くのはコウガにお任せを。必ず力になります」


「あまり気負わないでください。俺といてもあんまりいいことはありませんよ」


 アランさん善人筆頭だからなあ……俺のようなやつといるとイメージダウンよ。復興の邪魔になるから気をつけて欲しい。こっちもできるだけ関わらないように気を遣っておこう。


「では失礼します」


 ここで報酬とか求めてはいけない。復興に回してもらって、恩を売りすぎる行為には気をつけていく。


「本当に世話になった。イガ・コウガを代表して礼を言う」


「ありがとう。君達のしたことは、僕達の心の中にしまっておくけれど、決して忘れないよ」


 礼を聞いて祝勝会へ向かう。騒がしい場所は好きじゃないが、普通に腹減ったので行く。肉を食わせろ。

 そこでなんとなく横のイロハを見る。少し戦闘が激しかったからか、ずっと着ているからか、結構ほつれたり穴があいていた。ちょうどいいかな。


「パーカーボロボロだな」


「長いこと使ってきたもの。家宝や形見ではないから、新しいのを買えばいいわ」


「ほれ」


 執着がなくて何より。イロハに新しいパーカーを渡す。一応ラッピングしてもらった。


「これは?」


「新しいやつ。やるよ」


 サイズは知っている。機能も文句なし。そして俺のコートと同じデザインだ。


「同じ色とデザインじゃな」


「おそろいだね!」


 ちなみにデザインセンスの問題は解消している。なんせ大人気ブランドであるパイモンくんの製品である。普通に高級品だし、プレゼント用にも耐えるクオリティよ。


「ありがとう。素敵ね……ふふっ、これはいいものよ」


 早速着ている。気に入ってくれたようで何より。いつもよりはにかんだ微笑みと言うか、おしとやかな笑顔だ。しっぽがめっちゃ動いている。機嫌がいいことは間違いないだろう。


「いいなーおそろい」


「あんまりやると目立つし、このくらいがベストだろう」


「どう? 似合うかしら?」


 軽くターンして服を見せつけてくる。普段やらない行動が珍しくてかわいい。普段年相応のはしゃぎかたとかあんまり見せない気がする。レアだな。


「お前は何着ても似合うだろ。さっさと飯に行くぞ」


「こういう時くらいちゃんと褒めるものよ」


「俺が選んだんだから自画自賛みたいでなんか違う気がする」


「そこで変な拗らせかたをするでないわ」


 さっさと祝勝会に行く。会場は広く、食事も豪華だ。あまり触れられたくないということを察してか、俺達に構う奴らはいない。単純に知られていないだけかもしれないが、素直にありがたい。


「ふう……色々あったが、まあ今回も全員生きて帰れたな」


「毎回事件の規模がおかしいのじゃ」


「帰ったらゆっくり休みましょう」


「しばらくお休みして、遊びに行ったりしたいな」


 いい雰囲気だ。このまま気分よく帰りたかった。だが誤算があった。帰り道に現れた、俺にとって最大の誤算とは。


「あれーアジュさんじゃないですかー! よかったー無事だったんですね! もう心配しちゃったゾ!」


「こちらでしたか。これからお休みですか? お世話をいたしますね」


 エリカとシエラが敵じゃなかったことだ。おかしいやん。今までのパターンだとスパイで敵になって俺が倒してビッチがいなくなりましたエンドやん。どうして味方のままなの? 誰の嫌がらせなの?


「その必要はないわ。彼は私達が世話をするから」


 イロハが手をつないで俺に寄り掛かる。おそろいの服を見せびらかしているように見えた。


「……そうですか。御用の際はなんなりとお申し付けください」


「そっか、それじゃまたねー! エリカのこと忘れちゃ嫌だゾ!」


 おぉ……去っていった。なんか撃退できたぞ。こんなあっさり引き下がるもんなのか。


「一緒の服にはこういう効果もあるのよ」


「なるほど、これは予想外だ」


 なんかうまいこと撃退できるらしい。豆知識が増えたぞ。イロハの機嫌も上がり続けているらしい。手を握る力が増した。


「じゃあみんなでおそろいにする?」


「それはダメよ。ギルドの正装みたいになるじゃない」


「ここは我慢して次に期待じゃな」


 なるほどレア度が低くなると効果がなくなるのか。勉強になる。よくわからんが覚えておこう。


「困ったことがあったら、こうして私にくっつくのよ。忘れないで。私はいつもあなたの隣にいるわ」


 喜んでいるようで、少し照れているようでもある。少し顔が赤い。プレゼントしたかいがあったのだろう。


「覚えておく」


 これからもこいつらが隣を離れることはない。それは確信している。その礼として、日頃の感謝とかを込めて、まああれだよ……たまには何か贈るのもいいかもな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る