日常系みたいな話を時系列無視で書きたくなった

 ふと思う。俺の一年間は過密スケジュール過ぎないかと。

 実際には毎日トラブルがあるわけでもない。数週間空いていたりもする。だがトラブルの危険度がやばい。鎧がなければ解決できないような邪神とかぽんぽん出やがる。だから俺は考えたり思い出したり現状を認識したりするする。そんな何気なく楽しい日常の記録だ。


「さて、出かけるか……いつまでそこにいる気だ」


 ベッドから起きて着替えを済ませると、大の字になって寝ているシルフィがいる。

 朝起こしに来てそのまま居座っていた。


「ここに大往生しているシルフィちゃんがいます」


「丁重に弔うぞこのやろう」


「遊んで!」


「今日は無理」


 ちょっと魔法の研究しに行くので無理。できる時間にやっておこうね。


「いってきますのちゅーを!」


「しないぞ」


「お姫様をキスで目覚めさせよう!」


「起きてんだろうが」


 完全にかまって欲しいだけだな。たまーにこうなる。ふれあい成分が足りなくなるらしいよ。


「はいここで唐突なやた子ちゃんっすよー」


「帰ってくれ」


 普通にドアから入ってきやがった。やめろお前来ると面倒事も来るだろ。


「で、どんなクソみたいな用事だ?」


「クソに限定されたっす……」


「ダメだよアジュ、ちゃんとやんわり断らないと」


「なんでももう断る前提なんすか!?」


 だって休日潰れるじゃん。どうせ殺し合いじゃん。しんどいじゃんよ。


「とりあえずこれ見て欲しいっす」


 風呂敷からよくわからん木彫りの仏像が出てきた。お前なんで風呂敷なんだよ。


「何だそれ?」


「見覚えないっすか?」


「無い」


「わたしもないよ」


 本当に知らん。有名な美術品なんだろうか。


「じゃあこっちはどうっすか? これは?」


 次々によくわからん銅像とかガラス細工っぽいのを並べていく。ひとの部屋の床に並べんなや。全部知らないと答えた。


「アジュさんは関わっていない……と」


 納得した顔でそそくさと全部しまっていくやた子。


「怖い怖い怖い。なんのテストだったんだよ」


「今追っている事件っすね。こういうの見たら届けて欲しいっす。別に呪いのアイテムじゃないんで」


「うさんくさすぎる」


「じゃあご飯だけいただいて帰るっす」


「がめついなおい」


 飯は与えずに帰した。一応は真面目に仕事しているっぽいし、フリストあたりが来たらちゃんと対応してやろう。


「よし、じゃあ遊ぼう」


「魔法科行くから無理」


「うぅぅ……運が悪い……」


 うなだれるシルフィを背に、魔法科へ行った。そして一人で商店街などうろうろしている。たまにはプライベートタイムが必要なのだ。


「あらマスター。こんなところで奇遇ですわ」


 色欲の魔王アスモデウスさんだ。めっちゃ笑顔で横に来る。今日は変なやつに合う日なんだろうか。

 まだ何もされていないので、普通に会話してみよう。


「どうも。アスモさんはどうしてここに?」


「マスターに会えたらいいなと思いまして」


「いや普通に」


「お散歩ですわ。ですがこれは運命。一緒に行きましょう」


「…………変なことはしないでください」


 変態だが魔王だ。それなりに知識とかあるだろう。ついでにマジックアイテムについて聞いておこうかな。


「今日はギルドの子たちはいないのですか?」


「たまには一人の時間も欲しくて」


「ふふふ、今デートみたいですわね」


「違いますね」


「私の泊まっている宿があります。行ってみませんか?」


「なんで?」


 淫乱魔王には気をつけよう! 絶対に行きたくない。間違いなく危険なので近づかないでおこう。すり寄るのもやめろ。


「女性にも甘えたい時はあるのですよ。そんな時、優しくしてくれるとときめくのです」


 すり寄るな。そして腕を組むな。どこまでも邪魔くさいな。


「俺にはわかりません」


「アジュはそういうの気にしないからね」


 どうして右側にシルフィさんがいるんですか?

 いやどっから来たお前。気配を消すな。もしくは時間をいじるな。


「あらシルフィさん。奇遇ですね」


「お久しぶりです。アジュが何かやっちゃいましたか?」


「いいえ、むしろやっちゃうために宿に呼ぼうかと」


「ちゃんと帰るおうちがありますから、アスモデウスさんが心配することじゃないですよー」


 両者めっちゃ笑顔だ。お前ら仲良かったのか。俺の知らない所で親交というのは深められているもんだなあ。まあ俺が友人とか少ないだけかもしれんが。


「買い物行きたいんだが……」


「お付き合いいたします」


「わたしがついていくから大丈夫ですよ。アジュは他の人がいると落ち着かないので」


 俺の手を取り、離すまいとしっかり握ってくる。シルフィがこうなるってことは、寂しいか危機感を覚えている時かな。


「マスターと私は深い絆で結ばれているのです。問題ありませんわ。少々お高い店ですが、私も利用する場所がありますの」


「………………ちょっと距離とって案内してくれます?」


「むぅ……アジュに変なことしないでくださいね」


 なんとか距離を開けつつアイテム屋まで案内してもらう。

 随分と洒落た作りというか、一流店っぽい店構えだ。これ金足りないんじゃ。


「こちらへどうぞ。不法侵入ではないのでご安心を」


 正面とは別の入口へと招待される。いやいやどういうことだよ。


「おや、アスモデウスかい。久しぶりだね」


 広いけどどこか暗い照明に照らされて、眼鏡の女店主がカウンターでだらけている。スペースと建物の外観から推測するに、なんか隠し店舗っぽい。


「マスターを連れてきましたわ」


「おぉ、その子がマスターくんか。いやあ若いね」


「あの……ここは?」


 警戒しているのか、シルフィが俺の手を握る力が強くなった。


「こっちは裏の顔さ。といっても学園に許可はとってある。安心したまえ」


「ではマスター、こちらのお薬などいかがかしら?」


 ピンク色の液体が入っている小瓶を持ってきた。香水? いや俺にってことはポーションなんかな。


「夜にムードが盛り上がるお薬です」


「返してこい!」


 嫌な予感がしやがる……堂々と持ってくるし、客が他にいないし、おいこれまさか。


「うわ……そういうお薬って本当にあるんだ……」


「そっちの子は興味があるのかい?」


「うえぇ!? いえ、わたしはええっと……」


 こっちをチラチラ見るんじゃない。興味を持つな。っていうか使う気なのか?


「マスター、こちらは飲みやすくておすすめですわ」


「今度はなんだよ」


「マスターの股間のマスターが長持ちするお薬ですわ」


「おいこの店って……」


「まあそういうのも置いてあるお店だねえ」


「やっぱりかこの野郎! 昼間からどんなとこ連れてきてんだよ!」


 この色ボケ……やはり色欲の魔王か。エロいことしか頭にない。シルフィに悪影響が出るので、ここには入らないように言っておかないと。


「私だからこそ、入れる場所ですわ」


「でしょうね。帰るぞシルフィ」


「ちゃんと普通のもあるよ。魔力の蓄積と開放の補助ができる腕輪とか」


 そういうマジックアイテムに興味があります。俺の魔法の引き出しは多くて損をすることがない。詳しく聞こう。

 聞いている間、シルフィが少し顔を赤くしながら店内を見ている。アスモさんがなにか吹き込んでいるので、後で叱っておく。アスモさんを。


「……というわけで増幅したままで動き回れるようになる仕組みなんだ」


「…………なんでそんなものがあるんです?」


「こういうお店を、大きくて高級な店の中に隠して営業できているくらいには、凄い人だから」


「納得」


 この人はなんか才能とか実力とかコネがあるのだろう。まあ学園だし、とんでもない超人がいても不思議はない。


「あと惚れ薬とか、極端に欲情させるのは禁止令出てるから作れないし、置いてないよ。学園でやればいつか見つかる。まだ死ぬ気はないよ」


「はあ……俺が来る分にはセーフだが、シルフィたちはダメだ。お前らの評判が悪くなる」


「そっか……うーん、まあしょうがないかな。わかった」


 店の意味が広く知れ渡った場合、そこにお姫様が通っているという事実はめんどい。よって禁止令を出す。


「だから看板を付けていないのさ。アスモデウスの知り合いなら入れてあげよう。王族はちょっとめんどくさそうだから、マスターくんが来てよ」


「了解」


 俺だけでまた来よう。妙な魔道具は見ていて楽しい。

 そして家に帰り、早速ギルメンに禁止を言い渡す。


「ということがあった。くれぐれも行くな。王族という身分を考えろ」


「おぬし変な場所に縁があるのう」


「問題ないわ。フウマの秘薬で代用できるもの」


「絶対にやめろ」


 今日の成果。変な店と知り合いが増えた。

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