新年もこんな感じでやっていく

 元の世界なら年の瀬、12月31日の夕方。そろそろ晩飯時かなという時間帯に、俺達四人はヒメノ主催のパーティーに来ていた。一応それなりの正装で来たわけだ。


「ようこそアジュ様! 皆様! 今宵は存分に楽しんでいってくださいまし!!」


 ヒメノの豪邸で開かれる、関係者だけを集めたパーティーだ。見知った顔が大量にいる。大量の食い物もある。まあ退屈はしなさそうだ。


「お招きありがとう。まさか全員に招待状が来るとは思わなかったぜ」


 綺麗なドレスを着て、見た目だけは絶世の美女であるヒメノが笑いかける。


「この世界でも新年をお祝いするお祭りはございます。神に祈りを捧げたり、来年の抱負を決めたり、ですが知られていないだけで神が実在し、多種多様極まります。よって神の方からお誘いいたしましたわ!!」


「アグレッシブじゃな」


 この世界独自の発想だな。こういう珍しいイベントは嫌いじゃないぞ。身内しかいないようなものだしな。


「災難だな坊主。こいつの奇行はなるべく止めておく」


「すみません、助かります」


 女媧さんも祝融さんと一緒に来ている。奥にトールさんやパイモンの姿も見えた。ラグナロクで会った人ほぼ全員いそう。


「アマテラスちゃんも、こういう場ならおとなしいのよね」


 ヘスティアさんがいる。なぜか着物なんだけど、めっちゃ似合うな。元が美形だからだろうか。


「あれ? ヘスティアさんがいる……?」


「この体は分霊ですよ。ミナはあっちにいます」


 ゲストと談笑しながら光速で料理を運ぶミナさんがいた。


「うむ、別人じゃな」


「そうだな。よし、じゃあそれぞれ挨拶したいところにでも行ってくれ。終わったらあのへんに集合で」


「わかった。ヒメノとかアスモデウスさんに気をつけてね」


「何かあれば呼ぶのよ。すぐ駆けつけるわ」


 そんなわけでしばらく散開。リリアはヒメノやフリストと積もる話があるらしい。まあ心配はしていない。物語でありがちな、お姫様にちょっかいかける嫌な貴族とかもいないからな。そういうやつが入れるランクの場所じゃないのだ。


「さて俺は……とりあえずトールさんかな」


 近くに見つけたので、雷魔法の師匠であるトールさんへ。ここに来る前にリリアから、ちゃんと世話になった人にお礼とか言いに行けと言われている。


「お久しぶりです。その節はお世話になりました」


「おお、サカガミ殿か。元気そうだな」


「おかげさまでなんとか生きています」


 魔法のレクチャーは純粋にありがたかった。ヒントも得たし、この人にはいつか恩を返しておかなければならない。


「また魔法の道に迷ったら来るといい。今はダイナノイエに定住している」


「わかりました。その時はお願いします」


 お互いに口数が多いわけでもテンション高いわけでもないので、静かに話が進む。これはこれでありがたい。


「む、すまない。ロキが迷惑をかけている気配がする」


「どうぞどうぞ」


 トールさんが早足でどこかへ行く。ロキってなんだっけ……なんか聞いたことがある名前だ。面識はないが神……だよな。厄介な神だったような。出会わないようにささっと離れよう。


「サカガミさん」


「おぉー、隊長がパーティーにいるではないですか」


 カムイとパイモンという珍しい組み合わせに出会った。やはりカムイは王族なんだな。ちゃんと着飾ると貴族っぽさが強くなる。

 パイモンはまた違うゴスロリだ。こういう場に合わせたコーディネートな気もするけどわからん。


「おう、年の瀬くらいはな。あとパーカーの件で世話になった」


「喜んでもらえました?」


「ばっちりだ。よくやったぞパイモン隊員」


 イロハにプレゼントしたものは、完全にパイモンの知識をあてにしたものである。これは素直に感謝していた。金は払っているが、まあ依頼とかあったら聞いてやろう。


「カムイはソフィアも一緒か?」


「はい、貴族の付き合いであっちにいます」


 なんか貴族っぽい連中と話している。ソフィアも大貴族様だなあ。ドレスがよく似合う。どう似合うかは言い表せない。ドレス着た女の褒め方なんて拙者は知らぬと何度も言うておろう。


「隊長のちゃんとした服装は新鮮ですねー。モデルとかやってみます? 多分人気出ませんけど」


「出ないのわかっていてやらねえだろ。あと俺をモデルに使って不祥事起きたら大損害だろ。リスク管理ぐらいちゃんとしろよ……」


「本人から言われるのは新鮮ですねー」


「サカガミさんはそこまでひどくないと……信じています。はい、今の所いい人ですし」


 流石のカムイも苦笑いだよ。王族って本来一般人に深く関わるもんじゃないわけだが、学園の連中はそこがゆるい。長所か短所か難しいところだな。


「おやあ? アジュさんが女装と聞いたっす。写真撮っていいっすか?」


「やめろどっから湧いた。お前の自宅なのに見かけなかったな」


 なぜかやた子が来た。ドレスで無駄に美少女感をアップさせているのが小賢しいぞ。


「お庭でクーちゃん達と遊んでたっす」


 クー親子とキアスも招待されている。召喚獣組は庭だ。窓の外を見ると、動物園よりバリエーションありそうなほど召喚獣がいた。楽しく飯食いながらじゃれ合っているみたいなので、なんとも微笑ましくてほっこりする。


「庭がでっかいから成立する芸当だな」


「楽しそうでいいっすねえ」


「そういやお前はどのカテゴリーなんだ。人間、神、動物、召喚獣、妖怪って線もあるな」


「うちはなんすかね……妖怪と神器の合成獣?」


「ハイブリッドな存在ですねー」


 ヴァルキリーとも違うらしいし、神に造られたというより、神の道具でパワーアップしたのだろう。


「ある意味俺と似たパワーアップだな」


「確かにそうっすね。お揃いっす!」


「あんま嬉しくねえ……」


「まあまあ、やた子ちゃんはこれでも人気者っすよ」


 残酷な現実だな。見た目が悪くないのは認めてやるよ。好きにはならないけど。


「ではパーティーをお楽しみくださいっす。あと二階のバルコニーを開けといたっす。四人でそこから花火見るといいっすよ」


「すまない。次から少し優しくしてやる」


「期待はしないでおくっすよー」


 そしてささっと去っていった。妙な気遣いを見せるやつだぜ。礼は今度してやるとしよう。


「では隊長、ギルドの人に優しくしてあげてくださいね」


「僕もソフィアの元に戻ります。そちらも頑張ってください」


 二人も離れていき、他とも適当に話していると、それなりに時間が経っていることにも気づく。そろそろ集合場所に行くべきか。


「あらアジュ様、やはり最後はわたくしの元へ帰っていらっしゃるのですわね」


 そしてヒメノがいた。ギルメンも全員いるのだが、とにかくヒメノの存在感がうるさい。


「お前の元へ行った覚えはない。とりあえずお招きありがとう。そこだけは礼を言っておく」


「あらあら好感度が上がっていますわね。式の予定はいつにします?」


「式とつくものは堅苦しくて嫌いでな」


「スルー力も上がっていますわね。そんなアジュ様も素敵ですわ」


 こいつめげねえな……いまだに俺に執着する理由がよくわかんなくて不気味なんだよ。本当の目的がわからん。こいつはアホに見えて巧妙に真実を隠す。伊達に最上級神じゃない。警戒はしているが、しっぽを掴むことはできそうにないな。敵じゃないと助かる。


「二階にお食事を用意いたしましたわ!」


「お前も来るんかい……しょうがない」


 一応こいつの家だし、料理も豪華だし、まあ仕方がないだろう。五人で二階へ行くと、あらかじめ俺達の好みに合いそうな食事が用意されていた。


「さあさあ、こちらですわ」


「今日はお言葉に甘えるのじゃ」


 ごく普通に飯がうまい。肉多めで、魚も多め。俺の好みが把握されているが、ギルメンの好物もある。抜かり無いな。フリストあたりの入れ知恵だろうか。


「皆様のおかげでこの一年、様々な問題が解決いたしました。多くの国と民が救われ、邪神の企みを打ち砕けたのは、紛れもなく皆様の功績ですわ」


「ものすごく大変だったよね……」


「密度が高すぎたわ」


「毎年こんなに事件が起きるのか?」


「国家存亡の危機は、頻繁に起きるものではありませんわ。たまたま時期が偏ってしまったのでしょう」


 運がいいのか悪いのか……トラブルは嫌だが、俺がいて解決できて、再発しないならば、未来の厄介事を潰せたとも言える。こいつらの障害は取り除けたのだ。まあよしとしよう。


「悲しいことに、戦いは続きます。この世界にはまだまだ危機が訪れ、黒幕すら判明しておりません。ですが、わたくしは信じております。人と神は、これからも共に生きていけると。そしてアジュ様と婚約できると」


「それはないのじゃ」


「卒業までに婚約できればいいだけですわ」


「しないぞ。戦いはまあ……こいつらに被害が出るなら仕方がない。この世界はお気に入りでな。壊されるくらいなら守るしかあるまい」


「ありがとうございます。せめて年末くらい、豪華なお料理で平和を満喫してくださいまし」


 そして夜空に盛大な花火が打ち上がる。色とりどりの花が、星とともに夜を彩り華やいでいく。


「うわー綺麗!」


「ここまで豪勢にやるのね。驚いたわ」


「うむ、またこうして騒げるように、なんとか生き残るとしようかの」


「今年は色々ありすぎたが……まあ来年もよろしくな」


 こうして三学期へと突入していく。来年もこうして四人で新年を迎えるために、精々できることからやっていくさ。

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