三学期編

三学期編突入

 冬休みも年末年始も終わって三学期の昼。勇者科の教室に全員集合していた。


「はいじゃあ勇者科に試練を課します!」


 シャルロット先生がホワイトボードの前に、何やら大掛かりな装置を置いている。液晶画面みたいなもんかね。大きな四角が描かれていた。


「この四角を3×3で9ブロックに分けるわ。左上を1、横に2、3と続いて、真ん中の左側が4、中心が5って感じよ」


 先生の意図がわからない。どうやら全員なんの説明も受けていないらしく、戸惑いながら画面を見つめている。


「各ブロックに街や城を作ったわ」


 作った。つまりこれはどこかの地図で、新しく街が作られたということ。


「みんなにはこれを取り合ってもらいます」


 少し生徒たちがざわつく。そりゃそうだ。意味わからんもの。


「この9ブロックの世界で生活してもらいます。ランキングもつけるわ」


 そして長いルール説明が始まった。まとめると。

 ・9ブロックのどこかで活躍してもらう。

 ・各城の王になれるのは勇者科一年のみ。

 ・独自通貨と戦績・貢献ランキングがある。

 ・運営に通貨を献上したり、敵兵を倒したり、様々な方法でランキングを上げろ。


「5ブロックは中央都市があるわ。ここにはお城なしね」


 絶対におかしい。城の数が八個は多すぎる。二階建ての一軒家ならともかく、城を勇者科の四十人だけで何個も守れるものか。また何か裏があるなこれ。


「お城の王になって、運営方針を決められるのは勇者科だけ。家臣は勇者科じゃなくてもいいわ」


 部外者、正確には別の科も大量に入れるのだろうか。高等部一年の騎士科だけで普通の学校全員分は超えている。別の科と学園の住人を大量動員すれば、王様ごっこはできるかもしれんが……それが目的ではないだろう。


「お城の大小は結構差があるの。そして各地には資源があります。これを売ったり加工して使ったりしていいから、雇った人にお給料をあげてね。こっちで負担するのは最初だけよ」


 経営シミュでもやらせたいのか? 勇者科の授業は独特で、その理由は勇者の素質がどんなきっかけで開花するか不明だから。不明というよりは個人差がありすぎて画一化したやり方ができないからだが。その中でも今回のはかなり無茶だ。


「勇者科は今40人以上いるから、王様をこっちでランダムに決めます。結果は後でお知らせが届くわ」


 王様とか絶対にやりたくない。というか城攻めとかあるらしいぞ。めんどいね。


「ちなみに勇者科なら王様に下剋上とかできるから、頑張って運営してね」


 下剋上か。無いとは思うが、俺が王になったら間違いなく起きるな。かといって知らん女の下で働くのすげえめんどい。というか他人と会話すんの嫌い。無理。従うの? 初日でギブる可能性高いぞ。


「出発は三日後だから、それまでに準備をしておいてね。かなーり長い生活になるわよ。ちゃんと依頼とか受けないようにって何度もお知らせしたわね」


 そういう知らせも来ていた。期間が長いので、ある程度の覚悟はしていたが、まさかこういうことになるとはなあ。

 とりあえず授業が終わって解散の運びとなったが、マジでどうしよう。


「どうする? 今回かなりめんどいぞ」


 まずは自宅で作戦会議だ。今回は長丁場なのもそうだが、四人で常に行動することが難しい。最悪敵同士だ。


「王様になったらお互い同盟で、誰かが王ならそいつに仕える。くらいか?」


「全員で在野になって、好き勝手するという方法もあるのじゃ」


「最悪のケースは四人とも王様になることね」


「城が八個しかないのに四人はありえないだろ。学園側がその可能性を弾く……といいなあ」


 完全ランダムってわけじゃないはず。きっと計算があるはずだ。あってくれ。


「それなりに設備と資源があるみたいだけれど……これもおかしいわ。こんな資源を放置して、しかも学生に好きに掘らせて加工させるなんて」


 どうして鉱山とかあるんだ。しかも手つかずだろこれ。採掘からやれってか。


「神の手が入っておるな。山を作り、そこに本物そっくりに鉱石でも埋め込んだんじゃろ」


「無茶するね。学園ってそこまでできるの?」


「土地が広大で、超人がわんさかおって、神と魔王が世界すらも捻じ曲げる。あれこにアカシックレコードでもいじらせれば、即席資源の出来上がりじゃろ」


「資源をブロック外に持ち出すのは禁止って書かれているな」


「持ち出すと消える仕掛けでもあるんじゃろ」


 なるほど、あれこと神々なら、この世界を多少曲げるくらいはできそうだ。運命と歴史を書き直すとでもいうべきか。


「改変とか勝手にやっているわけじゃないんだよな?」


「うむ、世界や歴史の管理者がおる。オルインは神々と超人によって徹底管理されておるぞ」


 そういやオルインへの異世界転移・転生は神々が全部入出まで記録と許可を出していると聞いた気がする。無理やり壁ぶち抜けばバレるらしい。

 拳圧で太陽吹っ飛ばせるような連中を別世界に送り込むわけにもいかないか。ちゃんと考えているんだな。守られているかは知らないが。


「話が逸れたな。さっきルールブックが家に送られてきたってことは、これは俺たちへのメッセージも込められていると解釈できる」


「そうなると妙じゃな」


「ああ、どこにも俺たちへの制限がない」


「9ブロックのどこかで生活してください。結界を出ないでください……色々あるけど……」


「そう、俺の鎧が禁止されていない」


 どこにも個別に禁止事項がない。鎧も時間操作も影の兵隊もだ。今までのテストとは違うのだろうか。


「個人の力に規制が入らないのは不思議ね」


「それほど試練が厳しいか、自己責任で使えってことか……厄介な」


 これではどのレベルの試練なのかが把握できない。流石に達人倒せとか無理難題は出ないだろうが、自由度の高い低いすら判別できないのは苦しいぞ。


「武器とかアイテムは持ち込めるから、いつもの装備は忘れずに持っていきましょう」


「そうだな。あとは……別れた場合か。シルフィとイロハが王だった場合、俺とリリアはどうするべきだ?」


「いてくれると心強いけど……」


「取り合いになるのも考えものね」


 これが難題なのだ。王として危うい方をサポートという作戦もあるが、それはリリアでフォローができる。


「とりあえず難しそうな方にリリアを送るよ。俺だけ別ならさっさと追放されてそっちに行くという選択肢もある」


「追放なの?」


「ああ、自主的に辞めちゃいけない。あくまで考え方の違いとかで判断されての追放がベストだ。勝手にこっちが辞めたり、使えると思われたら戻って来いとか言われるとうざい」


「注目されることを避けるのね」


「そういうこと。現状どんな試練が待っているかわからん。目立ち過ぎもNGだ。なるべく固まって動ければいいな」


 そして三日後。先生に案内されて目的地へと到着した。


「はーいみんないるわね。ここが5ブロック中央都市よ」


 壁に囲まれた広くて活気のある街だ。活気があるのはおかしくね。ずっと前からありました感を出すな。なんか怖いから。


「ここは戦場にしないこと。出入りは自由。交易とかもできるようになるから、資材はすぐに使い切らない方がいいかもね」


 なるほど、商売もやらせる予定があるのかも。


「さあいよいよ王様の発表よ! 一気にいくから見ておいてね!」


 見た結果だが。

 1シルフィ

 2知らんやつ

 3リリア

 4カグラ

 5中央都市なので除外

 6思い出せないクラスメイト

 7確か貴族のクレアという女

 8俺

 9誰?


「これは……」


 シルフィとリリアが選出されてしまった。しかも俺が城主とか絶対に向いていない。これはちとめんどいぞ。


「はいじゃあ臣下も発表するわね!」


「は?」


 おいちょっと待て、そこまでランダムなのかよ。やばい完全にあてが外れた。

 とりあえず重要な人物だけまとめる。

 シルフィ軍にももっちとマオリ。

 リリア軍にルシードとラン。

 カグラ軍にイロハとヴァン。

 俺の軍にミリー・アルラフトとホノリ。

 他にも各城に二名から三名ほど臣下がいるが、ほぼ話したこともないやつらだ。これはやばい。


「やられた……そういうことか」


 勇者科の人数が少ないことが考慮された。嫌な方に働いたんだ。

 俺達とヴァン、ルシードの仲間が見事に全員分散している。

 そうやって付き合いが少ないか、異色な組み合わせをあえて作っていやがる。

 ギルメンを全員遠ざけられた。俺だけ8と9の連中に知り合いがいない。


「まいったな」


 確実に狙い撃ちされるだろう。シルフィとリリアの間にも敵がいる。迂闊に移動できる距離でもない。これはめんどいな……。


「今から一時間ほど話し合いの時間を設けます。そこから各城に移動してもらうわ。はいスタート!」


 全員が一斉に動き始めた。とりあえず四人で他のメンバーを探す。

 全員迅速に行動してくれたからか、すぐに集まった。


「どうしようアジュ……」


「焦るな。ももっちは忍者だ。イガの力は役に立つ」


「がんばるよ! 恩返しさ!」


 シルフィチームはスタンダードに強そうだ。マオリも武人タイプだから、戦闘で活躍できそうだし、他のメンバーが頭良さげだしまあ……なんとかいけるかな。


「わしの所にルシードか。前線での活躍を期待してもよいな?」


「ああ、最前線で構わない。好きに指示してくれ」


「あたしもそれでいいわ。ルーンちゃん成績いいし、信じるわね」


 リリアがいれば作戦に問題はない。ルシードもヴァンとガチれるし問題なし。運営上の問題はない。だが難易度上の問題も出始める。


「カグラ軍が強すぎる」


「わたし? フウマさんとマイウェイくんが強いのはわかるよ! 頼っちゃうからね!」


 頼っちゃうなんてもんじゃない。イロハが影の軍団を無限に生み出し、ヴァンが特攻かけりゃ大抵の敵は倒せる。数と質を二人で揃えてんじゃねえよ対策できないだろ。


「ヴァン、ルシード、お前ら個別に制限されたか?」


「オレはねえよ」


「同じく、何も言われなかった」


 ぼかした質問でも、こいつらは頭がいいからさらりと答えてくれる。


「なるほど、こりゃ少し様子を見るっきゃねえな」


「慎重に出方を見るとしよう」


「ああ、どうにも主催の思惑が読めない。気をつけるに越したことはないさ」


 さて、問題は俺だ。ジョーカー抜きでどこまでやりゃいいんだかね……めんどうなこった。

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