拠点到着と現状把握

 知っているメンバーと別れ、担当する8ブロックへとやってきた俺と家臣一同。ここは大雑把に言えば雪国だ。中央都市よりも小さい城下町と、その先に西洋の城がある。童話のお姫様がいそうな城だ。内部も綺麗に整っており、どこか高級ホテルのようでもある。中庭にプールあるし。


「ほらほらアジュ、座れって」


「やっぱ俺のか……柄でもないが……」


 もちろん玉座の間がある。赤い絨毯とシャンデリアの先には、なんか豪華な椅子がある。あれが王の椅子だろう。しょうがないな。とりあえず妙に座り心地のいい椅子に腰掛け、得意じゃないが挨拶から始めよう。


「アジュ・サカガミだ。色々不満があると思うが、主催者はそうなるように仕向けた可能性が高い。とりあえず、お互いの認識と目標を話し合いたい。よろしく頼む。右側からぐるっといこうか」


「ミリー・アルラフトです。魔法が得意です。よろしくお願いします!」


 ミリー・アルラフト。栗色の髪を後ろでおさげにまとめたメガネっ娘。前にも一緒に戦ったことがあり、大手魔導器メーカーのお嬢様で、補助魔法が得意だ。


「ホノリ・リウスだ。メインは鍛冶科。戦闘なら接近戦かな。よろしく」


 今の所唯一の俺を知る人間、ホノリ・リウス。貴族で鍛冶屋の娘。両手のパイルバンカーのような装置を使っての接近戦を得意とする。


「ルナメリア・アシュレイだよ! 長かったらルナって呼んでね! 簡単に言えば魔法剣士で、サブは探偵科ね!」


 白のふわふわした髪と紫の目でスタイルよし。髪と同じ白い耳と尻尾が生えていた。ネズミの耳だなこれ。武器は剣っぽい。


「イズミ・ウェルベリイ。イズミと呼ぶことを許可。サブは錬金科。魔道の知識とデータ収集を長所として推す。よろしく」


 水色の髪で、緑の左目を隠している、小柄の魔法使いみたいな服装の女だ。


「みなさんご存知だと思うけど、わたしはフランチェスカ・サーシャクル。医学と料理のプロフェッショナルよ。よろしくね、王様くん」


 エメラルドグリーンのさらりとした長い髪で、綺麗な赤い瞳がまっすぐにこっちを見ていた。

 長い耳の美形だしエルフだろ。全身が自信に満ち溢れている。スタイルがいいが下品さがない。上流階級の環境から繰り出される体型だろう。


「よし、よろしく頼む。俺は魔法科だ。接近戦はあくまで保険と考えてくれ」


 これで全員かな。やばい、ギルメンに戦闘力で勝てそうにない。どうしよう……あまり神の力について喋りたくないし、かといって説明無しで戦われたら負けるだろう。情報の選択が難しいな。


「あらリアクション薄いわね? こんなに美しいわたしがいるのに。自分のお姫様じゃないと興味がないのかしら」


「まあな」


「言い切った、言い切ったわよこの子!」


「アジュはそういうやつだ」


 そういうやつですとも。ホノリは常識人で俺を理解している貴重な人間だ。こうしてフォローを入れてくれる。


「ほほーう、やっぱラブラブなのかなーん? あんまり恋バナ情報がなくってさー。ついでに聞きたいのだ!!」


「ギルメンとの関係はギルメンとマスターだ。それだけ」


「まあ美少女で家柄がいいのは認めるわ。王族としての気品もあるでしょう。けどわたしだって胸……は少し負けてるかもしれないけれど、強さ……はよくわかんないわね。総合的な美しさでは負けてないはずよ! きっとそう!」


 本当に自信家だな。こいつも優秀なのかも。いかにもなお嬢様だし、優秀だといいなあ。若干高圧的だが、わざとやっているのだろうか。


「そりゃよかったな」


「失礼しちゃうわもう! 王様くんは王様なのに全然王様っぽくないじゃない! わたしが王様したかったのに!」


「知らんよ。王様ってどうやりゃいいんだ?」


「威厳とか出すのよもっと! 足とか組んで、肘掛けに頬杖ついて。そうじゃなくてこう、ちょっと動かないで」


 こっちに来て俺の足や腕を掴んで姿勢を変えていく。何がしたいんだこいつは。


「はいじゃあこのセリフ読んでちょうだい」


「俺の下で足掻け」


「うわーお……」


 全員との心の距離が離れた気がする。


「頼むから俺も被害者だということを忘れるな。そして何やらせてんだ!!」


「あの……そろそろちゃんと会議しませんか?」


「アルラフトの言う通りだ。まず考えることがある。俺達の目的は何だと思う?」


 全員少し考える。流石に真面目に考えてくれるか。助かった。そこからやる気ゼロだと厳しいものがある。いやもうとっくに厳しいけども。


「はいはーい、お城と領地を治めることじゃないの?」


 ルナの答えはシンプルだ。まあそれをどうやるかも重要だろう。


「何のためにそれをやるか、さ。最終目標と考えていい」


 さらに一拍置いて、ホノリが答えた。


「んー……ランキングがあるみたいだし、一位になるためじゃないのか?」


「あれはまあ、貢献とか、運営に独自通貨を年貢みたいに収めていくとか、あと個人でもできるみたいだな。じゃああれの一位になるとどうなる?」


「……成績が良くなる、とかでしょうか」


 ミリーの言うことも一理ある。まあその効果が無いとは思えない。


「ふわっとしているよな。ちゃんと顔の前に人参がぶら下げられていない」


「言い方アレだねアジュくん」


 問題は山積みだ。何をどうするとどう点数が上がって、どうご褒美が出るのかわからない。全行動がどう影響するか不確定すぎる。


「ならどうすれば勝ちだ? 誰に? どこまで何をやると好成績だ? この試練は明らかにおかしい」


「予測にはデータが不可欠。しかし現状我々には条件が不明瞭と判断」


「勇者科は特殊クラスだ。全員の才能と得意分野が違いすぎる。戦闘だけならどうやったって有利不利がある。だから暫定的にだが主催の目的は……勇者っぽく成長してみせろ、かな」


「なによそれ」


「説明する時にリリアがいりゃいいんだが……」


「そうやって頼るから、離れ離れにされたんだろ?」


 でしょうね。リリアは大切。はっきりわかる。あいつらがいない環境は不安だ。知らん女と領地経営とか胃が死ぬぞ。


「まず警戒しつつ足元を固める。まずは城の内部だ。見取り図はあるが、隠し通路とかあった日には、敵に利用されて全滅しかねない」


 今日は他国への侵攻が全面禁止で助かった。しばらくは自国の方針固めに使える時間がある。本当にありがたい。


「確かに、今日この城に来たもんな」


「よーっし! 探検行ってみよー!」


「もうすぐ夕方だから、夜になる前に終わらせるぞ」


 そんなわけで探検開始。日が沈みかけるが、ランプに明かりを灯していけばいい。


「少し寒いが、まあ許容範囲だな」


「建物全体が熱気を外へ逃さない作り。外からの寒気を防ぐ、内外に隙のない建築」


 イズミはこういうの詳しいらしい。データベース的な立ち位置を期待してもいいのかな。冷静に解説してくれるし、クール系なのだろう。


「ちょっと、歩くのが速いんじゃなくって? もっとわたしに合わせなさい。気配りのできない男ね」


 フランにホノリの後ろから声をかけられる。どうしてホノリの袖をつまんでいるんだこいつ。


「わたしが一人ぼっちになったらどうするのよ!」


「いいだろ単独行動しろ」


「嫌よ! 他人のお城って広くて暗いじゃない!!」


「自分の城があるみたいに言いやがって」


「あるに決まってるじゃない。こんなテンプレのじゃなくて、もっと凄いやつがあるわよ」


「俺には城の基準がないんだよ」


 こいつも王族か貴族だな。そしてなぜか少し震えているようだ。寒さに弱いのか。


「ふっふっふーん、さては暗いお城が怖いんだにゃー? わかっちゃったー」


「ちがっ、違うわよ! 淑女の扱いを説いているのよ!」


 露骨に焦りやがって。怖がりで離れたくないのね。プライドが邪魔で、正直に言えないんだろう。


「そうね、その、親睦を深めるという意味で、みんなでお泊り会をしてあげてもいいわよ? 特別なのよ! これは光栄なことなんだからね!」


「勝手にやれ。というか探検に集中しろ。イズミなんか冷静沈着だぞ」


 イズミは慣れた様子で壁や床を調べていく。非常にてきぱきした動きだ。無駄がない。


「いずみん、なーにやってるのー?」


「通路の調査と、暗殺に適した場所をピックアップしている」


「わかるのか」


「訓練を受けた」


 詳しくは聞かないでおこう。全員の心が一つになった。


「例えばカーテン、テラス、曲がり角。私ほど小柄なら、さっと潜んで、刺す」


 イズミの袖は萌え袖という、少し長めでだぼっとした手の隠れるものだが、そこから長い針が飛び出し、壁に刺さる。そしてしゅっと手の戻っていき、指輪になった。


「指輪を錬金で針にした。これなら戻せば凶器は発見されない。捜査を撹乱させられる。私は錬金暗器使いでもある」


 淡々と言われるとかえって怖いな。無表情だし、この子怖い。


「あなたは消して欲しい人や物はある?」


「お前のバイオレンスさかな」


「このチーム、バイオレンスが二人いるのか。私がしっかりしないと」


「俺をチームバイオレンスに入れるんじゃない」


 暗殺の訓練受けたやつと同列にしないでください。一般人です。


「わたしは錬金術と暗殺術しか知らない。他に特技も思いつかない」


「戦い以外でできることはないの? わたしはお料理が好きよ。誰かと楽しめるような、そんな特技とかないかしら?」


「エグい下ネタ」


「ボキャブラリー暗殺されたの?」


 結局日が暮れたので探索は中止した。夕食を食べて、疲れを取るため風呂に入ることにした。フランの料理が死ぬほどうまかったことをここに記す。そして風呂だ。


「おおぉぉ……こいつはすげえ。来てよかったぜ」


 お城の大浴場だぜ。それも新築の。大理石っぽいあれで美しく清潔にされた広い大浴場は、今日の疲れた俺を癒やしてくれる。


「ふう……湯加減もいい。素晴らしいぞ」


 ここだけが癒やしの場になる可能性大。しっかり疲れを取ろう。

 そう思ったら、すぱーんと扉が開く音がした。


「アジュ・サカガミ?」


 イズミだ。肩にタオルを乗っけている。隠せや。色々と隠せ。


「入ってくんな。俺がいるぞ」


「気にしない。入浴時間が遅くなると、適度な睡眠時間が確保できない。これは妥協案。計画は迅速かつ確実に遂行する」


「面倒なやつ」


「着痩せするタイプであることをあなたに教える」


「知るかボケ」


 胸が大きいことは認めるが、俺に関係ないだろ。


「あらイズミちゃん。あなたもお風呂? せっかくだしわたしも一緒に……」


 乱入してきたフランが俺を見て固まる。あーあ、これ面倒なことになるぞ。


「きゃあああぁぁぁ!?」


「ほーれこうなったぞ。お前がフォローしろ。お前のせいだぞ」


「了解した。私はただ入浴を済ませたかっただけ。彼が先に入っていた」


「それはそれでどうして一緒に入ってるのよ!」


 ごもっとも。しかし動じないねイズミは。なんか俺もリラックスできるわ。


「私は気にしない。着痩せするタイプであることをあなたにも教える」


「あらほんと、わたしには及ばないけど、身長からのギャップが……いやそうじゃなくって!」


「風呂くらい静かに入れや」


「どうしてくつろいでるのよ! 出なさいよ!」


「ちゃんと浸からないと風邪引くだろ」


「どうした? アジュが入っているのに気づかず騒ぎになったか?」


 エスパーホノリの登場である。探偵科でも入れや。


「お前は服着たままなんだな」


「どうせこんなことだろうと思ったからね」


 すっげえ洞察力だ。名探偵の素質あるよマジで。ホノリへの尊敬度が上がった。


「アジュももっと強く止めろって。女の子が裸なんだぞ。裸とか気まずいだろ?」


「ギルメン以外の女なんて知ったことか」


「どこまでもアジュだな……」


 なぜかこの流れでフランが湯船に入ってくる。ホノリは選手を見守る監督のように、少し離れた位置から全体を観察している。おそらく警戒しつつツッコミとフォローをしてくれるのだろう。


「私に余計な期待してるだろ」


「ばれたか」


 恥ずかしさをごまかすためか、フランがこちらから目をそらしてイズミに話を振っている。


「そうだ、お風呂ってつい歌とか口ずさんじゃうじゃない。イズミちゃんはお歌とかできないの?」


「しみったれたブルースしかできない」


「マジかよイズミさんぱねえっすね」


「『しょっぺえ雪国恋物語~冬~』」


「しみったれてそうな曲始まった!?」


 歌うめえ……プロほどじゃないがうめえ……けど曲がチョイスミスだよ。台無しだよ。


「わたし……恋愛経験とか無いけど、今を精一杯青春していくわ……うぅ……」


「お前なんで泣きそうなんだよ!?」


 ほどほどに風呂を堪能して出たが、なんか余計に疲れた気がする。さっさと王様の部屋に戻って寝よう。


「あっ、サカガミさん」


「アジュくんじゃーん。お風呂もう終わったん? 大騒ぎしてたねー」


 ミリーとルナと鉢合わせた。持っている物からして、今から風呂に行こうとしているのだろう。だが俺たちが騒いでいたことを知っている? よくわからんので聞いてみよう。


「ああ、騒いでいたの聞こえていたんだよな? なのにお前らは風呂来なかったな」


「乙女なのに男の子とお風呂なんて入るわけないじゃん」


「なるほど」


 やべーやつ多いなこのチーム。俺だけでも気をつけよう。

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