チーム8ブロックの初戦闘
王様用に与えられた広い部屋で目覚め、食堂でフランの作った朝飯をみんなで食う。これはルナが提案してきた。仲を深めたいんだとか。理にかなっているので採用した。
食い終わったら、本格的な領地の視察が始まる。
「さて、今日はかなり忙しくなる。まず城下町の探索。次に資源のある場所へ。そこからは中央都市までの道を調べて、やることはほぼ無限だ」
城から城下町へと降りていく。少し坂を下るだけだ。今日も雪が降っている。積もるほどではないが、このブロックは雪国設定なのだろうから、考慮しなければいけないな。
「全員で同じ場所に行くの?」
「そうだ。全員のイメージを共有しないといけない。城下町の果物売っている場所の横の店、とか言って通じるレベルが理想だ。あくまで理想論だけどな」
こいつらがどこまで何ができるかわからない。これがギルメンなら城下町とだけ言っておけば、俺が行きそうな所に全員いるし、準備も終わっている。というか位置は特定方法がある。だがそれをこいつらに求めてはいけないのだ。
「別に凱旋パレードするわけじゃない。普通に一般人として探索して、なるべく道を頭に叩き込め。地図だけじゃ足りないこともある」
こいつらも成績と今後の領地生活がかかっているため真面目だ。あまり心配はしていない。
「寒いけれど、人通りは多い。でかい街だってこともあるんだろうが、壁で安全が確保されているのも大きいか」
大通りは店が並び行き交う人がいる。そこがまずおかしいだろ。
「不思議。まるで始めから街があるような動き。こちらのような試行錯誤感がない。疑問は情報の処理が不完全になる」
「俺も納得できないと動けないタイプだ」
「そこまで気にするか? 私はよくわからん」
「ルナも気にし過ぎはだめだめだと思うよー。学園はミステリーでファンタジーだからにゃ」
お前探偵科だろうが。謎を解き明かせ。これ自体が罠だという可能性は捨てないが、深読みしすぎても無駄か。
「焦ってるわね王様くん」
「まあな。フラン、王族なら治世について学んでいないか? 俺よりうまく運営できるんじゃないか?」
フランがエルフ大国のお姫様であると判明。聞いても名前も場所もピンとこない。それでも振る舞いに気品がある。
「当然できるわよ。けど王様に最終決定権があるんだもの、王様くんが納得して決めるしか無いわ。アドバイスはしてあげるけど」
自己主張は激しいが、トップが増えると混乱するということはわかるらしい。英才教育ってやつかね。その判断ができるやつなら、相談役にはいいかもしれない。
「目立った問題はない。むしろ本格的な領地の奪い合いになってからが危険」
「だろうな。次は資源と……食い物どうしているんだ?」
「畑と、近くに海がある。漁業で魚が手に入るみたいです」
「うぇぇー、冬の海は寒いよー。ルナ別の場所がよかったな……」
「攻められる心配が減ったと考えよう。この寒い中、雪国の海を泳ぐのはアホすぎる」
「学園の達人はそれくらいやりそうだけどね」
そこがすっげえ不安だけど、単独でせめて城を占領し続けるのは無理だ。別の方法で来るだろう。
「燻製とか、干物とか長持ちする在庫があると戦争でも食料がもちますわ」
「多少城に運ばせることも考慮しよう。相場と中央都市までの移動や輸送の時間と手続きも必要だな」
「こちらに来る時に測っておきました。ある程度の目算はつけておきます」
「ナイスだ。こういうのはアルラフトに任せてもいいかもな」
「ミリーでいいですよ。私だけそっち呼びも変ですし」
こうしてメンバーの名前呼びが決まった。次は資源の採掘地と道の確保だ。
「鉱山っていうか……イラストだと石切場? みたいなとこがあるねー。これは結構手間じゃない?」
「加工が容易で、用途の多い物質です。取れれば有利でしょうが、魔物が出るとも書かれています」
「学園で駆除しとけや……」
そこも含めて試練なのだろうか。多少急ぎ足で現場へ向かう。
街からの便も出ているようだが、今回はルート把握のため散策しながら行く。それでも早足だ。
「日が暮れる前に行こう。私は夜の雪国なんて歩く根性はないよ」
「俺もさ。急ごう。道順を把握することも含めて各自確認と記憶はしておけ」
「慎重派なんだねー。もっと大雑把だと思ってたよ」
「俺だってそうしたいさ」
相手はギルメンだ。逃走経路くらいは作らないと死ぬ。俺だけがあいつらの実力を把握しているし、言葉で説明できるものじゃない。
通信機での連絡も、神が攻めてくるとか、絶対に処理できないトラブル以外は禁止しておいた。お互いの陣営で見つかれば、スパイ容疑で面倒なことになり、あいつらが危険になる。
「ストップ。そろそろ目的地につく」
イズミがそんな事を言いだした。魔物の気配でも感じているのだろうか。
「複数確認されているならば、巣があるかもしれないと予想。警戒レベルを上げるよう推奨。命令を」
「わかった。迂回しながら慎重に進むぞ。いいな?」
「異議なしですわ」
「お願いします」
そっと横道にそれて、石切場を上へ上へと登る。全員こういったことにも備えた装備で来ていてよかった。ある程度登ったところで、中心の開けた場所を覗き込む。
「石のモグラ?」
背中に石が生えたでっかいモグラがいる。二足歩行と四足歩行の両方がいて、人間サイズだ。
「ロックモール。もしくは石喰いモグラと呼ばれている。鉱石を食べて背中に取り込む。石を掘れるように爪も腕も丈夫。けれどそれに特化しているため、石が邪魔で地中に潜ることはできない。主に採掘場や炭鉱の穴に潜む」
「解説どうも。博識ですわね」
「魔物の暗殺も依頼が入る」
「ついでに弱点や対策もお願いできるか?」
「わかった。少し長くなる。安全な場所へ戻ることを提案する」
来る途中で見つけた小屋で休みながら作戦を練ろう。
枯れ木と薪を集め、ささっと中央の囲炉裏と壁の暖房に火を付けた。小さな道具は持ち歩いている。
ついでに途中で見つけた木の実を割ってみる。食えるやつなのは確認済み。念の為少し火を通す。
「手際いいわね王様くん」
「あっくんはどうしてサバイバルできるのかにゃ?」
「あっくんって俺かよ。将来のためだ」
ついでに街で買った干物類の味見もしておく。いいじゃないか、これ結構うまいぞ。保存が効くものがうまいと幅が広がる。兵の不満も減るだろう。
「冒険家にでもなるのか?」
「違う。別に言うほどのことじゃない」
人類が俺達の力を恐れ、迫害するなら皆殺しにする。その後は四人で生きていかねばならない。だからサバイバル技術は全員学んでいる。言うと引かれる気がするので喋らないでおこう。
「さて対策会議だ。あいつらの数と、ボスの場所がわからない。あの現場はあまりにも広すぎるし、それぞれどれだけ戦えるのかも不明だ」
「どうするの?」
「群れからはぐれているやつを潰して、勘を磨く。ミリーの補助魔法は禁止。個人がどれだけできるかのテストだ。前衛後衛も分けるぞ」
前衛にホノリ、ルナ、イズミ。後衛にミリー、俺、フラン。
ひとまずはこれでいこう。ルナは剣。イズミは二刀流と格闘術。フランはレイピアと魔法の杖が一緒になったもの。各自の得物も考慮した。
日が暮れないうちに石切場へと戻り、作戦を開始する。
「三匹いた。注意点はさっき話した。体が硬い。ボスの瘴気で生まれたタイプだから、死ぬと背中の石だけが残る」
下に群れからはぐれてうろついている個体を発見。下まで5メートルちょい。飛べばいいな。右手に魔力を集中させ、一点に集中して解き放つ。それが開始の合図だ。
「三人が下で戦う。俺とフランとミリーは上から援護だ。それじゃあいくぞ。サンダースマッシャー!」
一番うしろのモグラにヒット。顔をほぼ焼いたようだが、やはり体そのものが頑丈らしい。背中の石が破壊されていない。
だがそれもお構い無しで三人は下へと降りていく。
「燃え尽きなさい!」
フランの炎魔法による追撃で、完全にダウンさせた。本当に死ぬと石だけ残して消えるんだな。
「ブモオオオオォォォ!!」
モグラがこちらに気づくが、既にホノリが突っ込んでいる。いいぞ対応の時間を与えるな。
「おおおおおりゃああああ!!」
パイルが炎を吹き出し、モグラの上半身を抉り抜く。火力は問題なし。
「戦闘開始。援護する」
モグラの目と首を切りつけていくイズミ。そのままボディブローで胴体が折れ曲がるくらい殴りつけている。テクニックとパワーを両立させたタイプなのか。
「いっくよー!」
ルナは魔法を剣にくっつけたり、攻撃魔法を使い分けている。火・風・水と使える種類も多いらしい。しっかり剣術を習ったタイプに見えるな。
「思っていたより楽勝ね」
「なら増えているがやれるな?」
騒ぎを聞きつけたのか、モグラが集まってきている。これは一度こちらへ帰還させる必要があるかもしれない。
「一回戻るかー?」
「だいじょーぶ!」
「戦闘続行。このまま経験を積む」
「え、援護します! ウインドボム!」
風が敵に直撃し、爆風でルナが少し怯む。味方に近いと被害出るな。
「おわっとと!? ミリーちゃんもうちょっと敵側にお願い!」
「すみません!」
「よし、あとは私が! ってルナストップ! 射線に入るな!」
今度は直進するホノリの前にルナが入りそうになる。結構危なっかしいなおい。
「うわわわ!? ごめん! ちょっと離れるね!」
「ああもう石が邪魔だ!」
背中に生えていた石が残るということは、そのまま足元に障害物ができるわけだ。これはめんどい。
「石のない場所まで逃げる?」
「それはそれで孤立する。敵をまとめてしまうべき」
イズミの飛び蹴りが敵に炸裂し、複数のモグラがもつれあって足止めを食らう。
「フラン、開けた場所に集中攻撃! ライトニングフラッシュ!!」
「任せなさいな! バーニングローズ!!」
雷と炎が敵を焼くが、なんか打ち消し合っている気がする。威力が下がっているというか、ぶつかってしまうような違和感が……どうして合体魔法ができないんだ。
「なんか魔法がうまく混ざらんな」
「魔法って混ざるの?」
「もしかして合体魔法って難しいのか?」
「普通にできることではない気がします」
ミリーとフランいわく、ほいほい初対面でできることじゃないらしい。
ギルメンとヴァンは才能含めて勇者科でもトップだと証明されていく。
「焼きムラが強いな。ふんわり表面に焼き色が付く程度で止まるが、中までしっかり焼けていない」
「お菓子作りじゃないんですから……」
「あまり崖際に攻撃すると危険ね。王様くん、ここからじゃ援護に限界があるわ」
「だが上に引き上げる役と指揮官は必要だ」
全員で戦場に降りるのはまずい。現にまだチームワークが完璧じゃなく、下の連中は肩がぶつかったり攻撃を味方に当ててしまいそうになったりしている。魔法がぶつかるトラブルも出た。これは敵が弱いうちに慣れさせたい。
「上から撃つのも難しいんだな……あいつらの動きが読めん」
「普段どうしてたの?」
「何も考えなくても全員どう動くか理解できる」
誰がどう動いてどこにいるか、次にどう動くかは直感と理屈両方で知っている。半年以上の同居と戦闘は無駄じゃないんだなあ。
「うーむ……殲滅に時間がかかっているな。急造チームの弊害だ」
「この数を倒すのですから、このくらいはかかりますよ。敵も硬いので」
勇者科って飛び抜けて強いわけではないのか? わからん。敵が強くなっている可能性もある。普通のレベルを見定めねば。
「少し散らばりすぎだ。できれば連携を意識してみてくれ!」
「了解!」
上から戦闘を見下ろし、魔法で援護しつつ、少しだけ把握できてきた。
殺し合いで一番強いのはイズミ。一撃が重いのはホノリ。ルナは明るいノリだが、探偵だからか客観的に周囲を見ていて機転が利く。
ルナが引っ掻き回し、イズミが的確に沈め、硬い敵はホノリ、そういう役割で命令を出してみるか。
「いい傾向だな」
「三人とも強いです」
「なかなかの華やかさじゃない。褒めてあげるわ」
フランとミリーも攻撃魔法による援護タイミングを掴んできた。これを繰り返せば、少なくともザコ相手に遅れは取らないだろう。
「いずみんうしろ! フレイムドーナツ!」
ルナの炎が輪になってモグラを縛る。あいつ器用だな。あれなら熱で敵を焼きつつ拘束できる。
「協力感謝」
イズミの指輪がガントレットに変わり、モグラの頭を破裂させる。自分に強化魔法かけてやがるな。
「数が減ってきたが、疲労も見えるな」
「わたしが援護に行ってあげるわ。回復魔法も使えるし、いいでしょ?」
「わかった。気をつけろ」
「そっちもね」
フランを下へと送り込む。安全に着地し、三人へと駆けていく。
そこで何かを破壊する音が響き、何倍もの大きさのモグラが壁から飛び出してくる。なんだあいつ。どっから湧いて出た。
俺達より低く、下の連中にとっては高い位置だ。壁を食いながらこっちに来たのか? 同時にザコが離れていく。
「しまった、戻れフラン!!」
ザコは撒き餌か。このままじゃ下のフランが怪我をする。だが誰に命令すべきだ? ホノリはパワータイプ。ミリーは無理。ルナは未知数。フランは俺の『戻れ』に反応できていない。
「イズミ! 連れて逃げろ!!」
イズミに行かせつつ、ライジングナックルでモグラを殴り飛ばす。
「ちっ、重いな……」
大モグラがあまり飛ばない。それでも避難の時間は稼げた。
「ありがとう。助かったわ、イズミさん」
「気にしなくていい」
「ブゴオオオオオォォォ!!」
より怒らせちまったみたいだが、四人を合流させることには成功した。
「えぇ、あんなでっかいのがいるの?」
「うわー……ちょっと無理めかもしんない」
「これは想像以上にやばいぞ……」
ボスモグラは通常の五倍くらいでかい。あれを倒すには機動力と殲滅力が足りないだろう。局所的な火力はホノリで補えても、それ以外の対応が遅れる。
「敵が集まってきます。迎撃しますか? 撤退しますか?」
さて、ここからどう動くべきかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます