ボス戦と今後の予定

 広い石切場で、でっかいモグラ軍団とそのボスが現れた。ザコが二十匹は存在するし、崖の上にいるのは俺とミリーだけ。ちょいとピンチかね。


「どうします?」


「ここで迎撃できそうならしておきたいが……お前らまだいけるか?」


「当然いけるわ!」


「続行を要求」


「やるならずばばーっとやっちゃうよー!」


「アジュが決めてくれ。できる限り従うよ」


 士気は落ちていないか。なら日を改めるより殲滅を優先だな。


「よし、戦闘続行! ミリー、強化魔法かけろ!」


「はい! パワーオブウインド!!」


 緑の風が味方を包み、体が軽くなる。ミリーはできる限り敵と離しておきたいところだな。


「くらいな!!」


 ホノリのパイルがボスの腕に突き刺さる。爆発で粉微塵かと思えば、モグラの腕に火傷ができた程度だ。


「ダメだ! 硬いし面積が広すぎて決定打にならないよ!」


 敵がでかすぎて、パイルをぶち込むだけじゃ粉砕できないのか。人間にえんぴつを刺しているイメージかな。


「ホノリ! 一族の力とか覚醒できないか!」


「どんな要求だ!? そっちのメンバーと一緒にしないで!!」


 ヘファイさんの血族なんだし、覚醒して強くなってくれたら嬉しいが、無理なら仕方がない。

 ザコに向かって攻撃魔法ぶっぱしながら作戦を練っていると、ボスが子モグラを丸めて掴んでいる。大きく振りかぶりまして。


「全員散れ! 投げてくるぞ!!」


 そのまま子モグラをぶん投げてきた。いくら頑丈で背中が石だからって……ああそうか、あいつら生物じゃないから死の恐怖とか無いんだっけ。めんどくっせえ。


「なんて野蛮な戦い方かしら!」


 反応できないと予想していたフランは、以外にもしっかり距離をとっていた。


「同じ失敗はしないわよ!」


 横っ飛びで回避しつつ魔法を撃つことも忘れない。なるほど、学習能力高めか。覚えておこう。


「攻撃続行」


 イズミの剣と指輪が混ざり、槍へと姿を変えた。そのままボスの背中を猛スピードで駆け上がり、首へと突き刺している。


「ブゴオオオォォ!!」


 一気に暴れだしたな。イズミが振り落とされそうになっている。


「ライトニングジェット!」


 クナイをボスの足に向けて放つ。深々と突き刺さり、電撃によって膝をつく。


「今のうちに降りろ! ザコ狩りを頼む!」


「了解」


 しょぼい攻撃じゃ殺せない。大規模な攻撃は切り立った高い崖が崩れて危険。これはしんどい。プラズマイレイザーは周辺の被害も出る。雷光一閃はあたっても殺せるか不明。鎧は見せたくないが、敵が硬い……硬い?


「俺も鈍ったかな。お前ら! 壁崩してザコを潰してやる! 全員でボスに必殺技ぶちかませ!!」


「了解!!」


「ミリー、お前もだ。適当に攻撃魔法ぶっこめ」


「はい!!」


 残りのザコモグラが出てくる道の上に攻撃魔法を当てる。落石の計で道を塞ぎつつ、数も減らす。これで殲滅完了だ。

 あとはタイミングさえ合えばいい。ボスの顔にサンダースマッシャーを当て、合図を送る。


「今だ!!」


 全員が必殺技のために入り、同時に解き放つ。


「はああああぁぁぁ!!」


「えええええぇぇい!!」


 ボスへと突撃する者、魔法を撃ち出す者、様々だがそれでいい。それじゃあ始めようか。


『ソニック』


 ソニックキーで世界が止まる。正確には俺だけが超加速し、さらに周囲が止まっていくわけだが気にしない。


『ソード』


 最近使わないせいで忘れがちだが、この剣の長所はどんなものでも切れるという点にある。概念だろうが鉄塊だろうが、何の抵抗もなく、技術もいらない。するりと豆腐のように切り刻める。


「はっ!!」


 止まっている連中を飛び越し、ボスモグラの首を横薙ぎに一閃する。

 あまりに切れ味が良すぎるため、少しの工夫で首を飛ばさないことも可能だ。だが確かに切断した。あとは急いでミリーのところまで戻れば任務完了。


「きっつ……まだ魔力が足らんか」


 ソニックキーは長時間使うにはきつい。膨大な魔力を消費する。解除すると同時に剣もしまった。


「てええええええやあああぁぁ!!」


「いっけー!!」


 全員の攻撃がクリーンヒットし、ボスは後ろにぐらりと倒れ、背中の石だけを残して消えていった。


「任務完了だな」


「やったやったー! みんなつよーい!!」


「わたしが協力してあげてるんだから当然よ!」


 よしよしばれていない。みんな子供のようにはしゃいでいる。大怪我もしていないようだし、これならみんなの手柄ってことで、団結力も上がるだろう。全員で倒したという結果を共有させるのだ。


「なんとかなるもんだね。私はもうどうしようかと思ったよ……」


「…………敵の首が浮いた? 疲労による幻覚と判断」


 さて、しばらく待ってやってもいいが、寒空の中放り出すと、それはそれで文句言われそうだ。切り上げて帰ろう。


「喜んでいる所悪いが、さっさと帰るぞ。もう日が暮れる」


「はーい!」


「凱旋よ! 今日は豪華なお食事にしましょうね!」


 元気だな。顔には披露が見えるが、今は勝利の喜びが大きいのだろう。疲れを感じさせる前に帰還した。全員リビングでぐったりとしている。


「流石に強行軍だったか」


「ルナは疲れましたぞよ」


「食事は届けるように連絡しておいた。好きに食ってくれ」


 どうせ作る体力もないだろうと、城に帰る前に街で頼んでおいた。各種料理がテーブルに並び、好きにつまんで食えという方式だ。


「アジュ……本当にアジュか?」


「いやまあガラじゃないとは思うさ。フランが屍のように横たわっているもんでな、これは無理だろうと」


 別のソファーで死にかけている。帰ってくる時一言も喋らなかったし、相当にお疲れだ。


「お気遣い痛み入るわ」


「移動手段も考えないといけませんね……」


 王族だから平気かと思えば、俺と同じくらいぐったりしている。ミリーもそうだ。体力ない組とある組がはっきりしたな。


「ほーらいずみん、こっちもおいしいぞー。ぐいーっといってみよう!」


「良質な素材と腕のいいシェフがいる。おかわりを要請」


「やっぱ魚多いな。これかなりうまいぞ。アジュも食べてみろ」


「今動けない」


 もうソファーから動きたくない。寝転がってしまったのが運の尽き。もう眠いのである。そっと腕を伸ばし、近くの串に刺さった焼き魚を食う。うまいけど眠い。眠いけどうまい。


「そこで寝ると風邪引くぞ。雪国だぞ」


「リリア……はいないから……メイド雇おうぜ。俺の世話するやつがいない」


 リリアが回復魔法かけつつ、それとなく食事を運んでなんなら食べさせてくれる環境を取り戻したい。死活問題だ。


「世話は別として、確かに城は寂しいな。メンテも六人じゃ限界があるし」


「警備の兵士も欲しいが、そいつらが敵じゃないという保証がない。爆発する腕輪でもつけるか?」


「やめときなさいって。他国に付け入られるよ」


「そりゃうざいな」


 しかし警備とメイドの問題は残る。一応だが兵士はいるらしいし、いなきゃ防衛もできやしない。


「食料はある。資源はモグラを潰したから、輸送の手配と加工手段が必要だ」


「何を作るんですか?」


「そこだ。こればかりは俺の一存では無理。空きスペースをどう使うか会議する。明日な。各自資料に目を通しておくように」


 空きスペースとは、城と街にある、不自然に空いた土地のことである。明らかに欠けており、立ち入りが禁じられている場所がかなりあった。これのおかげで街も変にすっかすかなのだ。


「お金と資源を集めて、一定条件を満たすと作れる施設……よく思いつくものね」


「食料庫、兵舎、城壁とそのグレードアップまでありますよ」


「街関係でも警備兵詰め所、街道整備、市場の増築? うわー……これ決めるの大変だねー」


 資源も時間も有限だ。まずどういう


「学園から業者のリストも貰ってある。今必要そうなものはまとめておいた。主にミリーが」


 この中には、メイドや執事なんかのランク別雇用リストもある。

 しかも兵士をどの程度どこに配置するかも決める。決めることが多すぎるだろ。


「ミリーもアジュもよくこんなことできる余力あったな」


「していないと寝そうなんだよ……暖房朝までつけておいてくれ」


「完全にここで寝る気ね」


 結局毛布出してそのまま寝た。何人か同じようにソファーで寝ていたので、みんな慣れない作業で疲れていたのだろう。

 明日は頭脳労働だ。今のうちにゆっくり休んで、無い知恵絞れるようにしておこうかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る