内政会議と同盟
モグラ退治の次の日。がんばって朝起きて会議が始まる。飯食いながらだけど。
「じゃあ食いながら決めていくぞ。領地をどう強化するかだ」
毎度フランの飯がうまい。栄養バランスまで考えられているし、毎回違うメニューということはレパートリーも豊富なのだろう。いかん思考が脱線する。
「王様くんのご意見も聞きたいわ」
「俺は最後じゃね? 決定権あるやつが最初はなあ……」
「最初も最後も変わらないさ。言い出しっぺがいくというのもありだよ」
全員頷いている。これは個人の感想になるな。なら場に従うとするか。
「徹底した自給自足と防衛かな。他国との戦争になるにせよ、貿易をするにせよ、まず国を完全に鎖国してもやっていけるようにする。まず衣食住を充実させて、防衛砦とかを作る。あとは左右の敵国次第さ」
「地盤固めですか。私はいいと思います。他国にこれだっていう特産品を出せるといいかなって……」
ミリーは意見を支持してくれるようだ。あまり好戦的な性格じゃないし納得である。
「敵を攻めないのはどうして?」
「そりゃ最速で侵攻するやつもいるだろうが、そもそも空きスペースのある国だぞ。そんなもんがいきなり二個できたって統治できないだろ。ある程度敵にやらせとくんだよ」
「漁夫の利ってことね。いいじゃない、ちょっとずる賢いやり方だけど」
「現状での他国制圧は不可能と判断。合理的」
「ルナも異議なーし! ばしっと富国強兵に決定だね!」
満場一致というやつだ。よかった、こいつら判断力がある。強引なアホが混ざっていない現状は実にありがたい。
食事も終わったし、ここからはのんびりソファーで寛ぎながら会議しよう。
「さて、そうなると敵を知る必要がある。左右の国の連中と話したことがあるやつはいるか? 俺はまったくわからん」
これである。まったく交流がないため、俺では敵を評価できない。
「もうちょっとクラスメイトに興味持ちなさいよ」
「他人嫌い。あと女も嫌い」
ソファーに寝っ転がるが、どうにもクッションが合わない。近くのやつにかえる。
「改善の兆しはあるらしいよ。それでもこれだけど」
「わりかしきつい。まあそれはいいとしてだ。誰かわかるやつ、解説頼む」
聞きながらさらにクッションを枕に変更。いまいち。
「クレアちんならわかるよー。えっとね……優等生の腹黒?」
「相反するものだろそれ」
なんだよ厄介なやつなのかよ。そんなの隣国にいないでくれ。
「優しいし周囲への思いやりもある子だよ。けどなーんかこう、しっとりっていうか……とにかく優しくていい子で、おしおきがごおおおぉーってなる子?」
「お前探偵のくせに擬音が多すぎるだろ」
「裏でも表でも怖い子? 敵にならなければ普通だよ」
「つまり危険なのね」
部下もそれなりに優秀らしいので、とりあえず警戒しよう。詳細な行動原理や作戦指揮の腕は不明。そこまでは贅沢かな。
「右の連中は?」
「前に戦っただろ。ほら、みんなで寝泊まりする試験でさ。アジュのチームと対戦したメガネとか金髪のチームだよ」
「……………………あれか!」
「思い出すまで長かったね」
いたいた。確か俺につっかかってきたクソみたいな連中だ。うーわ最悪。絶対に仲良くしたくない。あれは敵だ。
「えー、左とは不干渉。右は攻めてきたら根絶やしということで」
「個人的感情で動いてるわねえ」
「どうせ戦うだろ……そういやこの中に兵士の訓練できるやついるか?」
無言である。誰も名乗り出ない。つまり兵士の統率や陣形組む練習をさせられない。実践で運用できない兵士なんて無意味だぞ。
「フラン、そういうの経験ないか?」
「無理よ。エルフの部隊とじゃ勝手も違うでしょうし。イズミちゃんは無理かしら?」
「暗殺者に仕立てる?」
「そういう部隊がいても悪くはないが、メインは前線で戦うやつらだよ」
問題が山積みだ。しかも枕がしっくりこなくて考えがまとまらない。リリア戻ってこい。
「できることから考えましょう。今日はお城のメイドさんの面接ですよ」
「ルナはイケメン執事さん欲しいでーす!」
「任せるからホノリとルナでやってくれ。隠れてイズミに見せろ。スパイが混ざるかもしれん」
「了解。あぶり出す」
「過激なことはするなよ? 数人雇えばいいからな」
見通しが立っていないので、多くても三人くらい雇えばいいだろう。金を稼ぐ手段を構築するのが先だ。
「石切場の作業と資源を運んでくる部隊が必要だ。そこも今日中に決める。加工品は未定だが、保管庫は存在するから送れ。商売やるならミリーが魔導器メーカー。ホノリが鍛冶屋だからな。そっち方面に舵切るのも悪くはない」
「『かじ』だけにってわけね。やるじゃない王様くん」
「やめろそういう意味じゃない。あと銘を入れるぞ。この国の商品だと理解させる。デザインセンスとかあるやついるかー?」
「もちろんわたしね。センスと名のつくもので負けたりしないわよ」
「なぜか不安にかられるな」
「あの、でしたら資源関係の発注と一緒に、私も手伝います。デザインの勉強もしているので」
ミリーはそういうことができるらしい。企業のお嬢様だからか、色々と勉強しているのだろう。社長とかがやるこっちゃ無い気もするが。
「ミリーとフランに任せる。俺はどっちにつくべきかね?」
「資源まわりの調査でもお願いするわ。どれくらいの量かもわからないし、枯渇したら別の商売が必要でしょう?」
「わかった。ついでに強そうなやつでも見つけよう。兵士は石切場と都市の間にも配置して、何かあれば……」
そんな感じで会議は進む。当分は最初に割り当てられた兵士に都市の警備を頼む。同時に資源だけはしっかり警戒させる方針だ。
俺もフルムーン騎士団をレクリエーションで指揮したことはあるが、あれは基準にするべきじゃない。練度が高すぎて参考にしてはいけないのだ。地道にこう。
「資源は奪いにくるやつがいるだろうから、対策は念入りにな」
作れる設備と必要資源リストから見ても、そう枯渇はしない。だがご丁寧に、少し豪華な施設は複数の資源がなければ建てられない。そして、一部は別の国にしか存在しないという最悪仕様だ。奪い合いか同盟かは勢力によるだろう。
「ねえ、王様くん。ずっとソファーで枕変えてるけれど、寝心地悪いの?」
「あー……高さがいまいち。ダメだ。柔らかさと高さのバランスが整わない」
睡眠と寛ぐ枕はなんか違うのだ。こういう微妙なストレスを積み重ねてはいけない。うだうだするのはやめて、少し街に出よう。
「街の周辺調査に行く。昼ごろ城に集合で」
「了解」
「びしっとおまかせ!」
いつものコート着て城から出る。外は晴れだが寒い。多少寒いくらいがちょうどいいか。知らん女の多い環境は、長時間いるのに適さない。
「予想を超えて面倒だ」
資源とは有限であるのが普通だ。この世界じゃどうだか知らんけど。
ならば加工品をどこに売る? 他国か? ならこのブロックに住む連中はどうやって利益を出すか。
ある程度の商人は行き来すると仮定し、その上で銘の入った加工品を輸出するのが無難だろう。原材料は確保し、城に蔵でも作る。レアリティは必須だ。
「リリアがいれば楽なんだが」
こればかりは仕方があるまい。問題はここからだ。どこまで他人を呼び込んでいいのか。そこについての記述が少なすぎる。曖昧にして自由意志に任せているのだろうか。
「教師を使うな。都市に来る大人以外は生徒でなんとかしろ……コネをどこまで使っていいのかわからん」
ありえないが、フルムーン騎士団とフウマ忍軍を完全投入されたら詰む。もう鎧でぶちのめすしか無いが、運営側がそれを望まないだろう。
「街には発展度に応じて人が増える。その中には強いやつもいる。だがどう見つける?」
街の大通りを歩くが、他人の強弱なんてわからんぞ。どうしたものかと悩みながら街の正門まで来た。結構大きな門だ。まだ日が高いから開いているが、夜は閉じる。見張りの兵士たちを発見。成人しているようにも見えるな。
「まあいいか」
当然だがまったく知らん人に自分から話しかけることはない。しんどい。インドア派で人見知りだっつってんだろ。
「人通りは多くないな」
多すぎてもスパイが紛れ込むからきつい。わざわざ冬の雪国に来る人も少ないだろう。スキー場でも作れば来るかね。娯楽施設なんて当分先だけど。
そんな風にくだらんことを考えながら歩く。こういう時間は嫌いじゃないぞ。
「魚の匂い?」
魚市場だろうか。朝だったらもっと活気がありそうだが、今は普通に買い物客がいるくらいだ。いい匂いが漂ってきた。料理でも振る舞っているのか、多少の人だかりがあるな。
「お兄さん、食べてくかい? 安いよ」
「アラ汁か」
「知ってる口かい?」
「一応は」
アラ汁は簡単に言えば、魚の食いやすかったり商品になる部分以外をぶち込んだ汁物だ。野菜とかを混ぜるケースもある。これはシンプルに魚ぶち込んだやつだな。その分安い。
「いただこう」
「毎度。熱いから気をつけてな」
流石は漁業の盛んな場所。作っている人間も手慣れているのだろう。濃厚な旨味が体を温めてくれる。生臭さがなくて好印象だ。
「見つけた。アジュ、帰還要請。国主が求められている」
イズミがやってきた。音を立てず、結構な速さで来たな。そのスキルちょっと欲しい。
「どうした?」
「クレア陣営の使者が来た」
「……は?」
とりあえず急ぎ足で城へ戻った。行ったり来たり忙しいなもう。
「あ、きたきた。お客様よ王様くん」
玉座の間に全員集合していた。知らん女が二人いる。こいつらが使者か。
「はじめまして。7ブロック国主、クレア・エスティードよ。以後よろしくね」
薄紫色の髪と目の、お嬢様っぽい女だ。武闘派には見えないな。
「クレアの友達のメルフィア・ファイランドだ。よろしくな!」
こっちは淡いオレンジの髪と赤い目で、活発そうなイメージ。こいつは護衛のために同行しているな。特殊なグローブと腰に剣を下げている。クレアは装備が見当たらないが、どういうことだ。
「アジュ・サカガミだ。わざわざ本人が来るとは思わなかったよ」
「その方が誠実さを出せるでしょう?」
「かもな。場所を変えるか。座る椅子もないし」
「別にいいわ。謁見を申し込みに来ているのだもの。雰囲気が出るじゃない」
本人がいいならいいけども。他の連中は成り行きを見守っている。国主同士の会話に口を挟むつもりもないのだろうか。
「わかった。要件を聞こう」
「同盟を組みましょう」
「直球だな。そっちのメリットは?」
「こっちは4ブロックのカグラさんに集中できるわ。8ブロックと9ブロックは相性が悪そうだし、そちらにとってもいい話でしょう?」
俺たちについて調査されているな。俺と9ブロックが不仲なのも知っているか。腹黒厄介ってのは本当らしい。
「同盟というより不可侵条約に近そうだな」
「そう取ってもらってもいいわ。あなたたちは前線で戦い続けられるメンバーじゃない。攻め込めばこっちの勝率は高いでしょうけど、戦力を分けたらヴァンとイロハさんが止められないわ」
あいつらの実力の一端を知っているのか。それで後顧の憂いを無くす算段だな。
「どう思う?」
メンバーに感想を聞いてみる。俺の意思で全部が決定すると思われてはいけない。
「悪くない気がする。条件次第だけど」
「細部を詰める必要はあると思いますが、悪い選択ではありませんね」
「現状で二国を相手にするのは無謀」
「断っちゃったらどうなるのかしら?」
「先に潰すだけよ。あがいてあがいて苦しんで死ぬか、一瞬で蹂躙されるか。私はどちらを見るのも好きよ。選択権はそちらに与えてあげる」
まあ問題ないだろう。神の一族とか混ざらない限りはね。こいつ自信たっぷりだし、そっち系だったら嫌だなあ。
「いいじゃん。クレアと戦うよりマシだろ? こっちゃ強いよ」
「やめなさいメルフィア。アジュさん、あなたなかなか知恵が回るらしいじゃない」
「そうでもないぞ」
完全に超人と神のスペックに依存したやり方だ。作戦とか関係なくゴリ押しも可能なメンツだったよ。
「でもね、あなたみたいに自分は人から信頼されてると思っていて、他人より少し賢くて頭が回ると思っている子が一番……潰しやすいの」
「ふーん」
俺相手じゃなけりゃまだ説得力あったんだろうけども、そういうタイプじゃないんだよなあ……しかもそれ言うやつって超一流には絶対勝てないやつやん。
変な笑い方しているけど似合っていないぞ。
「別に変な真似さえしなければ、こっちもとしても裏切りはしないわ。二面作戦されて勝てると思うほど、うぬぼれ屋じゃないもの」
全員を見渡す。頷いているし、異論はないようだ。
「あとは王様次第ね」
「わかった。具体的な期間は?」
「とりあえず二週間様子を見ましょう」
「了解。その間はお互いの領地に侵攻も資源の奪取もしない」
「ええ、お互いに干渉は避けて、反対側の敵に専念する。約束は違えないでね」
「わかっているさ」
こうして一時的にだが同盟を組むこととなった。どこまで本気か知らないが、二週間後に備えて防衛と施設の強化だけはしなければ。油断できんぞこの試験。
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