白銀の鎧
俺が勇者科一年として受ける初めてのクエスト。
そのために俺達は通称『旅立ちの森林』と呼ばれる場所にいる。
「名前がシンプルでわかりやすいな」
見渡す限り草と木だ。適度に整備されていて、五人くらいが並んで通れる道が複数ある。地図も渡されているため、まず迷わない。
開けた場所も多いようで、正に初心者向けの場所だろう。
「さて、イロハ達が来る前に色々聞いておこうか」
「うむ、なんでも聞くがよい」
「言葉が話せて文字が読めるのはなんでだ?」
色々ありすぎて後回しにしてたけど、これは物凄くありがたい。
とりあえずゆっくりのんびり異世界を満喫してみたいからな。
「話せなかったら生活できんじゃろ。おぬしは大切な存在であり、やらねばならんことがある。そのために面倒なことはどんどんこちらで省略できるように研究と根回しが進んでおるのじゃ」
「そんなもんかね。言葉がわかって超パワーがある。ありがたいもんだな」
「強い力も、危険だと人間側に思われたとき便利じゃ」
「ああ、物語でたまーに見るパターンだな。魔王倒せるってことは魔王より危険だから殺そう的な?」
「そうじゃ。そんな時に、実にあっさりと人類を皆殺しにできるくらい強くなければならぬ」
「そりゃ助かる」
ありがたい。そんなくそ以下の理由で敵対するようなら皆殺しでいい。
だが鎧には言葉にできない力がある。それが馴染んでいく感覚。
きっとこれも大切なことなのだろう。
「鎧に馴染む時間で強くなる。そして子孫に受け継がれる。勇者科が女ばっかりなのは」
「効率が悪いからじゃ」
「おまたせ! 今日は明るくてよかったね!」
後ろからシルフィに声を掛けられる。陽の光が差し込むため森はかなり明るい。
女の子と道を歩くとか……男女で並んで体育館とかに移動する時だけだと思ってたよ。
ちなみに全員学園の制服だ。
シルフィは白いニーソ。イロハは黒ストッキング。どちらもよく似合っている。
リリアはブーツで隠れているが、白と黒のしましま靴下だったはず。
「シルフィ達はここに来たことがあるのか?」
「あるけど先生が立会のもと、団体行動だったわ。中等部では実戦より基礎訓練が主だから」
少し離れた所から補足を入れてくれるイロハ。
なるほど、ガキに無茶な実戦やらせてたら死人が出まくるわな。
「特別に強くて許可が出てれば、違うんだけどね」
「シルフィは許可出なかったのか?」
「わたしはイロハと一緒にいるほうが楽しいし、自分だけ特別なのはパス」
「ピュアじゃのう」
リリアに全面同意だ。どんな育ち方してきたんだよシルフィ。
ここまでピュアだと汚してはならないと思える。
「ちょっと失礼だけど、あなた達はその……戦えるのよね?」
探索も進んで地図だと折り返し地点より先に来たところで、前を探索してくれているイロハが、申し訳無さそうに聞いてくる。
「問題ないのじゃ。まあちと異質かもしれんが、そこは目をつぶって欲しいのじゃ」
イロハの疑問にどう答えようか悩んでいるリリア。
結局全部話すわけにもいかず、説明を諦めたみたいだ。
あまり悪目立ちするのもいただけないからな。
「おお、やっぱり強いんだね!」
シルフィは俺が鎧の人だと確信しているからか、俺の周りをぐるぐる回りながら観察している。身長は俺と同じくらいなのに、こいつの小動物っぽさはなんだ。
「ねえ、あの鎧は持ってきてないの?」
シルフィからの質問。今更だけど、これ簡単にばらしていいものなんだろうか。
「鎧の人は森で確かに見たわ。けれど顔までしっかり見えなかったの。本人なのかわからないままよ」
真剣にこちらを見ている。おおっぴらに使っていいものなのか、判断に困るな。
「周囲に人の気配もない。やるなら今じゃな」
今のままじゃ俺は役立たずだ。使える方だけでも使えるようにしなければいけない。
「どうなるの? どうなるの? 見せてくれるの?」
シルフィの期待に満ちた眼差しはキツイ。がっかりされると立ち直れない気がする。
「やれるだけやってみます……」
不安だ。ここまで期待されたことなんて一度もない。
「頑張って! 一回だけ、一回だけ見せてくれれば満足するから!」
「ごめんなさい。シルフィがわがまま言って」
「なあに、美少女のわがままなら可愛いものじゃ」
なぜリリアが答えてるんだろう。
女のわがままなんて、男を顎で使えるという確信からくるクソみたいなもんだろうが。
たぶんシルフィは除く。
「やり方は覚えておるな?」
「一応な」
昨日のように集中し、腕輪を籠手に変える。ここまではすっとできた。
「おおおおぉぉ!! なにそれ! どうなってるの!?」
「シルフィ、ちょっと静かにしてなさいって」
はしゃぐシルフィと、なだめるイロハ。目がキラッキラしてらっしゃる。
「悪いが俺にもよくわからんのさ」
『ヒーロー!』
「腕輪が喋った!?」
「成功じゃな」
「ああ、もう大丈夫だ」
完全に覚えた。とりあえずこの姿にはなれる。
「ほらほら! やっぱり鎧の人だったんだよ!! かっこいいよ!!」
「そうね、凄く綺麗な鎧ね。なんというか……その……実感が湧くわ」
「ありがとう見せてくれて!」
テンション上がりまくっているシルフィ。期待に応えられてよかった。
改めて礼を言われるとどう返していいか悩む。
「凄いよ! その鎧かっこいい! 何で作られてるの?」
「何って言われてもちょっと困るな」
シルフィに詰め寄られるけど、知らないものは知らない。
むしろこの世界の知識なんかなーんにもない。
鎧の知識や経験は膨大で説明も難しい。
「シルフィ、熱くなりすぎよ。落ち着いて」
シルフィさんテンション高すぎるわ。距離が近すぎる。ついでにいい匂いする。
この世界に来て知り合った女の子みんないい匂いするな。
「長くなりそうだから後じゃ。それよりついでに籠手の性能確認でもするのじゃ」
「それもそうだな。せっかくだし色々試すか」
キーケースから別のキーを取り出す。さっき挿したのがマスターキー。
こっちはスキルキーらしい。とりあえず差し込んでひねる。
『シャイニングブラスター!』
「また喋ったよ! あれ凄い! 欲しい!」
「私に言わないでよ……」
とりあえずシルイロコンビは無視だ。
マスターキーと違ってまだ鍵が飲み込まれていない。
回そうと思えば回せるな。やってみよう。
『ハイパー!』
まだ回る。スキルキーの中でも差し込めば消えるものと、何回も回すことでチャージできるものがあるみたいだ。
『ダイナミック!!』
面白いわこれ。限界までいってみよう……と、したところで鍵を押しこんでしまった。
そのまま鍵は宝石の中へと消えていった。
『ファイナル!! ゴゥ! トゥ! ヘエェェェル!!!』
「ちょっ!? なにやっとるんじゃ!?」
リリアがなんか焦っている。ちなみに俺も焦っている。
なぜなら左手が尋常じゃないくらい光り輝いている。今日の俺はどんだけ光り輝くのさ。
いやナルシスト的な意味じゃなくて。こんなん誰でもパニくるわ。
「ぜっ、全員集合!! アジュ以外!」
「えっなになに? なんなの?」
「どうしたの?」
リリアが全員を俺の後ろに逃している。
「手を上げるのじゃ! 早く!!」
言われるがままに左手を空に向ける。
「そう、そのまま……あっちの方向ならなにもないはず。あっちに向けるのじゃ」
リリアが示す方へ向ける。超焦っているリリアを見ているとこっちも焦る。
「では、一分くらいで迎えに来るのじゃ」
そう言ってリリア達はすたこら逃げていく。
「えええぇぇぇ!? ちょ待って!?」
置いて行かれた。
そして俺の手から放たれたバカでかい光の渦は、雲を突き抜けかっ飛んでいく。
残された俺はリリア達が戻ってくるまで呆然とするしか無かった。
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