VSももっち戦

 身内トーナメントは続いていく。

 俺とももっちのバトルだが、はっきり言って勝てる気がしない。


「あたったのが俺でよかったな。リリアだったらお互い死んでいるぞ」


「どんな精神状態じゃおぬし」


「あじゅにゃんとかあ……負けたらハーレム入りとか?」


「しなくていい。ハーレムも作っていない」


「その反論は無理があるわね」


 外野の声は聞こえないふり。都合のいいことだけ聞いていこう。


「お互い死なない程度にやるぞ」


「りょーかい! いきなり鎧はダメだからね!」


「わかったよ」


「それでは試合開始!!」


 合図と同時にサンダースマッシャーを放つ。

 考えていることは同じだったのか、相手も火球を撃ってくる。


「サンダースプラッシュ!」


 どうせ小手調べさ。本命は電気の散布だ。

 ぶつかった魔法が消える頃には、もう下準備は完了。


「風遁、風圧暴壁!」


 風の壁が電撃の粒子を押し込みながら迫る。

 そういう対策を取るか。


「サンダードライブ!」


 ならば地面を走らせ、側面から挟撃するのだ。

 数十本走らせているから、どれかあたってくれ。


「煙幕!!」


 煙幕で隠れ、分身で俺を撹乱する作戦だな。

 確かにどれが本物かわからん。ドライブもあたった感触がしない。

 いいなあ分身。俺もできないかな。


「風遁乱れクナイ!!」


「サンダースマッシャー!」


 風に乗った大量のクナイは、俺の魔法を避けるように迫る。

 おそらくだが風の刃も搭載されているだろう。


「ちっ、面倒な」


 軽く後方へ飛ぶと、右腕に何かが引っかかる感触。

 ……糸?


「リベリオントリガー!」


 反射的に全身を雷化させて上空へ。

 俺がいた場所が爆発を起こす。


「うーわ……マジかいな」


 ちょっと洒落にならん。本気出していこう。

 空中にも糸が張り巡らされている。雷球になって抜けるも、どうやらかなり細かく張ってやがるな。


「火遁、フレイムドライブ!!」


 糸を伝って炎が俺を襲う。指向性でも持たせているのか。


「やりたくねえが……これしかないか」


 ももっちに急接近。雷速移動でいこう。


「ライジングニードル!」


 雷のトゲを伸ばして剣山のようになる。

 これなら回避するしかないだろう。


「甘いよあじゅにゃん」


 分身が俺に向かってくる。この状況でどうしようというんだ。


「火遁、乱れ花火!」


 トゲに突き刺さった分身どもにより、俺の動きが落ちる。

 こいつらどうやって重くなってやがる。


「逃げるか」


 乱れ花火ということは。

 そこまで考えた所で分身が大爆発を起こす。

 トゲを切り離しての離脱が間に合った。


「花火に色を足してやる」


 トゲにはサンダーシードを混ぜておいた。

 熱と光が弾けている間に対策でも練るとしよう。

 再び糸の網を避けて上空へ。


「かかったね」


 糸の上にロングソードを構えたももっちがいる。

 反射的にカトラスを前に出し、斬撃を弾きながらさらに上へ。


「させないよ!」


 左右から分身による追撃が来る。


「雷光一閃!」


 片方を消すが、もう片方が止まらない。

 とっさに腰のクナイを抜いて鍔迫り合いへ。


「馬鹿力しやがって」


「ふふーん。そう簡単には攻略できないのさ!」


 さらに分身が増える。

 クナイと体術により、じわじわと俺の行動範囲を狭める気だ。


「ほいほいほい! もっともっといくよー!!」


 なんとか攻撃を避けるが、何回か体にかすっている。

 体が雷だから痛覚もないし、放電して再構築できるが、流れる魔力が上がっている気がしてならない。

 つまりどの程度魔力を流せば俺が傷つくかの実験だろう。


「ええい面倒な……」


 まずいな。戦闘スキルの練度が違う。

 あっちは本物の忍者だ。

 逃げ回るにも限界はある。糸も数が増えている。


「ライジング……トルネード!」


 体中に雷の刃を生やし、ひたすら大回転。

 糸に触れて爆発しようが、俺の本体は回転の中心に隔離してある。

 これならダメージなく場を荒らせるだろう。


「いい作戦だよ。けどそれは中心から動けないでしょ?」


 土遁による土の壁が俺を包み込もうとする。

 多少切り傷をつけても、土は山ほどある。事実山のようになって俺を囲み始めた。


「潰れておくんなまし!」


 分厚い土が俺を覆い、両手で包み込むように、手の中の虫を潰すように一気に閉じる。


「逃げ道がねえなこりゃ」


 諦めたふりをして、足元から雷に変化させる。

 外からは俺が潰れたように見えるはず。

 あとはそーっと距離を取ればいい。


「こんなことで負けないっしょ、あじゅにゃん」


 俺が潜んでいる場所の目の前にクナイが刺さる。

 こいつ気配も読めているのか。


「バレたか」


 ドリルになって掘り進んで、事なきを得た。

 しかし地上に出るとまた糸の網だよ。


「思いがけず、いい勝負をしているな」


「アジュもがんばれば強いんだけど……まだ逃げようとしてるね」


「腹くくってねえなありゃ」


 外野からモロバレである。できれば怪我をしないように小細工で勝ちたい。


「真剣なアジュは強いのよ。その前に鎧で終わらせるから、めったに見ることはないけれど」


「ちょーっと気になるなー。あれだけ言うってことは、本当に何かあるんでしょ? 本気で戦ってみよう!!」


「ふざけんな死ぬわ」


 全力だよ。俺はこれでぎりっぎり。一般人のレベルってこんなじゃね?


「純粋に相性が悪いのじゃ。あやつは足を止めての必殺魔法が多い。面攻撃も点攻撃もできるが、敵は全方位からの体術主体も可能。しかも本体がわからぬ」


 流石はリリア。俺の弱点をよく知っている。

 ライトニングフラッシュは、背後から来る敵に対応できない。

 プラズマイレイザーは隙がでかい。

 リベリオントリガーは近接戦が得意なやつだと見切られる。


「どうしたもんかね」


 ジャスミン味の回復丸で気持ちを落ち着かせ、次の策を練る。

 本体見つけて必殺技を叩き込むしかない。

 そこまでの道を作らんとな。


「苦手分野いってみよー!!」


 ももっちが糸から降り、こちらへまっすぐ突っ込んでくる。

 手にはロングソードとクナイ。

 俺と装備は同じか。


「やめんかい!」


 忍者らしい急所を的確に狙った攻撃だ。

 斬るも突くも変幻自在。

 スプラッシュの感覚と強化された反射神経で防いじゃいるが、いつか追い詰められる。


「そこだよ!」


 背後から忍び寄るももっちに足払いをくらう。

 前に伸びた足をパイルに変えて、前のももっちへ突き刺す。

 感触なし。背中から電撃の足を出して着地。


「かーらーの?」


「ライジングドリル!!」


 背後のももっちを貫くも感触なし。

 つまりどっちも幻影だ。

 人体を整えて上空へ。


「糸の中でどうやって私に勝つつもりかにゃん?」


「さてな」


 雷で糸を張り巡らせた。これを足場としよう。

 ここからはお互いの糸に触れないように相手に切り込むことになる。


「にゃははー。やるねいあじゅにゃん。敵のいる場所に来るなんて」


「本体はこっちなんだから、仕方ねえだろ」


「おやおや、その推理はどうなのかにゃ?」


「地面には潜らねえだろ。視界が悪すぎる。舞台の外もない。お前はそういうタイプの反則はしねえ」


「あじゅにゃんも一緒でしょ。調べた限り、正式な試合や試験で反則をしたことはないね」


 どうやら事前調査でもしていたらしい。

 俺なんぞを相手に真面目なことだ。


「しょうがねえ……保険なしは気に入らんが」


 ゆっくりと、お互いの位置と足場を確認するように歩み寄る。

 俺とももっちの張り巡らせた糸が、白く蜘蛛の巣のように広がり、獲物を刈り取ろうと交わっていく。


「多少の怪我くらいしないと切れねえらしい」


 全身を深く深く雷の中へと沈める。

 薄皮一枚下を、何よりも誰よりも稲妻で染める。


「――――ここか」


 虚空に向けて剣を振る。

 分身が現れ、まるで吸い込まれるように斬撃に入っていく。

 どうやらここまで研ぎ澄ませないとダメらしい。

 目の前にオーラの違うももっち登場。


「遊びは終わりだよ」


 普通に鍔迫り合いで押される。

 こいつが本体なのだろう。明らかに分身より強く、隙がない。

 集中がかき消されていく気がした。


「雷光一閃!!」


 剣のスロットを三個使って弾く。相手の刀を砕くことに成功。

 それでも余裕の表情を崩さず、こちらに笑いかけてくる。


「さてあじゅにゃん。もう邪魔な分身は必要ない。これが私の奥の手さ」


 分身を使うのをやめた本体の手には、怪しく光る刀が握られていた。

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