ゴーレム討伐戦

 ゴーレムとかいうデカブツに襲われそうです。

 いやあ異世界で第二の人生満喫しようとしたらこれだよ。

 こっちに気がついているのかいないのか、ゆっくり歩いて来るゴーレム。


「あのゴレーム……勝てない相手ではないわ」


「それだけじゃない……アイツ……すごく赤いよ! 赤すぎるよイロハ!」


「うむ、なんだかとっても赤いのじゃ。まるで恋する乙女が片思いの相手に出会った時のように」


「なんでそこロマンチックにした……」


 そのたとえはいらないだろ。


「そうだね! ええっと……河原で友情を確かめ合った時の夕日のように赤いよね!」


 なぜ張り合ってしまうんですかシルフィさん。

 赤さで言えば髪で十分に赤いじゃないかシルフィ。


「んーちょいと乙女チックポイントに欠けるのじゃ」


「そうね、減点だわ」


「なんだそのポイント!?」


 意味がわからんよ。

 ゴーレムに乙女チックさを求めるのは間違っています。


「ううー減点かー。じゃあお気に入りの、大人っぽい赤いヒールのようにっていうのはどう?」


「悪く無いわ。でもヒールが乙女というより、大人の女のアイテムで乙女っぽさが薄れないかしら?」


「いやいや背伸びしてヒールを履くところが乙女っぽいじゃろ」


 何だその議論は。何の意味がある。どういう効果を発揮する。


「初心を忘れずにいきましょう」


「初心がまずわかんねえわ」


 乙女心の初心だとすれば一生わからないな。


「あの人との恋を占う花占いに使った花びらのように真っ赤、というのはどうかしら?」


「おおー! いいね! イロハすーごいよ!!」


「ううむ、二人とも凄いのじゃ」


「お前ら三人とも凄いバカだよ」


 まさかイロハさんがボケるとは。

 結構はしゃぐとき、はしゃぎ倒しますねイロハさん。


「まず赤さを乙女チックに言い表す意味がわからん」


 あーでもない、こーでもないと言い合う三人からふと目を離してみると。

 ゴーレムさんが近くまで来ていた。右腕を振りかぶって攻撃態勢に入っている。


「シルフィ流必殺剣!」


 素早くシルフィがゴーレムに飛びかかり右腕を切り落とす。

 丸太並に太い腕を切断できるのか。


「よし、このままいけばシルフィが勝ってくれる!!」


「おぬしも戦わんかい!」


「あんなんとまともに戦えるかあぁ!」


 怖いに決まってるだろうが。

 ここで慢心して突っ込むほど根性据わってないわけだ。

 だってあんなデカブツ相手に慢心したら、イコール死だろ。

 残念、俺の冒険はここで終わってしまうかも?

 慎重にいこう。死にたくない。いのちだいじに。


「どのみち、いつかはああいうのと戦うんじゃ。ここは自信をつけるチャンスじゃ!」


「自信付く前に死ぬわ!」


「おぬしの力を信じるのじゃ」


「自分を信じられるようなことなんか、生まれてきてから一回も無かったよ!!」


「………………すまぬ」


 リリアさん、そこで謝られるともう、どうしていいかわかりません。


「どうしたのアジュ?」


 シルフィがこちらに駆け寄ってきてくれる。

 ポニーテールと胸が揺れているが今はそんなのどうだっていい。

 だってその後ろでゴーレムさんの腕がドンドン再生してるんだもの。


「シルフィ!」


「えっ、ちょっなに?」


 右手でシルフィの左肩にポンっと手を置く。そのまま真っ直ぐシルフィの目を覗きこむ。

 その瞳に俺が映っている。1年に1回あるかどうかの死ぬほど真面目な顔だ。


「シルフィ、俺はお前を信じている。お前なら必ず勝ってくれるってな」


 そうだ、シルフィなら俺がケガすることなく安全にゴーレムを倒してくれるはずだ!!


「わたしを? 昨日会ったばかりなのに、どうしてそんなに信用してくれるの?」


 いかんシルフィがなんか戸惑っている? 今更敵が怖くなったか?

 できるかわからないけどシルフィを励まそう。


「戦った俺だからわかるのさ。シルフィは強いよ。剣を合わせている時のシルフィは、まるで踊っているようで凄く綺麗だった。あれは並の技量でできることじゃないだろ?」


 これは本当だ。戦闘ではなく舞踏であると言われれば、疑いの余地など無いほどに洗練されていた。

 それが鎧の経験と照らし合わせての判別だから間違っちゃいないだろう。


「時間なんて関係ない! 俺はシルフィを信じてる! 勝てるまで信じ続ける!!」


 信じるだけで戦わなくていいなら、ずっと信じるくらい楽勝だ!!


「アジュを放置しといて良いのか? シルフィちゃん困っとるようじゃが」


「少しだけ様子を見ましょう。しばらくゴーレムを押さえつけないと」


「ふむ、では足止めの魔法陣でも張るかのう」


 リリアとイロハがなんか言ってるけど。聞いてる余裕が無い。


「ありがとう。今度こそみんなを守って、みんなで帰るんだ!!」


 よし、元気になったな。

 今度こそとか言ってるけど、とりあえずスルーだ。今はそんなこと重要じゃない。


「シルフィいきます!!」


 突っ込んでいくシルフィ。なんとかなったみたいだな。よしよし。


「これでシルフィが勝ってくれるな」


「割と最悪じゃぞおぬし」


「知ってるさ。本気で危なければ鎧で確実に助ける」


 とりあえず鍵をさす。さっきちょっと思いついたことがある。


『ヒーロー!』


 ソードーキーもさす。

 剣はメインの一本以外は魔力で構築された剣の形をしたものが出る。

 そうキーに蓄積された経験が教えてくれる。

 つまり複数出せるはず。


『ソード』


 手のひらをゴーレムに向けて、剣が飛び出すイメージで。


「いけるはず……はっ!!」


 金色の半透明な剣が連続で射出される。

 射撃経験がなくとも、射撃のマトがデカいから外しようがない。

 さらに大きくした剣をゴーレムの足に突き刺す。

 剣が杭の役割を果たし、ゴーレムの動きが止まる。


「ふはははは! これで接近戦しなくて済むぜ!」


「動機はともかく、順調に成長しておるのう」


「いくよー!」


 シルフィがゴーレムに跳びかかり、左腕を切断する。


「往復アターック!!」


 こちらに戻ってくる時に右腕も切り落とす。

 はっやいなー。速度と火力が半端ないな。


「ほれほれ、これでどうじゃ」


 リリアが扇子をふわりと振ると、三つの水色の魔法陣から雷光が迸る。

 ゴーレムの頭と両足が破裂し、前のめりに倒れてくる。

 そこへイロハが割り込み、御札っぽいものを叩きつけると、ゴーレムさんがガラガラと音を立てて崩れていく。


「終わったわ、お疲れ様」


 崩れ落ちたゴーレムが完全に砂になり、その砂も消え去る。

 そんな光景をバックにイロハがこちらに歩いて来る。


「おお、乙女チックポイント満点じゃな」


「マジか、すげえ採点基準だな乙女チックポイント」


 しっかし三人共なかなか強いな。これなら普通に倒せたかも。

 いやいや慢心はやめよう。それでせっかくの異世界生活が終わったら最悪だ。


「シルフィも満足したでしょう? 眠くて仕方がないわ。帰って二度寝でもするわ」


「うん、みんなありがとう!」


「これくらいちょろいもんじゃ」


「そうだな。たまには運動するのも悪く……」


 さっきより大きさを増したゴーレム二体が、イロハの後ろに現れた。

 その岩石の様に巨大な拳から右ストレートが繰り出される。


「イロハ後ろ!!」


 イロハが慌てて回避する。

 しかしゴーレムは追撃の手を緩めない。


「仕方がないわね」


 イロハの影から黒い霧が噴き出す。

 霧はゴーレムを縛りつけ、動きを抑えている。


「なんだあれ……?」


 イロハの体が青い光と黒い……影のようなもので染まっていく。

 あれはまずい。膨大な力を無理に押さえ込んでいる。

 それが鎧を通して伝わってきた。


「またか……」


 この鎧を着ていると誰かを守りたいという思いが強くなる。

 仲間が危機的状況に置かれるとその傾向が顕著に現れる。


『ソニック』


 知らないうちにキーを差し込んでいる。

 周囲の時間を遅らせ、自分だけがその時間の中で加速する。

 これなら間に合う!


「はあぁぁぁ!!」


 飛び蹴りでゴーレムの胴を突き破る。

 ゆっくりと砕け散ってゆくゴーレムを横目に、拳でもう一体の上半身を砕く。

 飛び散る破片も、崩れる土すらもスローだ。

 元の世界ではできない貴重な体験にちょい心が踊る。


「あっぶねえ……あってよかったソニックキー」


 イロハの気の流れを感じ取った。

 尋常じゃない力が封印のような物で制御されている。


「こいつも無茶しやがるな」


 やがてソニックキーの効果が解除された。


「無事か? 怪我してないな?」


 イロハの手を引きシルフィ達のいる場所まで戻る。

 前回のシルフィの様に抱っこで運ぶようなマネはしない。

 あれをやっていいのはイケメンリア充だけだ。

 俺みたいな男がやれば、たとえ命を救っても嫌な顔をされる。それが女という生き物だ。


「えっ? ああ、ええ、平気よ。助けられた、のかしら?」


 状況を理解したイロハは元の姿へと戻った。


「まあそうなるな。超焦ったわ。なんで出てきたんだアレ」


「多分ボタンの接触が悪いか故障でしょうね」


 あっぶねえなおい。ちゃんとメンテしといてくれよ。


「その……離して貰えない……かしら? いつまでもこのままは、流石にその」


「ああ、悪い」


 やっぱ女の子に触るとか嫌われるわな……せっかくパーティー組めたのにもう崩壊の危機ですよ。

 イロハがこっちを見ない。これもう完全に嫌われてるだろ。

 とりあえず手を離す。手がダメか……もう衝撃波でぶっ飛ばすしか無いか?

 それだと女に暴力振るうからうんぬんでウザそうだ。つまり詰み。


「ごめんなさい! わたしのせいで……」


「別にシルフィのせいじゃない」


「怪我が無かったのじゃから、次から気をつければ良よいのじゃ」


「そうよ、それでも気になるなら今度なにか奢って頂戴。それでいいわ」


「わかった! 期待しててね!」


「よし、そんじゃあ帰るか。ローブ着っぱなしは汗かくわ」


 これ以上訓練は無理だ。帰って飯にしよう。

 横にいるイロハが鼻をくんくんさせている。


「俺そんなに汗臭いか?」


「いいえ、むしろ……なんでもないわ。気にしないで。帰るのでしょう?」


「帰って朝ごはんじゃー」


「あのね、一緒に訓練できて楽しかったよ! またやろうね!」


 帰り際に、シルフィからそれだけ聞けたので満足だ。

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