第177話 ちょっとわかる! 鎧の秘密と目的
「そんなわけで、無事魔界は平和になりましたとさ。めでたしめでたし」
「なぜ昔話風っすか」
クエストセンターに併設されたカフェスペース。
ここでやた子に魔界での経緯とか話していた。俺にしては説明できていたはず。
「魔界が広がったのはこの際どうでもいいっす」
「いいんかい」
「いいっす。それよりスクルドっすね。首謀者は男。そして側近がスクルド」
「そして全員の感想が違う。俺は二十代に見えた。しかしおばあさんだというやつもいた」
確認したが、全員見えている年齢が違う。
「スクルドはヴァルキリーの中で一番厄介っす。あいつは未来にいるっすよ」
「どういうことだ?」
「正確には現在・過去・未来に起点となるスクルドが計三人。例えば現代で死ぬと、過去と未来のスクルドがそれを察知して、殺される前の日から、現代のスクルドを呼ぶっす。だから三人から減ることも増えることもないはずっすよ」
「俺が二人完全に殺したぞ」
「それを理解して、もう一人が既に二人起点となるスクルドを作っているはずっす」
「うげえ……質悪いなそれ」
三人同時に殺さないと殲滅できない。しかも時代を超えてやがるのか。超うざい。
「一応弱点として、起点の三人しか別の時間に存在も干渉もできない。一日単位までしか呼べない。つまり一秒前のスクルドは呼べないっす」
「それでもうざい。というか弱点になっていない」
改めて奇っ怪な連中だ。だが仕組みさえわかれば殺せそう。鎧ならできそうだ。
「天敵がいるので、その子が味方になってくれたらいいんすけど」
「天敵なんているのか」
「いるっす。その子の名前はアルヴィト。万能で全能をコンセプトに、あらゆるヴァルキリーを超えた最高傑作。下級神すら超越した最強の子っすよ」
「なんとも壮大だな。具体的にどう天敵なんだ?」
「全ヴァルキリーの能力を使えて、さらに弱体化できるっす。指揮者としても設計されたので、ヴァルキリーに命令も出せるっす」
なるほどねえ。そりゃ天敵だわ。味方に引き込めば使えるだろう。
「じゃ、そいつをヒメノと一緒に説得してくれればいいな。頑張れ」
話し疲れて喉が渇いたのでお茶を飲む。
最近あったかくなってきたし、冷たいお茶はいいね。
「ところがそう簡単にはいかないっす。気難しいというか、高飛車というか、ツンデレさんなので……危険っすね」
「危険じゃな。アジュに会わせん方がよい」
ここでリリア登場。そのまますっと俺の膝に座る。
「いやおかしいおかしい。普通に椅子に座れ」
「ちょっとくらいよいではないか」
「よいわけないではないか。今大事な話してっから」
諦めて隣に座ってくれた。助かる。ずっと乗せていると若干邪魔くさくなるのさ。
「気の強い子っすからねえ……危ないっすよ……アルヴィトちゃんの命が」
「だな。なんかされたらぶん殴ってしまう可能性が高い」
ツンデレとかだるい。ツンが強かったりするならまだマシだ。
暴力振るうタイプだと、控えめに言って十割殴る。
「なら後回しじゃな。まあ鎧と剣なら、時間の壁を超えて、連鎖的に全スクルドを殺すこともできるじゃろ。きっと。おそらく」
「相変わらず万能だな」
「鎧と剣と鍵はなんでもできる。全異能の上位互換であり、破壊と創造を司ることも兼ねておる」
「よくわからん」
そしてリリアが俺の頼んだラザニアを食い始めているのが一番わからん。
勝手に食うなや。俺の好物だぞ。
「この世界の誰より強くなるとか、全存在を死に誘うとか、そういう敵の超パワーも消せるし、自分にだけ無効にもできるっす」
「相手や世界の法則を破壊して、再構築してしまえば、何回技を使われようとも永遠に無効化できるのじゃ。別世界では魔力が精霊力と名付けられておっても、自動で魔力を変換できる。気功とかにもできるのじゃ。はいあーん」
ここで突然のあーん。美味いなラザニア。つい食べてしまったが恥ずかしい。
「普通に食わせろ。またえらく都合のいいもんがあったもんだな」
「偶然ではない。そうなるように、あらゆる世界の技術や能力を無効化する装備を作ったんじゃよ。神魔を殺すために」
「ヒメノが言っていたな。人が神に罰を与えると」
「そうっすよ。別世界には、神様が超パワーを与えて、世界を平和に導いたりするケースもあるっすけど」
「神が傲慢であると、人間をモルモットにしたり、過酷な試練を与えて楽しんだり、別世界の人間をじゃんじゃん転移させたりするのじゃ。そういう無能な神を処刑して、ついでにその世界も救ってしまえるようになっておる」
言いながらリリアが俺のお茶に手をかける。完全に間接キス狙いなので止めておこう。
「超理不尽なパワーを神様から貰った人間が、洗脳とかされていたりすると面倒っす。だからその人達にも勝てるよう、その世界の破壊と創造の権利を丸ごと頂くんすよ。それでスピード解決っす」
「なんで神がやらない? ヒメノとか超強いだろ。少なくとも世界の数十個は簡単に消せるはず」
ヒメノも星なんてみみっちいレベルではなく、世界そのものを消せる。
鎧着た俺も可能だ。星だけでいいなら教師陣も消せる人がいるはず。
この世界は達人の集まりだからな。
「この世界の上級神の皆様は本当に超上級なんすよ。だから別世界の査察に行くと、オルインの神だ! って警戒されて、真面目に仕事しているふりされるっす」
「その小賢しさがイラっとくるじゃろ? そこで人間に倒されることで、魂までも徹底的にへし折って消滅させようということになる」
「どんだけイラっとしたんだよ」
「そりゃもう心底嫌気が差したんじゃろ。それで様々な世界の神が人間と協力しての合作となったのじゃ」
「相手の世界に行ったら、こっちのステータスをゼロにできる神様とかいるっす。そういうのを無視して、さらに敵神様のレベルを1にして、コケにしながらなぶり殺せるわけっす」
そういうことを思いついて実行してしまうところが、俺にぴったりなんだそうな。
うるさいよ。そこまで外道か俺は。お前らに手を出す敵がいなきゃ、ただのモテない一般人だよ。
「これも鎧の目的の一つなんじゃよ」
「目的多いな。主人公補正をつけるのもそうだろ?」
「ついたら次はハーレムっすよ」
これまでの鎧の目的をまとめると。
・別世界を含む調子に乗っている神魔の断罪。
・主人公補正を使い手に馴染ませる。
・超強化された力を受け継ぐ子供を増やす。
・管理機関のようなアホを世界ごと潰す秘密兵器。
「判明しただけでも多いわ。こんなん全部できるかよ」
「おぬしは強くなってハーレムしたらよいだけじゃ」
「そうっすね。なんならやた子ちゃんも入ってあげなくもないっすよ」
「いらん。三人でも多いんだよ。もう増やしたくない」
「ほほう、三人は認めるんすね?」
痛いとこつきやがったなこいつ。
なんというか、認めて未知のエリアに進むより、今この時が心地よいという不思議な状態である。
「わしらは意識されておる。あとはきっかけじゃな」
「キスまではいったんすよね?」
「待てや。どこで知った?」
なぜさらっと言った。知っているのか。こういうことはリリア達は言いそうにないが。
「ヒメノ様が涙目で悔しそうに語っていたっす。三人に先を越された。しかもシルフィさんは二回したと」
「回数までかい。ヒメノも余計なことを話しやがって」
「他人に言ったりしないから安心して欲しいっす」
「この際ヒメノはほっとこう。修行どうする?」
「案内してやるのじゃ。お城のような建物に!」
「なんの経験値を積ませるつもりだ」
完全にいかがわしい場所だ。俺は戦闘経験を積みたいのよ。
「安心せい。ちゃんとバトルの場じゃよ。童貞は三人で奪うと決まっておるじゃろ」
「初耳だよ。まともな施設なんだろうな?」
「大丈夫じゃ。たまにはちゃんと体を動かすのじゃよ」
「んじゃ案内してくれ」
「ほいほい、ついてくるのじゃ」
こうして、しばらく学園内を歩く。目的地で俺を待っていたのは。
「ここがサモンバトル会場じゃ!」
なんともアラビアンな宮殿だった。
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