第178話 召喚獣と一緒に戦ってみよう

 なんともアラビアンな宮殿の前に来た。学園になぜこんなものがあるんだ。


「ここが今回の観光スポット。サモンバトル会場じゃ」


「完全に観光スポットって言ったな」


「さあ観光開始っす」


「なぜまだいるやた子よ?」


「修行に誘ったのはうちっす! 最後までいるっすよ!」


 そして入ったら内装も、完全に砂漠の宮殿感満載である。なんだよここ。意味わからん。


「良質なアラビアンじゃろ?」


「まずアラビアという概念がないだろこの世界に」


「忍者の里が複数あるのに、今更どうしたというんすか」


「忍者と同じ扱いか……里って複数あんの?」


「あるのじゃ。まあそれはよい。受付に行くのじゃ」


 受付のお姉さんがにこやかにこちらを見ている。


「いらっしゃいませー」


 この木の枝みたいなツノと太いしっぽ。竜族か。珍しいな。


「こやつが初めてなんで、登録お願いしますじゃ」


「かしこまりました。では学生証と召喚板をお借りします」


「はあ……どうも」


 なんかしらんけど必要らしいのでカードと召喚板を渡す。

 よくわからん装置でなんかやっている。こっちのテクノロジーとかわからん。

 とにかく慣れた手つきで、手続きっぽいことをしています。


「ユニコーン? あら? 男性ですよね?」


「男です。ちょっと縁があって召喚獣にしました」


「それは失礼いたしました。コースはどうなさいますか?」


「マスターありじゃな。空いている部屋はありますかの?」


 もう全部リリアに任せよう。一連の流れだけ把握できればいいだろ。


「今ですと砂漠か浜辺ですね」


「砂漠で。アラビアン要素ましましでいくのじゃ」


「あらびあん?」


 受付のお姉さんは知らんらしい。浸透していないじゃないか。


「では鍵をどうぞ。初級者コースで……」


「うむ、とりあえず一時間で……」


「初回サービスとして、一時間無料延長とドリンクが……」


 なんか登録が長くなった。学園の施設は変な場所が多いな。

 そして鍵を受け取って入った部屋は、明るい砂漠地帯であった。


「なんだここは」


 小学校の体育館くらいの広さだ。岩とか木もある。入口付近に大きな白い装置。

 その先に魔法で作られた半透明な壁がある。そこからは普通の壁までずっと砂漠。

 ちょっとあったかいくらいの気温だ。


「今回はシングル用じゃ。対戦する場合は、むこう側に同じ設備がある部屋になる」


「向かい合う形式か。んじゃここはトレーニング用と」


「そうっすね。ここで召喚獣の訓練を実戦形式でやるっす」


「パネルの操作を覚えるのじゃ。ほれこっちこっち」


 白い装置は、パネルと計器とか部屋の調節機能が色々ついているな。

 宇宙戦艦の艦長が座る、左右にまで広がる大きな操作パネルみたいな机である。


「まず召喚獣を呼ぶっす」


「よし、待たせたなユニコーン。出てきていいぞ」


「まったく、待たせるにも程というものがある」


 魔法陣からユニコーン登場。今日も綺麗な毛並みと立派なツノだ。


「では操作説明じゃ。スイッチを押したら、今回はマスターと一緒に魔力の壁に入る。そうしたら敵が出てくるので、殲滅するように。次を出すには一回こっちに戻る必要があるのじゃ」


「なるほどね。こっちのはなんだ?」


 数字やグラフっぽいものが出ている。そっちもリリアが操作しているようだ。


「これは召喚獣とマスターの安全度を計ったりする。死にかけたらこちらへ強制転送じゃ。こっちのパネルは敵の強さとかじゃな。初心者用の鍵を指してあるから、そんなに強いものは出ぬよ」


 受付でもらった鍵は、ここでも使うらしい。


「一人の時は、係員の人が複数機械の前にいてくれたりもするっすよ」


「そんなわけで訓練開始じゃ」


「行くか、ユニコーン」


「参ろう。同志アジュよ」


 二人して半透明な壁を超える。そしてかなり離れた位置に現れる敵。

 赤色の、トカゲのような体をした化物だ。顔は虎に近いが、牙がない。

 代わりに腕が異様に伸びたやばそうなやつ。


「サンドハンターじゃな。太くてごつい腕が強力じゃ。腕が長く、大振りな攻撃しかできんが、足はそこそこ速い」


「アレ強いやつだろ」


「ユニコーンもおるし、ちょっと強めじゃのう。制服は防具としては良質じゃ。首だけ狙われんように注意じゃよ」


「任せろ同志よ。死なぬようにフォローはする」


「頼むぜ。俺は正直弱いからな」


 ちょっと強敵だ。太い腕を硬質化させて殴ってくるらしいので、なるべく離れて戦いたい。


「死ぬギリギリになったら、やた子ちゃんが助けてあげるっす!」


「ふむ、処女か。よかろう。アジュの命を任せるぞ」


「任されたっす! そしてアジュさん。やた子ちゃんは処女っす! つまりハーレム入りも可能っすよ!」


「残念だが需要がない」


「こいつあ切ないっすね」


 バカ言っていないで戦闘準備だ。サンドハンターとやらがこちらに気付いた。


「そうじゃ、剣は買ったやつじゃぞ」


「わかってるよ」


 初心者用に買った方の剣を抜いて構える。焦るな。俺の戦い方は一撃離脱。


「一体ならなんとかできるはずじゃ」


「がんばっすー!」


「行くぞ!」


 とりあえず距離を詰める。十メートルくらいまでじりじりとな。

 結構砂地というのは走り難いと発覚。それを頭に入れて動こう。


「でかいな。二メートルちょっとか」


「慎重にな」


「あいよ。まずは先手必勝。サンダースマッシャー!」


 左手で軽く撃ち込んで様子を見る。


「グキギイ!」


 丸く膨らんだ両手の甲で防がれた。ハンマーか鉄球を想像してしまう。

 つまり当たると痛いわけだ。死ぬほど。


「あれは盾にもなるのか……厄介な」


「今ので敵とみなされたな」


「ギイィ!!」


 こちらへ走ってくる敵。速いな。

 全力で走れば振り切れる程度だが、相手のスタミナがわからんと危険だ。


「ならこれだ! サンダーシード!」


 雷の力を入れたクナイを足元に刺し、敵が追ってきているのを確認して逃げる。


「よし発動!」


 敵の足元で二つの雷球が弾ける。

 同時にやつの腕がぎりぎり当たらない範囲まで距離を詰めておく。


「ギギギ!?」


 流石にちょっとは痺れたみたいだ。膝をついたな。

 この高さなら首を狙える。全速で駆け寄って、剣を斜めに振り下ろす。


「はあっ! ……なにっ!?」


 左拳でガードされた。多少の切り傷は付けられたものの、それだけだ。

 すぐに右腕が振り下ろされる。


「援護しよう!」


 ユニコーンの光線が敵の背中に直撃し軽い爆発をおこす。トカゲ野郎の動きが止まった。

 ここで追撃したいところだが、素直にバックステップで距離をとろう。


「ギイ!!」


 数秒後に右腕が地面に叩きつけられ、砂煙をあげる。


「逃げといて正解だな。サンキューユニコーン」


「まだ終わってはいない。気を抜くな同志よ」


「うむ、おぬしの戦い方は、安全な一撃離脱。なるべく博打は避けるのじゃ」


「ゆっくりでいいっすよー。命を大事にっすー!」


 今まで何度か鎧無しで戦ったが……鍵も使わずに強めの敵と戦うのはきついな。

 そして今更過ぎるけれど、ちょっと怖い。


「落ち着け。味方がいる。連携の訓練でもあるのだ」


 今のところユニコーンは、俺の戦闘を軽く援護するだけにしてくれている。

 神獣はこの程度の敵なんぞ、何百いようが虫けらと変わらない。


「せめてこの程度は倒せないとな。サンダースラッシュ!」


 サンダースラッシュは、剣に纏わせた雷撃を魔力の刃として飛ばす攻撃魔法。

 全ての魔力を解き放ち、一閃に全魔力を載せる雷光一閃とは別のものとなった。


「斬撃もだめか……」


 スマッシャーがやや面よりの点での攻撃で効果が薄かった。

 なので斬撃ならいけるかと思ったんだけどな。

 やはり両拳で防がれる。ううむ、やっかいだ。リリアにアドバイスを貰うのは控えたいし。


「ギギギイ!」


 こちらへ走ってくる敵。しょうがない。またサンダーシードをかけたクナイを刺して逃げる。


「考え事の時は動かないでくれ。発動……」


「ギギギ!」


 大きく跳躍し、雷球を逃れるサンドハンター。


「飛んだ!?」


「走れ!」


 明らかに俺を狙っている。全力で駆け出し、落下してくるやつを横っ飛びで回避する。

 衝撃で地面が揺れ、砂が舞う。

 近くにいたユニコーンがバリアーを張ってくれて、砂をかぶることは避けられた。


「ちっ、学習しやがって。助かったぜユニコーン」


「落ち着いて敵を観察するのじゃ。攻撃は無駄ではない」


 よく見ると、俺が斬りかかった場所から緑色の血が流れている。


「そうか。別に無傷ってわけじゃないのか!」


 手がちょっと硬いだけだ。つまり体の一部だから出血した。


「ユニコーン。倒さなくていい。足止めだけ頼む」


「承知」


 ユニコーンの周囲に魔力が集まる。そして分裂し、一つ一つが魔弾へと形を変えて敵を襲う。


「よし、行ってくる!」


 当然敵は両手で防御している。それでいい。


「サンダースマッシャー!」


 より相手に防御を意識させる。この攻撃は防がれていい。

 傷ついた左手を防御に使うしかなくなるほど、攻撃の手を増やすんだ。


「グギギギ……」


 素早く接近し、左手の傷口に向けてクナイを突き刺す。


「ギイィィ!?」


「おまけだ」


 痛みで叫ぶ敵の顔に向けて煙幕をぶつけ、煙に紛れて退避。


「さーて後は時間稼ぎだな」


「その必要はなさそうだぞ」


 見ると敵はがくりと膝をつき、両手をだらりと垂らしている。


「おおぉ……流石フウマの里おすすめの店……即効性にも程がある」


 俺が突き刺したのは、フウマの里で買った痺れ薬のついたクナイ。

 なんとなく試してみたが……これは強力だ。


「最早立ち上がることもできまい」


「それじゃあ決めるか! サンダーフロウ!」


 剣に限界まで圧縮した電撃を貼り付ける。ここまでは練習してできるようになった。

 本日最速で駆け寄り、首めがけて斬りかかる。


「雷光一閃!」


 抵抗できないスキを狙い、首を跳ね飛ばす。

 強敵だったが、煙となって消えた。


「よっしゃあ!」


 援護ありとはいえ、なんとか魔物を倒せるところまできた。

 素の状態でも成長はしているらしい。


「よくやったのじゃ! 自力でやれるではないか」


「素晴らしいぞ。その調子で成長を続けていくのだ」


「かっこよかったっすよー!」


「うむ、イケメンに近づいておるのじゃ」


 嬉しいが、これは疲れる。連戦できるようなもんじゃないだろう。


「一回休むぞ。ちょっと疲れた」


「回復したら、次はもうちょっと弱いのでもいいのう」


「複数との勝負もするっすよ」


 リリア達のいる場所に戻り、回復魔法をかけてもらう。

 疲れが徐々に取れていくのがわかる。強敵相手に連戦はできないな。


「次は前に出てきたザコ複数を相手にする訓練じゃ」


「ん、やってみる」


 水を飲んで疲れが取れたら再戦だ。達成感と勝負勘が鈍らないうちにいこう。


「よし、二回戦やってみるか!」


 トレーニングは続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る