第179話 召喚獣と鎧で暴れよう

 連戦は続き、黒いアヒルとか、アメリナと行った場所のトカゲも倒せた。


「ライトニングフラッシュ……弱め!」


 ライトニングフラッシュは、周囲の迷惑顧みず、広範囲に電撃の嵐をぶちまける技である。

 無茶苦茶に放出しているので、本人にも威力の強弱がつかみにくい。

 敵が多い時に使う技なんだけど、魔力消費が激しいという欠点あり。


「大雑把に魔力全開で撃つのが強。セーブしつつ電撃をばらまくのが弱ってとこだな」


「弱と強で使い分けられるほどになれば、一つの魔法として完成じゃ。あとは自由にできるはずじゃよ」


「道は遠いな」


 魔力回復ポーションを飲んで、しばらく休憩。

 しっかしきついな。魔力だけはなんとか伸ばせているが、未だにあの必殺魔法は形にできていない。


「焦らずとも、じきに結果は出る。どうやらセンスもあるようだからな」


「あるのか? 実感ないぞ?」


「ある。魔力には敏感な我らが言うのだから間違いはない」


「大丈夫っすよー。アジュさんは強くなっているっす」


 強くなっている……その手応えというのは、どうにも掴みきれない。

 まあ普通の人間だったし。魔力の手応えって難しいやな。


「そういえば、もう一体召喚獣がいるんすよね?」


「いるけど……呼んだらうるさそうだな……」


 あの人は……騒がしそう。基本的にうるさい女は嫌い。


「鳴き声がうるさいとかっすか?」


「いや、人型なんだけど、凄くうざそうっていうか」


「人型の召喚獣か。一度見ておきたい。連携することもあろう。顔見せくらいは済ませねばな」


「あーそういう関係もあるのか」


 確かに一回くらい会わせないと、敵だと思って攻撃しかねんな。

 渋々召喚機で連絡を取る。


「しょうがない呼ぶか……すみません今こっちに来られます? 召喚獣使った戦闘訓練していまして」


「アジュさんがそこまで嫌がるとは……どんな人っすか?」


「魔族版ヒメノみたいなやつじゃ」


「うわ…………」


 やた子の反応が一番ひどい気がする。境遇を考えたら同情しかできないけどさ。


「お呼びですかマスター。あなたの、あなたのアスモデウスが参上いたしました!」


 アスモデウスさんが、よりにもよって学園の制服で登場。

 今日もピンクのロングヘアーが風になびいておるなあ。


「なんですかその服は……」


「学園ですもの。これが正装です」


 似合ってはいる。似合ってますけど……なんだこの胡散臭さ。


「完全にお店の人じゃな」


「いかがわしいっすね」


 スタイルもいいし、美人さんなんだけど、夜の雰囲気が嫌い。

 俺は清純派じゃなきゃ無理。無論、処女は大前提だ。


「さて、私のお仲間はーっと…………アムドキアス? なぜここに?」


「ふん、嫌な縁もあったものだな」


「なんだ知り合いなのか? アムドなんたらってのはなんだ?」


「理想の処女を求めて魔界を放浪していた時期がある。その時の名だ」


「面白そうだな」


 ユニコーンの中で、魔界をうろうろするようなやつは珍しいらしい。

 だから記憶に残るんだと。


「ん~この方は処女ではないっすか?」


「いや、おそらく処女だろう。でなきゃ俺が召喚獣にしたりするわけがないだろ」


「……色欲の魔王である私を、清い体であると見抜かれましたか」


「おそらく、エロいことには異常なまでに興味があるが、いざ自分のこととなると、恥ずかしくて手を出せないタイプと見た」


「おぉ……アジュさんが真顔でめっちゃキモいことを……」


「その決め顔が、なぜ女の子に甘いセリフを言う時にできんのじゃこやつは」


 そんなセリフを言う機会なんて存在しないからさ。と、心の中で思っています。


「同志であれば当然だな。我は単純にこやつが気に入らん。清らかさが足りぬ」


「まあ……わかるがのう。下着とか黒そうじゃ」


「正解です。なんだか照れてしまいますね」


 なんだろう、顔を赤くしているアスモさんも別に嫌いじゃないけど……好みでもないな。


「それより訓練どうするっすか? あと一時間ないっすよ」


「ならマスター。私と戦ってみませんか?」


「いや、俺は弱いんで無理です」


「魔界を広げておいてそれは通じませんよ?」


 めっちゃ笑顔で言われた。ちくしょう魔王ってのは、余計なことを覚えていやがる。


「じゃあアスモさんとやた子ちゃんがチームっす!」


「では、わしが審判じゃな」


 そんなわけで二対二での戦いとなる。砂地で対峙する二人は、なんだか猛烈にやる気だよ。

 リリアの特殊結界により、この部屋の騒音や振動は他所に漏れない。

 ちょっとくらいストレス発散してやる。


「神格のある鳥? 珍しいですね」


「アジュさんのハーレム四号に最も近い美少女っす!」


「……そう。よろしくお願いね、やた子ちゃん。一緒にマスターのものになりましょう」


「はいっす!」


「ならないぞー。いやマジで。本当にやんないからな。あと最もとかいつ決まった」


 いや四号とか必要ないし。多分よくて三番目くらいの近さだぞ。

 しかしやばいな。あいつら結構強いぞ。魔王だし。やた子も曲者である。


「そういやユニコーンって個体名じゃないよな」


「別に困らんぞ」


「俺が困る。長くて舌噛みそうだし、アムドとアジュで『ア』がかぶるから、キアスでいいか?」


「構わん」


「オーケイ、んじゃいくぜキアス!」


『ヒーロー!』


「承知!」


 やた子がマッハ三十くらいで飛んで来るのを確認し、俺がキアスの前に出る。

 俺は初心者用の剣に魔力をコーティング。やた子はいつもの黒い剣。


「やた子ちゃんの二回攻撃! しかもクリティカル!」


「はいはい、んじゃこっちは二万回攻撃で即死な」


 きっちり二万回打ち合って離れる。ここまで軽く流して三秒。やっぱり速いな。


「援護しますね、やた子ちゃん」


 アスモさんからピンクと黒の混ざったオーラが噴出する。

 なんだかどろっとしていて怖い。


「これが私の欲望。どうか私の色欲、堪能してくださいね。マスター」


 魔力と殺気を感じてバックステップ。

 俺がいた位置から間欠泉のように溢れ出すオーラ。


「あら、外れちゃましたか。残念」


「殺気がこもってますが?」


「ええ、魔王ですもの」


 笑顔は絶やさない。それどころか、笑顔に艶が混ざっている。この状況で興奮しているのか。


「ド変態ですね」


「マスターにそう言っていただけて、嬉しいです」


 いかん。マジでド変態か。イロハとは別ベクトルのアレな人だ。

 家に変態は二人も必要ない。負ける訳にはいかないな。


「本体を叩くだけさ」


「おおっと、そうはいかないっすよ! やた子分身!」


 やた子の黒い羽が舞い、その全てが黒い人影へと変わる。


「ホーリーシャイン!」


 キアスのツノから出た聖なる光で、やた子の分身が消えた。

 ついでにオーラも弱らせてくれる。なんてできる馬なんだキアス。


「ナーイス。今のうちだな」


 アスモさんへ急接近。このまま一撃ぶっこんでやるか。


「私の欲望は止まりませんよ。あなたに触れるまで」


 アスモさんを囲み、俺に狙いを定めて追ってくる色欲のオーラ。


「んなもんぶっ壊すまでよ! オラアァ!」


 勢いそのままに回し蹴りを叩き込む。いける。鎧なら欲望だろうと攻撃できる。

 豪快な音が室内に響き、オーラを壁までぶっ飛ばす。


「あらら、やりますね……さて次のお楽しみは……」


「シャインレーザー!」


「きゃっ!? ああもう油断しましたわ」


 キアスのビームを避けるアスモさん。本人の身体能力も高いのか。

 少し当たっているが、そこは色欲で再生可能らしい。


「薄汚い欲望だ……やはり気に入らん」


「お遊びはここまで。運では負けましたが……これならどうかしら?」


 色欲の全てを身に纏い、宝石のように輝くピンクの槍を出す。


「槍使いだったんですか」


「ええ、なんだか使いやすくって。はっ!」


 ぼーっとしてたら俺に肉薄しているアスモさん。

 体を捻って槍をかわすと、突きの風圧が壁を大きく揺らす。

 ついでに大量に砂が舞ってうざい。


「そこです!」


「そう、俺はここだ。当たらないけどな」


 槍を左手でちょっとつまむ。それだけでぴくりとも動かなくなる。


「なあ!? どんなパワーですか!」


「試してみるかい?」


 懐に入って拳のラッシュを叩き込んでやる。死なない程度にな。


「ウオラアアァァ!!」


「きゃあぁぁ!」


 ぶっ飛んで壁に張り付くアスモさん。キアスが追撃に向かう。


「それじゃあ俺も……」


「うちが足止めっす。うりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


 黒い羽が、人間一人を飲み込めるほどのビームとなって、何本も押し寄せる。

 数発はたき落としたところで、ちょっとしたイタズラ心が湧いたので試す。


「うおおぉ!? 油断した!?」


 避けられないフリをしてどんどん当たる。俺の姿が完全に爆煙に隠れたはず。


「ふっふっふー! これだけ撃てば流石のアジュさんでもダメージくらいあるはずっす! はーっはっはっは! やた子ちゃんはできる子っすよ!」


 ゆっくりと、ゆーっくりと煙の中を歩く。

 こうすると、煙の中に俺のシルエットが見えてくるはず。


「そうか。あるといいなあ……ダメージが」


「はっ!? まさか!」


「その程度のパワーでは、俺は倒せんぞ」


 小さな星くらいは砕ける威力だろう。まあ強いといえば強いかな。

 その程度は連発しても意味が無いのさ。


「うえぇ……結構全力だったっすよ……」


「お返しだ……波ぁ!!」


 右手の中に魔力を集めて、一気に撃ち出す。属性も詠唱もない。ただの魔力波だ。

 ただし、室内では逃げ道のない面攻撃である。


「うわあああぁぁん! こんなん無理っすうぅぅ!!」


 やた子、やる気も魔力もなくなって脱落。

 アスモさんはキアスと撃ち合い中か。俺も行こう。


「あっちは終わったぞ」


「そうか、ではこいつの始末は任せる。好きにやるがいい」


 キアスも退場。俺とアスモさんだけの戦場になる。


「……本気でいきます」


 それだけ告げて、アスモさんは光の速さを超えた。


「うるあぁ!!」


 裏拳とピンクの槍がぶつかり、俺達は少し下へ落ちる。

 衝撃波で砂が上空へと散ったからだ。


「ふっ!」


「オラア!!」


 砂が落ちてくる数秒が、十分近くにも感じる。

 スローモーションのように、砂が重力に引かれて落ちてくるまで、数千万の攻撃があった。

 攻防が繰り返されると、更にその衝撃で砂が動く。

 それは砂の波のようであり、不覚にも楽しかった。


「いいね、楽しくなってきたぜ」


「こちらはずっと全力だというのにもう……」


 魔力を槍の先端に集めているな……次で決める気か。


「最大出力です。本来太陽の炎すら消す、禁断の奥義ですが……どうせ死なないのでしょう?」


「ああ、全力で来い。はああぁぁぁぁ……だあありゃああぁぁ!!」」


 両手に魔力を溜める。無尽蔵の魔力を完全にコントロールし、一点に絞って撃ち出す準備。


「いきます! インフェルノ……エクスプロージョン!!」


「ライトニング! フラアアァァァッシュ!!」


 赤い魔力と青い雷撃の波がぶつかり、室内の全てを巻き込み光へ変える。


「押される……これでも足りないとは……それでこそ、私のマスター……」


「オオオオラアアアァァァ!!」


 真紅の奔流を突き破り、雷撃が部屋を満たす。

 壁を貫き、屋根を割り、衝撃は天へ消えた。勝負あり。


「勝てませんか……お見事ですマスター」


「いいや、凄いのはそっちさ。俺の攻撃に耐えたじゃないか」


 倒れたアスモさんに、ヒーリングをかけてやる。

 こんなことで死なれても困るからな。


「……あ、部屋壊れた……」


「あらら、どうしましょうか」


「途中で鏡の世界に変えておいたっすよ」


 壊れたはずの部屋が消え、綺麗なままの部屋へと戻る。

 やた子が鏡の世界を作って崩壊を免れたらしい。


「よくやった。こんな高そうな建物弁償とかできないからな」


「次はもうちょっと場所を選んで、適切な技を使うのじゃ」


「ちょうど時間も来たっすよ」


「今日は疲れた。もうなにか飯食って帰ろうぜ」


「うむ、良い経験になったぞ。また呼ぶがいい」


「次は私だけ呼んでくださいね」


 こうして召喚獣と戯れる時間は終わり。飯食ってキアスとアスモさんは帰っていった。


「じゃあうちもここまでっす。楽しかったっすよー! またお会いしましょうー!」


 やた子も帰るか。俺も適当に買い物して帰るかな。


「ふらふらして帰るぞ」


「ほいほい、お疲れ様じゃな」


「たまにはいいさ」


 日が暮れるまでは学園探索でもしようと思った。

 なんか面白いものでもないかなーっと。

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