勇者科の期末試験編
第180話 期末試験が始まるよ
特になーんもなく、イロハに呼ばれて家に帰ったら、リビングに全員集合。
どうやら試験内容が通達されたらしい。
全員分の、ごく簡単な説明資料がある。
「期末試験は学園内に小さな村を作り、そこに数日いてもらう?」
「初日は一回。次からは二回、三回とどこかで敵の襲撃がある……連携して撃退しましょうってことだね」
まとめると。
・学園の空き地にログハウスを複数作ったので、そこで数日生活しろ。
・敵がいつ来るかは、当日まで知らせないので、計画的に動け。
・勇者科一年は基本全員参加。別の科からの助っ人禁止。
・村として囲ってある範囲から出るな。
・食料は支給される。
「また規模がでかいなおい」
「学園は広いからねー」
「ま、全員参加ならなんとかなるだろ」
「アジュも動かんとダメじゃぞ」
「そうよ。寝てばかりだと襲うわよ」
まさかの敵より味方が怖い状況ですよ。
俺も戦おう。絶対に寝込みとか襲われるわ。イロハに。
「勇者科合同試験というわけじゃな」
「勇者科の連中なんてほぼ知らんぞ」
単純に勇者科での授業は少ない。座学が多いし、教室は広い。
クエストで欠席なんてのもあるから、一度も出会わないやつも当然いる。
「しかも女の子ばっかりなんだよね」
「最悪だな」
「アジュがまた女の子と仲良くなるわよ」
「なるわけないだろ」
「油断は禁物じゃな」
なぜこいつらは俺の評価が高いかね。
女に好かれるタイプじゃないのは知っているだろうに。
「それじゃ、準備を……」
「こちらに全て揃ってございます」
ミナさんの背後に四人分の装備。手際が良いなあ。
「ありがとうございます」
「いえ、メイドのたしなみです」
「あとは……試験当日に備える?」
「それじゃあ二日後に備えて休んでおくのじゃ」
「そうね。怪我や風邪に気をつけておきましょう」
今週は勇者科全員に試験のためクエストを控えろ。
学園から出るなと言われている。
魔界から帰ってきたのが先週ってか二日前くらいだから……まあセーフだな。
「こんなこと言うのはあれだけど……言っていいか?」
「なにかしら? むらむらしたのなら相手をするわよ?」
「してないっつーの。あのさ、この試験さ……」
言っていいか悩むが、まあ心の準備はさせておくか。
「絶対ヴァルキリー出るだろ……」
「うわあ……それ言っちゃう?」
「もうヴァルキリーは飽きたのじゃ……」
「考えないようにしていたわ……」
場の空気が暗くなる。全員もううんざりという顔だ。
あいつらは人の迷惑顧みない。
「なるべく一緒に行動しようね」
「それくらいしかないのう」
「やってられんな」
そんなこんなで二日後。朝っぱらから指定された場所へやってきた。
地図を見ると七個の家を取り囲むようにして、四角く大きな木の柵と門があるらしい。
「ここか、無駄に遠かったな」
「中央で説明会だってさ」
勇者科全員整列。なんか人数増えている気がした。
素質が見つかれば増えるんだっけか。
「はい、朝も早くからご苦労様! 久しぶりね。勇者科講師のシャルロット・ヴァインクライドですよ。忘れていないわね。じゃあ資料は読んでいると思うから、さらに細かく説明していくわ」
そういや見るのは久しぶりだなあ。
銀髪と赤と金のオッドアイが特徴的なんで覚えている。
「家は七個。大きな家が二個。普通の家が五個。全て定員は五人まで。勇者科は今三十五人だからね。ちなみに、住んでいい家は毎日減るわ。代わりに住める人数が増えるの」
集団生活の中で戦闘訓練積ませようってことか?
面倒なことになりそうだ。
「長期戦ね。まあ頑張って。こういう場所での急な襲撃っていうのは、思っているより厳しいものよ。住む家を守らないといけないもの」
ずっと防衛戦だ。大本を退治しに行くことが認められていない。
そのうえ家が壊れたら最悪だ。これは厳しいぞ。
「ちゃんと食料は渡します。食糧配給の時間は襲撃が来ないわ。あとは早朝でも深夜でも気を抜かないこと。サイレンが鳴ったら敵が来るわ。それじゃあまず好きに組みなさい。五人組ね」
過去の俺なら絶望していたところだろう。
だが奇跡的に仲間が三人いるのだ。
「わしらは四人一緒じゃな」
「基本だな。あと一人どうするかね?」
足手まといは必要ないからな。あと女がとにかくうざい。
「そんなアジュにゃんに救世主が!」
ツインテの薄紫。俺にあだ名を付けるやつは一人。
「ああ……モモチか」
「ちっがーう!」
違ったらしい。女にかかわらない生活が長かったせいで、どうも女の顔と名前を覚えるという習慣が根付かない。直そうとは思っているんだけどな。
「モモチじゃなくてももっち!」
「そこかい!」
「久しぶりじゃな」
「お久しぶり! ちょっと目を話したスキに、ほのちゃんがお友達に誘われちゃってさ。油断したぜ……ってわけで、安全なあじゅにゃんと一緒にいたいです! なにとぞ、なにとぞ許可を!」
俺じゃなくて三人に言っているなこれ。
ももっちは俺が鎧着てぶち切れたシーンを目撃している。
安全っちゃあ安全か。いい判断だけど、どうするかね。
「どうする? 俺は入れてもいい」
「んー……そうだね。事情も知っているし。わたしもいいよ!」
「アジュにいやらしいことはしないと誓うならいいわ」
「わしもよいのじゃ」
「やったー! それじゃあよろしくね!!」
そんなわけでももっちが加入した。
かなりすんなり決まったな。順調な滑り出しだ。
「はいじゃあ家は公平にくじ引きよ。五人組から代表者一名いらっしゃい」
そして俺が引いた結果、大きな家になった。
変なところで運がいいな。
「なーいすあじゅにゃん!」
「それじゃあ試験開始! 食料は家の中にあるわ。頑張ってね」
とりあえず五人でこの場所と家の確認だ。
マップを見ると、まず左右に門があり、そこ以外は柵だ。
大きな家二個の間に小さな家が一個。
むかい側に普通の家が四個描かれている。
「これって小さいほうが守りやすくていいんじゃないか?」
普通の家はログハウスで一階だけだ。大きな家は二階建て。
一階は風呂とトイレとキッチン。そしてリビングが広くて吹き抜けだ。
一階のリビングから、二階の部屋の扉が見える。階段とはしごもある。
部屋は六個か。設備が整ってんなあ。
「かもしれないわね。気をつけましょう」
「誰かが助けに来るには離れておるのう」
「わたし達だけで守らないとね」
家と家の間は二十メートルくらい離れている。
裏口から木の柵……というか壁だなこれもう。五メートルはあるし。
そんな壁までも二十メートルほど。
「条件はどんどん厳しくなるわ。今のうちに色々決めておきましょう」
「そうだな。俺はサバイバルとかの経験はない」
「わたしもちょっとわかんないかも」
「わしは知識だけなら豊富じゃよ」
「じゃあ私とももっちで進行する方がいいかしら?」
「いいねーそれでいこうか! みんなもいい?」
異論はない。忍者ってそういうのできそうだし。
「それじゃあ、明日からの昼組と夜組を決めましょう。確実に敵が来るわよ」
まず夜組にももっち。昼組にイロハが確定。
「昼に眠ることに慣れている人がいいよー。急には寝付けないからね!」
そんな感じで決めていく。頼りになるな。あとで褒めておこう。
「外に見張りは必要かな?」
「暖かいとはいえ、夜は冷えるわ。窓も多いし、敵の合図があるなら、その間は必要ないわね」
つまり後半では合図なしかもしれないわけだ。
「食料も確認しておきましょう」
水筒に入った飲み水と、干し肉、野菜、パンが人数分、小分けされて袋に入っている。
「水出るよなこの家」
「ええ、出るわね。水質も確かめたわ」
「出なくなるとか?」
「水筒の水は、水が出ることを確認してから飲んで、入れ替えましょう」
「やっぱり新しい方がいいねー。水は大事だよ! ちゃんと替えよう!」
さくさく進むな。他の班がどうしているか知らんけど、うちは楽そうだ。
「あとは……他の連中が増えた場合、自分の力は隠せ。俺の鎧のことは言うな。知っているやつは少ない方がいい」
鎧もそうだが、影や時間操作もばれるとやばい。
「力をセーブしつつ戦わねばならんのう」
それが一番面倒だ。さてどうなることやら。
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