さらに増える謎

 殺人事件に口出ししてから数十分。俺たちは近くのカフェで待機を命じられていた。


「帰りてえ……」


 食事代は渡されたが、面倒な事件に関わりたくはない。

 俺の存在なんて、知らないやつが多いに越したことはないのだよ。


「どうしてです?」


「目立つの嫌い。全部カムイの手柄にしてくれ。俺の名前は一切出すな」


「えぇっ、そんなもったいないですよ!」


「それをカムイの報酬とする」


「妥当じゃな」


 頷くギルメン一同。だって邪魔くさいやん。皆殺しで解決できる案件以外は邪魔。チームプレイとか嫌い。知り合いが増えるのも、自由に動けなくなるから嫌いだ。


「サカガミ様がご活躍されたと聞きましたわ」


「あんなもん本職が見れば気づく。先に口挟んだだけだ」


「最後まで協力すれば、報奨金が出るかもしれませんよ」


「そこまで金に困っちゃいない」 


 金ならある。貯金は使っていないし、隠し場所は複数に分けた。

 鎧の力と知識を使っているものもある。完全な無一文になることは決して無い。

 全員そういうことができる能力持ちだ。


「あっ、終わったのかな? 誰か来ます」


 兵士が二人入ってきて、店の外でカムイと話し始めた。内容は聞く気はない。ガラス越しだから、声も聞こえない。


「あまり事件に巻き込まれたくはないな」


「わたしもイロハもあんまり他国で目立つと……」


「そうね、私たちは面倒なことになるわ」


 カムイが話し終えて戻ってきた。さてどうなる。

 っていうか俺のラザニア来ねえな。ここで飯食っておきたいんだけど。


「捜査班が結論を出しました。サカガミさんの推理とほぼ同じです」


「だろうな」


 大国の捜査班が無能じゃ困るだろ。余程のアホじゃなきゃ誰でも気づく。


「盗まれたものは?」


「大型特殊金庫の図面ですね」


 大企業に向けて売り出される、一室丸々改造して作るタイプの、からくり金庫らしい。絶対の安全性を誇るとか、大々的な広告で有名らしいよ。俺は知らねえ。


「情報源は?」


「被害者のジャックさんは奥さんがいます。その奥さんと、あとは知人のなんでも屋ですかね。それと、今日あの部屋に行った人は三人です」


「達人超人はいたか?」


「いいえ、三人とも武術の経験無しです」


 達人が銃を使って一般人に偽装している説はほぼ消えたか。


「奥さんは食事を作りに行っただけ。仕事についても詳しくはありませんでした。図面が金庫のものだともわからなかったようです」


「なら別のやつだな」


「残りの片方は金庫を売っている会社の人です。まあそれなりの立場で、もうひとりは町のなんでも屋」


「了解。聞き込みは本家に任せた。待機するぞ」


 捜査を乱さないようにしようね。それでいていいとこ取りをしないように注意だ。


「じゃあこれからどうするの?」


「ラザニアが来ねえ……」


「ここのは注文が来てから作りますよ?」


「マジ? じゃあ仕方ないか」


 そこから十分待って、完食して食休み取ってから行動開始だ。

 ラザニアはうまかったよ。量もあったし、近くに寄ったらまた食うかも。


「これからどうするの?」


「普通に観光再開したいが、試験に組み込まれていそうでな……」


「奥さんは本社にいます。なんでも屋さんにはもう兵が向かっているようです」


「なら金庫屋さんだね」


「行っていいものか……というかソフィアどうするんだ? これもうお出かけとかそういう次元じゃないぞ」


 どう考えても王子と婚約しているお嬢様に、殺人事件の取り調べをさせるのはおかしい。俺でもわかるぞ。


「私もご一緒いたします。こんな中途半端で終わらせるなど、オルブライトの恥ですわ」


「一応軍から行くと連絡は入れてくれたみたいで、連れて行くのはいいのですが」


「問題が起きたの?」


「起きたというか、起きるというか、とりあえず行きましょう」


 そして大きな会社の広い部屋に通されると。


「ようこそカムイ様! オルブライト様! 歓迎いたします!!」


 ほーらいつものパターンですよ。重役っぽい人と秘書が待っていた。

 軽くつまめるものが用意されていて、プチ立食パーティーみたいになっただろ。


「どうかお寛ぎを」


「おかまいなく。被害者のジャックさんと関係の深い人はどちらに?」


「ジャック様担当のピーターは、数日前から無断欠勤しておりまして」


 どうやら消息不明らしい。連絡がつかないので、代わりに質問してみよう。

 まずカムイに任せる。俺は後方から見守っている。


「ジャックさんはこちらの金庫を買ったんですか?」


「確かにご購入いただきました」


「金庫の図面が盗まれたらしいんですが、心当たりはありますか?」


「図面……購入者には必ず差し上げております。購入前に仕組みを知って、納得いただいてから契約に入りますので」


「つまり、見ようと思えば見られると?」


「どこでもというわけではありませんが、お持ちしましょうか?」


 普通に見られるのか? 買ってくれそうな富豪にだけかもしれないが、見られるなら盗む意味はない。動機は別にあるのか。


「お願いします。できれば2セットほど」


「かしこまりました」


 そして図面が届く。これパンフレットだな。

 金持ち向けに届く書類だ。内部構造と、セキュリティについて書かれている。


「再度確認いたしますが、社外秘というわけではございませんのね?」


「見せびらかすものではございません。ですが、購入の意思と資金のあてがある方ならば、閲覧は可能です」


 カムイとソフィアが事情聴取している間、俺たちは俺たちで図面を見る。


「どうだ?」


「よくできておるが……殺してまで盗むとは思えんのう」


「まず入り口で本人の魔力認証。次に壁についている、ダイヤル錠の十桁の数字を入れて、鍵穴を一個出す」


「あとは鍵で開ける……金庫はおっきいね」


 ますますわからん。こんなん構造がわかっても無駄だ。三個の関門が突破できない。


「これを突破してでも欲しい宝でもあるのか?」


「ジャックさんが何を入れていたかわかりますか?」


「珍しい骨董品や現金を入れておきたいと。中を直接拝見したことはございません」


「よし、ジャックさんの金庫の場所はわかりますか?」


「登録いただいております」


「ならそこに行こう。目的が金庫破りかもしれない」


 情報が少なすぎる。現状ピーターという男が、ジャックの宝欲しさに蛮行に走ったとしか推理できん。


「最後に、ジャックさんを恨んでいたり、金庫の図面を殺してでも奪わなきゃいけない連中に心当たりは?」


「ございません」


「わかりました。場合によっては金庫を開ける必要が出てきます。マスターキーがあればお願いします」


「かしこまりました。上に確認してまいります」


 そして精霊が引く馬車で移動中、暇なんで最近やっているトレーニング開始。

 錠前の鍵穴に指を当て、ゆっくり魔力でコーティングした雷を流す。


「おっと」


 加減を間違えて、軽くバチッと放電。いかんいかん。まだこの小ささはきついか。


「雷とコーティングの比率が甘いのじゃ」


「へいへい」


「あの、サカガミさんは何を?」


「ちょっとした訓練だ。気にするな」


 カムイとソフィアが不思議そうに見ているが気にしない。

 時間がある時はこれをやる。


「さてついたな」


 ジャックの殺害現場の二階だ。丸ごと金庫らしい。


「戻ってきちまったな」


「そういうこともあるわ」


「お気になさらず。カムイ様もサカガミ様も、着実に真相に近づいておりますわ」


 近くの兵士によると、入り口の扉を開けた先に通路があり、その先がもう入れないらしい。扉の近くに女性がいる。茶髪の三十代くらいだな。


「お久しぶりです。キャサリン様」


 どうやらジャックの奥さんらしい。泣いていたのか目が赤い。旦那が死んだししょうがないことだろう。


「あの、主人の金庫に何か?」


「事件の手がかりがあるのではと、金庫を開けたいのです」


「私も主人がどうして隠していたのか気になりまして。お手伝いいたします」


 協力的で良かったな。とりあえずキャサリンの魔力で第一関門突破だ。


「あら? おかしいわ……どうして?」


「どうされました?」


「開かないのよ。いつもこの番号のはず……変えたのかしら?」


 金庫の壁に取り付けられた、大きなダイヤル錠が、何故か外れないらしい。


「扉を壊しても?」


「やめてください。高いお金を払って買ったものなんです!」


 拒否られた。いやまあ気持ちはわかるけども。


「やっぱり開かない……困ったわね」


「緊急事態です。共通コードを使います」


 どうやらトップ陣だけが知る、購入者すら知らない番号があるとか。

 忘れた時用のものらしいが、それだけでは終わらない。

 鍵は二種類ある。普通のものと、共通コードのもの。


「普通に使えば鍵は一個で済みます。このケースでは、共通コード解除用の鍵穴も出現します」


「いいセキュリティだ」


 ゆっくりと重い扉が開き、うちのリビングより広い金庫内部が見えてきた。


「入っても?」


「構いません。中のものさえ取らなければ」


 俺とカムイと重役さんで先陣を切る。中には壺や宝石の入った箱と、壁をくり抜くように作られた棚に現金の束。これが金持ちか。


「んん? 先客がいるぞ」


 一番奥で壁にもたれかかって座る男がいる。

 床には酒瓶が転がっていて、まさか寝てんのか。


「……ピーター? おいピーター! お客様の金庫で寝るとはどういうことだ! うちの信用に関わるだろ!」


 ずんずん進んでいく重役さん。声を張り上げ、ピーターと呼ばれた男を揺すっている。


「えぇ……何やってんだよ……人騒がせな」


「あはは……まあ見つかってよかったじゃないですか」


「ピーター? おい!」


 ピーターは抵抗もせず、そのまま横に倒れた。

 嫌な予感がする。カムイと目が合い、二人で男に駆け寄った。

 急いで脈と呼吸を確認する。


「おいおい……マジか?」


「誰か! 誰か来てくれ!! 息をしてない!!」


「ピーター! ピーター!!」


 どうやらまだ事件は加速するらしい。

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