さっさと解決してくれマジで
金持ちのジャックに続き、金庫会社でジャック担当者のピーターが死んでいた。
今回は酒から毒物反応が出たらしい。
署で話を聞こう的な感じで移動することに。
そこから聴取が終わって、用意された部屋でだれていた。
「どうしてこんなことに……」
「複雑すぎるじゃろ」
「縁起が悪すぎるわ」
ぐったりだよ。テンションガタ落ち。こういうのやめろやマジで。
「今日中に終われや」
「無理ですよ!?」
「我々としても、早期解決を願うよ」
ボガード隊長が入ってきた。報告を聞かせてくれるらしい。
「死んでいたピーターだが、死んだのは今日じゃない。懐から、ジャックとピーターのサインが入った図面が出てきた」
「金庫の図面ですか?」
「ああ、だがどう調べてみても、ただの図面だった」
「暗証番号書いてあったとか?」
「無い。だから捜査が難航している」
昨日死んだということは、ジャック殺しの犯人じゃない。
金庫の中は荒らされていなかったし、ぱっと見で金が減っている気もしなかった。
「一応聞いておきます。金庫を買ったやつが死ぬと、金庫会社に遺産が半分行くとかいう馬鹿げた……」
「契約はない」
「どうだカムイ。今度はお前の推理を聞かせろ」
カムイにぶん投げてみる。王子の優秀な頭脳で解決してくれ。
「僕ですか? そうですね……まず盗まれた図面はピーターさんが持っていた。そして金庫内は荒れていない。盗みに入って、お酒を飲んで死んだ?」
「辻褄は合っている気がするな」
「ピーターはジャックから金庫の暗証番号を教えられていたよ。鍵はジャックの一本だけだ。彼の部屋の棚から出てきた」
「あら……だとすると、今日ジャック様を殺した犯人はどなたですの?」
「別の事件なのかも。けどだとしたら、目的がわからない。隊長、ピーターさんの手に痣は?」
「ない。強く握られた形跡もない。ついでに右利きだ」
握手しながら脳天をふっ飛ばすんだ。反射的に握り込む力は凄まじいだろう。何の痕跡もないのはおかしい。
「振り出しに戻っちゃいましたね」
実際少し勘違いをしていたようだ。情報が足りなすぎた。
「ピーターが前日に死んでいたなら、今日家に来た金庫会社の人間って誰なんです? その証言は誰が? 数日無断欠勤だったんでしょ?」
「証言はキャサリンとなんでも屋のジョンだ。ジョンは依頼があればなんでもやる。だが前科はない。評判も悪くないぞ」
「来客は?」
「ダニエルと名乗ったらしい。あの会社でダニエルは二人。だがどちらもアリバイがある」
もう全然わからん。登場人物を増やすな。覚えるのめんどいんだよ。
「ジョンの取り調べを始めるが、聞いていくか?」
「お願いします」
四方にガラス窓のついた部屋で、ジョンの取り調べが行われている。
白髪の成人男性だ。若いし、白は地毛だな。三十前半くらい。
「だから、朝行った時には生きてたんだよ。帰ったら急にあんたらが来て、死んだって言われた」
「なぜあの部屋に行った?」
「依頼だよ。あのアトリエは本人の豪邸でも、会社の建物でもない。個人的なもので、会社名義で業者に依頼するほどじゃないものを、オレが受けてたんだ。掃除とか、ペンキの塗替え、扉の修理、家具のメンテとか、水道の修理とかな」
「本当に何でもやるんだな」
「それが売りなもんでね。あいつとは古い友人なんだ。だからお声がかかる」
表情からは悲しんでいるように見える。突然友人が死に、混乱しているようだ。
「ダニエルという男に心当たりは?」
「数日前に初めて来た。金庫の会社のやつだって。さっきダニエル三人もいるって聞いて、会社はなんか特殊なフェチなのかと思ったよ」
「どんなやつだ?」
「茶髪で小太りのおっさんだ。スポーツマンには見えなかった。オレよりも年上だと思う。ピーターが連絡つかないから来たって」
「キャサリンさんの証言と一致するな」
どうやらその男で確定かな。マスクも帽子もしていなかったらしい。
だが会社は知らないと言っている。そこが肝だな。
「初対面のやつをそれなりの役職だと言ったのか?」
「ピーターの代わりが平社員ってことはないだろ? 着ているものは高級品だったし、金庫の番号についても知っているようだった」
つまりダニエルなら金庫を開けて殺せる。方法は知らんけども。
そこで男が部屋に入っていった。
「隊長、ジョンの店からこれが」
出てきたのは金庫破りの計画書と、ジャックの金庫の鍵がだった。
「これは、ジャックの金庫の鍵と一致するようだ。君も金庫に入れたんだな」
「オレがやったってのか? 違う! その鍵はスペアが欲しいって夫婦に頼まれて、オレが作ったんだ。複製禁止でもなかったし、ちゃんとした依頼だよ!」
「お前にスペアを作れと?」
「そうだよ。無くしても会社に言うのが恥ずかしいし、夫婦で持っていたいって。オレは開かなくなっちまった鍵を開けたりもするんだ。鍵作りもやる」
本当に何でもやるねえ。かなり多芸だ。
「なぜ金庫の図面が入っていると知っていた?」
「前にしまってるのを見た。あそこには図面と、なんかファイルが入ってた。中身は見ない。プライバシーってやつだよ」
「犯人に心当たりは?」
「ダニエルか、じゃなきゃ金目当てのやつじゃないのか? とにかくオレじゃない!」
それから隊長が証拠を突きつけても、知らないとしか言わない。
本当に知らないように見えた。
「オレ以外にも容疑者はいるだろ!」
「キャサリンさんは奥さんで、金庫のパスワードを知っていた。破る必要がない。ダニエルは目下捜索中だ」
「じゃあそいつを見つけろよ!!」
これ以上は無意味と判断したのだろう。隊長も部屋を出たし、少し証拠を漁ろう。
証拠保管室に並べられた図面から、調査を始める。
「この図面お借りしても?」
「ああ、少しなら……おい何やってる!」
「折り畳んでいるだけです。新しい折り目がつかないようにですが」
もとから付いている折り目に沿って、図面を畳んで見る。
「違うな」
「何が?」
「ジャックの机に入っていたのはこれじゃない」
「なんでわかる?」
「折り目ははっきり残っている。で、そのまま畳むとこの大きさだ。あの棚には入らない」
「本当だ……」
これじゃないファイルとやらが怪しい。
だがそうなると正体不明のダニエルの目的は、そのファイルか。
「動機も不明ですわ」
「キャサリンは大富豪の奥さんで、金はある。なんでも屋は繁盛していて、ギャンブルをやるような男でもない」
「金目当ての犯行じゃないのか?」
それ以外で金庫に行く理由がわからん。全員そこで推理が止まるようだ。
「キャサリンによれば、まあ金は多すぎてわからないそうだが、貴重な骨董品はすべてあったそうだ」
「金でも美術品目当てでもないわけじゃな」
「計画された強盗という線は?」
「計画性はある……と思う。ダニエルの捜索は任せて、俺たちはジャックの屋敷へ行く」
「わかった、部隊のものを先行させて、事情を話しておく」
「助かります」
そういうわけでジャックの家へ。これがまあ豪華な門と広い庭でな。西洋の貴族の家だねえ。いいとこに住んでやがる。
「警備が硬いね」
「夫が殺されたんだ。そりゃ狙われるかもってな」
とはいえ家の仲間で厳重というわけではないようだ。
限界でキャサリンさんが出迎えてくれる。
「カムイ様、オルブライト様、何分急なお申し出で、何のおもてなしもできず……紅茶でもいかがですか?」
「おかまいなく。僕らはジャックさんが狙われていなかったか、少し調べたいんです」
「どうぞどうぞ。それで主人の無念が晴れるなら、お願いします」
というわけで書斎と私室を探索してみる。
本棚と本をチェックしたり、壁に隠し通路がないか探ってみた。
だがはずれ。本棚以外の調度品が少ないな。観葉植物がかろうじてあるけれど、簡易的な椅子と机だけ。自分の家には無頓着だったのかね。
「ついでに質問します。誰かに恨まれていたとか」
「ありません。商売での敵はいたと思いますが、仕事のことはさっぱりで」
「ダニエルという男は?」
「数日前に初めて会いました」
書斎に手がかりなし。日記でもあればよかったが,どうやら記録を残さないタイプのようだ。
私室にはあまり物を置かないらしい。これじゃ難しいな。
とりあえず引き出しを片っ端から開ける。
「宝……金庫の宝のうち、どれかが危険な人たちの欲しいものだったというのはどうでしょう」
「あー……知らずにやばい宝をゲットした説か。面白いなカムイ」
それで命を狙われるわけだ。強引だが話はわかる。意外な洞察力だ。
「私が見たところ、危険な品物はなかったわ。言っていいかわからないけれど、贋作も混じっていたし」
「イロハ様は鑑定もできますのね」
「絵も壺も価値より趣味嗜好に偏っておったのう」
芸術はわからんが、趣味の品らしい。となると真実に到達するのが難しくなるが。
「金庫には、いざという時のお金と、個人的な趣味の品が入っていましたから」
「あの家は私用で買ったと聞きましたが?」
「はい。趣味の品を眺めたり、一人でいたい時のために買ったと。たまに私も行きますが」
「そこで仕事をしていたりとかは?」
「さあ……仕事についてはよく知らないもので」
仕事について聞くだけ無駄か。家の捜索許可をもらったので、色々と見ていく。
キャサリンの私室は男が調べると面倒だ。ギルメンとソフィアに指示を出して、カムイと地下室がないか探りに行く。
「犯人に繋がるものがありませんね」
「片方はダニエルだろ。本人が見つかればいい」
「片方?」
「複数の事件が混ざっていると思う。確証は今探している」
なんとかこの家を捜索して、証拠をゲットしたい。
ぶっちゃけめんどくさいのだ。
「サカガミさんは凄いですね。常に二手三手先を行く」
「そうでもないさ。わからないことは多い」
「僕もです。事件だけでなく、いつも見通せないことばかりです」
話しながらも手は止めない。地下への隠し通路とかなさそうだな。次はどこを探すか。
「自分の国で起きた事件すら満足に解決できない。こうして殺人が起きて、人が死んで……それはとても悲しいことです。罪のない人が死ぬ。やりたいことも、好きな料理もあって。もっと生きられたはずです」
「どうでもいい」
「えぇー……」
「他人の命なんてどうでもいい。きっと犯人もそうなんだろ」
ぶっちゃけ知ったこっちゃない。完全な他人だぞ。どこで死んでようが、興味がわかない。むしろ事件を解決しなきゃいけないせいで、俺は迷惑している。
「これから死ぬやつが何が好きかなんて、気にする価値もないから……そうか。それだカムイ」
「どれですか?」
「アジュ、捜査は終わったわ」
イロハが降りてきた。他のメンバーも調べたいことは終わったらしい。
「どうだ?」
「言われた通りよ」
「ならいい。まず一人目を潰しておくか」
よしよし、なんとかなりそうな気がしてきたぜ。今日中に終わらせてやる。
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