千年王国の盟約

 ポセイドンとヘファイさんを連れ、全員で城に帰ってきた。

 今は広い部屋で、他の連中が集まるのを待っている。


「しかしまた面倒なことになったな」


「ちょいちょいトラブル起きるのう」


「たまには普通に過ごしたいわ」


 ギルメンとソファーでだらだらする。眠い。

 ベッドとかないかな。仮眠取りたいぞ。


「アジュくんが寝ちゃうから、早く来てくれないかしら」


 サクラさんもいたりする。りんご食ってお茶飲んでいる。

 この人も肝が太いというか、動じないな。


「この状況で寝るのか……ハンサムより豪胆だな」


「なにも考えておらんだけじゃ」


 はい正解。俺が戦わなくても、ここには神と騎士団長がいる。

 でしゃばるのはやめようね。プロがいるなら任せましょう。


「待たせてすまない」


 ジェクトさんとフィオナさん、ルルアンクさんとリュートさんが来た。


「なんだいアタシらが最後かい?」


 アカネさんもいる。そうそうたる顔ぶれだ。全員好きに椅子に座り、ポセイドンがホワイトボードの前に立つ。


「とりあえずこのメンバーでいいだろう。他の団長には追って連絡する」


「よかろう、ハンサムによる講義を開始する」


 そっとフィオナさんが話しかけてきた。


「アジュくん、さっきはありがとうなの」


「いえ、俺は援護しただけです」


「ならそういうことにしておくの」


 それだけ言って離れていった。

 非常に物分りが良くて好感が持てる。いい人だ。騎士団長とは人柄も考慮されるのだろう。


「敵の数も目的も、どうすれば騒動が終わるのかも不明じゃ、やってられないわよ。アジュくん、なんとかできない?」


「俺に振らないでください。俺は一般人です」


 やめろ俺を巻き込むなサクラさん。騎士団長が変な目で見てくるだろうが。

 やめなされやめなされ、俺は一般人じゃい。


「その、サカガミくんはなぜこの会議に? 襲われたとはいえ、国外の学生に聞かせていいのでしょうか?」


「特例だ。本当に、本当に使わずいにいるのが最適解だが、秘密兵器なんだ」


 ちょい苦い顔のジェクトさん。

 暗に国外のものを頼る状況は、不本意だと言っているのだ。

 責任感とかありそうだからなあ。


「ヌハハハハ! 不思議ですねえ!」


「くれぐれも内密に。ここにいない者の前では、ただの一般人として扱うように」


「わかりましたの。話がそれたけど、姫様を狙うのはやめてほしいのー」


「サクラさんは?」


「別の敵に狙われたけど、ポセイドンとルルアンクに助けられたわ」


「ついてきてくれと言っていましたねえ」


 連れ出すことに意味があるのか?

 なんで交渉から入らないんだよ。勝手すぎるだろ神。


「さてどこから話したものかな」


「あいつらが何者で、なぜ姫様は狙われたのかだ」


「そうだね。そこんとこが気になってんだ。アタシらは神の事情までは知らないよ」


「わかった。やつらはこの国に太古から暮らす神だ」


 この世界は神が大量にいる。それこそまったく知らんやつから、俺でも名前は聞いたことのあるやつまで多彩だ。


「なんでシルフィを狙った?」


「おそらく、命を取ろうとしたのではない。フルムーン王族の力が、自力で国を治めていけるだけに達したか試すのだろう」


「意味がわからないの。フルムーンは豊かで平和なのー」


 フィオナさんの発言に、みんながうなずく。ここほど発展していて平和な国など、それこそ世界に五個とあるまい。


「これはフルムーンの盟約なのだ」


「そういや言っていたな」


「そこがハンサムなメインディッシュだ。今より遥か数百年前のこと、フルムーンは国土もあり、才あるものが多かった。だが外敵もいた」


「聞いたことがある。同盟国であり盟友であるフウマと協力して外敵にあたり、あのコタロウ・フウマに負けずとも劣らない、数々の忍者伝説が生まれたと」


 どうやら昔は敵がいたらしいな。それでも勝てないやつではなく、フウマもいた。

 よって勝ち続けてはいたが、敵も諦めが悪いと。面倒なことだ。


「うむ、そして神々の意見は割れた。フルムーン全土を神々の結界で完全に閉じてしまう派と、当時在住であった神の総力をもって、外敵の駆除を行おうという派閥だ」


「ヌハハハハ! また両極端なことですねえ!」


「アタシはどっちの歴史も聞いたことがないよ」


「当然だ。どちらも実行されなかった」


 というかこれ騎士団長も知らないっぽいんだが、伝わっていない過去ということだろうか。


「当時の国王とフウマの頭領には親友がいた。ともに戦い、両軍の橋渡しをし、軍師として活躍した。その男が言ったのだ。人と人との問題ならば、神の手に頼らず、必ずや美しき千年王国を築いてみせると」


「初耳だな。その男の名は?」


「セイマ。葛ノ葉正真」


 ここで葛ノ葉か。この世界の裏側に住むだけあってか、ここまで裏に入らないと名前が出ない。


「王と頭領と葛ノ葉は、人間が矮小で惰弱な存在ではないと説いたのだ。神の出した試練を突破してな」


「…………現国王である私ですら知らぬ話だ」


「一回も聞いたことないわねえ」


「だろうね。神の存在を国民に信じさせると、神に頼り切りになる。それを危惧してフルムーンでは王族と騎士団長しか、神と対面したものはおらん。日常生活で接しているものはいるだろうが」


「うむ、祭りで海鮮焼きそばを焼いている時、人間が客として来たりするぞ!」


「お前は自重しろや」


 あくまで超強い人間として溶け込んでいるらしい。

 まあ納得した。神は強すぎるからな。常識が改変されるレベルで面倒事になる。


「やはりあれか……」


「あれ?」


「千年王国の盟約といってな。本当に人間の力だけで生きていけるかどうか、王家の力が成熟し、国が平和になったあかつきには、神がその是非を再度問う。そう強硬派を説得したのだ」


「なんでそんな約束を……」


「本当に神々の戦場になってしまう可能性があった。それで加護を持つ神が減ることも避けたかった」


 人間の戦争により外敵を排除し、神を崇めるものを増やす。

 そして信仰による神力のアップと、それを活かせる闘争の場が欲しかったらしい。


「隔離しろそんな危険な連中」


「したさ。試練を与え、それをクリアしたことで、葛ノ葉と神の連名において、条件が整わない限り決して戦うべからずとしてな」


『その通りだ』


 部屋の中央に、ぶれた映像が映った。

 ノイズ混じりの声で、フードと仮面の男が喋る。


『映像で失礼』


「アンタイオスを送り込んだのは貴様らか」


『いかにも。やつを倒せるほどに成長したということだな?』


 言葉に喜びが混ざっている気がする。倒されることが計画通りと聞こえるな。


『フルムーン、フウマ、そして葛ノ葉。そのすべての力を受け継ぎし、最高の継承者が現れた。故に我らは今こそ審判の時と定める』


「待って、フルムーンとフウマはいいの。葛ノ葉というのはどうなるのー?」


『隠してもわかるぞ。魔力・神力・妖気の混ざった人間。葛ノ葉を知るものならばわかる』


「やれやれじゃな」


 リリアへと注目が集まる。どうしてこう、毎日を平和にだらだら生きられないかね俺たちは。


『この日を待っていた。神がその威光を存分に示し、真の闘争が幕を開ける!』


「神の血で綴られた盟約を忘れたか! フルムーンを戦場にすることは認められん!!」


 珍しく真面目な目つきと態度のポセイドン。フルムーンが本当に好きなのだろう。


『忘れておらぬ。神界の神剣闘技場にて待つ』


「どこだよ」


「神と人が戦える空間とでも思えばいい。とてつもなく広い戦場だ」


 結局戦うことになるのか。


『前回の試練もそこで行われた。どちらが正しかったのか、あの日の答えを出そうではないか、ポセイドンよ』


「おのれ……闘争の中に平和など無い!」


『それはこれから証明してもらおう。これが今回の試練だ。読んでおけ』


 謎の本を残して消えていった。いやいや試練やる流れなの?

 超めんどいんだけどマジでやんの?

 大事になるのだけはやめてくれと、そっと祈るしかなかった。

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