襲撃者VSフィオナ

 謎のフードと仮面の集団に襲われた俺たち。

 フィオナさんが善戦するも、その正体は不明。

 しかも増えてうざいので、鎧で殲滅してしまおう。


「さっさと終わらせるぞ」


 ミラージュキーで制服に見せかけてあるから、特別目立つこともない。


「危ないから下がってっていうか、逃げて欲しいの!」


「逃してくれそうにないんですよね」


 言い合いは面倒だ。フィオナさんは鎧のことを知らないし、騎士団長だから守らなきゃいけないんだろう。その苦労と親切には感心も感服もするが、どうもそういう悠長な時間じゃない。


「とりあえず顔を見せろ」


 フード野郎全員の服と仮面を、光速拳でふっ飛ばす。

 一番強いやつだけ、ほんのちょっぴりかわしたな。


「全員化け物か」


 蜘蛛の化け物。でっかい狼男。それよりでかい青銅の巨人が二匹。

 巨人に至っては10メートルはある。


「アラクネ、リュカオン、タロスじゃな」


「お約束の神話生物か……っていうかフードとコートで隠せるもんじゃねえだろ!!」


 明らかに2メートルない人間みたいだったじゃん。

 どういう不思議機能取り付けたの?


「ちょっと無理があるのー」


 音もなく狼男が移動する。マッハ60くらいかな。

 速いけど、騎士団長がいるのに送り込む人材じゃない。


「リリア」


「周囲に監視の目はないのじゃ」


 威力偵察ではないということか。

 とりあえず倍の速度で狼を殴る。

 顔、腹と殴ってから上中下段の蹴りで消し飛ばすが、どうも魔力で操作されているわけでもないな。


「こいつ喋る機能がないぞ」


「目的がわからんのう」


「…………アジュくん実は強いの?」


「いえ、一般人枠です。学園じゃみんなこういうのできますし」


 適当ぶっこいております。でもできそうよね。

 正確なデータとか無いのでイメージで頼む。


「そう……学園の生徒は凄いの」


 そういや何歳なんだこの人は。騎士団長って卒業してすぐなるもんじゃないだろうし、見た目は二十代前半くらいなんだが。


「大きいのが来るの!」


 巨人の拳が迫るので、合わせて右ストレートで破壊してやる。

 腕と胸を粉々に砕いてやると、中から狼男が複数飛び出してきた。


「芸人かこいつらは」


 一発芸大会じゃないんだぞ。お前らの作戦がわからん。


「狼としての誇りと凛々しさを忘れているわね」


 イロハの影が狼となり、超光速で食い荒らしていく。

 そらフェンリルのほうが強いわな。


「よしよし、じゃあ俺は蜘蛛女を……」


「もう終わるのじゃ」


 シルフィが蜘蛛の時間を止め、内部からリリアの全属性魔法が飛び出してくる。

 あえなく爆発四散となりました。


「あとは巨人だけか」


「なんかみんな強いの……これがジェネレーションギャップ? まだまだお姉さんなの……若くてきれいなお姉さんなの……」


「騎士団長で五番目くらいにお姉さんだったような……」


「言わないで姫様!」


 茶番が始まりそうなので、巨人をカカト落としで頭から砕く。

 この状況が既に茶番丸出しの気がするが、そこは考えずにいこう。


「ほいっと」


 簡単に裂け、左右に割れながら砂粒レベルで崩壊。

 やはりおかしい。この程度でどうしたかったんだ。


「アジュ、中に誰かいる!」


 巨人の胸あたりに誰かいる。そいつは光速の領域に入ってきた。


「おっと。お前が真のボスってわけか」


 人間のように見えるが生気はない。3メートル近いな。フルプレートアーマーで、体格のいい男のようだ。

 一直線にシルフィを狙っていく。その速度は光速の十倍。


「させんよ」


 行く手を阻み、男と同時に右ストレートをぶつけ合った。


「ヌウン!!」


 その力は余波だけで暴風が巻き起こり、地面が割れ、行き場のない魔力と神力が場を支配する。明らかにこいつだけスペックが違う。


「口がきけるタイプか……お前神だな?」


「答える義務はなし」


「リリア、イロハ、シルフィを守りつつ下がれ」


「アジュくんも下がるの!」


 フィオナさんが突っ込んでくる。強引に俺とこいつの間に入ってくるが、光速剣は右手で掴まれてしまう。


「うっそ!? そんなのありなのー!?」


「修行が足りんわい!」


 神力で編まれたハルバードがフィオナさんを襲う。

 しょうがない、武器を蹴り飛ばし、そのまま一回転して男に回し蹴りを出す。


「武人の立ち会いに横槍を入れるか!」


「俺は武人じゃないんでね」


 かなりぐらついたようだが耐えるか。邪魔くっさいなこいつ。


「ありがとうなの!」


 さてここで力加減を間違えると面倒だ。

 あくまでフィオナさんを超えてはいけない。

 騎士団長が倒したという結果だけを残そう。


「援護します」


 振り下ろされる神の武器を拳で弾き飛ばし、ローキックで動きを止めるだけにする。

 そこへ光速斬撃が来る。やはりフィオナさんは強い。

 鎧を着るとわかるが、中級神に負けるくらいかな。

 魔王は無理でも、下級神をワンチャン倒すくらいはできそう。


「うりゃりゃりゃりゃー! 姫様の敵は切って捨ててやるの!」


「やってみんかい! 小娘に負けるほど老いてはおらんわ!」


 壮絶な打ち合いを見ながら、指を弾いて圧力を増した指弾を飛ばす。

 ほんの一瞬だけ敵の武器や動きを止めちまえばいいのだ。


「小僧、それだけの強さ、どうやって手に入れた?」


 おや気付かれたか。こいつ神でも武闘派っぽいな。


「超運が良かったんだよ」


「話したくないならそれでいい」


 絶対信じないよなこれ。初見で信じられるもんじゃないんだろうなあ。


「斬り伏せれば同じことじゃい!」


「フィオナさん、お願いします」


「任されたのー!」


 光速の十倍くらいで剣戟が繰り広げられる。

 俺は的確にアシストして、敵の妨害に務めるのだ。


「ほれほれ、フィオナさんにばかり集中するなよ」


「どこまでも死合の邪魔をするか。武人としての矜持も誇りも持ち合わせていないのか!」


「ねえよそんなもん。武人とか言うならまず名乗れよ。不意打ちかけやがって」


「そうなの! 無礼にもほどってものがあるのー!」


「アンタイオス。神に殺されるのだ。恥ではないぞ人間」


 やっぱり神だよ。なんなのこのエンカ率は。クソゲーやん。


「そうか、俺はそのへんの一般人Aだ」


「名すらも名乗らぬ無礼者か」


「名乗ってやる義理もないしな」


 個人情報は守ろうね。別にここで殺す予定だし、名乗るだけ無駄だ。


「そのような淀んだ魂で戦場に出るか。武人の恥晒しめ!」


「お前から喧嘩売ってきたんだろ……あのな、俺は武人でも戦士でもない。だから誇りとか心構えもない」


 標的を俺に変えたらしい。常人では追いつけない速度で繰り出される攻撃も、鎧さえあれば反射神経と勘でさばける。

 雑にかわしつつスタミナ切れでも狙ってみるかな。


「その代わり勝利の感動も、精神的な成長もいらない。ただ勝利という結果だけを最短で得られればいい。これは俺が安心を得るためのステップでしか無いんだよ」


「傲慢だな」


「だろうな」


「そろそろ終わりにするの! 必殺剣!」


 フィオナさんは速攻で終わらせるつもりだ。

 複数の分身が突撃するが、その攻撃と斬撃のタイミングが違う。

 攻撃が終わって数秒後のこともあれば、近づく前にアンタイオスに傷がつくこともある。


「小細工に堕すか!」


「これは技術。誰もわからないくらい、幻と現実は重なって、溶け合っていく」


 敵の腕が突然凍結し、それを振り払おうとすると炎が渦巻く。

 その間にも本人は攻撃の手を緩めない。

 脚に大きな鉄杭が刺さったり、巨大な鎖が手足を縛ったりと、どうやらサポートの幻もあるようだ。


「面白い。だが神に通用するものではない!」


 幻影を吹き飛ばすほどの膨大な魔力が、周囲を蹂躙し始める。


「うぅー……神相手はしんどいのー!」


「ちょっとまずいな。とりあえず逃げましょう」


 フィオナさんを逃がす方がいいか。はぐれたことにして、こいつだけ狩ろう。


「ええい! 大抵は首か頭さえ潰せば勝てるの!」


 有言実行。フィオナさんの剣は、敵の全身を刺している。


「見事。だがそれだけだ」


 効いている様子がない。これはうざいな。


「うっそー!? そんなのなしなの!」


 光速の五十倍まで一気にスピードアップし、フィオナさんを圧倒している。

 完全に傷がふさがっているのはなぜだろう。


「くらえええぇぇぇいい!!」


 豪腕から生み出される圧倒的な破壊力で、フィオナさんを遥か後方まで吹き飛ばす。


「きゃああぁぁぁ!?」


 木々をなぎ倒してぶっ飛んでいくが、回復魔法はかけ終えている。

 衝撃も緩和させて、命に別状もないし、ここから気を失うところも見えた。


「頼みの綱の騎士団長は戦闘不能だ。目が覚めるまで数分はかかるだろう」


「問題ないさ。数分寝ていてくれりゃいい」


「ようやく本気になったか。だが騎士団長にその勇姿を見せることができんとは、哀れな男よ。五分の戦いを見せるだけで、戦士の栄誉にあずかれたというのに」


「勝利の栄光も名声も地位も喝采も邪魔だ。お前を殺して、一般人に戻らせてもらうぜ」


 光速の五百倍で接近。気付かれようが無視してボディブローを叩き込む。


「ぬぐおぅ!?」


 銀河の数百は消える威力だ。両腕のガードも意味をなさない。まとめて骨ごとぶち砕いた。


「がっ!? はっ……なんと……この!!」


 ハルバードによる横一線を繰り出してくるが、その動作が終わる前に数億の拳を叩き込んで空へと舞い上げる。


「ヌウオォォ!?」


「落ちな!」


 さらに上へとジャンプして、勢いよく踏みつける。


「うがああぁっ!?」


 落ちていくところを先回り。クレーターができないよう、衝突直前で横に蹴り飛ばした。


「ぐっ……がはっ……ありえん……こん……な……」


「まだ口がきけるのか」


 豪快に吹っ飛んだが、それでも立ち上がってきた。頑丈な神様だな。


「目的を言いな。楽に死なせてやる」


「認めん。かくなるうえは……この国ごと消えるがいい!!」


 めっちゃ光ってやがる。自爆するつもりか。とりあえず消しておいた方がよさそうだな。


「そこまでだアンタイオス。これ以上の狼藉、このハンサムが許さん」


「ここからは我々が相手になるぞ」


 ポセイドンとヘファイストスさんだ。結界ぶち抜いて落ちてきやがった。


「ヌゥ……同族か。このような屈辱……晴らさずにおれるか!」


「フルムーンでの殺し合いはタブーだ。神々の戦場にするには、この国はあまりにも美しい。このハンサムのように」


「ぬかせ! 人に媚びへつらい、人に落ちることを選ぶ、それが神のあり方か!」


「それをお前と論じる気はない。フルムーンで戦うなと言っているだけだ」


「我々ハンサムゴッドと葛ノ葉との盟約は続いているはずだ。忘れてはいまいな?」


「葛ノ葉?」


 九尾以外でも関わってんのかよ。あとでしっかり聞いておく必要があるな。


「帰って仲間に伝えろ。この国は人間たちのものだ。たった一人の神が壊す権利など無いとな」


「見逃すってのか?」


 ここで見逃せば、必ず厄介事を持ち込んでくる。

 始末をつけるのが最善手だ。


「これでも同郷の神なんだよ。できれば数を減らしたくはない。勝手なお願いだと承知しているが」


「ハンサムリクエストだ」


「聞きたくなくなるわ」


「せめて、せめてそのふざけた男の首だけでももらっていくぞ!!」


 どこにそんな力が残っていたのか、光速の二百倍で、ただひたすらまっすぐに俺に突進してきた。


「それが、どうした!」


 俺の拳と二神の武器が、同時にアンタイオスを貫いていた。


「これでいい。闘争の中で、死するのみ」


 光の粒子となり、その存在は完全に消えた。

 これでこの場は片付いたが。


「話してもらうぞ。もう無関係じゃない。シルフィが狙われた」


「わかった。ひとまず城へ戻るぞ」


 さてどんなとんでも事情が飛び出すかね。

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