昼ごはんと謎の刺客

 いつもの四人プラスルルアンクさんで屋台飯だ。

 人が多いが場所も広い。全員で座れるスペースを見つけて食い始める。

 俺は白身魚のフライサンドという、なんかソースかかったやつ。


「フライがさくさくしてやがるぜ……」


 ソースが油っぽさを消す酸っぱさ。タルタルに近いな。

 揚げたてのフライがさくさくで香ばしい。

 サンドが三個入りでボリュームあるのもポイント。


「そういうの好きだねー」


「悪くないぞ」


 シルフィとイロハは串に刺さったおでん。フウマ料理らしい。

 リリアは果物にシロップとアイスがトッピングされているデザートだ。


「うむ、よいものじゃ。果物が新鮮じゃな」


 紙の器に一口サイズの果物が盛られている。俺だけならまず選ばないな。


「そういうチョイスもありか」


「おぬしは主食に発想が行くじゃろ」


「そうだねー、なんとなくそっちに行くよね」


「お前らもおでんだろ。っていうかよくあったなそんなの」


 フルムーンとフウマの親交の厚さからだろうか。

 王都にはフウマの店もある。それは飯屋に限ったことではない。

 秘伝は隠しつつ店をやっているものもいる。


「ほれ、ちょっと分けてやるのじゃ」


「人前ではやめろ」


 りんごっぽいのが刺さった串を向けてくる。

 味は気になるが、誰かに見られるだろ。


「むうー、リリアばっかりずるい」


「ちょっと不公平よ」


 二人から不満の声が出ている。まあリリアばかり得をするのもな。

 これを得と考えてしまう俺の思考も毒されている気がする。


「仕方ないのう。では四人で食べたらよいじゃろ」


 中央に四人分の串とともに器が置かれる。

 これなら全員で食えるな。


「じゃあリリアにちょっとおでんあげる」


「いただくのじゃ」


 シルフィがリリアにあーんしている。

 ここは素直に引き下がってくれた。

 あまりこういう場で長く揉めたりする連中じゃないからね。

 そのへん常識と応用力あって助かっているよ。


「甘い……けど上品な方の甘さだな」


 くどさとしつこさがない。それでいて素材の香りと食感は維持されている。


「いいわね。こういう時間も好きよ」


「ああ、こうしてだらだら四人で飯を……ルルさんどこいった?」


 完全に和んでいたが、ルルさんがどこにもいない。

 突然消えるんだけど、怪現象かあの人は。


「あそこじゃよ」


「なにやってんだあの人は」


 子どもたちの前でバイオリン片手に歌っている。変装も解いているようだ。

 なんかギャラリーでき始めているが、歌がゆったりした子供向けっぽいので騒がしくはない。


「あっ、お母さん!!」


 その中の子どもが母親を見つけて駆け寄っていく。


「もう、勝手に行っちゃダメって言ったでしょう!」


「ごめんなさい……」


「ヌハハハ!! もうはぐれちゃダメですよ!」


 どうやら迷子だったらしい。母親に叱られつつも安心しているようだ。


「ありがとうヒゲのおじさん!」


「ありがとうございました!!」


「ヌハハハハ! ではさらば!」


 また消えた。そして変装したルルさんが横に座っている。

 そのケチャップ多めのホットドッグはいつ買ったんですか。


「迷子の相手をしておったのか」


「ええ、泣きそうになってましたので、子どもが喜ぶ歌をと」


「ガキが集まれば、そこに母親も来るかもと」


「そういうことです。国民が泣いているのは見過ごせませんからねえ」


 なるほど、うまいことやるもんだ。咄嗟の機転も利くし、歌のチョイスまで考えての行動か。


「歌は素晴らしいですよ。喜怒哀楽すべてがある。すべてを伝えられて、共有できる」


「こういう人が騎士団長だと安心だよね」


「ヌハハハハ! いやあ嬉しいですねえ!」


 安心感を与えつつ、とてつもなく強いか。面白い。

 国民を守る象徴としては、かなりいい部類だろう。


「あーこんなところにいたのー」


 フィオナさんが来た。帽子と普通の服で招待を隠している。

 やはり有名人は大変なんだろうか。

 どの程度顔が知られているのかわからん。


「ルル、団員がライブの打ち合わせするって待ってるの」


「ソーリー、スチューデンツ……これはいけませんねえ。姫、私は行かねばなりません。フィオナ、ここは」


「任されたの。団員待ってるから、急いであげるの」


「ええ、それではみなさま、失礼いたします」


 また音もなく消えた。最後まで破天荒な人だったな。


「さて、次どうするかね。城に戻るか?」


「りんご飴食べ終わるまで待って欲しいの」


 なぜ目を放すと食事に入るんだろうこの方々は。


「暇なの? じゃあ手合わせするの!」


「だってさシルフィ」


「真っ先に自分を外してきたの……」


「俺は一般人です」


 提案は断っておきましょう。手加減はされるだろうが、それでもきつい。

 なぜ最上位と戦わなければならんのか。


「魔法の才能があるって聞いたの!」


「高等部一年に多少才能があったからって、現役騎士団長と戦えるわけないでしょう」


「じゃあ軽く歩くの。食後の運動なのー」


 りんご飴は食い切ったらしい。全員特に異論はないので従っておこう。

 適当に散歩するだけで、王都の広さと発展度を見せつけられる。


「なにかおるのう」


「騎士団長相手にいい度胸なの」


 自然公園のような場所に来た瞬間、フィオナさんがシルフィの前に立つ。


「人払いに使う結界ね」


「姫様、私のうしろにいてくださいなの」


 そこでようやく理解した。周囲に人影がない。来た道にもだ。

 あるのは道と草と木、あとは遠くに噴水が見える。


「どうする?」


「とりあえず理由を聞いておくの。そこにいるのはわかっているの!」


 ゆらゆらと景色が乱れ、そこから神官のような服を着た誰かが現れる。

 男女の区別がつかないよう、フードを被って仮面をした三人組だ。


「どちらさまなの?」


 返答の代わりに魔力が高まっていく。戦うつもりなのか。


「これは騎士団長フィオナと知っての狼藉なのー?」


 一人の姿が消えた。速いな。音速を超えているだろう。


「アドバイスしてあげるの」


 金属がぶつかり合う音と、何かが切れる音が続き、遙か先にフードの一人が落ちていく。


「その程度の腕で、騎士団に勝負を挑んじゃいけないの」


 一連の動作全てが完全に見えなかった。そもそもフィオナさんが動いているシーンを見ていない。光速なのか術なのかも謎だ。


「わしらはどうするんじゃ?」


「シルフィの護衛を最優先する」


 この場で狙ってくるのなら、一番可能性が高いのはシルフィだ。

 俺とリリアに襲われる理由はない。イロハもほぼありえないだろう。

 むしろシルフィを狙う理由がわからん。


「せめて目的くらい話すの! いきなり襲ってくるなんてひどいの!」


 フード集団から感じる魔力がさらに増す。騎士団長に勝てる算段があるということだろうか。


「あやつら人間ではないのう」


「またそういうパターンかよ」


 傷ついたフードマンも回復したらしい。今度は三人同時に来るな。


「姫に触れさせるわけにはいかないの。キラキラ奥義、無限光路!」


 煌めく光の道と星が、周囲を明るく照らす。なんともファンタジックだな。


「話す気がないならそれでいいの。捕まえて、意地でも話させるだけなの!」


 攻撃魔法の山がこちらへ飛んでくる。撃ち落とすには数が多い。


「安心していいの」


 魔法はすべて軌道を変え、敵に戻っていく。

 避けようとする敵の脚が突然切り裂かれ、大きく体勢を崩した。


「光に触れたものの道は私が決める。魔法でも斬撃でも事象でも、完全な形で保存して、好きな場所へと運ぶ」


 敵の攻撃が跳ね返り、そこへフィオナさんの光速斬撃も混ざる。

 ほぼ見切れないだろう。軌道がいくらでも変わるのだ。着弾直前まで読めない。


「諦めて白状するのー。目的はなんなの?」


 フードの一人が口から大量に何かを吐き出した。

 光に触れると、くっついて光を阻む。


「なにこれ……光が重いのー!?」


「糸じゃな。糸を吐き出せるタイプじゃ」


「化け物だな」


 空中にも糸が伸びている。なんか面倒なことになってきたな。


「あんまり抵抗しないで欲しいの。でないと」


 糸を光が焼き尽くし、さらなる斬撃がフードへと飛ぶ。


「アアアァァァ!?」


 初めて敵の絶叫が聞こえた。声を出すことはできるのか。


「ほーら手加減できなくなっちゃうの」


 それほど心配はないらしい。騎士団長ってのは化け物くらいじゃ動じないのね。


「ガアアアァァァ!!」


 フードの下から女の上半身と、蜘蛛の下半身が出てきた。

 いやいやおかしいだろ。隠しきれないってあれ。


「どう考えても蜘蛛部分だけで2メートルあるだろあいつ」


「不思議収納じゃな」


「みんなのんびりし過ぎなのー! もっと緊張感もつの!」


 敵がそもそも強そうじゃないんだよ。明確な優劣は知らんが、リリアの勝てない相手じゃないだろう。最悪鎧で瞬殺すればいい。


「応援しています」


「がんばってフィオナ!」


「いいぞいいぞー。その調子じゃー」


「ものっすごい気持ちを感じないの……」


 糸と炎が巻き上がり、俺たちを囲む。


「無駄だって理解して欲しいの」


 全部光に流され、敵へと戻っていく。相性ゲーだこれ。

 爆風が晴れると、敵が誰もいない。


「一匹強いの混じっとるから注意じゃ」


「了解」


「リリアちゃんはどうしてわかるのー?」


「学園の優等生だからじゃ」


 納得しているようないないような顔のフィオナさん。

 まあ学園のネームバリュー凄いよねってことで。


「はいはい、そことそこなの」


 フィオナさんが三人に増え、敵と切り合いを始める。

 多彩だなこの人も。騎士団長の技が一個ってわけはないか。


「はいじゃあこの場を離れるの。この私についてくるのー」


 さらにフィオナさんが増えたよ。

 そして敵も増える。背後からシルフィを狙って来た。


「姫様!!」


 明らかにこいつだけスペックが高い。四人目のフィオナさんが押し負けている。


「逃げて姫様!!」


 光の道を踏み荒らし、爆炎と暴風であたりを包みだす。迷惑だよ馬鹿野郎。


「おぬしの出番じゃよ」


「はいはい」


『ミラージュ』


『ヒーロー!』


 さっさと潰すか。

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