図書館行ってダンディに出会う

 用意された自室で仮眠とって、起きて晩飯食って、また寝て翌日。

 今日は魔導院と図書館に行く予定の日だ。


「しかし眠い」


 ベッドから抜け出せない。これはきっとこの星の重力が俺を縛り付けているのだ。


「昼からでいいな」


「もうすぐ昼じゃろ」


 リリアが横で寝ている。相変わらずいつ来たのかわからん。


「しかし、そろそろ起きねば図書館が閉まるぞ」


「そうか閉館時間とかあるのか」


「うむ、まだ十時じゃ。ちゃっちゃと準備するのじゃ」


 魔法でぱぱっと着替えさせてもらい、とりあえずベッドから出る。

 ちくしょう眠いぞ。


「ええいやっぱりここかー!」


 シルフィとイロハが入ってきた。元気だなこいつら。


「そうなる予感はしていたわ」


「いつまでもくっつかないの。おでかけするよ!」


「わかったよ……とりあえず外に行くか」


 新しい魔法のために、学園にはない本を読んでおく。

 まだ浮かばない魔法名を確立させたいのだ。


「終わったらそっちの要望を聞こう。行きたい場所を考えておけ。無茶は言うな」


「りょうかーい」


「四人で楽しめる場所がいいわね」


 俺ばかりもあれなので、こいつらの行きたい場所も聞いておく。

 王都はめっちゃ広いからな。娯楽施設も豊富だ。

 だが今は図書館に行く。城を出て、そこそこ歩けば到着だ。


「でかいな……」


「そら王都の国立図書館じゃ。規模もおかしくなるじゃろ」


 アホほどでかい。西洋風の建物だが、これはちょっとした城だぞ。

 人通りも多いが、まず道が広い。

 石畳で整備され、植木も丁寧に切りそろえられている。


「よし、とりあえず行こう。バレるなよ」


 シルフィは帽子。イロハはいつものパーカーを被る。

 顔バレするとめんどいのだ。送迎の馬車とかを使わないのはこのため。


「へーきへーき」


「ぬかりはないわ」


 はい内装が宮殿だよ。下品さはなく、美術品があるわけでもないが、気品と清潔さにあふれている。


「おー……いい感じだ」


「ほどほどに通いやすい上品さじゃな」


「カウンターはこっちだよー」


 カード作って、魔法の本を選び、とりあえず個室を借りる。

 個室のクオリティがおかしい。少し狭いが来賓室みたい。


「やばいなこれは……」


「変な人が住み着かないよう、管理が徹底されているし、騎士団が常駐しているわ」


「そら住みたくもなるわな」


 そこはしっかりセキュリティがあるらしい。

 王都で悪さなどするのは自殺行為なのだ。


「うーむ……無いな。これはもう伝記とかになるのか?」


 ソファーでゆったりと読書。

 色々と本を借りたが、どうもお目当てのものがない。

 おとぎ話とか、偉人伝説とかを考慮する必要が出てくるかも。


「ライジングギアとインフィニティヴォイドについてよね?」


「ああ、正確には人体を雷化する方法とか、発展型なんだけど」


「そら簡単には見つからんじゃろ」


 リリアが呆れ顔である。やれやれみたいな顔が妙に似合うなこいつ。


「希少なのか? モッケイも似たようなことができただろ?」


「ハードルが猛烈に高いのよ。本来高等魔法だもの」


「よいか、おぬしの要求を満たすということは、まず雷属性というレア属性で」


「人体を染め上げるくらい高密度で変換できて」


「他人に教えられるくらいの達人でなければいけないわ」


 めっさハードル高いやん。

 モッケイも基礎と応用を教えてくれたが、水と雷では差異があった。


「フルムーンでも珍しいのか?」


「ただ少し雷が使えるっていうだけならいると思うよ。けどメインで、しかも戦闘用に才能とセンスがあって、アジュと同じことができるとなると……」


 申し訳無さそうに悩んでいるシルフィを見ると、本当に見つけるのが困難だとわかる。


「イロハの影みたいには無理か?」


「根本的に違うわ。アジュ本人の魔力と、フェンリルの力じゃ別物よ」


 神の力であり、コントロール方法からして魔力とは別らしい。


「フウマの血筋からくるもので、ある程度は伝承されているわ。忍術もそう。そういう環境よ」


「仕方がない。なら魔法の応用でも考えるか。別の本も探さないとな」


「じゃあ持ってきてあげる。アジュが読まないようなやつ」


「なるほど。無意識に外しているかもしれんわけじゃ」


 どうしても個人の好みと判断というのは偏る。

 他人に探してもらうのは悪くない。


「よし、じゃあシルフィとイロハに頼む。二人で行ってくれ。はぐれるなよ」


「はーい!」


「任されたわ」


 やる気を見せて、楽しそうに部屋を出ていく二人。

 さて、今のうちに残りの本を読んでおこう。


「……やはりザトーさんに頼るしか無いのか」


 当然だが文献が少ない。なぜなら難易度は高いが微妙だから。


「これが神も魔法もない世界なら脅威だが」


「こっちの超人は事象や概念を斬れるものがおる」


 そう、それがネックだ。凡人相手なら超有利だが、神の絶大な魔力と神力の前では、普通に傷つけられてもおかしくない。

 そのため超人達人は、強化魔法か必殺技に偏っていく。


「それでも解説できる人がいれば、まあラッキーだな」


「おそらく出てくるのはトールじゃろ」


「トール……あのハンマー持っていた神か」


 ダンディでマッチョなおじさまだったかな。

 雷神とか聞いたので、出てくるなら納得だ。


「そういやラグナロクで詳細聞けないまま終わったな」


「それも込みで願い出ている可能性大じゃ。律儀で真面目な神じゃからのう」


「悪い人じゃなさそうだったな」


 俺にハンマー貸してくれたし、あれで精度が上がったし、次のビジョンも見えた。

 純粋に感謝しているよ。


「自己の研鑽に時間を使うタイプじゃ。ストイックかつ仕事にも真面目なんじゃよ」


「なるほどねえ。期待しておこう」


 期待した内容ではないが、ここの本は質がいい。

 魔法の種類や使い方、応用法などが図入りで書かれている。


「できそうなものはあるかの?」


「難しいな。ほぼ自分でできることは試した。ここからは未知の発想か、威力と精度を上げる形が増えていくだろう」


「より細く小さく便利に……家電みたいじゃな」


「電化製品か。そこまで便利にはなれんな」


「本持ってきたよー」


 想定より早く来た。俺が選びそうにない専門書や、英雄の本か。

 悪くないチョイスだ。


「よくやった。早いとこ読み切っちまおう」


 そこから静かに読書タイム。剣術の指南書とかも混ざっていた。

 長巻に使えるものもあるだろうし、覚えておこうかな。


「もう時間じゃな」


 四冊読み切ったところで時間が来た。

 やはり静かな時間はいいものだ。こういうの大切にしていこう。


「よし、何か食いに行こう」


「なにか軽いもので、高くないといいわね」


「任せる。土地勘を活かせ」


「おまかせ!」


 シルフィとイロハに任せよう。

 本を返却し、図書館を出て歩く。

 どうやら屋台の集まる場所があるらしい。


「ほー……広いな」


 演劇でもやるのだろうか、舞台まである。


「あれは楽団や芸人がショーをやる場所よ。今日もなにかやっているみたい」


 ピアノと歌声が聞こえる。客がつられて歌っているが、そういうのありな場所らしい。


「めっちゃ歌っている人がいる……」


 綺麗な白髪オールバックで、左右にピンと伸びたひげがダンディながらも、どこかコメディチックなおじさまである。黒いスーツが似合っているぞ。


「うまいもんだな……」


「歌声といい演奏といい、間違いなく一流じゃな」


 しばらく立ち止まって聞いていた。やがて演奏を終え、歓声と拍手の中で退場していった。


「フルムーンはなんでもクオリティ高いのか」


「あの人がうまいんじゃろ」


「お楽しみいただけました?」


「うおっ!?」


 いきなり横にいた。帽子と眼鏡で変装しちゃいるが、間違いなく歌っていた人だ。


「楽しかったです。ルルさん」


「いつ聞いても素敵な歌ですね」


「知り合いかい」


 どうもシルフィとイロハは知っているらしい。


「お初にお目にかかります。フルムーン第十騎士団団長、人呼んで戦闘楽聖ルルアンクでございます」


 団長かよこの人。ということはさっきの光速移動だな。


「あらら……わたし目立ってたみたい」


「いえいえ、姫と一緒に黒髪黒目の男性がいらっしゃると聞きまして、一発でしたよ!」


「俺かい」


 目印俺かよ。そうか、周囲の人に一切黒髪がいない。なるほどわかりやすい。


「黒髪の勇者。いいですねえ。一曲作ってもよろしいですか?」


「えぇ……」


「ヌハハハハ!! 不審者すぎるわたくし! 失礼千万でした!」


 キャラがつかめない。なんなのそのテンションは。


「これからお食事ですか?」


「ええまあ」


「軽く食べたいけれど、屋台が多く悩む。それでいて小腹はきっちり満たしたいとお考えですね」


「その通りじゃな」


「ご案内しましょう! ヌハハハ!」


 信じていいのだろうか。騎士団長なんだから、姫を危険にはさらさないだろうし、地元民だよな。従ってみるか。

 ギルメンもその方向でいいっぽい顔だ。


「じゃあお願いします」


「お願いされちゃいました! いやあどこ行きましょうかね」


「まさかのノープランですか」


「いいえいいえ、もうすぐですよー」


 ついたのは、机と椅子が多く設置されたスペースだ。

 周囲には串焼きから麺類まである。スタンダードな屋台だな。


「やはり海鮮焼きそばですねえ。いつ食べてもグッド!」


 ルルさんが既に焼きそば食っている。完全に行動が見えないし読めない。


「わいはこれが食いたかったんやで!!」


 ルルさんがうるさい。口調が変わる理由は何だよ。


「俺たちも行ってきていいですか?」


「よろしおすえ!!」


 ルルさんがうるさい。どういうテンションで食事してんだ。


「……行くぞ」


「あはは……」


「初見であの人は戸惑っても仕方がないわ」


「愉快な人じゃな」


 とりあえず飯だ。食って忘れるべし。

 幸いどれもうまそうだ。期待しようじゃないか。

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