俺VSフルムーン一家

 突然神の映像が出現、ルールが書かれた本を置いて消えた。


「めんどい……どうして無駄にトラブル起こすんだよ」


「ハンサム面目ない。神というのは我が強いのだ」


 ルールの要点をかいつまんで、ホワイトボードに書いてもらった。


「まずは集団戦か……」


「集団戦は兵士を巻き込んだもの。ちょうど私とアジュくんがやった模擬戦みたいなものね」


「戦闘すべてでフルムーンの王族を出せとも書いてある」


「おそらく私とサクラかシルフィになる」


 ジェクトさんでも神が相手は厳しい気もするが、まあその三人だよな。

 敵の戦力がわからんのが一番困る。


「準備期間は三日。三日後に始めるとのことだ」


「誕生日どうするんだよ?」


「三日で終わらせないといかんのう」


「なんて迷惑な……」


 よりによってこのタイミングで来るなよ……もっとこう何年か後でもいいだろ。


「すべてはフルムーンを治めるに値するかという試練。ならば我々騎士団の力を見せつければいいのです」


「俺がでしゃばるのはまずいな」


「おおっぴらに活躍してもいかんしのう」


 小声でリリアと相談する。ギャラリーがどれだけいるか想像もつかんからな。

 あまり大活躍して、存在が知れ渡るのはきつい。


「赤い鎧で、解決フルムーン仮面とか名乗るか?」


「センスゼロじゃな……」


 名前は馬鹿っぽい方が侮ってもらえそうじゃない?

 そういうの加味しています。


「アジュくんには秘密兵器でいてもらいましょう」


「問題は他にもあります。すごく強い部外者じゃ、敵が納得しない」


「どういうことです?」


「たとえば超強い知り合いがいたとして、全部に出場して、全員ぶっ飛ばしてもだめなんです。フルムーンが強国であるという証明にならない」


「なるほど。ハンサム納得だ」


「っていうかその人は全員倒せるの前提なのー?」


「まあルールにもよりますけど」


 普通に倒せばいいなら、おそらく神の軍勢だろうといける。

 問題はそこじゃないのだ。俺の存在はフルムーンの戦力にカウントしていいのかどうか。


「大至急他の騎士団長を集める。ただし国土防衛と治安維持もあるから、全員は無理だろう」


「いっそアジュも正式にフルムーンの身内に!」


「絶対にやめろ。この状況でそんなん大パニックになるだろうが」


 国民と騎士団の気持ちを考えろ。俺は見ず知らずの一般人だぞ。


「うむ、どこかの国だけ身内になるのはずるいじゃろ」


「そこじゃねえって。とにかく対策とりゃいいんだろ」


「どうするの?」


「この戦いの原因と、そこまでの経緯がわからん。正式な勝負を仕掛けてくるってことと、アンタイオスが来たことにもなんかこう……いまいち心の整合性が取れん。ポセイドンたちにフルムーンのことを調べてもらおう」


 単純に尖兵であり、威力偵察の可能性もある。

 そこも含めてはっきりさせておこう。


「できるのですか?」


「もう少しこっち側の神を増やして、情報を整理してから発表してくれ。主観だけでどうこうするのはまずい」


「じゃな。わしもご先祖様は謎が多くてのう。解説ができぬ」


「ならばできるだけの兵を集め、三日後に備えておくか」


 そんなわけで各自武器と兵の用意をして待つ。

 三日後に備え、神は情報収集を、騎士団長は戦の準備をする。

 それでこの場は解散となった。


「ここからだな」


「私たちはどう動くべきかしら」


「城でおとなしくしているのがベストじゃろ」


 今も部屋へ帰っておとなしくするために廊下を歩く。

 俺は今の所部外者だ。外へ出て目立つ意味もない。

 またシルフィが狙われるかもしれんので、護衛も兼ねる。


「ここにいたか。探したぞ」


「お父様?」


 ジェクトさんだ。王の服装ではない。軽く武装していらっしゃる。


「サカガミくん」


「なんですか?」


「我々と手合わせを願いたい」


「…………はい?」


 そして何やら特殊で広い施設にいる。

 全方位が白い壁で、大規模な闘技場のような広さである。

 かなり上にレイナさんとギルメンが見学する場所があった。


「ここは戦闘を記録・計測するトレーニングルームよ」


「また妙なもんを……」


 ジェクトさん、サクラさん、シルフィが俺の前に立つ。

 いやいやどうしてこうなった。


「フルムーンの驚異的な技術力を、秘密裏に結集させた」


「あの……俺はどうして呼ばれたのですか?」


「手合わせをして欲しい」


「俺は弱い一般人です」


 もう意味がわからん。なぜ俺を選んだ。騎士団長でええやん。


「私たちに稽古をつけて欲しいのよ」


「要求が異次元過ぎませんかね?」


 専門家に頼めそんなもん。よりによって俺を選ぶな。


「騎士団長にはそれぞれ役割がある。それを邪魔するわけにはいかない」


「それに戦闘シーンを見せちゃいけないでしょう?」


「君が強いといっても、自分たちを凌ぐほどとも思ってはいない」


「それはありがたいですが」


 なるほど、人払いはそのためか。気を遣ってくれているのだろう。


「我々が全力を出し、怪我すら負わずに訓練になる人材など、神以外にはおらんのだ」


「そう言われましても……期限は三日ですよ? それで急激なパワーアップは難しいでしょう」


 戦闘スタイルも違うし、必殺技を教えられるわけでもない。

 俺にできることとは思えないわけだ。


「ならばできる限りを尽くす」


「国の未来がかかっているの。だから自分たちの限界を知っておきたいのよ」


「わたしは絶対に出なきゃいけない。なら精一杯をぶつけたい。アジュの仲間として恥ずかしくないように」


『ここは関係者の許可無く侵入はできないわ。お願いできないかしら?』


 王族四人に頼まれる。俺が全試合で暴れることはできないから、少しでも強化イベント挟むしかないのは事実だ。仕方がないな。


「強くなれる保証はしませんからね」


「ありがとアジュ」


 城にいる間の衣食住の礼くらいはするか。


『シルフィ!』


 久々のシルフィキーである。これなら顔が隠れているので、俺だと気付かれまい。


「いくよ!」


 シルフィとサクラさんが消える。時間をすっ飛ばしたか。


「便利だなその力」


 背後から来る気配に手を伸ばし、二人の剣を掴む。

 それは想定されていたのか、すぐに手を放して新しい剣で切りつけてくる。


「無限に出せる武器ってのも楽でいいな」


 両者光速は突破しているな。斬撃を避けつつ、時折拳で弾き飛ばしてみる。

 っていうかサクラさんかなり強い? 剣に無駄がないし、剛剣と柔剣で切り替えてくるし、戦闘なれしているようだ。


「忘れてるでしょ? 騎士科主席卒業よ、私」


「そういやそうでしたね」


「姉さまは団長未満隊長以上と言われています!」


「なるほど……団長は別格なのね」


「あれはもう人間の領域じゃないわ」


 主席でも団長は狙えないと。ずいぶんと高い壁だな。

 だからこそ国は守られているのかも。


「せえええい!!」


「お話はここまでよ!」


 姉妹の剣技はとても似ている。同じ流派だからだろうな。

 使う魔法も似ている。こういうの血筋なんだろうか。

 そういうの俺にはさっぱりだ。


「アジュもちゃんと攻撃する!」


「そう言われてもな」


 あまり傷つけたいわけでもない。シルフィの身体に足を引っ掛けて、遠くまでぶん投げる。


「甘いよ!」


 自分の投げられた時間を消して、その場で攻撃してきた。

 判断力もあるな。数発ストレートを打ち込み、剣で防御させよう。

 その間にサクラさんに魔力波を打ち込む。


「時間が……飛ばしきれない!?」


「ある程度からは復元に時間がかかります。圧倒的な力で阻害されるので」


「そういうこと! まだまだいくよ!」


 シルフィの方が順応している。これは神話生物との戦闘経験の差だろう。

 激戦で自分より上の存在との戦い方を学びつつあるのだ。


「合わせてシルフィ」


「オッケー!」


 本気になったな。シルフィが俺の時間を遅らせ、可能なら止める係。

 サクラさんは細々と攻撃しながら、脚に力を集めている。


「いくわよ! 必殺! サクラキイイィィィック!!」


 天高く飛んだサクラさんは、なんか知らんが必殺キックをかましてきた。

 とりあえず俺も回し蹴りで迎撃する。


「覚えているかしら?」


「あー……ノアの時に俺がやったやつか」


 魔力の暴風の中で、ぼんやり思い出せた。

 サクラさんに化けたやつだ。必殺キックとかやった記憶がある。


「使えるようになってみたわ!」


「その情熱は受け止めきれません」


「ダブルフルムーンキイイイック!!」


 シルフィも飛んでくる。遊び始めていないかね。


「フルムーンキック返し!」


 同時に蹴り込み、こっちも時間をいじる。


「時間が……戻される!?」


 蹴った場所から侵食し、シルフィを上空へと戻す。

 この効果はサクラさんにもつけた。


「クロノスの力が押し戻されるなんて……」


「そこでしばらく休んでろ」


 壁際まで蹴り込んでおく。命に別条はないし、大怪我もしないだろう。中央へ戻る。


「選手交代かな?」


 王様が長い刀とでっかいメイスで立ちはだかった。

 それ標準装備なんですね。ラグナロクで見たけど。


「ちぇえりゃああぁぁ!!」


 尋常じゃない力押しだ。大地が震えて割れていく。

 どうやって出したパワーだよこれ。


「もういっちょう!!」


 さらに追加で衝撃が来る。明らかに一発で二撃来たな。


「時間の固着か」


「正解だ」


 攻撃の瞬間の重さや衝撃を記録して、次の攻撃で同時に開放する。

 そうすると単純に二倍の攻撃力になる。

 攻撃した時間を止めて保存し、何十にも重ねて撃ち出すわけだ。


「さすがは国王。戦い方が洗練されている」


「年の功さ。長年使ってきた力だからね」


 今の攻撃は四連撃だった。つまり次は五連撃になるな。

 俺も真似してみるか。メイスへ拳を合わせて衝撃を送る。

 あとはいいタイミングで連撃にして破壊し、隙を作るだけ。


「甘いぞ!」


 素早く武器を手放し、俺へと接近してくる。

 そのはるか後方では、何重にもふっ飛ばされて砕けるメイスがあった。


「うーわ、読まれるか」


「言っただろう、年の功だよ」


 もちろんメイスは新品が握られている。普通の対人戦ならすげえ厄介だな。


「娘とはどうだね? どこまでいった?」


「普通ですよ。ギルメンとして頼りにしています」


 急によくわからん話題振られた。俺がそんなもんに対応できると思わないで欲しい。


「君にはとてつもない恩がある。国が今も平和なのは、君の協力が大きい。だからこう、父親として複雑なのだ」


「ご安心を。決して手は出しません」


「それはそれで不安でな」


「すみません。俺はそういう気持ちがわかりません」


 シルフィを心配しているのだろう。娘を心配する親ってこういう感じなのかね。


「とりあえず大切にはしています」


「そうか、これからも娘を頼む」


「できる限り守ります」


 猛攻は続いているが、会話できる余裕はあるらしい。

 神には届かないが、人間の達人超人ができる付与なしのパワーならかなり上だろう。


「では小細工でもしてみましょうか」


 左手から加速する時間を、右手から遅くなった時間を放出。波紋のように混ざり合って流れていく。


「むっ、これは」


 速く動けたと思ったら、突然遅くなる。ほぼランダムな波長もできて緩急自在。

 体のバランスを狂わせるのだ。


「よく思いつくものだ」


「小細工が好きなもので。参考になればなと」


「ならばこういうのはどうかね?」


 時間の波紋が届かない。全身を魔力と時間のスーツで覆っているようなものか。


「とことんパワーで押しますね」


「シンプルさとは強さだよ」


 面白い。どこまでできるか参考にさせてもらおう。

 こちらから近づき、正面から乱打戦に持ち込んだ。


「フッフッフッフ! まだまだ!!」


 超高速の攻防は続き、それでも汗すらかかないのは見事だ。


「クロノス! トゥルーエンゲージ!」


 未来を変える斬撃が飛んでくる。

 殴れば改変も潰せるが、シルフィは本気で鍛えて欲しいらしい。


「ここからもっと強くなるよ!」


「いいだろう。もう少し強めにやってやる」


 できる限りはしてやろう。今度の戦いで怪我でもされたら困るからな。

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