騎士団長があらわれた

 チャーハン食って中庭で食休み中。のんびりした空気である。

 いやあいいですな。このままだらだらしていたい。


「失礼いたします」


「こちらにシルフィ様と見学の方がいらっしゃると聞き、ご挨拶に参りましたのー」


 高そうな鎧を着た男と、独特の鎧を着た女だ。

 鎧が正規兵のものじゃないな。特別な地位にいるのだろうか。

 こちらを見つけると、シルフィの前で片膝をついて礼をする両者。


「お久しぶりです。第六騎士団長リュート、ご挨拶に参りました」


 綺麗なグリーンの短髪で、高身長のイケメンだ。クールな仕事人というイメージが有る。


「同じく第九騎士団長フィオナ。ご挨拶に参りましたの。お元気そうで何よりですのー」


 白くてふわふわした長い髪の、明るい雰囲気の女性。

 鎧とドレスの中間みたいな服で、おそらくおしゃれと高貴さを出しているのだろう。


「シルフィ様、少々気が早いですが、お誕生日おめでとうございます!」


「おめでとうございますー!」


 両方とも若く見える。どう高く見積もっても二十代後半くらいだ。

 なのに最強の十七人とは、世の中わからんものだな。


「ありがとう。二人とも顔をあげなさい。騎士団長の忠誠、フルムーンの名を冠する者として、頼もしく思います」


 お姫様モードなので、そっとしておこう。邪魔になるからね。

 ああやっていると威厳とか出るんだなあシルフィ。


「もったいないお言葉です」


「その変わらぬ忠誠と、国への愛があれば、フルムーンはあと千年は栄えるでしょう」


「千年でも万年でもお守りしますの!」


「難しい話はここまで。久しぶりフィオナ」


「姫様ー! すくすく育って嬉しいのー!」


 どうも友人のような接し方だな。公私は分けているようだが、歳も違うだろうに、どういうことだ。


「フィオナさんはシルフィの、なんていうか……お友達? みたいな人よ」


「お友達なの! イロハ様もなの!」


「はしたないぞフィオナ。同盟国とはいえ、フウマの姫になんて態度だ」


「お構いなく。私は気にしませんので」


「ちゃんと騎士団長する時はするの! そういえば……そっちのお二人は?」


 どうやらこちらに興味が湧いたらしい。

 王族に紛れて知らない一般人がいるんだ。そうもなる。


「アジュ・サカガミです」


「リリア・ルーンですじゃ」


「同じギルドのお友達です!」


「おぉー! 姫様のお友達なの!」


 テンション高いなこの人。俺と合わない気がする。合う人とか本来いないけども。


「勉強不足で申し訳ありません。もしや王族の方々では?」


「俺は普通の一般人です。学園のギルドが同じだけで」


「学園の職場見学に乗じて、お誕生日会に来たわけじゃな」


「ちょうどいいの!」


 何がちょうどいいんだ。なんか怖いぞ。厄介事かこれ。

 リュートさんも何やら真剣に考えている。


「なるほど……姫様の御学友に、無礼を承知で申し上げます」


「なんですか?」


「模擬戦の指揮官をやっていただきたい」


 本格的に意味がわからなかった。


「演習が始まります。よろしければぜひ!」


「いやぜひと言われましても素人なんですが」


「だからなの! とりあえず行ってみるの! さあさあ!!」


 まったく意味がわからんまま、なぜか全員で移動。説明をくれ。


「さあ張り切っていくぞおおおぉぉぉ!!」


「オオオォォォ!!」


 はい大規模演習場へとやって来ました。どうして?

 すげえ広いなここ。遠くに結界で作った半透明な壁が見える。

 完全に暴れることを前提とした場所だよ。


「状況そのいちいいぃぃぃ!! 味方指揮官が無能!!」


 リュートさんのテンションがおかしい。

 さっきまで物静かだが気高い大人の騎士という、クールで仕事のできるイケメンだったのに。


「我々は騎士! どれほど領主や指揮官が無能でも、脱走は許されない! ろくな指示が出ない状況でも、最善の結果を出し、できる限りの人命を守るが務め!!」


「どういう……ことだこれは」


「あははは……わたしもわかんない」


「難儀じゃな」


 四人とも一緒だが、もうよくわからん。空が青くて綺麗だなあ。


「というわけでお願いできませんでしょうか?」


「えー……いやいや完全に素人です。相当にみっともない負け方をすることになりますが……」


「むしろそれが狙いです。ここにいるのは、全員それを承知で志願したもの。いいかお前たち! 自分から来ておいて、後でうだうだ言うやつは! オレと一緒に王都百週だああぁぁ!!」


「オオオオオオオオ!!」


 盛り上がってんなあ。いや盛り上がるなよ。頼むから。


「リュートさん完全にキャラ違うだろ」


「あいつはオンオフが激しいのさ。手間かけちまうね」


 レイピアと槍を持った、でかい女性だ。身長190くらいか。

 筋肉もある。金髪ロングヘアーで、なんか……軍師? みたいな格好だ。

 戦闘向きじゃないと思う。袖とか長いし。帽子がそれっぽい。


「アカネのあねさん!」


 姉さんと呼ばれた人が認識された途端、団員全員がびしっと整列する。


「まったく……よりによって姫様の御学友に何頼んでんだい? お前さんはもっと礼儀ってものを考えて動きな」


「姉さんの言う通りです」


「アタシはアカネ。第六騎士団の軍師をやってるもんだ」


「軍師?」


 完全なる武闘派に見えるが、どうやら切れ者らしい。

 じゃなきゃここまで慕われていないか。


「似合わないだろう? アタシも前線が好きなんだがね」


「いえそんな」


 返し方がわからん。コミュ力とか皆無なんだよこっちは。


「フィオナの軍と模擬戦やるんだけどね、素人のめっちゃくちゃな指揮で、どこまでできるかの実験なんだよ」


「そこで俺ですか」


「あっちもド素人が指揮官やってるはずさ。レクリエーションってやつかね」


 かなり過激なレクリエーションだな。っていうか目立つだろこれ。


「シルフィ様、イロハ様、どうかお楽しみください。これより我らは修羅となります」


「修羅と楽しむは同居できるもんなんですか?」


「…………精一杯努力します。楽しく見られる修羅になってみせます」


 根が真面目なんだなリュートさん。思考が変な方向に全力ダッシュなだけで。


「編成は槍兵が千。騎馬兵が千。魔法兵が五百。今回は兵糧庫や衛生兵の概念なし。相手も兵種は同じ。ただしそれぞれの数は別だよ」


「かなりガチめに決まっておるのう」


「どうせなら楽しまないとねえ。ちなみに三種類必ずいる。最小単位は百人からだよ」


 つまり槍兵二千とか、魔法兵千もありか。悩むなこれ。


「これ団長クラスが突進してきたら詰みません?」


「団長は常に十人の歩兵と動く。こいつらが半分戦闘不能になったら負け。距離をとっても負け。負けたら自陣でおとなしくしてなきゃいけない」


 なるほど、団長同士の対決で終わることはないか。

 だいたい5メートル離れたらアウトらしい。短いな。


「騎兵が一番隊。槍兵が二番隊。魔法兵が三番隊だよ。フルムーンの騎士については知っているかい?」


「団長と軍師と隊長がいるくらいは」


「それだけわかっときゃあいいね」


「あねさんは適当ですね」


「毎回隊長に気を遣った指示出してくれるやつばっかじゃないんだよ。今回で勉強させたいんだ」


 ここで真剣に考えてみる。

 相手も素人指揮官だと思う。なら全員突撃してくれりゃいいが、びびって防衛戦をされると困るのだ。

 情報がないので思考も読めん。こりゃ運ゲーの要素強いな。


「敵が突っ込んできてくれたら楽だが……」


「あとアタシに聞くのはナシだよ」


「やっぱりですか」


「軍師がアドバイスしちまったら、無能指揮官じゃなくなっちまうだろう。あっちもアドバイス禁止だよ」


 だろうなあ。はじめからそんな気がしていた。


「よし、とりあえず、魔法兵が使える魔法と、槍兵や騎馬兵の装備が見たいです」


「うむ、懸命じゃな。まずは自軍を知るのじゃ」


「いいね。案内するよ」


 まず見てみないことには始まらない。

 ちと不安だが、最初から素人前提だ、どうせなら楽しんでみようじゃないか。

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