フルムーン到着と海鮮チャーハン
試験内容発表から数日。準備が整い、いざフルムーンへ。
期末試験のため、俺たち四人は久しぶりにシルフィの祖国へとやって来た。
移動中の窓の外は、相変わらずの活気ある美しい街並みである。
「到着です」
今回は正門から普通に入城した。メイドや執事、警備兵のみなさんが頭を下げている。
「やはり慣れん」
「わたしもあんまり慣れないよ」
「シルフィの場合は、強制というより好かれているのよ。自然とそうなるの」
「人徳じゃな」
前に来た書斎へと案内される。玉座の間じゃないんだな。
「失礼します」
「おかえりシルフィ」
正装をしたジェクトさんだ。王族特有の豪華かつ下品ではない服装の下から、戦士の筋肉が見え隠れしている。
「お父様!」
親子の会話に割って入らないよう待機だ。
すみっこでぼーっとしていよう。
少しして俺たちも話しかけられる。
「サカガミ殿もルーン殿も久しいな」
「お久しぶりです」
「ご無沙汰しております」
フレンドリーだが、あまり馴れ馴れしくしないでおこうね。
仲良しだと思われると、今後面倒だ。
「いやラグナロクで会ったね。無事で何よりだ」
「そちらもお元気そうでよかったです」
「はっはっは! まだまだ現役だ。堕天使やそこらの下っ端神には負けんよ」
虚勢じゃなく、マジで勝てるんだろうなこの人。王族って凄い。
「今回はシルフィの誕生日パーティーをやる予定だ。そちらの期末試験に合わせて、一週間後に開催だ」
うまいことスケジュールを合わせてくれたらしい。
フットワーク軽いな。有能すぎると、そういうことも可能なのか。
「それまで城内の設備は自由に使っていい。お望みなら稽古をつけてもらえるように手配した」
「わたしとイロハは、そっちで鍛えるんだよ」
「城の魔法に関する書物も読めるぞ」
「それはまた……助かりますが」
「いいのさ。実はこの国の恩人なのだから」
ちゃんと俺たちの強さは秘密にしてくれている。
また魔法が難しい分野に入ったから、少し読んでみたい。
「騎士団長や、各国からの招待客も来る。今年は盛大になるぞ!」
「去年は違ったんですか?」
「ああ、去年はまだ色々と問題があってな。どうも他国を呼ぶ気分じゃなかった。それでもフウマは呼んだが」
「私も同席したわ」
まだ問題抱えていた時期か。そういやひと悶着あったな。
「二人は目立たぬよう、そっといてくれればいい。あとでシルフィと四人の時間を作るよ」
「そこまでしていただかなくても……」
「いいんだよ。四人と家族だけで、こっそり二次会だ。そっちが本番よ! はっはっは!!」
ジェクトさんは豪快さの中にしっかりと気配りがある。
このへんが王としての器なのかもな。
「ではごゆっくり。今のうちに政務を片付けねばな」
「わかった。でもちゃんと休んでね」
「わかっとるわ。レイナは厨房だ。小腹がすいたら会いに行きなさい」
「はーい!」
そんなこんなで書斎を出た。積もる話もあるだろうと思ったが、意外とあっさりだな。
「しかし厨房か。料理でもしているのか?」
「お母様は何かを作るのが好きだからね。開発もお料理も一緒だってさ」
「ほー……行くか?」
「行ってみよっか。何か食べ物と飲み物をもらっておこうよ」
すぐに会いたいという雰囲気でもない。寂しさはないようだ。それだけ心にも家族にも余裕が生まれているのかもしれない。ならば尊重してやろう。
「有名人とか来そうだが、また騒動にならないだろうな」
「心配ないわ。騎士団長が集まるのよ。五人いれば小国を倒せるかもしれないわ」
「どんな化け物集団だよ」
歩きながら聞くには、ちょいとスケールがでかいな。
「それくらいの狭き門よ」
「よく考えたら、騎士団とかどうなっているのか知らんな」
他国のシステムってあんまり知る機会がないね。
「ここはシルフィの出番じゃな」
「わたし?」
「本家に任せたのじゃ」
解説を譲っているらしい。お姫様直々に解説してくれるとは豪華だな。
「よし、やってみる。まず今の騎士団は17部隊あります。トップにそれぞれ騎士団長がいて、団長に最低一人、専属で軍師さんがいます。これは決まりです」
「ほうほう」
「王都に常駐している部隊には、必ず1・2・3番の団長の誰かがいることが義務付けられています」
「1がいたら、あとは4から17のどれかでいいわけじゃな」
「そんな感じ。それぞれ役目があって、王都防衛とか、他の部隊に紛れて裏切り者やスパイを見つける部隊もあるよ」
聞いているだけで大変そうだ。きっと高い志とか、なんかしらの使命とか感じているのだろう。そういう人とは縁がない生活だな。
「団員ってのはどうなっている?」
「それぞれの中で、一番隊とか二番隊って分けられてるよ。第一騎士団の三番隊所属、とかね。少ないところは一番隊だけで、多ければ十番隊まであったり」
「よくまとめられるなそんなの」
「それ相応の才能と経験が必要じゃろ」
言うまでもないが俺にはできん。大勢をまとめるとか、本当に面倒だろう。
根気とかカリスマが必要だな。
「そうだね。中でも1から5の団長は、団長の中でもとてつもない天才で、超人・達人の中でもエリート以外がなることはできないって言われてる」
「わかりやすく言えば、超人のトップクラスよ」
それだけで確信できる。間違いなく光速を超えて、星とか砕ける連中だ。
「学園を優秀な成績で卒業した人でも、目指すのは隊長であって、団長じゃない。フルムーン団長っていうのは、この国の全員の中で最強の17人じゃなきゃいけない」
「最強ってジェクトさんよりもか?」
「うーん……お父様が負けるイメージはないけど、本気でやったらどっちもひどい怪我をするかな」
どうやら本当に化け物を超えた存在らしい。
「なるべく会いたくはないな」
「別に突然喧嘩売られたりしないよ? そういう人は団長になれません」
「だが嫌な予感がする……また神とか出てこないだろうな……」
「誕生日くらい素直に祝わせて欲しいわ」
いやだなあまた邪神とか出てきたら。なぜ外出すると神を殺すはめになるのだろう。はた迷惑な連中である。
「滅多に出てこないじゃろ。とりあえず今は城でのんびりするのじゃ」
「そうだな。小腹空いたし、何か食おう」
厨房が近づくと、何やらいい匂いがしてくる。
何か切っている音。鍋を振っている音。そして人の声。
どうやら誰かが使用中のようだ。レイナさんかな。
「ほっ! はい! ハンサアアァァム!!」
アホがチャーハン作っていた。
ポセイドンだ。あのハンサムと公言している、エプロンでチャーハン作っているアホは、海の神ポセイドンだよ。
「やっぱり神様ね。鍋振りも神々しいわ」
レイナさんもいた。うわあ、あの空間に入りたくない。
「むっ、いつぞやの!」
「見つかったー」
「待っていろ! 今ハンサム海鮮チャーハンができあがるところだ!」
こっちへの第一声がそれかい。自由だなお前は。
「お母様」
「あらシルフィ、おかえりなさい。今チャーハンができますよ」
「いやそんな一般的な家庭みたいなやり取りされましても」
「レイナ様、しばらくお世話になります」
「いいのよイロハちゃん。自宅だと思ってくつろいでね。サカガミくんもルーンちゃんも」
「お世話になります」
前にあった時よりも、なんだか雰囲気が柔らかい。
凛とした表情も持ち合わせているが、どこかゆったりした感じだ。
「よし食べていけ。ハンサムは料理もうまいのだ」
「それは焼きそばの時に知ったけども……せっかくだしもらうか」
近くのテーブルに持っていって、全員で食う。
なんだこの意味のわからん食卓は。
「うめえ……うっめえマジで」
いやもう言葉にできんくらいうまい。
材料の質もいいのだろうが、本人の料理スキルが高すぎる。
すべてが最高品質で構成されていた。
「やったら料理うまいのう」
「おいしい!」
「おいしいけれど、どうして料理していたの?」
「誕生会に来たのだが、どうやら早すぎたようでな。暇なので作っていた」
「暇だと城でチャーハン作るのかお前は」
神の行動原理が理解できんぞ。なぜ胸を張る。なぜかっこつけている。
「神であると言いふらすわけにもいかず、城で食客扱いだ。暇にもなる」
「まあ城にいてくれれば、戦力にカウントできるか」
「任せろ。不届き者など、華麗に叩き潰してくれる」
こいつくっそ強いからな。神でも優秀な方だろう。
「そんときゃ頼む。俺たちはやることもある」
「期末試験だろう? 知っているぞ」
「どうして?」
「学園と勇者科については、色々とな。まあ食っておけ。冷める前にな」
やはり学園と一部の神には繋がりがあるのか。
特に害はなさそうだし、チャーハンが冷めるのも困る。
とりあえずは食事に集中しておこうかな。
「食ったら騎士団長に会わせてやろう」
「断る」
一週間いるなら、フルムーンの食材で飯でも作ってみようかな。
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