フルムーン動乱篇

期末試験の内容発表

 今日は勇者科全員が集まる日だ。

 そのため朝から教室に集合している。


「さーて集まったわね。それじゃあ期末試験の内容を発表するわよ!」


 シャルロット先生が来た。なるほど、試験内容の発表ね。


「今回みんなに課す試練はこちら!」


 でっかいホワイトボードだと思っていたものに字が浮かぶ。きっと何かの魔法だろう。


「毎年一ヶ月だけ、他国で修行ができる期間があるのは知っているわね? 今回はみんなにそれをやってもらいます!」


 どうやら希望者が審査を通ると行ける、修行と職場体験みたいなもんらしい。


「今回は各国からオファーを募りました。来ている子はその中から選んで、必ず二件行ってね! それが期末試験よ!」


 なるほど、あれ全部国の名前か。かなりの数だが、ほぼ知らん国だ。

 国以外にも大企業や名門道場、国営研究所とか、特別なオファーがある。


「まずアルラフトさん。アルラフトカンパニー本社がある国と、魔導器の生産国からが多いわ。新しい技術に触れられるわね」


 そんな風に生徒の名前と、オファー来た国が紹介されていく。


「ファンランさんとファーレンスさんは、軍隊や武術家の多く生まれた国からね。っていうか実家の道場から来てるわよ」


 マオリと……ラグナロクで一緒だったランか。足に武具つけるやつだっけ。

 武術家の家系なのか。なんか納得。あいつらやたら実戦慣れしているし、洗練された動きだった。


「さて次は……」


 ちなみに勇者科は、出席番号が加入決定した順である。

 素質があるとぶち込まれるため、あいうえお順とかにすると、全員の番号を何回も変える必要が出て面倒なのだ。


「リウスさんは鍛冶関係ね。フルムーンからは当然として、他にも有名な工房から来ているわ」


 こういうの、やりたい人間には貴重で助かるんだろうなあ。

 その道のプロになるなら、いい経験なんだろう。


「そしてサカガミくん。フルムーンとフウマから。ギルド四人とも一緒ね。さらにさらになんと! 皇帝ザトー様から来れたら来てとあったわ。魔法のレクチャーできる人を知ってるって」


「……何? あいつ強いの?」


「誰だっけあの男?」


「知らない。でも皇帝の名指しってことは、王族かなんかじゃないの?」


「高貴な身分には見えないのに、実は凄いのかも!」


 結構驚きの声が上がる。まあそうだよな。俺も驚いているよ。

 あまり俺の顔は知られていないことも発覚。これはむしろ助かるのでよし。


「はい、続いて……」


 そこからも試験の説明は続き、冬休みまでには終わらせるようにと言われた。

 そんなこんなで授業は終わり。オファーをまとめた資料を渡される。


「それじゃあ有意義な時間を過ごしてね。授業終わり! 頑張って!」


 そして今はアンジェラ先輩の店で、試作ピザを食いながら思案中だ。


「さて、わかりきっていたが四人とも行き先が被るな」


「そうだねー。一緒だね!」


「まずフルムーンはシルフィのお誕生日会があるから、そっちに行くわね」


「もう一件をどこにするかじゃな」


「…………お誕生日会ってなんだ?」


 完全に完璧に初耳だぞ。一切知らん。そういや誕生日も知らんな。


「毎年シルフィのお誕生日会を兼ねて、フルムーンに行くのよ」


「いやそうじゃなくてだな。お前誕生日十一月なのか?」


「そうだよ?」


「言えよそういうことは!?」


 おいおい言ってなかったっけみたいな顔するな。本当に知らんぞ。


「むうー、だってアジュ誕生日決めてないでしょ? わたしだけお祝いされるのもさ……」


「アホか。一国の姫と俺を同列にするな。そういうイベントはちゃんと言え。そういやイロハは?」


「私は十二月よ」


「わたしの方がお姉さんです!」


 フルムーンの次女だからか、お姉さんぶるのが楽しいのだろうか。

 なんか知らんが笑顔だ。


「リリアは?」


「わし葛ノ葉の里生まれじゃぞ。まあ四月じゃな。誕生日プレゼントにおぬしをねだったわけじゃ」


「それだけで通るもんじゃねえだろ」


「理由は大小様々で、複雑じゃ」


 とにかく誕生日だけ覚えておこう。こういうのって祝うものなんだよな?

 俺はいまいち理解できんが、なんかめでたいらしいんだよ。


「そうかい。まずフルムーン確定だろうけど、何やらされるんだ? 軍隊とか無理だぞ」


「最悪上官殺すじゃろおぬし」


「そして軍と敵対して、軍ごと潰すのね」


「フルムーンの危機だねー」


「しないっつうの」


 訓練はまず体力がもたないだろう。

 そしてあまりに理不尽な対応されたら、そりゃ報復はする。

 けどいい歳した大人がそんなんやるかね。


「特訓するっていうか……見学に近いかな? 騎士団はしっかり編成されているから、人手不足ってこともないよ」


「生徒の手を借りる必要はないか」


「王様もアジュを知っておる。そういうプログラムは組まないのじゃ」


 ジェクトさんからということは、十中八九シルフィの誕生日会だろう。

 ポセイドンとか来るのかな? ホノリ絡みならヘファイさんもいそうだ。


「なるほど。ならあとはフウマか」


「いいの? せっかくお誘いが来たのに」


 正直ザトーさんの誘いに乗りたい。かなり面白そうだ。

 だがフルムーン行ってフウマ行かないのもなあ……。


「妙な気の遣い方をしておる」


「似合わないわよ」


「やかましい。そりゃまあ行きたいさ。興味がある。だがザトーさん何考えているかわからんし、フウマどうすんだよ?」


「問題ないでござるよ」


 隣の席から声がかかる。コタロウさんだ。ナポリタン食っとる。


「いつからそこに……」


「わしらが来る前からじゃよ。気配を消しておった」


「流石はリリア殿。素晴らしい勘の冴えでござる」


「わたしわかんなかった」


「私もよ」


 当然俺もわからない。完全なる規格外なので仕方ないね。


「お館様がお困りならばと、お誘いしただけでござる。目的があるのならば、こちらも用意しなくて助かるでござるよ」


「そんなもんですかね」


「そんなもんでござる。イロハの誕生会をやるなら、その時にフウマに来ればいいでござる」


「なるほど。名案じゃな」


 そういう埋め合わせもあるか。悪くない。これでザトーさんの所にいける。

 幸い四人とも誘われている。おそらくこちらの事情を汲んだのだろう。


「なら行ってみるか」


「決まりじゃな」


「よーしみんなで行こう!」


 行き先も決まった。一応は打ち合わせがあって、いけそうなら行くが、これでほぼ確定だろう。

 それなりに長くなる。ちゃんと準備しないとな。


「明日にはミナから連絡来るよ。準備できましたーって」


「早いな」


「ミナだからね」


 納得しそう。あの人も凄いなあ。大国のメイドって、やっぱり全員有能なのかね。


「またしょうもないこと考えとるじゃろ」


「まあな。いいんだよ飯食う時なんて適当で」


「そうね、ゆっくりしましょう」


 食後のアイスティーがとてもうまい。こういう時間は大切にな。


「誕生日プレゼントでも考えるのじゃ」


「そうか、何がいい? 貴重だったり、高かったりすると困るが……」


「別にいいよ。いろいろ助けてもらったし」


 そういうわけにもいかんだろう。

 何か渡せるものはないかと考えるが、経験がなさすぎる。


「他人に何かくれてやったことがなくてな、正直どうしたらいいのかわからん」


「わしに指輪贈ったじゃろ」


「指輪以上のアイテム渡すって無理じゃね?」


 なまじ王族だけに、高価なアイテムが意味をなさない。

 そうなるとますます難しいわけよ。俺にわかるか。


「いざとなれば、アジュを誕生日プレゼントにすればいいのよ」


「それだ!」


「それだじゃねえよ。そういうのはダメ。不健全。普通にちゃんと贈るの」


「おぬしの律儀ポイントがわからんのじゃ」


「とりあえず考えておく。まだ時間はありそうだしな」


 保留にしてもいいだろう。難しすぎるよ。無理難題だ。


「しかしなんだな…………本当にギルメン少なくて助かったな」


 これが十人を超えていた場合なんて想像もしたくない。

 考えただけで憂鬱だよ。


「毎日が誕生日会か」


「地獄じゃな」


「流石に飽きそうね」


「あはは……」


 今後の予定は決まったな。さてどんな試練になるか、フルムーンでのお楽しみだ。

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