長巻完成!
長かった。材料集めたり買ったり、一週間くらいかかった。
だがそれも今日この瞬間まで。
「これが……」
学園内の工房にて、ついに長巻が完成したのだ。
「おおぉぉ……こいつは凄い」
「うむ、美しいのじゃ。紛うことなき業物じゃな」
「おめでとうございます、お館様」
フウマの人たちとホノリにギルドメンバーで、武器の完成を喜んでいた。
「隣に試し切りの場がございます」
言われて早速移動。柄を握って持っていくが、俺の手にジャストフィットだ。
「ここなら暴れても被害は出ません」
一面白い壁で、巻藁や木偶人形が置いてある。結構広いな。
「カトラスも同じ素材で作っておいたよ。使いな」
「助かる」
こちらは長巻が使えない場合の予備だ。
狭い場所での取り回しもあるしな。
カトラスを腰の左側に、長巻を後ろに回す。
ちょうど柄に右肘を置ける感じ。そのまま縦にくるりと回せるようにもした。
「よし、いくか!」
長巻を鞘から抜き放ち、その美しくも頼もしい刀身を眺める。
俺が扱いやすいように、完璧に調整されているな。
「はっ!」
軽く振ると、俺の動きに合わせるかのように取り回せる。
程よい重みと、木偶人形を切り裂いたときの感触から、業物であると理解できた。
「スロットは三個のまま。けれどもっともっと魔力を溜め込めるようにしたよ」
柄の部分に邪魔にならないよう埋め込まれた小型の宝玉は、前のものより小さいが、よりスムーズに大量に魔力を溜め込める。
「雷光一閃!」
巻藁を二本まとめて斬ってみる。
よどみなく、最初から最後までイメージ通りの効果を発揮してくれた。
「いいね。いい仕事だ」
「かっこいいよー!」
「おめでとう。いい武器になったわね」
全力で魔力を込めると、刀身が淡く紫に染まる。
どうやら材料の効果らしい。より研ぎ澄まされる感覚だ。
「ふっ! せい!!」
走りながら目標を切り刻んでいく。
モッケイの事件で覚えた動きを再確認。さらに速く、正確に攻撃を続ける。
「成長しておるのう」
「実にお見事でございます」
使えば使うほど馴染んでいく。心地よい。
「軽く戦ってみましょうか」
そんなことを言い出すイロハ。シルフィも自前の武器を選んでいた。
「おいおい、流石に俺が死ぬぞ」
「そうならん程度にやるのじゃよ」
「いってみよう!」
まずシルフィが相手か。武器は普通のロングソード。
俺がついていけるスピードで近づいてきた。
牽制の意味を込めて横薙ぎに振る。
「おっ、使いこなしてるね!」
言いながら瞬間的に肉薄される。
得物の長さを測り間違えたわけではない。シルフィが速すぎるのだ。
完全に懐に入られる前にバックステップし、縦に一閃。これも牽制だ。
「おおっと、危ない危ない。アジュは体が覚えたら、あとはセンスでやっちゃった方がいいよ」
「そういうものかね」
何回か打ち合うが、やはりスピードもパワーもあっちが上か。
「ならこっちだ」
カトラスも使ってみよう。手早く長巻を収納する。
長巻はその性質上、鞘に戻すのが面倒になるのは明白だ。
だから魔力を込めて鞘に近づければ、側面が開いて、その刃を受け入れる。
「はっ!」
「えい!!」
数秒前とは段違いの速度で繰り返される剣戟の応酬は、剣の頑丈さと改善点を教えてくれる。実戦はあまり好きでもないが、こういうものは動くに限るらしい。
「違う武器いってみよう! どーん!」
突然槍に変えてきた。武器を無限に呼び出せるというのは、結構ずるい。
シルフィの武器を入れるベルトには、様々な武器が付いていた時間が刻まれている。
あとはベルトの一部だけ時間を戻せば、勝手に武器がくっついている。
「長いやつには長いやつか」
長巻に持ち変える。槍は突くことに特化しているはず。
ならば先端を弾き、滑らせ、長さそのものを武器にして刃を当てに行く。
「うむ、そういう感じじゃ。自分と相手の武器特性を考えて、距離を詰めたり離したりじゃな」
「了解」
ロングソードと槍はまだ対処可能だ。大剣とのぶつかり合いは不利だし、弓は避ける方が無難だな。
「基礎は理解したわね。選手交代よ」
「オッケー、任せるよイロハ!」
イロハが来る。小太刀による二刀流だ。
シルフィより太刀筋が変幻自在というか、フェイント混ざりでめんどい。
「こいつは厄介な」
「シルフィが正攻法、私が邪道といったところかしら」
火遁とか混ぜられると対処が遅れる。
術もある程度は切れるが、物理攻撃との連携はまずい。
こういう場合、距離を取るか打ち合いで勝つかだろう。
「パワー負けしてんのがなあ……」
普通に体重乗せて斬っても、鍔迫り合いの状態になる。
必然的に戦法も変わるわけで、リグさんのやっていた華麗戦法へチェンジ。
隙間を見つけて滑り込むのだ。
「やっぱり強くなっているわね」
「以前ならまず打ち合いができんじゃろ。戦法変えて動ける時点で凄いのじゃよ」
「素晴らしき技の冴えですぞ」
「実感湧かないが、壊れないってのはいいな」
初心者向けの安物じゃあ、もう壊れてしまう事が多い。
これが達人なら、案外壊さず使いこなせるのだろうか。
「影分身! 多数との戦闘も経験しておきましょう」
影の兵士がわんさか出るわけだよ。
だが基本は一撃離脱。そこは変えずに、手薄な場所から切り崩す。
「うおりゃあ!」
二匹まとめて切り飛ばす程度はできるな。
現状の俺はこのくらいか。全力で必殺技を使えばもう少しはいけそうだ。
「それでは結界を強めまして」
「影を集めて強くして」
「わたしがスピード調整をして」
「わしが影の口から魔法を出すわけじゃな」
「やめろなんだその合体技は」
2メートルほどの影の兵士が出現した。
そいつ単騎なのは嬉しいが、どう考えてもめんどくさいだろう。
「発射!」
口から火の玉が出てくる。十分に見切れる速度だ。回避しつつ正面に来たやつを叩き落とす。
「スピードアーップ!」
「おいおい」
敵の時間を早めてやがるな。
「武器も追加しましょう」
影の大剣と刀の二刀流らしい。やめろ勝てなくなるだろ。
「さっさと終わらせる!」
軽く飛び、体重をかけて横一閃。これで消えてくれりゃあいいが。
「甘いわよ」
二刀でしっかり止められた。
面倒だが、真面目にやるしかないか。
「やってみますか四刀流」
ライジングギアで雷の腕を二本追加。長巻の取り回しを強化する。
「また妙なことを始めおったな」
とにかく手数を多くする作戦だ。
腕の可動領域を超えた動きをする。
「そらそらそら!」
「影の速度に目が追いついておるのう」
「戦闘経験の蓄積が効いているわね」
「がんばってー!」
「ここだ!」
二本の腕でカトラスとクナイを装備。影の刀を切り飛ばし、電撃のジェット噴射をつけてクナイを飛ばす。
大剣を一瞬でものけぞらせ、影の動きを封じればいい。
「終わりだ!!」
長巻を振り下ろし、口から吹き出す炎ごと両断した。
「うむ、見事じゃ!」
「いいよー! かっこいいよー!」
「よし、ここまで。疲れた」
「もっと汗をかきなさい」
「どんな注文だ。いい武器をありがとうございます」
もう金は払ってある。運動したら疲れたし、ちょうど昼時だ。飯に行こう。
「移動時には、背中の長巻を横ではなく縦に背負えます。なんなら収納できますので、邪魔にならないかと」
「まだまだギミックありそうだな。説明書読んでおきます」
どうしてもってんなら、アイテムスロットにでも入れておけばいい。
だがおもしろ機能はテンション上がる。使っていこうね。
「調子が悪くなったら言っておくれ、うちらも興味がある」
「わかった。色々世話になった」
「ありがとね!」
ホノリとフウマの職人さんたちに例を言って、外に出る。
外の方が当然だが涼しい。少し運動した体を覚ますには丁度いいか。
「はい、汗は拭いておいたわ」
「いつの間にやった……タオルは渡せ。嗅ぐな」
没収してアンジェラ先輩の店へ。今日の昼飯は何が出るかな。
とりあえずゆっくりしよう。くつろげる場所を目指して、少し早足で向かうのだった。
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