なんか指揮官やることになった
何故か知らんが指揮官をやることになった。
別に負けてもいいらしいし、気楽にエンジョイしよう。
「じゃあやってみるか」
「おっ、前向きじゃな」
「絶対勝たなきゃいけない場面じゃないからな」
天候は晴れ。ただし雲が多いから、途中で曇りに変わるかも。
肌寒いが、寒すぎるわけでもないな。
「そうそう、ちょっとアタシら騎士団で遊ぶだけだよ」
アカネ姐さんもそう言っている。あとで難癖をつけられることもないだろう。
「場所は広いだけ。障害物もない。やれることは限られるな」
平原のはるか先に、ぼんやりと点が見える。あれが敵の部隊だ。
千人以上いるのに、一個の小さな点としか認識できない。
それくらい離れているわけだ。
「もう一度ルールを確認するよ。勝利条件は敵軍の全滅か、指揮官を抑えられるか、本拠点を制圧されるかだよ」
「わかりました。それ用に色々やってみます」
勝利条件はシンプルだ。これならまあ手段はゼロじゃないだろう。
「そろそろ開始時間じゃな」
「じゃあ最初の作戦通り、壁を作っていく防衛戦で」
「聞いたねあんたら! キビキビ動く!!」
「了解!!」
相手の出方を伺おう。まず槍兵部隊が最前列。
魔法部隊はすぐ後ろで詠唱開始。
騎兵隊はそーっと潜ませる。
「これを渡しておくよ。あっちの大将から声が届くらしい」
四角いケースの中に、水晶玉みたいなものが入っていた。
中を覗くと、水晶の中で魔力が波のように揺らめいている。
「またハイテクなもんを……」
空に信号弾が打ち上げられ、破裂音が開始を知らせてくれる。
「がんばってねアジュ!」
「応援しているわ」
シルフィとイロハは観客である。助言も禁止。
だって片方だけ姫様からの命令とかずるいやん。
騎士団のモチベクッソ上下するからね。
「まあ気楽にやるさ」
少し高くて広い櫓の上から、ギルメンに見守られつつ指示を出そう。
「来たのじゃ!」
土煙を上げながら、騎兵が突撃してきている。
「数はわかるか?」
「はっ! 敵兵およそ千!」
こちらの伝令さんが知らせてくれた。
「ご苦労。引き続き監視を頼む」
「はっ!」
ちなみに司令官っぽい口調で命令しろとアカネさんに言われた。
拒否ったのに言われた。五回くらい。仕方ないね。
「魔法兵! 土壁展開!!」
俺の指示をリュートさんが全体に届ける。
「展開開始いいいぃぃい!!」
騎兵の正面に、魔法で『つ』の時に曲がった土壁を複数作る。
アスレチックとかで、助走つけて登るあれだ。
こうすることで、壁を走って乗り越えることを抑制する。
「槍隊構え!」
「槍隊構ええええぇぇぇ!!」
壁よりかなり後ろに槍兵がいる。
そして魔法兵は既に次の魔法を唱え終わっているのだ。
「さて、止まるならそれでよし。止まらないなら作戦2だな」
軍隊というのは群れだ。だからいきなり先頭が止まると、それだけで被害が出る。
「報告! 敵騎兵止まりません!」
「望遠魔法! 先頭の騎兵を映せ!」
「はっ!」
止まらないということは、何かしらの勝算があるはず。
先頭集団をみる限り、後ろに誰か乗せているな。
杖のようなものを持ち、馬全体を結界で一本のドリルのようにしている。
「魔法兵乗せて走ってんのか」
「面白いではないか」
さらに後ろの連中は、土の壁を壊すために攻撃魔法を撃ち始める。
破壊しながら突っ切るつもりか。
「作戦その2だ。合図を出せ」
「そおりゃあぁぁ!!」
伝令の人がでっかいドラを鳴らしている。
「オレ、楽器得意なんです!」
すげえいい笑顔だ。俺と歳変わらない気がするな。そのドヤ顔は何だよ。
「ドリル騎馬兵が中央の壁を壊す。左右から壁を避けて別の騎馬兵が突進か」
「流石はフルムーン騎士団。練度が違うのう」
「槍隊を、もうちょい魔法兵守ってる感じにしてくれ」
「了解!!」
こっちは魔法兵が背中を見せ、一目散に逃げている感じを出している。
わざわざその背中を少数の槍兵に守らせて。
「これでいかがでしょう?」
リュートさんの指示で、決死の覚悟で魔法兵を守る槍兵っぽさがアップ。
それを見た敵兵は、こちらの陣へと突っ込んでくる。
「いいね、壁の敵兵は?」
「中央です! 今なら腹をえぐれます!」
「爆破開始!!」
「開始いいいぃぃぃ!!」
伝令さんが合図の角笛を高らかに響かせ、そして壁のあった場所が大爆発を起こす。
「どうだ?」
「敵騎兵中腹に効果あり!」
「よし」
土の壁はあくまで壁であり、突破してくることを前提とした囮だ。
本命は地中深くに隠した爆裂魔法よ。
壁を突破した勢いに乗り、敵が進んでくれれば、ちょうど敵の真ん中くらいを爆破できる。
「おぉー! アジュすごい!」
「いい感じよ。頑張って」
「魔法連打! 槍兵は武器を立てろ!」
「急げお前らああぁぁ!! 騎士として迅速に立ち回るのだあああぁぁ!!」
雑に攻撃魔法の雨を降らせて、止まった敵を減らしていこう。
騎士団の魔法兵だ。雑だろうとその魔法の威力と精度はかなりのもの。
「おっと、抜けてきたか。やっぱ迷いがないねえ騎士団は」
それでも完全には止められない。魔法の間をすり抜けてきやがる。
「剣の設置完了!!」
騎兵残党に見せつけるように、予備の剣を地面に刺し、さらに下がってまた剣を刺して逃げる。
ついさっき地雷攻撃をされたのだ、確実に警戒するだろう。
そして馬の脚が止まった。
「敵軍、魔法投下開始!!」
まさに投下だ。攻撃魔法を上空に集め、こちらへと雑にばらまいてやがる。
こっちが直線的に撃っているのに対し、あっちは上から。
双方対処が面倒である。
「好都合だ。結界を張りつつ、もっともっと煙を上げろ。騎兵用意できているな?」
「いつでもいけるぞ!!」
「よし……ん? 望遠魔法、雲の上くらいを出せるか?」
「雲の上? ええまあ出せますが」
ちょっと不審な顔だな。俺も少し気になっただけだが、なんとなく見てみる。
「頼む」
「了解」
目を凝らす。敵の魔法は、意図的に雲に触れないくらいの高度から降ってきている。
雲に隠した方がいいに決まっているのにだ。
「リリア」
「ほいほい」
望遠魔法をさらに精度を上げて、俺の視線に合わせて移動させてくれる。
「すごいですねその子」
「まあな……やっぱりか。槍兵、雲から来る! 下がれ!!」
「えっ、雲?」
「リュートさん!!」
リュートさんの大声が必要だ。日頃の反射で動いてくれたらいいな。
「槍兵撤収うううううううぅぅぅぅ!!」
やはり号令を普段から出している者の声は違う。
考えるより先に体が動くのだろう。
槍兵が素早く後退する。
「騎兵だけ突撃! 作戦通りにな!」
「騎兵突撃いいいぃぃぃ!!」
騎兵を突撃させた直後、本陣前に重武装した槍兵が降り注ぐ。
それだけで砲弾並みの威力だ。無茶しやがる。
「魔法兵一番隊はそのまま騎兵を、二番隊は槍兵を撃ち落としつつ下がれ」
あらかじめ魔法兵を二部隊に分けた。
ちょうど半々になっているはず。これで数を減らしていく。
騎兵隊は三百と七百に分ける。
「突撃!」
土煙と混乱に乗じて騎兵突撃。
だが意外にも早く対応された。
「こちらの七百に対し魔法兵と騎兵少数を、三百に残りの全騎兵をあてるようです」
「逆をいかれるか」
こうなるとほぼ三百は負けるだろう。
まあそれはいい。問題は七百側だ。
「重歩兵の相手はどうなっている?」
「現在槍兵と魔法兵で応戦しています。降下中と直後を狙い、数の有利もあって、やや優勢です」
「そのまま対処していてくれ。そろそろ騎兵を分けるぞ」
「はっ!」
「ここからじゃな」
「ああ、うまくいけばいいがねえ」
騎兵七百のうち、五百は護衛だ。
後部の二百を敵本陣へ通すためのな。
いい感じに騎兵による大規模戦が行われているようだ、切り離すなら今だな。
「よし、切り離せ!!」
「了解!」
伝令さんが、力の限りドラを鳴らして笛を吹いて太鼓を鳴らす。
そこにリュートさんの大声が加わり、まず騎兵五百が広がる。
敵の手薄な部分を突いて、二百が本陣へ駆けた。
それをさせまいと動く敵だが、広がっていた騎兵が集結して壁となり、一本の道を作り出す。
「突破しました!!」
「よし。あとはこっちの本陣だな」
「ふっふっふ、お命頂戴なのー!」
フィオナとお付きの十人だ。本陣の雲の上から、直接俺だけを狙いに来やがった。
本陣にかけられた強固な結界を切り刻み、堂々と入場してくる。
「リュートさん!!」
「フハハハハハ!! オレの名を呼んだか!!」
リュートさんが割り込み、剣と剣がぶつかりあって距離を取る。
「うえー、リュートなのー? 別の敵に行くの!」
「させんぞ! この場で俺とのんびりしてもらう!」
「うぅー……こうなったら強行突破で……」
「いいのかフィオナ? オレもお前も、付き添いの十人が確実に吹っ飛ぶぞ」
リュートさんの剣に、膨大で頭おかしくなるレベルの魔力が凝縮されている。
フルムーン最強の十七人は伊達ではないらしい。
「あうぅー、動けないのー! でもそれはリュートも同じなの!」
フィオナさんの武器は……ガラス? 刃も柄も全部がガラスのように半透明で一体化している、紫の剣だ。
でっかいガラスの塊を、剣の形に掘ったと言われれば納得するレベル。
「当然だ。オレはお前を無力化しておくためだけにいる。あと大声」
「贅沢な使い方なの」
「条件付きの兵なんてデメリットが多すぎるんでな。隔離して、両方使えなくするのが一番だ」
「なんか後ろ向きの発想なのー!」
「大正解だ」
これで二人は動けない。あとは騎兵がどこまで頑張ってくれるかだな。
「完全に膠着状態にしたいの? こっちの騎兵も重歩兵も、本陣には到達できない。けどそれは、そっちの魔法兵と槍兵を全部使って防衛しているからなの」
「だろうな」
「ならこっちの騎兵が本陣に来れば、ただ突撃しちゃえば勝てるのー! うちは騎兵多めなの!」
騎兵がいない分だけ、こちらが数で不利になるってことだろう。
敵本陣には、まだ魔法兵や槍兵が多少残っていることも想像できる。
「いいんだよ。それより早く、そっちの本陣を取れば問題ない」
「たった数百でできるの?」
「できるさ。騎兵のエースが向かっている」
「エース?」
「アカネさんだよ」
アカネさんを最前線の遊撃隊隊長に任命した。
騎兵二百に紛れ込ませ、最精鋭で敵大将を取る。
「うえええぇぇぇ!? だって軍師は禁止なの!!」
「禁止なのはアドバイスだろ? 攻撃部隊の一員にしちゃいけないとは言われていない」
アカネさんはリュートさんに次ぐ実力者らしい。
なら戦力としてぶっこむのだ。
「そんな! 急いで連絡を……」
「させんぞフィオナ。少しでも動けば、ここで必殺の一撃を入れる」
「うううぅぅぅ!! してやられたの!!」
「してやったりついでに教えてくれ。指揮官は何故俺を勝たせようとする?」
「どういうことなのー?」
とぼけているか、本当に知らないかどっちだこれ。
「指揮官殿、オレにも話がわかりませんが」
『聞こえますか? そちらの指揮官殿』
渡された水晶から、男とも女とも取れる声が聞こえる。
変声機としても使えるのだろうか。
「聞こえている」
『こちらの負けだ。まさかアカネが突撃してくるとはな』
「あうぅ……負けちゃいましたのー……ごめんなさいなの」
敵本陣から赤い信号弾が飛ぶ。負けの知らせだ。
そして勝鬨の声が上がる。味方兵さん大喜び。
『気にするなフィオナ。そして称賛に値する。君の策を予測し、真逆に動き続けたつもりだったが』
白々しいとはこのことだな。茶番はここまでにさせてもらおう。
「わかっていないな。逆張りってのはな、基本的に一発屋なんだよ。何度も繰り返したり、長く続けていけるものじゃない」
『ほほう、勉強になるよ』
「面白いと思ってやっているのか知らないが、逆張りしただけで満足するから、そういうことになる……と言えば満足かい?」
『どういう意味だ?』
「どうしても俺に勝ちたくないようなんでね。理由を聞いておきたい」
『……それは考えすぎだ』
少し間があったな。どうやら当たりのようだ。
「それにしちゃあ指揮がおかしい。二回目の奇策だよ。あれがもうおかしかった。一回目が綺麗な突撃だったもんで勘違いしたが、そこからは完全に俺に負けるための指揮だった。それを作戦だと勘違いさせるほどにな」
『なぜ言い切れる』
「魔法を上空に集めて撃った意味は何だ? 雲の中に兵を潜ませるなら、こっちと撃ち合いさせりゃいいんだよ。目が正面に向けられる」
ここが完全におかしい。だから望遠魔法を使えた。
「フィオナを本陣に送れるのなら、全員一緒に本陣でいい。手前に来る意味もわからん。騎馬兵の動きもな。多いんなら全軍で迎撃すればいい。分割の意味もない」
「確かに妙じゃのう」
「あくまで自然な形で、俺に迎撃されるようにヒントをばらまいた。違うかい?」
だがそんな真似を素人がする意味がわからない。
俺とは違う勝利条件で戦っていたのだろうか。
「考えられる理由は二つ。俺が実力勝ちしたと喜ぶのを鼻で笑うためか、俺に勝ってはいけないと言われているか、だな」
このどちらかだと思う。じゃなきゃ想像できん。
「素人じゃないだろ。軍の関係者か、少なくとも指揮を取ったことのあるタイプだ。目的を話せ」
『正解よ。本当は私に勝てたら合格だったけど、気付かれるのは予想外。120点あげちゃうわ、アジュくん』
「…………サクラさん?」
聞こえてきた声は、俺の知る限りではサクラさんに酷似していた。
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