フルムーンへ里帰り

 夏休みも八月。もうすぐ二学期。うーわめんどくさい。

 リビングでだらだらモード。だって今日暑いんだもの。

 そんな休日を過ごしていたら、学園からお手紙が来ました。


「二学期初日に中間テストするって」


「中間ってなんだよ。スタート地点もいいところだろうが」


 破天荒な学園ですね。困るわ。


「勇者とはいつトラブルに襲われるかわからないもの。この程度の試練はクリアしましょう。だって」


「めんどくっさい真似を……」


 困ったな。前回のように集団生活はきついぞ。

 間違いなく前回よりきつい試練になるだろう。


「課題が何かはわからないのか?」


「書いておらぬのう」


「パワーアップしておかないとね」


「私達はどうやって強くなればいいのかしら?」


 こいつらもう十分に強い。どうするかと問われれば聞こえないふりしかない。


「はいはーい!」


 なんかシルフィが挙手ってるので聞いてみる。

 お姫様だし、秘密の簡単特訓法とか知っているかも。


「はいシルフィ」


「アジュがキスをすると女の子は強くなれます!」


「却下で」


 ろくでもなかったー。アジュさんは絶対にキスとかしませんよ。


「なんでさー!?」


「強くならねえだろ! パワーアップ法を考えろよ!」


「でも性欲は増すわね」


「増すなや!!」


 イロハさんはこれ以上性欲が強くならないように心がけてください。


「物語とかでキスすると秘めた力が目覚めたりするし!」


「そりゃお話の中だからだろ。そんな変な強化方法はないんだよ」


「ないかどうか試してみるのじゃ」


「いらんわ!」


 さては真面目に考える気ないなこいつら。

 ここから真面目な話に軌道修正は厳しいし、さてどうするか。


「えー、ではアジュにキスする順番と時間を決めます!」


「やめろやめろ、なにやってんだ!!」


「わしらのやる気は上がるのじゃ」


「やる気じゃなくて実際に強くならなきゃダメだろうが」


 こうなりゃ最終手段だ。第三者を介入させる。


「あーもう……ミナさん。コタロウさん。カモーン」


「お呼びですか?」


「にんにん」


 はい音もなく二人登場。もう驚かない。

 コタロウさんはキャラ付けを濃くしたいとかで、にんにん言い始めた。


「なんじゃいその似合わない呼び出し方は」


「言わないと出てこないって駄々こねられた」


「なにやってるのミナ……」


「ご先祖様も……」


 もっと言ってやれ。この人らフリーダムすぎる。


「心配無用でござる」


「アジュ様に怒られないギリギリを攻める事が可能と自負しておりますので」


「いりませんそんな自負」


 最近はっちゃけてきているっぽい。なぜだ。自由度高いなもう。


「で、何用でござるか?」


「アジュともっと夏休みを楽しむにはどうするかじゃ」


「初耳だなおい」


「そうですね……フルムーン本国には各国の品々が集まります。なにか珍しいものがあるかもしれませんよ」


「ふむ、フウマにもあるにはあるでござるが……面白そうでござるな」


「面白さを求めますか」


 とんでもないもん出てきそう。人選ミスったかも。


「ジェクト様も寂しがっておられましたよ」


「そういや里帰りさせてなかったか」


 夏休みなんだし、こいつらを里帰りさせることも考えよう。

 もう新学期まであんまり時間ないし。


「いい機会だ。ちょっと顔見せに行ったらいいんじゃないか?」


「悪くない案じゃな」


「アジュは一緒に来るの?」


「…………いかなくもないかもしれない。きっと」


「そこで渋るのはなぜなのよ」


 基本的に外出嫌いなんだよちくしょう。王族に会うのきついし。

 でもフルムーンの劇面白かったな。行くだけ行って遊ぼうか。


「フウマの里はフルムーンの隣国じゃ。行けなくもないじゃろ」


「いっそ両国の王を会わせてはどうでござるか?」


「んな無茶な」


 できるはずがないと思っていたら、コタロウさんとミナさんが話している。


「名案ですね。ジェクト様もお会いしたいと……」


「ふむ……ではこちらもコジロウを……」


 なんか話が壮大になっている気がします。


「いっそリリアのご先祖様も呼ぼうよ!」


「いいわね。全員集めましょうか」


「いやいや、人間の前に出てきていいのか?」


 あの人達って隠れた一族だろ。知られてもいいんだっけ。


「存在そのものが秘匿された一族とかだったろ」


「んな大層なものではないわい。ちょっと神に関わったりしておるだけじゃ」


「それが大層なんだと……護衛とかどうするんだ? 不可能だろ」


「拙者とフウマ衆が、フルムーンにたどり着けないほどの間者がいると?」


「ああそうですよね……」


 コジロウさんもめっちゃ強い。少なくとも学園生徒より強い。

 ヴァンの二神融合みたいな裏技を使わなきゃまず無理。


「なのでフウマ側が行くでござる」


「葛ノ葉の一族は……ヒメノにワープゲートでも作らせるかのう」


「これもう完全に行く流れだよな?」


「観念するのじゃ」


 行かなきゃいけなくなった。まあいいさ。適当に観光してやる。


「では明日出発です」


「早いですね」


「善は急げでござるよ」


 そしてギルメンと一緒に列車に乗り込む。

 前にフルムーンに行った時と同じ。二度目とはいえ楽しいもんだ。


「今回は寝ないのね」


「たまには景色でも見ようと思ってな」


「おぬし妙なところで情緒とかあるからのう」


「こういうのも楽しいよ」


 運転はミナさん。適当に席に座って外を見る。

 座り心地といい、出て来る昼飯といい、やはり王族なんだなあと実感。


「城に行くんだよな?」


「そうだね。そこでフウマさんと、卑弥呼さんが来るのを待つんだよ」


「ちゃんとヒメノは来るのかしら?」


「あれで恩義は感じておるやつじゃ。護衛もしっかりつけるじゃろ」


「上級神だしな。まあ負けないだろう」


 しかし王族なのにフットワーク軽いな。もうちょい手続きとか、予定の組み直しとかあるだろう。そう思っていたのに即行動だ。


「王族と食事とか神経擦り切れそうできついんだけど」


「いつもシルフィと食べておるじゃろ」


「一応生徒だろ。完全な王様となにかするのしんどい」


 まずどうすりゃ失礼じゃないのか知らん。どうせ多すぎて覚えられんし。

 だから結論としては会わないのがベストだ。


「できないことをやるのは無駄なんだ。なんせできないんだからな」


「まーた後ろ向きになるー。大丈夫だよ。楽しくお食事できればいいの」


「楽しく飯食うのがまず難しいんだよ。人と飯食うの嫌い」


 一人で食えば、食い終わったら適当に食休みしてぱぱっと次に行ける。

 誰かと食うと話をして、自分が食い終わっても待っていないといけない。

 もうめんどい。なんで普通のやつってそんなだるいことやっているんだろう。


「わしらと食べるのはいいわけじゃろ」


「問題ない。不思議だけどな。どうせ貴族とか同席して、食い方とかどうせ馬鹿にされるだろ。どうせそんなもんだよ」


「どうせって三回も言ったよ」


「まーた拗らせポイントが見つかったのじゃ」


 拗らせていない俺など俺ではないのさ。性分ってのは変わらないもんだよ。


「むしろアジュにちょっかいかける貴族とかが来ないように遠ざけているわよ」


「どういうことだ?」


「下手に喧嘩売りながら攻撃されたら殺すじゃろ?」


「人を殺人鬼みたいに言うなや。ちょっと煽られたくらいじゃ手は出さんよ」


 多少馬鹿にされようが、こいつらを悪く言われようが切れたりはしない。

 親衛隊の時は完全に理不尽な言動で、無関係のリリアに攻撃魔法を当てたからだ。

 普通にリリアじゃなきゃ怪我していたんだぞ。


「おぬしはあれじゃ、ミサイルとその制御室じゃよ」


「みさいる?」


「巨大な追尾性のある遠距離用爆弾だと思えばよい」


「ミサイルそのものじゃないのか?」


 よりによって部屋って。扱いが難しいってんなら爆弾じゃないのか。


「むしろ部屋の方じゃよ。スイッチが何百個もあって、室内が監視されておるわけじゃ」


「あーわたしちょっとわかったかも」


 シルフィとイロハは納得したようだ。こいつらの発想は理解できん。


「室内での一挙手一投足や、どのスイッチが発射の鍵か、それを完璧に把握しておるのがわしで」


「ちょっとだけ制御できる見習いが私達。というわけね」


「正解じゃ」


「俺ボロクソ言われてないか?」


 なぜ三人とも得意気なのだろう。ドヤ顔というやつだ。


「言ってないよ。わかって好きになってるからね」


「そうね。改善できればいいけれど、できなくても好きなままよ」


 言いながら寄りかかってくるが意味わからん。

 全力で殺しにくるようなやつじゃなきゃ戦わんよ。

 戦いっていうか運動嫌いだし。


「ほら好きの部分じゃなくて戦いのこと考えてる」


「聞き流すスキルが上がっておるのう」


「特訓の成果だな」


「これは改善が必要ね」


「よし、フルムーンまでに治すよ。はいあーん」


 フルーツを俺に向けてくるシルフィ。なんの改善なのかは知らん。


「これ到着まで続くのか?」


「慣れは必要じゃよ」


 出来る限り早く着いてくれ。そう願いながら列車の旅は続いた。

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