王族と神々の宴
ごく普通にフルムーン城へ到着。
門からずらっとメイドや執事、豪華な服を着た貴族っぽい人がお出迎え。
「おかえりなさいませ! シルフィ様!」
「ただいま。少々出迎えが派手ですね」
「そりゃ今回は我らがおりますからな。そうせざるをえないのですよ」
入り口でコジロウさんとヨツバ合流。
完全に手練だとわかるフウマ衆の皆様も一緒だ。
忍装束ではなく、よそ行きの和服。似合うな……いや当然なんだろうけれど。
「お久しぶりです。コジロウさんも、ヨツバも」
「お久しぶりでございます。お館様もお元気そうで何よりでございます」
一同に膝を付かれそうになり、お辞儀だけしてなんとか止める。
やめろ俺に注目が集まるだろ。
「ほれほれ、お館様は目立つのがお嫌いでござるよ」
「おっと、失礼仕った」
コタロウさんナイスアシスト。気配りのできる忍者って素敵。
「ようこそお越しくださいました。歓迎いたしますわ」
サクラさんの後ろから、ジェクトさんとレイナさん。
全員服が正装というか高そうだ。俺達なんて制服だぞ。
「綺麗なお城ですね」
「ああ、少し恐縮してしまうね」
ラーさん卑弥呼さん合流。ついでにヒメノ一派もいる。
両方共着物だけれど、なんでラーさんは似合ってんのかな。
「お、無事来たか。頼むから騒ぐなよヒメノ」
「アジュ様の頼みとあらば、全力で静かにしていますわ!」
はいもううるさい。存在がうるさい。
ラーさん達とも挨拶して、自己紹介とか終わったら移動だ。
道中もびっちり並んでいるメイドや執事。そして護衛騎士。
「なんだ……この張り詰めた空気は」
「萎縮しちゃうでしょう?」
サクラさんがこちらに話しかけてくる。
俺が隣を歩くのは失礼だと言ったのに隣だよ。
ジェクトさんの隣はコジロウさん。その横に俺とサクラさん。
俺場違いですよね。なぜに一般人が王族の横ですか。
「ぶっちゃけちょっと帰りたいです」
「そう言うと思ってね。料理は豪華にしたよ。存分に味わい給え」
こりゃ残るしかないな。少し軽くなった足取りで移動。
円卓のテーブルに座り、運ばれてくる豪華料理のみに集中する。
ほほう、マジで見たことのないレベルのお肉だな。
「こいつは……テンション上がるぜ」
アホほど広い部屋に、豪華なテーブルと料理。
というか豪華じゃない部分が存在しないぞここ。
完全に美味いことを告げる匂いがしていらっしゃるよ。
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。娘の里帰りに、偶然食事会が重なっただけ。私は自分の城を提供しただけ」
「食事のおかわりは沢山用意してあります。どうか楽しんでいってくださいね」
フルムーン夫妻の本当に軽い挨拶で食事がスタート。
俺の料理には肉と米とスープ。大皿には焼きそばとかドリアとかもある。
好きに取れということか。豪華な洋食屋で中華料理屋みたいなシステムだ。
「それではいただきましょう。せっかくのご厚意を無下にはできませんもの」
「その通りでハンサム!」
「ポセイドン? お前どっから湧いた」
唐突に現れた、かっこいい鎧を着たポセイドン。
久々に見たが、やはり存在がうるさい。神ってこんなんばっかか。
「葛ノ葉の一族が来るというのでな! 久しいではないかラー! 卑弥呼!」
「えぇ……知り合いなのか」
「葛ノ葉には借りのある神が多いのさ。それでなくても和やかになる雰囲気と、その特殊な力は神界の癒やし成分の三割を占めると言われていた」
「九尾を討伐できなかった負い目もある! 息災のようでハンサム嬉しいぞ!」
感動の再開っぽいし、まあ話させておこう。お礼は言いたいだろうし。
好きに話すがいい。俺は肉を食うだけだ。
「こっちにブルードラゴンのドリアがあるのじゃ」
「ほう……ブルー系統か。興味深い」
この世界のトカゲというか、ドラゴンの肉は鱗の色で違う。
ブルーは味が濃い目で、米に合う。焼くと香ばしい匂いがするのが特徴。
逆にグリーンは淡白な味だ。なのにスープや出汁に使うと尋常じゃない深みの出る不思議食材でもある。
「うまい……流石は王宮のシェフだ……」
「いい食材使っとるのう」
料理食ってばっかの俺とリリア。
シルフィとイロハは学園生活の報告なんぞしているようだ。
「サカガミ殿とはうまくいっているかい?」
「はい、攻略は順調です」
シルフィがお姫様っぽい口調で不穏なことを口走る。
雰囲気変わるよな。どっちも素なんだろうけれど、珍しいものを見た。
「世継ぎの問題は安泰でござるな」
「まだ油断できません。大学部卒業まで子供は作らないと豪語していますので」
俺はガキとか嫌い。子育てとか絶対に面倒だからしたくない。
俺の時間は俺のものだ。子作りも結婚もデメリットきつすぎる。
「まーたマイナス思考になっとるじゃろ」
「当然だろ。そんな思考でも死ぬほど美味い飯って凄いな」
気持ちが落ち込んでも超絶美味い。
城に勤めることができるほどの腕前を尊敬するよ。
「王族になれば毎日食べられるのよ?」
サクラさんの誘惑。だが甘い。そんなものに乗る俺ではないのだ。
「遠慮しときます。王族が務まる人間じゃないので」
「うむ、威厳とかないからのう」
「そういうことです」
政治とかめんどいんだよ。やってられるかアホくさい。
「リリアと一緒に葛ノ葉の里に住めばいいのさ。それなら永遠に二人の夏休みが続くよ」
「素敵ですね。ラーと一緒に住んでいたこともありますが、愛を育むにはぴったりですよ」
ラーさんと卑弥呼さんの勧誘。ずっとだらだらしていていい。
それは俺にとって魅力的だが、まだ異世界を遊び尽くしていないからな。
「検討しておきます。今の生活が気に入っているので」
「フウマの里などいかがでござるか? 故郷に近い文化でござろう」
「ほう、サカガミ殿の故郷か。気になるな。いずれご両親に挨拶もしなければいけないことだ。よければ……」
「俺に故郷も両親もありませんよ。今住んでいるギルドハウスが生まれ故郷です。学園で、いきなり高等部一年として生まれた感じです。それ以前にはなにもありません」
これははっきりと言っておく。元の世界なんて胸糞悪いだけだ。
食事がまずくなっちまう。この話終わり。
「アジュはそういう人なんです。だから、この話はここまでにしてください」
「そうね。今私達と一緒にいる。それが全てよ」
シルフィとイロハがフォローに入ってくれる。
全員なにか察してくれたのか、それ以上は聞かれない。
リリア一家は事情を知っているので見守っている。
「つまり里に来ることに何の障害もないということでござるな」
「それもどうかと思いますよ……」
元々忍者でこの世界に来たコタロウさんは、こういう話題に適応するのが早い。
環境に素早く適応し、生きる道を模索する技術があるのだろう。
「わかった。ならば何も聞かぬ。救国の英雄であり、シルフィの仲間だ。それでよい」
「そうですね。サカガミさんには命を救っていただきましたもの」
フルムーン王家も問題なし。優しい人達だな。
普通こんなにすんなり受け入れてくれるもんじゃないだろうに。
「フウマ一同、いつでも受け入れる準備は整ってござるよ」
「そうだな。学園を卒業したらギルドハウスには住めないだろう。城の近くの空き地でも確保しておくよ。いつでも来てくれて構わない」
「いえ、そこまで気を遣わなくても……」
「いざとなれば魔界の領地もあるのじゃ。ゆっくり考えるがよい」
そういや領地貰ったな。最悪そこでだらだら暮らそう。
「ほほう、魔界とな? 興味深いでござる」
無駄なところで食いつかれた。自分語りとか好きじゃないので、適当にリリアに任せる。飯が冷めるからな。
それから国も神も関係なく、和やかに食事は続く。
「っていうかカニクリームコロッケあるぞ……」
「好物だとお聞きしています。シェフにレシピを渡して作ってもらいました」
当然食う。食わない理由などない。一口食って違いがわかる。
衣がさっくさくだよ。中がとろりと溶けるし、クリームの甘さとカニが味を引き立てあっている。完璧だ。後味も最高。まず香りが全然違うぞ。
「最高でしたと伝えてください。是非」
「確かに伝えておこう」
素晴らしい料理人がいるな。超最高級食材で作るとこんなに美味くなるのか。
自然と手が伸びる。いやあ来てよかったマジで。いい思い出になるわ。
「はあ……かなり食ったな。うまいもんは自然と口に入るぜ」
「あまり食べ過ぎるでないぞ。どうやら……少し運動することになりそうじゃ」
リリアの視線の先には、黒いフードをすっぽり被った四人組がいた。
「何奴!?」
「お初にお目にかかる」
一人が喋り出す。野太い男の声だ。
尋常じゃない魔力を垂れ流しにし始めた。
明らかにやばい。全員が戦闘態勢に入る。
「その力……神族ですわね?」
「いかにも」
「そちらの神は何者だ? このハンサムともアマテラスとも違う次元の神族だな?」
神の力の違いまではわからない。どうやら別種の神が混ざっているとのこと。
「我らが目的は二つ。クロノスの血族への復讐と」
「軍神テュールの腕をいただく」
どうやら夏休みの最後に、とんでもないイベントが待っていたようだ。
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