ヘファイストスとサイクロプス

 フルムーン城に突如として現れた、黒フードの四人組。

 全身黒で覆っているため、男か女かすら不明。


「クロノスへの復讐と、テュールの腕?」


「左様。クロノスとその血族により、不当に虐げられし恨みを晴らすため」


「そしてテュールの腕はフェンリルによって奪われたもの。返すことが筋であろう?」


「それはちょっと違うでござるな」


 コタロウさんから待ったがかかる。フェンリルに関してはマジで当事者だからな。

 逆にコタロウさん以外で知っている人間がいない。


「何者だ」


「フェンリルの関係者でござるよ。確かに軍神の腕は食いちぎったものでござる。捕らえられそうになり、必死で戦い、逃げる際に飲み込んだもの」


「ほう……少しは知識があるようだな」


「いやいや、それほどでもないでござるよ。話の続きでござるが、ちゃーんとテュール殿が現れて、最終的には超高性能な義手が作られ、腕はフェンリルとその子孫に受け継がれていくことになったでござる」


 これがハッタリか真実かはわからない。

 本家本元の忍者だし、嘘もそれっぽくつけるだろう。


「証拠でもあるのか?」


「ではなぜテュール殿はご自身で取り返しに来ないのでござるかな? ひょっとして、この一件に関わっておられない、とか?」


 ほんの少しだけ、敵が動揺したように見えた。

 正体不明の神族相手にやたら堂々としているなあ。


「だが賽は投げられた」


「かっこいいこと言っているようだが、言葉だけではハンサムとは言えんな」


 単純に言葉に詰まっているだけっぽいし。

 案外アホなのかも。敵がアホで弱いと楽できていいのに。

 俺が戦わなくてもいいからね。


「城に乗り込んできておいて、はいそうですかと渡すとでも?」


「こちらには大量に神がいますわ。勝ち目のない戦いだとは思いませんこと?」


 まったくもってその通り。ヒメノもポセイドンも上級神。

 ぶっちゃけそこらの神々でどうこうできるレベルではない。


「我らは幻影。そして無駄な探りは仲間の女神が死ぬだけだ」


 懐から取り出した水晶玉が、中空に映像を映し出す。

 超高画質のモニターのようなそれに映し出されたのは。


「…………リウス殿!?」


 ホノリ・リウスともう一人、知らない男がいる。

 リウス殿って呼ばれているんだから親父さんかな。

 そして二人を守るように、落ち着けようと笑いかける女性がいる。

 金髪で凛とした美人といったところだろうか。


「ヘファイストス!」


 ポセイドンが珍しく焦った声を出す。知り合いということは神族か。


「そうだ。鍛冶の神ヘファイストス。クロノスとともに、我らを冥府へと幽閉した、忌むべき女神」


「人質ということですの?」


「そうだ」


「この場所は見覚えがある。フルムーンのスタジアムだ」


 どうやら闘技場っぽい最新設備らしい。

 戦闘もできる大規模な施設だ。


「そのコピーだ。遙か上空に設置してある。まず気づくまい」


 さらっとコピーとか言ってますよ。神はスケールが大きいやな。


「闘技場に灯る四つの炎が結界となっている。スタジアムでの勝負に勝てば消える」


「ここで倒せば?」


「スタジアム周辺を巻き込み、やがて炎の渦が国を覆う」


 うーわ質悪いことしてくれるな。国なんて俺には関係ないが、シルフィが悲しむ。

 それはなるべく避けたい。さてどうするかな。


「ふむ、ルールでも聞いてみようではないか」


「クロノスの継承者とフェンリルの後継者を入れた四人との果し合いだ。相手を殺せば勝ちとする」


 シンプルだな。正々堂々とやると聞こえなくもない。

 どうせ仕掛けがあるのだろうけれど。


「神々の戦いは世界に影響を及ぼす。ハンサムは避けるべきだと思うがな」


「ならば神の血を引く人間を出せば良い」


 んな無茶な。それで神様殺せりゃ世話ないだろ。


「明日正午、スタジアムで待つ」


「顔も名前も教えずに待ち合わせかい?」


「我が名はサイクロプス。クロノスとヘファイストスに復讐を誓いし神。我が魔力を道標としよう」


 野太い男の声が響く。まず一人名前発覚したな。

 サイクロプス……なーんか聞いたことがある。

 単眼の巨人だったような。にしては二メートルくらいだな。


「では遅れぬように…………なんだ?」


 後ろの黒フードが何かを指差している。その指の先をよく見ると。


「…………俺?」


 明らかに俺を指している。自然と視線が集まる。うざい。


「何者だ? ここは神族でもないものがいる席ではなかろう」


 うーわ興味持たれた。いいから帰れよ。まだデザートがあるんだよ。


「いや、俺は関係ないんで。ごく普通の一般人だよ」


「ならばなぜこの場にいる?」


「こいつらの友人で、偶然同じ時期にヒマだったから招待されただけだ。魔力でわかるだろ? 凡人だよ」


 まずいな。変装して出るという案もあるんだけれど、俺が強いと思われるのはきつい。正体を探られたくないのに、面倒事が来やがる。


「彼は王家とは何の関係もない。本当に一般人だ。復讐なら無関係の人間に関わるべきではないだろう」


 ジェクトさん渾身のフォロー。ありがたい。出来る限り無関係を装うのだ。


「…………まあよい。サクラ・フルムーン。そしてシルフィ・フルムーンよ。その首……必ずや掻き切る」


 そして四人の幻影は消えた。静まり返る室内。完全な沈黙。


「いやどうすんだこれ?」


「行くしかあるまい。しかし、四人選べと言われても……」


「フェンリルの継承者ってイロハだよな……コジロウさんでごまかせたり……」


「無理でしょうな。テュールの腕が出なければアウトでしょう」


 イロハ確定。あと三人。みんながこっちをちらちら見ている。


「神様四人で潰せないのか?」


「僕らはラグナロクのように許可されている場合のみ全力で戦うんだ。世界が壊れてしまうからね。好き勝手している神も多いけれど」


「困りものですわね。神としての節度と自覚が足りないのですわ」


 それをお前が言うのか。戦闘しないだけでフリーダムの権化だろうが。


「今回はよほどのケース。しかし、人質がいるからには人間でいくしかないのじゃよ」


「困りましたね。最低でもサクラかシルフィを出さなければならないのでしょう。娘を戦地に送らねばならないとは」


 レイナさんは血族じゃない。

 ジェクトさんは強いしクロノスの力を使える。

 しかし、サクラさんとシルフィ名指しってことは、力が受け継がれたと思っているということ。


「またサクラさん祭り上げ計画やるか?」


「正直遠慮したいわね。アジュくんが不在でこういうトラブルが起きた時、私じゃ解決できないもの」


「いやそれ毎回俺が解決することになるんじゃ……」


「大丈夫よ。王家総出で隠蔽するから」


 それ言っちゃっていいのかね。ってかこれ俺も出るの確定か。


「裏工作ならフウマにお任せでござるよ」


「その道のプロですもんね」


「でござる」


 なんせ千年はこの世界で続く忍者の一族である。

 そりゃ大抵はなんとかなりますよ。あんまり頼り過ぎはよくないけれどね。


「じゃあ俺も今回は出るか……ホノリには剣作ってもらった恩があるからな」


「うむ、恩を返すチャンスじゃな」


「ほう、リウス家とも知り合いか」


「ええまあ。鎧とか詳しい事情は知りませんので、一般的な知り合いということにしてください」


 言わなくてもそうしてくれるだろうけれど、保険は大事。


「ただなあ……ほら、俺は強いとバレたくないから、シルフィキー使うだろ」


 シルフィキーで出せる真紅のパワードスーツは、フルフェイスのイカした仮面だ。

 ヒーローキーはヘッドギアというか、額を守るためのもの。

 顔と髪の毛が八割くらい出ちゃっている。


「それとヒーローキーで二人だね!」


「いやだから強いとバレたらダメなんだよ。俺だと認識されたくないの。あいつらやってること杜撰すぎて怪しいんだよ」


「確かに妙じゃな。神を人質にできるというのも怪しいものじゃ」


「そうね、こんなに神がいる瞬間を狙って現れるなんて、対策を取られるに決まっているわ」


 色々と話していくが、やっぱりおかしい。

 この会談が終わり、神が減ってから王家に要求すりゃいいんだ。

 俺達にスタジアムごと壊される可能性だってある。


「よっぽど何も考えていないか、じゃなきゃ裏で焚き付けた犯人がいると思うよ」


「そいつに正体を知られたくない。犯人がいなくて、ただアホならそれでいい。警戒だけはしよう」


「また仮面つけたらよいじゃろ」


「仮面の忍者というのも粋でございますよ、お館様」


 そんなこんなで細かい作戦を詰めていった。

 全ては明日。行くだけ行ってみようじゃないか。

 新学期までに速攻で終わらせてやる。

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