神々とのタッグマッチ

 空中浮遊の魔法を使い、やってきました空中スタジアム。

 広く、清潔で無人。シルフィによると地上にあるやつそっくりとか。

 天井がガラスっぽい素材で覆われており、高所なのに息苦しさはない。


「逃げずに来たか」


 黒フードの男がお出迎え。声からしてサイクロプスだな。

 入り口で待っていることも想定して、俺は赤いパワードスーツに着替えている。


「随分と人数が少ないな。それで我らに勝負を挑むか」


 こちらは俺とギルメン三人に、サクラさんとコタロウさんにポセイドン。

 ジェクトさんとレイナさんは、コジロウさんとラーさん卑弥呼さんが城で護衛。

 ヒメノ一派はフウマ忍軍とフルムーン親衛隊と一緒に街の警ら。

 何をされるかわからないので、国の警備を厳重にしたわけさ。


「そちらこそ、他の三人はどうしたのじゃ?」


「案ずるな。戦いの場にて待機している」


 マジで正面から倒す気かこいつら。

 どの程度強いか知らんけれど、結構な上級神でも混ざっているのかも。

 警戒していこう。


「控室へ案内しよう。不意打ちはせん。死合の場にて屠らねば気が済まぬ」


 そんなわけで赤絨毯の上を歩き、階段登って王様とかが観戦する豪華な部屋へ。

 下には大理石のような立派な石造りの舞台。その広さは圧巻だ。


「多目的ホールっぽいイメージだったが……」


「魔法で様々な舞台を精製できるのよ。アレはその中でも上等なものね」


 サクラさんから軽く説明を受ける。魔法ってのは便利だねえ。


「なんだ……? 剣やら槍やら……武器?」


 舞台に砕けた武器が散らばっている。

 大小様々だが、どれも無残に破壊されていた。


「我が武具を認めんヘファイストスに、少々知らしめてやった」


 室内の壁の一部が消え、奥でソファーに座っているホノリとヘファイさんを発見。

 部屋の半分に満たないスペースを、半透明な壁で区切って隔離しているようだ。


「ヘファイストス!」


 傷ついた女神。さらに奥にはベッドがあり、映像で見た男が眠っている。


「リウス殿!」


 こちらに気づいたホノリが駆け寄り、壁越しに何か言っているが聞こえない。


「彼に何を?」


「命に別状はない。食事も与えている。簡単に死なれてはつまらぬ」


 微妙に質問の答になっていないね。

 こちらの声が聞こえているのかわからないが、あちらの声は聞こえない。

 さっきからホノリが口を動かしているのに、何の音もしないのだ。


「我が恨みはクロノス、そして何よりヘファイストスに起因する。よって、望みの半分を先に叶えたまで」


「あと半分は私達、ということかしら」


「正解だ。死合を始めよう、サクラ・フルムーン」


「待て、サイクロプス」


 舞台から跳躍し、手すりに立つ黒フード。

 こいつも男の声だ。だが何重にも重なっている。


「お前はもう半分望みを叶えた。ならば次は私であるべきだろう?」


「クロノスへの復讐が終わっていない」


「ほほう、どちらかといえばヘファイストスへの恨みが増していると思っていたよ。いいから譲ってくれないかな。フルムーンは二匹いるんだからさ」


 なんか内輪揉め始まったんですけど。こいつら別に仲良くはないのか。

 利害の一致ってところだろうな。


「はいはい、私が妥協しよう。タッグマッチはどうかな? その代わり、サクラ・フルムーンは私が殺す」


「随分勝手に決めてくれるわね」


「神がやることだ。人間に決定権など回ってこない」


 傲慢なタイプか。面倒だな。

 このままタッグの流れになって、姉妹で出たら確実にどちらかが死ぬ。


「悪いけれど、一気に姉妹両方なんて虫が良すぎないか?」


「なんだね君は? 素顔を見せないとは、無礼が過ぎるよ」


「すまないな。王家に助太刀させてもらう。安心するといい、神ではない」


 ご丁寧に声まで変えて、ちょっと口調も変えた。手間かけさせやがる。


「戦うのはサクラ姉様じゃない。わたしと」


「俺だ」


「我らが望むはクロノスの血を引く人間の抹殺。深入りは死期を早めるだけだ」


「部外者の血で神の手が汚れるじゃないか。仮装なら他所でやってよ」


「ならこれでどうかな?」


 ちょっとだけ魔力を開放する。

 シルフィキーはクロノスの力が入っている。

 少しだけ魔力を垂れ流せば気づくはずだ。


「強者の魔力……ジェクト・フルムーンか?」


「いいや違うね。ジェクトは城で指揮を執っている。私も知らない血族がいたということかな? 面白いじゃないか。乱入を認めよう。降りておいで」


 二人が舞台の中央へと飛ぶ。軽々と飛べるほどには力があるようだな。


「まいったな……タッグは最悪のケースだ」


「バトルロワイヤルにならんだけマシじゃろ。ここから応援しておるぞ」


「気をつけて。相手がどんな神かもわからないわ」


「そうだね……でも大丈夫! わたしだって仲間なんだから、いつもいつも頼ってちゃいけないんだよ!」


 強いのは知っている。だが相手は神。油断すりゃ俺以外は危険だ。


「まあ死なないように精々頑張るさ」


 ギルメンからの応援を受け、抱きついてきたシルフィ抱えて飛び降りる準備。


「あらあら仲良しさんね」


「ふっ、ハンサム行動ができているではないか」


「お館様。ぜひイロハの時もしてやって欲しいでござる」


 ちょっと自分でも驚いた。なにやってんだ俺は。

 シルフィを降ろそうとするとしがみつかれる。


「はいこのままいくよー!」


「あれはずるいわね。私にもするべきよ」


「わしは帰りにでもして貰うのじゃ」


「不覚……マジで自然に受け入れちまった……もっと警戒しよう」


「なんでさ!?」


 もう行ってしまった方が早い。さっさと舞台に飛んでシルフィをおろす。


「シルフィ、最初から鎧で行け。死ぬぞ」


「わかった……頑張るからね」


『クロノス!』


 真紅の鎧に透き通った美しい剣。クロノスモードなら即死は免れる。

 後は状況次第で助けに入るか。


「シルフィ・フルムーン……参ります!」


「よもやこれほどまでに力をつけていようとは。それでこそ全力を出すに値する!」


 男が黒フードを取ると、そこには五メートルを超える巨人がいた。

 漆黒の肌。大きく鋭い角。丸い単眼。

 右腕にはその巨体の倍はある大剣。

 装飾などない無骨で黒い鎧には、胸のあたりに目玉がある。


「我が名はサイクロプスが長兄アルゲース! 死合にて、その首貰い受ける!!」


 凄まじい威圧感だ。遠目に見てもやばい。

 巨体に負けないドス黒い剣は、赤い線のようなものが無数に脈打ち、中央には目のようなものが輝いている。


「まずいな……」


 あいつ、見た目からしてパワータイプだ。

 純粋に戦闘力の高いやつと、シルフィは相性が悪い。

 異能勝負なら時間操作は効果絶大。だが、相手は神の耐久力を持つ。


「おっと」


 何かの気配を察知し、軽く避ける。俺の顔の横を掠めていったのは。


「……腕?」


 なんかぶっとい腕だった。途中でUターンして黒フードへ戻る。


「なんだお前ロボットか? ロケットパンチとは洒落ているじゃないの」


「お互い姿も見せない。名乗らない。なら強制的に服を剥ぎ取ったやつが自分から白状する。屈辱に塗れてね。面白いだろう?」


「いいね。そういう発想、ちょっとだけ好きだぜ」


「そう、それじゃあ殺し合おう。クロノスの血を継ぐ人間なんて、いなくなっていい」


 こいつも尋常じゃない魔力だ。

 テクニックとパワー両立してんなら、やはりシルフィには厳しいだろう。

 ええい心配になってきた。なぜ俺はこんなことをしているんだ。


「よそ見していていいのかい?」


 音速の五十倍から百倍ちょっとで巨大な腕が数十飛んでくる。

 中には火の付いたものや、電撃を纏ったものまで多数。


「この程度ならどうとでもなるんでね」


 全弾きっちり殴り飛ばしてお返しする。

 いくつか手刀で切り裂いてみたが、微妙に青い血が流れていた。

 殴って粉々にしても飛んでくるし、無限生成じゃないといいな。


「なるほどなるほど。神の戦いに首を突っ込むだけあるじゃあないか」


「好きでやってないっての」


 シルフィを見ると、サイクロプスの猛攻をなんとか避けていた。

 やつの一振りは空間を揺るがし、突風を巻き起こす。

 それでいて速い。でかいから鈍足というわけでもないのか。


「強い……でも、ここで負ける訳にはいかないの!」


 シルフィが頑張っているんだ。俺もこいつを処理しないとな。


「そんなにあの子が気になるかい? あの世でじっくり語り合いなよ!」


 巨大な手のひらが俺を握り潰そうとしてくるが、光速回避で本体に接近。


「あの世に行くのは、お前だけさ」


 手に魔力を込め、手刀で胴を切り裂いた。

 斜めにざっくりと切れ目ができ、上半身と下半身がずれていく。


「意外にあっけないな」


「そう思うかい?」


 平然と返された。無数の腕で体を繋ぎ止め、徐々に再生していく。


「神が人間と同じ方法で殺されるわけがないだろう?」


「そうかい。んじゃどうやりゃ死ぬか、死ぬまで試してやるよ」


 鎧の力を開放。今と同じ攻撃で死ぬように魔力を変換。

 次で確実に殺す。シルフィに怪我をさせないためにもな。

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