食事と緊急クエスト

 夕方になり、手頃そうな飯屋を見つけて入ってみる。


「いらっしゃいませ。おや、旦那じゃございやせんか」


「フリスト?」


「へい。お久しぶりでございやす」


 なんだか庶民的で小奇麗な飯屋に入ったら、フリストに遭遇。


「ちょっとしたお手伝いと、旦那方のまあ……異常がないかチェックでございやす」


「ヴァルキリー出ないだろうな」


「あっし以外の反応は出ておりやせん。アルビトもおりやすから、何かあればすぐ感知できやす」


「それは助かるわね」


 本当にメリットゼロのお邪魔キャラだからな。

 あいつらが来ると無駄なバトルをしなくちゃいけない。

 俺のゆったり生活が慌ただしくなるから嫌い。


「お座敷が空いておりやすぜ」


「んじゃそっちで頼むわ」


「かしこまりました」


 静かでほどよく上品な、食い物と家屋の香り。

 案内された部屋も広い。


「宴会用かこれ?」


「あっしにはわかりかねやす。こういった家屋を作る経験を積ませる。というのが建築科への課題だったようです。監督官方もお食事にいらっしゃいますので、それ用に大きいのかも知れやせん」


「とても落ち着くわ」


「うむ、よい雰囲気じゃ」


 靴を脱いで足を伸ばす。リラックス空間だなここ。

 そっと飾られている花とかも、落ち着く色合いで邪魔にならない。

 くつろぐことを最重要視しているのだろう。


「今日は焼き魚定食と、山菜づくしのパスタ定食がございやす」


「俺焼き魚で」


「私もそれでお願いするわ」


「わたしパスタで」


「わしも山菜で」


「かしこまりやした。ではごゆっくり」


 壁に背中を預け、ぼーっとしていると、疲れからか何も考えたくなくなっていく。


「寝ちゃダメだよ。ご飯くるよ」


「わかってるよ。そこまで子供でもないさ」


 横になったら寝そうだけどな。それは黙っておこう。


「横にならんように見張っておればよいじゃろ」


 はいばれています。だからって疲れていると会話だるい。


「俺はぼーっとしているから。好きにしていてくれ」


「……好きにしていいのね?」


「節度を守れ節度を。くっつくのとか禁止な」


 捕食する狼の目になっていたので注意しておく。

 だらけ全開の俺に、リリアがジュースをくれる。


「炭酸りんごジュースでしゃきっとするのじゃ」


「なんで炭酸がある……」


「炭酸は人工的に作ることもできれば、自然界にも普通に存在するものじゃよ。それはどっちの世界も一緒じゃ」


「マジか」


 なんとなく工場とかじゃなきゃ作れない、特殊ジュースのイメージだった。

 最近はご家庭で簡単に作れるものだったりするとか。


「あー……しゃきっとしたかも……飯食っても宿に帰らなきゃいけないのマジでめんどいな」


「家で食べる時が多いからのう」


「おんぶする?」


「そこまでしなくていい。普通に歩く」


 戦闘後に直帰できないとめんどいね。これは色々考えよう。

 絶対に戦闘は激しくなるんだから。


「お風呂は入るのよ」


「朝起きてからでいいか?」


 疲れている時って風呂が沸くまでに寝ちゃいませんかね。

 もう服脱いで入って、洗って、出て、体拭いて、服着て。

 風呂だけにかかる特殊な工程が多すぎる。


「…………その場合、服は貰っていいのかしら?」


「どういう質問だおい」


「お待たせしやした。旦那、お疲れのようでございやすね」


 フリストが料理持って帰ってきた。いいぞ、うまそうな匂いで目が覚める。


「早いな。しかもうまそうじゃないか」


 焼き魚は開いて骨が取ってある。結構大きめの白身だ。

 スープは流石に味噌汁じゃないが、透明でお椀に入ってすまし汁に近い。

 白米と山菜のサラダが付いている。


「へい。シェフが腕によりをかけてございやす」


「ほほう、わざわざシェフがおるとはのう」


「それ系の学科が、単位とお金につられているのでございやすよ」


「学生作か。それにしちゃあしっかり作られているな」


「学園は達人育成校。そこいらの学生とは格が違うのでございやす」


 本当に天才と秀才の集まりだなこの学園。

 そのおかげでいいもん食えるなら感謝しておこう。


「では失礼いたしやす」


「んじゃ食うか」


 魚を一口食べてみる。初めて食べる味だが、サンマに近いな。

 サンマよりあっさり目で、身がすっとほぐれるところはタラに近い。


「おおぉぉぉ……うまいな!」


 シンプルに塩焼き。焼き加減も塩加減もばっちりだ。

 魚特有の臭みもないし、米に合う。

 さらにスープが口の中をすっきりさせてくれる。


「おいしいわ。シンプルだけど、必要な技術全てが詰まっているのね」


「しつこさもなく、味に深みが出ておる。これは素晴らしいものじゃ」


 パスタはきしめんみたいな平べったい麺だ。

 うむ、名前知らん。俺が小洒落たもんの名前など知るか。

 薄緑のクリームがかかっており、何種類もの山菜が入っている。


「ちょっと食べる?」


「ん、そう……だな」


 これは下手するとあーんの流れになる。

 全員分やっていくのちょっとしんどい。

 嫌なんじゃなくて疲れている。


「はいどうぞ。そっちもちょっと貰っていい?」


「え、ああ、いいぞ。悪いな」


 普通に小皿に分けて置かれた。

 ちょっと交換して食ってみると、クリームのまろやかさに山菜の味がいいアクセントになっている。味が引き締まるっていうのかね。


「これはこれで美味いな」


 野菜の嫌な苦さや青臭さがない。しっかりパスタに合っている。


「こっちも美味しい!」


「学園は食べ物も料理も質が良い。いいことじゃ」


 普通に飯食って終わりそう。なんか平和でいいな。


『緊急クエスト発動。町中に現れた敵を殲滅してください』


「絶対普通に終わらないよな」


「しょうがないね」


「食事は終わっているから問題ないわ」


「ではご説明いたしやす」


 フリスト再登場。なんかパンフ持っている。

 店内を見ると、他の客にも店員が説明しているようだ。


「緊急クエは受けるも受けないも自由です。唐突に始まるため、戦える状態でなければスルー推奨でございやす」


「これも試験じゃないの?」


「自分が戦えるコンディションかを正確に把握できずに無茶をしてはいけないのですよ」


「そらそうだ」


 ぶっちゃけ足手まといというか、死人出るだけだしな。


「町中を魔力で動く鎧が歩いています。建物には入りませんし、勇者科以外を襲うこともありやせん。なるべく周囲の建物や景観を壊さずに殲滅できるかどうかのクエでございやす」


「難易度の高そうなクエストね」


「そうでもございやせんよ。初日から敵が建物を破壊するわけにはいきやせんので、攻撃手段は限られておりやす。鎧も強度はそれほどでもない、むしろ脆い鎧を意図的に作るという妙な技術が用いられておりやすぜ」


「解説ありがとうフリストちゃん」


「いえいえ、ご武運、お祈りしておりやす」


 そんなわけで飯食って外に出ると、ふっつーに歩いてやがるぜ鎧が。

 細身の全員鎧だな。赤・青・緑……カラーバリエーション豊富すぎるだろ。

 ぱっと見た感じで十色はいるぞ。


「何色あるんだよ」


『緊急クエストを開始します。なお、金と虹色の鎧は高ポイントです』


「色でポイント違うんかい」


「面白くなってきたのう」


 趣向を凝らしてきやがるな。学園側も楽しんでいるようだ。


「油断はするなよ。制限かかってんの忘れるな」


「わかってるって! それじゃあ倒していこう!」


 近くをうろついている白い鎧に近づく。

 こちらを見つけたのか、ゆっくり歩いてくる。


「動きは遅いのか?」


 やがて手に持った木の棒をこちらに振り下ろす。


「やっぱり遅いのか。いよ……っと!」


 カトラスで腹に斬りかかると、あっさり鎧の上半身と下半身が泣き別れに。


「マジで脆いな」


「あっちの赤いのは移動が早いのね」


 イロハが指差す先には、他の生徒に走って殴りかかろうとする赤い鎧。

 生徒が氷塊をぶつけて壊しているので、耐久力的には変わらないかもしれない。


「色で特性変えておるのじゃな。気をつけるのじゃ」


「あいよ、そんじゃ狩っていくぞ」


「おー!」


 そんなわけで狩り開始だ。敵が弱いうちにポイント稼いじまおう。

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