宿を決めたら大規模戦へ

 中間試験初日。泊まる宿を決めることにした。


「値段は千。七百。五百。三百の四個か……五百あたりで質が良ければそこがいいな」


「一応全部個室じゃな。そこまで雑に作られているとは思えんがのう」


 てなわけで木造でほどよく清潔感漂う宿へ。

 そりゃ新築だろうし、綺麗ではあるよな。


「いらっしゃいませー」


 女の従業員が数人いる。それ以外はマネキンのような人型ゴーレムだ。

 大理石に近い材質で、額に綺麗な石が埋め込まれている。

 その横にからくり人形なんかもいて、和洋折衷というか、雑に飾られたフィギュア棚みたいだ。


「ゴー……レム?」


「私達の術ですよ。人形術士が操作しています」


「まあそりゃ人員割きまくるわけにもいかんよなあ」


「テスト期間だけじゃしのう」


 少々魔力のコントロールが難しい術らしい。滑らかに動いているように見えるな。


「お泊りですか?」 


「部屋って見れます?」


「隣の部屋が見本です。全室同じ部屋ですよ」


 扉の奥はごく普通のお部屋。十二畳くらいかね。

 別室にトイレと風呂場もある。

 ベッドと最低限のタオルやら水差しやらがあるのはいいね。


「悪くないわね」


「防音効果も結構効いておりますよ」


 ベッドもそこそこふかふかっぽい。

 改めて自宅の設備の良さを知った。


「今日はここでもいい気がするな」


「うむ、また次の日にでもひとつ上を見てみればよい」


「わたしもいいよ」


「決めましょうか」


「はいまいどー! 四人並んだお部屋がいいですか? 今なら可能ですよ?」


「んじゃそれでお願いします」


 決めてポイント払って鍵貰っておく。

 鍵に長い長方形のキーホルダーみたいなやつがついている。

 ホテルってどの世界もこうなのかな。


「飯って出るんですか?」


「一応食堂がありますので、そこで頼むか、材料を買い込んで専用の厨房をお貸しすることもできます」


「なるほど。どうも」


「ついでに周辺のクエストをまとめたパンフをどうぞ。戦闘系なら時間で稼げる大規模クエがありますよー」


 えらい丁寧だな。とりあえずお礼言ってホテルを出る。


「闘技場で魔物に勝ち続けるとポイント……ダメだな」


「たまに先生や戦闘系の科が来るみたいじゃな」


「余計ダメだ。強いとばれるだろ」


 できれば個人戦はやめておきたい。しんどい。


「鍛冶屋で刀剣を作るクエとか、回復薬を作るクエもあるね」


「勇者科は戦闘技能のないやつもいるからな。そいつら用なんだろ」


「もうすぐ大規模クエストがあるみたいよ」


「白軍に参加して、迫り来る黒軍から街を守りましょうだってさ」


 元が何もない場所だからだろう。そういう戦闘もできるスペースがあるようだ。


「これならいけるんじゃない?」


「最悪遠くから魔法で倒せるか?」


『大規模クエスト受付終了まで、あと十分です』


 アナウンスが流れる。全員行くことに異論はないようだ。


「よし、それじゃあポイント稼ぐぞ」


「おー!」


 そんなわけでだだっ広い場所に設置された、小さな建物へ。

 受付所って書いてあるな。


「いらっしゃいませ! 参加ですか?」


「はい。四人です」


「四名様ですね。それではこの白い腕輪をどうぞ。白軍のしるしです」


 一旦ここでカードを預け、渡される白いリングをつける。


「今回は勇者科対黒軍です。敵は魔物だったりゴーレムだったりで、みんな黒です。敵に人間はいません。こちら側の味方は全員白い鎧や白く塗ったゴーレムなどです」


「だまし討ちで白い敵とかは?」


「今回はなしです。黒い敵を狙いましょう。監督官が隠れて見ていますし、腕輪に功績が記録されます。最後にポイントがカードへと記録されて終了です」


 でっかい地図使って、重要拠点の説明を受けた。

 どうやら拠点制圧戦とかもあるらしい。


「危なくなったら回復ポイントに行ってください。ポーションと、人間にヒーリングをかけるよう命令されたゴーレムたちがいます。それではご武運を!」


 説明終わって柵が開き、草原に広がる自陣へ入る。

 人型ゴーレムが綺麗に整列し、出撃の時を待っていた。

 中には魔力を込めた無人の鎧なんかもいる。


「ほー……本格的だな」


 百を超える白い味方。こいつら入り乱れるのか。注意しないと危険だな。


「む? そこにいるのはいつぞやの……」


 槍と腕に装着するボウガン持った女が声をかけてきた。

 期末試験の時にいた気がするな。同じチームだったはず。


「マオリ・ファーレンス殿じゃな。期末試験以来じゃのう」


「久しぶりだな。私はファーレンスかマオリでいい。そちらも戦闘クエか」


「そういうことよ」


 うむ、完璧に思い出したぞ。

 堅物っぽいが、戦闘じゃ柔軟性もあるし、こっちの事情に首突っ込んでこないところが実にグッドだ。


「それは心強いな。他にも参加者はいるようだが、前衛が少なそうで困っていた」


「俺は後方支援したいんだが」


「せっかく剣があるんじゃ。もうちょい前に出てみるのじゃ」


「ゴーレム切れないだろ」


「土や木でできた敵もいる。そちらで修練を積むというのはどうだろう?」


 ちゃんと弱い敵もいるのね。そりゃ助かる。地道にポイント稼ぐか。


「修練ね……別にただ横着したいんじゃないんだ。魔法の道が面白くてさ。もっとやってみたいんだ」


 これはかなり本心である。接近戦苦手ってのもあるが、魔法は数が増えたり、威力が増すし、成長がわかって派手なのさ。かなり好き。


「それはすまないな。進みたい道があるのなら、それを目指すのもいいだろう」


「謝ることはないさ。まあ気が向いたら接近戦もやるよ」


「おぉ……なんかアジュが穏やかな感じだ……」


「どういうこっちゃ。俺は普段から穏やかだろ」


「穏やかというよりだらけきっておるじゃろ」


「偶然興味が湧いただけ。誰かに従っているわけじゃない」


 他人にうだうだ言われると、意地でもやりたくなくなる。

 試験だし、多少は動かないといけないってのも大きい。


『ただいまより大規模戦を開始します』


「お、始まるぞ」


「よーし頑張ろうね!」


「制限がかかっていることを忘れるでないぞ」


 進軍を始めるゴーレム軍についていく。

 敵軍はもう目の前だ。やたらめったらいる黒い軍。


「いやこれ多いだろ」


「こちらの兵も多いから大丈夫よ。突出しなければいいだけね」


 どうやら進軍……というより歩行速度は遅いようだ。


「なら色々やってみるか。サンダースマッシャー!」


 直撃したゴーレムは上半身が砕ける。マジでそれほど強くないな。


「お、こりゃいけそうだ」


「うむ、よい機会じゃな」


「始めましょう。火遁、螺旋炎流!」


「私も参る! フレイムスティンガー!」


 ファーレンスは槍やボウガンに炎の魔法を乗せて戦うタイプ。

 俺の各種魔法が発動する武器になると思えばいい。


「前に出るやつから潰す! サンダードライブ!」


 地面を走る電撃の波が、前衛ゴーレムの足を崩す。

 バランスを崩したやつのせいで、一部の足並みが崩れた。

 気にせず進み続ける別部隊は、ゴーレム同士の戦いへと発展。


「援護してみるか。サンダースラッシュ!」


 ほぼ一対一の戦いをしているゴーレムさん。

 なので戦闘中の黒ゴーレムを倒してみた。

 すると白軍のゴーレムは二対一で戦い始める。


「おお、結構頭使って戦うんだな」


「うむ、戦局を有利にできそうじゃな」


 次の戦闘はもっと厳しくなるだろうし、習性を覚えておこう。


「サンダーフロウ! でもってシード!」


 カトラスに魔法を二個重ね掛け。

 剣の魔力ストック機能を使っている時にできる荒業である。

 雷で剣のリーチをちょっと伸ばし、斬りつけると雷球が弾け飛ぶ。


「威力は高いな。問題はストック二個消費することか」


 ゴーレム程度なら壊せる。しかしめんどい。乱戦でやることじゃないな。


「おっと危ねえ」


 ちょい突っ込みすぎたか。囲まれそうだったので退避。


「魔力切れを起こさなくなってきたのう」


 リリアが属性無視の魔法乱れ打ちで援護してくれる。

 ここでちょいと気になった。何種類も魔法名決めてんのかな。


「そういやそれなんて魔法なんだ?」


「名前は決めておらぬ。適当にその場で魔法が出るという事実だけ構築して撃っておる」


「よくわからん。まあいいか。適当に弱いやつ倒して……」


 そこで軽く地面が揺れる。

 遠くから五メートル近い岩のゴーレムさんが歩いてくるじゃあないか。


「うーわ、そういうの出しますかね」


「あれがボスなんじゃないかな?」


「ファイアアロー!」


 ファーレンスの火炎ボウガンが軽く弾かれる。

 どうやらボスだけあって硬いらしい。

 ボスが近くのゴーレムを敵味方関係なく掴む。


「む? 何をしようというのだ?」


「……ちっ、全員こっち来い! リリア!」


『ガード』


「ほいほい」


 俺とリリアで結界を張る。少し遅れてゴーレムさんがぶん投げられた。

 結界にぶち当たり、粉々に散っていく黒軍のザコ。


「あっぶな……そういう戦い方すんなよ」


 近場のゴーレムをこっちに投げてきた。

 動く投石機みたいなもんか。これはうざいぞ。


「すまない。助かった」


「ありがとアジュ」


 ボスはこっちだけを攻撃しているわけじゃないならしい。

 今のうちに結界内で作戦会議だ。


「でもどうするの? 私達は奥の手が使えないわよ?」


「ザコを投げられないように全滅させるか、あのボスをぶっ飛ばすかだな」


 時間操作も影の軍勢も使えない。リリアは高位魔法使えないし。

 ここは安全策を取ろう。


「リリアはこのまま防御結界を。他のメンバーの魔法でボスをぶっ飛ばすのが安全だと思う」


「そうね。それでいきましょう」


「異論はない。そちらに乗ろう」


「わかった! みんなでやってみよう!」


「うむ、防御は任せるのじゃ」


 ボスからちょっと距離取って魔力のコントロールに集中。

 久々だが体は覚えているもんだな。


「よし、今なら昔より安定している。威力も上がる。いくぞ!」


「フウマ秘伝忍法、魔狼黒影波!!」


「光よ、わたしを導いて! シャイニングレイ!!」


「燃えよ我が愛槍! 豪熱! 大爆炎!!」


「プ・ラ・ズ・マアアァァ……イレイザー!!」


 雷と光と影と炎の渦が飛ぶ。

 ゴーレムをまるごと飲み込んで、巨大な魔力は雲を切り裂き天へと消えた。


『規定数の討伐。およびボスの撃破を確認。これにて大規模戦を終了いたします』


 終了を告げるアナウンスが流れた。やーれやれやっと終わりか。


「やったね!」


「制限をかけられていても、仲間がいればなんとかなりそうね」


「はあぁ……つっかれた……飯食って寝たい」


「お疲れじゃな。回復薬が貰えるらしいぞ。貰って帰るのじゃ」


 帰りはゴーレムさんが荷台に乗せて運んでくれた。やるなゴーレム。


「いい勉強になった。感謝するぞ」


 ファーレンスとはここでお別れ。

 どこまでも実直というか、我が道を行くが不快ではないやつだな。


「こっちこそ世話になった」


「またね!」


「ああ、できれば味方でありたいものだ。では失礼する」


 無事にポイントもゲットした。ボス撃破報酬でちょっと多め。


「さて、せっかく食堂があるんだ。食っていこう」


「そうだね。今しか味わえないんだし」


「特別出店のお店があるらしいわよ」


 ここの飯がどんなものか気になるし、ちょっと早足で行ってみることにした。

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