新学期と中間試験編

二学期と中間試験開始

 学園から四人にお手紙が来ました。

 そこには明日からの中間試験のお知らせと、それぞれへのお手紙。

 差出人はシャルロット先生だ。それを見て、完全に俺の動きは止まった。


「アジュのはなんて書いてあったの?」


 覗き込んできたシルフィに内容を見せてやる。


『あの綺麗な鎧を着ていいのは三回まで。一回につき十分まで使用を許可します』


「詰んだな」


 これは詰みましたね。うわあどうすんのこれマジで。


「おぉ……厳しめだね」


 ちなみにシルフィは『時間操作は一日一時間まで自由です』と。

 イロハは『あの大きな腕と影の兵隊や巨人はだーめ』と。

 リリアは『あんまり高位の魔法や書き換えは遠慮してね』と書いてある。

 どれもざっくりした一言の下に、さらに詳しく説明が入っていた。


「どうやら勇者科全員になんらかの制限をかけておるようじゃな」


「そういや個人の制限ってどう決めてんだ? 俺の鎧はともかく、シルフィやイロハのは血筋からの能力だろ?」


「個人をよく調べて、ギリギリクリアできそうな試練を与え、成長を促すのじゃよ」


 普通の学校の試験とは少し違うものらしい。


「勇者科は素質が見つかると編入が決まる超特殊なクラスじゃ」


「全員の個性も得意なこともばらばらで、覚醒条件も違うのよね」


「ヒメノとかが事情聴取とか調査をしとるじゃろ。ああやって勇者科個人の力量を調べておる。それを学園長と教師が把握し、頑張れば全員がクリアできる試練を与えるのじゃ」


「乗り越えられる壁を作って、わたしたちを成長させることがメインなんだね」


「うむ、しかし自衛できる戦闘技術と教養は手に入れて欲しいから、そういう試練も多いのじゃ」


 得意分野をある程度制限かけつつ、様々な状況に対応できるようにさせる、というところか。


「お前らは元が強いからいいさ。俺もうどうしようもないぞ」


「そこまで弱くないじゃろ」


「まだ戦闘があるとは決まってないし。大丈夫大丈夫」


「いやいや完全に戦闘見越してんだろこれ。やっぱ鎧はあんまり知られちゃダメだな」


 学園長とリリア関係。そしてシルフィとイロハの親族に知られるのは、ある程度しょうがない。だが教師に知られるとこうなるわけだ。


「明日の朝九時に、この場所に来いってさ」


「何もないただ広いだけの土地のはずよ」


 しょうがない。やれるだけ対策とるか。まず死なないことが最重要課題だ。


「準備だけちゃんとしておこう。ポーションと丸薬。煙幕にクナイと、武器はあるから……」


「こういうときのために、魔法の練習こそこそやっておったじゃろ?」


 ちょっと新型魔法を試していた。こいつらには内緒で。

 まさか未完成のままお披露目とか想定していない。


「あれはもう最後の手段だ。リリアがそばに居てくれないと不安だな」


「おぉ……そういうのはこう、もうちょいベッドでじゃな」


「じゃあ次はわたしに言ってみよう」


「私は最後でいいわ。その代わり、ベッドではなくお風呂を希望するわ」


「色ボケはそこまでだ。ちょっと真面目に対策考えないとやばいぞ」


 できれば使いたくはない。マジで死にかけるか、本気でどうなってもいいから殺したいほど胸糞悪いクズが出たら使おう。


「自信作ではないわけじゃな」


「人体にマジで負担がかかるんだよ。俺の細胞とか血液とかDNAとかわかるか?」


「……そこまで回復せねばならんと?」


「まあな。期待しているぜ」


 おそらく人体がぶっ壊れる程度じゃすまない。

 最悪鎧着ればいいんだが、鎧の使用は三回まで。さてどうする俺。


「万全の準備をして、とにかくちゃんと寝よう。今日は寝室に来るの禁止。ちゃんと各自休むこと」


「うむ、今回は仕方がないのう」


「試験頑張ろうね!」


「流石にこれは仕方がないわね。おやすみなさい」


 こういう時にちゃんと引き下がってくれるところが、こいつらのいい点である。

 ぐっすり寝て、翌日集合地点に行ってみると。


「何もない場所……?」


 なんか町並みが広がっていました。入り口から長い石造りの道。

 ずっと石畳で、その先に石造りの店。

 植物もある。木々の配置までこだわりが感じられるが。

 前回の試験で泊まった、柵に囲まれた家ゾーンよりはだいぶ広い範囲だろう。


「どうなってんだこれ」


「お、来たかアジュ」


「おう、ヴァンもいたか」


 ヴァン、ももっち、ホノリ達もいる。

 町の入口に勇者科が続々と集まっているが、みんなその異様さに立ち止まっていた。


「ここは何もない場所であったはずよ」


「ああ、夏休み前に戦士科の演習で来た時もそうだったぜ」


「建築科と……まあ錬金科やらが石を切り拓いて家にしたんじゃろう」


 その中で、ももっちとイロハが町並みを険しい目で見つめていた。


「フウマ、気づいてる?」


「ええ、人の気配がないわ。それに何かが足りない気がするわね」


「無人街ってことか?」


「今回のために作ったんだろうな。相変わらずぶっ飛んでやがるぜ」


 学園の財力と行動力凄いな。人材も豊富なんだろう。

 ここまでのシステムを作り上げて、学園として運営できるのがもう意味わからんレベルだ。


「はいはーい、全員注目!」


 いつの間にかシャルロット先生が現れている。

 今日は私服っぽい。鎧じゃないのは戦闘しないからか。


「はい広場に行くわよー! ついてきて!」


 そんなわけで噴水のある広場につくと、なぜか大量に椅子と机がある。

 全て一人用だ。席に座ると、先生が説明を始める。


「最初の難関はー……ずばり! 筆記テストよ!」


「これで最初のポイントを決めるわ」


 なんか知らんがやらされた。正直歴史とかは厳しいレベルだった。

 だが他は不思議と解ける。

 なんか考えようとすると妙に頭がすっきりするというか。

 普段の俺でもできるレベルの簡単なテストであることも幸いした。


「はいできた人から提出してねー。終わったら着席!」


 そしてカードが配られる。中央に数字が浮かんでいるな。

 ついでにこの街のマップと、簡単にどこで何ができるかの解説書が配られた。


「それがこの街のお金よ」


 俺のは5700ポイントらしい。

 どういう基準なんだろう。とりあえず筆記で落第はないと説明された。


「みんなにはこの町で暮らしてもらいます! お金を稼ぐ方法は様々! この町の住人として暮らしながら、中央のお城を目指してね!」


 中央の城にはポイントと功績がないと入れないらしい。

 そこがとりあえずのゴール。いやこれだけで何日かかるんだよ。


「もちろんずーっと住まれても困るわ。出来る限り一週間以内でお願いね」


 やっぱり長期になるよな試験。

 勇者科の試験ってこういうのばっかりかもしれない。


「各ポイントに依頼があって、宿とかお店も普通に使えるわ。食べ物も手に入るから、ポイントはどう使うか慎重にね」


 聞きながらマップ確認。中央の噴水広場から円状に広がる街で、前回と同じく壁で覆われている。ただし今回は石造り。

 それぞれ武器屋や鍛冶屋なんかの区画。宿のある区画。

 闘技場? なんかよくわからんが施設多いな。


「人数の必要なクエもあるから、協力もできるのよ。でも時にはレース形式のものもあるわ。競い合ってもよし。ずっと協力するもよし。初めての街でちゃんと暮らせる生活力を身につけて、勇者として行動できるようになってね」


 自由度高すぎませんかね。正直何やっていいかわからん。


「あと他人のポイントを暴力や不意打ちで奪おうとするのは禁止! 影で脅して手に入れようとしても、監督官にはバレているわ。学園のプロを舐めないことね」


 勇者っぽくないから禁止なんだと。そりゃそうだ。


「それじゃあ頑張って! クリア方法は無限よ! 自分らしく、勇者らしく歩みなさい! さらばだ!!」


 先生は光の柱となって消えた。テレポート系の魔法だなあれ。


「とりあえず施設を見て回るぞ」


 四人で集合。基本的にこいつら意外と行動はしんどい。


「飯屋と食材売っている場所と……」


「宿屋だね」


「貰えるポイント次第だな」


 全員俺と同じくらいだった。歴史の分だけ俺はちょっと低いのだが。

 それでも平均点よりは高いっぽい。


「意外じゃな。授業を受けているとはいえ、そこまでできるとは」


「なんかな、頭が冴えるっていうか……回転が早くなっている気がするんだよ」


「私もそうだったわ。いつもより調子が良いの」


「なになに、新しい魔法?」


「あれじゃな。ファフニールの血肉じゃろ。あれでかしこさアップじゃ」


 なるほど。だから俺とイロハだけに効果が出たのか。

 ちゃんと効果があるんだなあ……倒しといてよかったかも。


「いいないいなー」


「お前ら普通に頭いいだろうが」


「イロハだけおぬしと一緒なのはずるいじゃろ」


「そこか。それはもうどうしようもないぞ」


 そんな話をしながら歩く。よく見ると普通の街とは違う。

 本当に人がいない。そして家も大抵が店だ。民家ってもんがないんだここ。


「宿屋はランク別に四個。武器屋と鍛冶屋が三個」


 北が食い物関係。南が武具と鍛冶。東が宿屋で、西がアイテム関係だな。


「少ないはずなのに、やたら広く感じるのう」


「細かく分けられているからよ」


「食材を売っているお店が三個で、食堂が三個だね。人がいないのにどうしているのかな?」


 こりゃ一筋縄ではいかなそうだ。

 ちょっと楽しくもなってきたし、真面目にやってみようじゃないか。

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