船から花火を眺めてみよう

 城で昼食を取り、王様から夜に見せたいものがあると言われ、王家所有の豪華客船へのお誘いがかかる。


「はー……快適……寝そう……」


 そんなわけででっかい船に乗り込んで、一番上にある部屋のベランダにいた。

 パラソルと寝やすい椅子を用意してもらい、やはりだらだらしている。


「あぁ……まーたアジュが堕落した生活を送っているよ……」


「パーフェクトダメ人間までまっしぐらじゃな」


 日が沈みかけ、八月後半なのもあってか適度に暖かい。

 うわあ寝そう。椅子の背を倒して寝転がるともうやばい。


「お飲み物をお持ちしました」


「ああ、どうも。ミナさんも休んでください。別に俺の世話なんてする必要はないんですし」


「いいえ、アジュ様はお客様ですから」


「シルフィの世話もあるでしょう」


「ならばシルフィ様もいればいいのです」


 横にいつの間にか全員分の椅子がある。飲み物もあるぞ。


「ここまで連戦じゃ。ゆっくりするのもよいじゃろう」


「せっかくの夏休みだもんね」


 四人でゆったりとした休日を過ごす。悪くない。

 本来は穏やかな日々こそ求めていたものだったはず


「やっと休日って感じだな」


「フルムーンに来るたびに戦っておるのう」


「しかも毎回神だぞ。どんだけレアケースだ」


「迷惑極まりないわね」


 本当に迷惑千万である。

 もうちょい人間界への制約厳しくすればいいんじゃないかな。


「しかし船ってのはいいな。ロマンがある」


「うむ、特別な世界という感じがするのう」


 船旅などする機会はなかった。

 海の上に永住する気はないが、これはこれで面白い。


「よろしければ、アジュ様好みの船を見繕っておきますが。大きさはどのように?」


「いや、そこまでしてもらうのは……」


「これも恩賞のうちです」


「それは毛布とかもらいましたし」


「いけません。こっそりリリア様と相談して、金庫に入れておくことにした分を回しましょう」


 どうやらアホみたいな額を貯金させるつもりだったらしい。

 なぜにそんなことになったかね。


「恩賞というものは、本来家具なんぞで済ませてはならんのじゃ。しっかり送らんと、この国は財政が逼迫しておるとか、頑張ってもご褒美の貰えない小国のように思われるじゃろ」


「渡す方にも事情があるってことか。今回のことは秘密にするんだろ?」


「それでもじゃよ。じゃから将来に備えて蓄えておこうという結論に達したわけじゃ」


「いい判断だ。すまないな」


 送る側にも事情があるらしいし、頑なに拒否するのもおかしいか。

 しかし船ねえ……もらってもあんまり乗る機会なさそうだなあ。


「あんま使わないと貰ったのに悪い気がする」


「変なところで庶民感覚じゃな」


「俺は庶民で一般人だよ」


「貰うとしたらどんなものがいいか、それだけでもリクエストはないの?」


 言われてちょっと考える。まず維持費がかからないこと。

 整備や修理が大掛かりにならないこと。

 四人で最低限の生活ができることかな。


「流石にこんなでっかい船は維持できないでしょう。密航者とか出そうで嫌です。衛生的にも個人で管理できそうもないですし」


「そうだね。ちょっと現実的じゃないよねー」


「寝室はしっかり作りたいのでしょう?」


「うむ、そこだけは譲らん」


 それから四人で室内に戻り、それぞれの欲しいもの会議が始まる。

 最低でも全員の部屋が欲しい。食料庫と風呂にトイレは当然必須。


「ちょっと大きめのクルーザーっぽいやつで、釣りとかできて内装は二階と……リリア、こういう感じで……」


「うむ、任せるのじゃ」


 こういうのはリリアに大まかに伝えて任せると大抵うまくいく。

 俺の理解者として頂点に君臨しているからな。


「これで楽しみが増えたな」


「領地と生活できる船。貯金して倹約していけば、四人で楽しく暮らせそうね」


「ああ、できるといいな」


 これは本心からそう思う。今後こいつら以上の存在に出会うことはないだろう。

 俺に愛想つかして出て行くまでは、こいつらと一緒に楽しくやっていくさ。


「そろそろ時間ですね。始まりますよ。外へどうぞ」


 いつの間にか夜である。ちょっと船の話に熱中しすぎたか。

 外は綺麗な星空。空気も澄んでいるし、風も穏やかでちょうどいい。


「……ん?」


 ふと聞き慣れた音がした。何か高い笛の音に近い音。破裂するような。


「………………花火?」


 花火だ。夜空に大きな火の花が咲いている。

 何発も打ち上げられては、星空を更に美しく彩っていく


「綺麗じゃのう」


「どうして花火が」


「フウマに伝わる技術よ」


「毎年フルムーンでやってるんだよ。花火大会」


 そいつは初耳だ。誰かと並んで花火を見るか。ありえん状況だな。

 だがまあこれも楽しいよ。


「おぉ……綺麗なもんだな!」


「凄いよね!」


「王族・貴族も毎回楽しみにしているもの。特別気合が入るのでしょう」


「いい思い出ができたのう」


「ああ、なんだかんだ来てよかったよ」


 何種も打ち上げられる花火を、飽きることなく見続けていた。


「こうしてみんなで花火見たり、遊びに行ったり。アジュと会ってから、ずっと楽しいよ」


「そうね。色々お世話になったわ」


「何だよ急に」


「そういう気分なんじゃよ」


 みんな声が穏やかで、どこか優しい。

 妙にしんみりするなこういうの。


「王家の問題も、クロノスの力も、わたしの居場所も、全部どうにかしてもらっちゃったもんね」


「里も問題も解決してもらったわ」


「俺も世話になっているよ。生活面でな」


「おぬしはちょっとだらしなさすぎじゃ」


「自覚はある。家でだらだらしているが好きなのは直らないだろうな」


 そこは性分だと思って諦めてもらうしか無い。

 それでも一緒にいることを選んだのだろうから。


「もう夏休みも終わり。新学期もよろしくね!」


「おう、よろしくな」


「皆様、お食事の用意ができました」


 ミナさんにより、豪華バーベキューセットが運ばれてくる。

 せっかくだし、花火を見ながらみんなで焼いて食べることにした。

 スペースが広いので、そのくらいは楽勝だ。


「ん、美味いな」


「はいあーん」


「またか……人前ではだめだからな?」


 シルフィに差し出された肉を食う。

 一応釘を差しておこう。どこでされるかわからない。


「わかってるって。はい次イロハ!」


「任されたわ」


 もうイロハが野菜をこちらに向けている。

 食うしか無い。いや料理自体は凄く美味いんだよ。

 完全に高級食材だし。タレにつけるとまた別の味わいがある。


「また全員分やるのか」


「そらそうなるじゃろ。次はわしじゃ」


「では最後が私ですね」


「なぜ混ざるのですか」


 ミナさんが参加してどうする。あなた俺のこと好きでもなんでもないでしょう。


「いえ、参加できないのも寂しくて」


「しない方が得だと思いますよ? 俺に飯食わせるだけですし」


「それが楽しそうですから」


 わからん。なぜめっちゃ笑顔だ。この人も謎だなあ。


「よーし、それじゃあミナもやってみよう!」


「いいんかい」


「いいわ。関係が進んだ今となっては、そのくらいの余裕があるのよ」


「拒否してばかりではなく、ある程度受け入れると別の道も開けるのじゃ」


「開いていいかわからんぞ」


 そしてミナさんはあーんも完璧であるということが証明された。

 肉が多くなったら野菜を、野菜ばかりだと肉を。

 そしてのどが渇いたり、つまりそうになると水くれる。


「パーフェクトですね」


「メイドですから」


「なるほど、勉強になるわ」


「アジュの食事ペースを完全に把握しておるのう」


「まだ観察が足りなかった……ミナは凄いなあ」


 なんか勉強会が始まりそうな勢いだぞ。

 食事も花火も終わり。後片付けして、部屋についている風呂に入る。

 もちろんでかい。豪華客船は伊達ではないのだ。


「はー……やっぱ悪くないな船旅」


 もう夜も遅いし、初めっからこの船で学園に戻る計画であった。

 そのため風呂入って寝たら学園に到着する予定だ。


「うむ、よいものじゃろ。たまには外に出てみるのじゃよ」


「もっと色々な場所に行きましょう」


 当然の権利のように全員いる。今日はミナさんもいるぞ。


「ではミナによる背中流し実演を開始します!」


「アジュ様、こちらへどうぞ」


「はいはい……じゃあお願いします」


「全霊の背中流しをお見せしましょう」


 そんなこんなで豪華客船での一日は過ぎていく。

 部屋がかなり広く、ベッドもでかいため、いつものように四人で寝る。

 そうやって思い出は増えていく。これからもずっと。

 そうなるように、俺ももうちょい動いてみますかね。

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