鎧狩りでポイントを稼ごう

 食後の運動だ。カラフルな無人鎧を倒していこう。


「よっ、ほっと」


 白い鎧が一番弱いらしい。

 流石の俺も、動きそのものが遅いうえにリーチでも勝っていれば負けはしない。


「問題は数が多いことか」


 カトラスに軽く魔力流せば楽勝で切れるが、いかんせん広場が広い。

 広い場所で広場。うむ、めんどいな。

 切っても切ってもどこからか出てきやがる。


「これ元を叩けば終わるか?」


「無理じゃな。町の外から召喚されておる。わしらは町の外に出ることができん」


 試験中は指定された範囲から出ることができない。

 街の中か、大規模演習場のような場所にだけ行ける。

 それを承知で作られたクエか。


「うーむめんどい。帰って寝たい」


「もうちょっと頑張ろう!」


「やる気と根気を養うクエじゃな」


「俺にそんなもんあると思うのか」


 そういうものを養わずに生きていくために、凄いパワーってのはあるんだろうが。

 まったりしながら異世界満喫が目的だろうに。


「じゃから磨くんじゃろ」


「磨こうにも欠片すらないぜ」


「なぜ偉そうなんじゃ」


「喋っていると隙ができるわよ」


「ん、ちょっと集中する。怪我するのもアホらしいからな」


 徐々に特性を理解してきた。

 白い鎧はザコ。赤はスピード型。黄色がパワータイプ。

 緑は周囲の鎧を強化するけれど、それ以外の性能は白以下。


「死ぬほどの強敵じゃないか」


 運動神経は人並みにあるはず。なのでそれほど苦戦もしない。

 敵は弱いし、地味に筋トレの成果でも出たんだろう。


「サンダードライブ!」


 緑を狙って地を這う雷撃。追尾できるからとても楽。

 他の魔法は曲げようとすると、かなりコントロールが難しい。

 自動追尾性能を備えつつ、動きをこちらでいじくれるのは長所だな。


「まず強化役を潰した。あとはライトニング……はまずいな。サンダースラッシュ!」


 市街地でライトニングフラッシュぶっぱは危険だ。

 確実に町並み壊れる。地道に潰すしか無い。物量作戦はうざいな。


「町を壊さないようにってかなり難しいな」


「いつも最後は宇宙いっとるからのう」


「また邪神が出てきたら行くんだろうなあ俺……」


 だって無人世界か宇宙じゃないと星がやばいんだもの。


「あれは……なにか大きなものが来るわ」


 イロハの指差す先には、鉄の柱が上下して……いや違う。


「なんだありゃ……」


「大きな……蜘蛛?」


 巨大で六本足の鉄塊だ。ぶっとい足と、四角く小さい胴体。頭はない。

 関節が球体だが、その全てが鉄でできている。

 ゆっくりとこちらへと迫る鉄蜘蛛。これはやばい。


「あんなでかいもん家が壊れるだろ」


「じゃから足だけなんじゃろ」


「地面にひびとか窪みができちゃってるけどね」


「どうせ魔法か建築科がすぐ直すのでしょう」


 今は道の心配をしている場合じゃないか。

 しかし下手に手を出すと家が崩れる。


「どうしたもんかね」


「あれは厄介じゃな。ほいっと」


 リリアの火球が蜘蛛の足にぶつかると、外壁が溶けて中身が見える。

 外と同じ色。おそらく材質も一緒。


「つまり中身までぎっしり鉄じゃ。空洞がない。切るにもしんどいのう」


「うへえ……めんどくっさいな。どうする?」


「他の生徒に任せてもいいかもしれないわ」


「無理して明日に差し支えたら大変だもんね」


 なにやら鎧の数も減っているし、他の生徒が鉄蜘蛛に群がっていく。


「あんなん無理して倒してどうするんだかねえ」


「ちょっと会話を聞いてみたわ。なんでもあの胴体のような場所に、金の鎧がいるみたいよ」


「倒せばポイントゲットってことか。労力に見合うのかね? 俺達はやらなくてもいいだろ」


 安全第一だ。初日にそこまでしてたまるか。全員無事に切り抜けるんだよ。


「やる気のあるものに任せるとしようかの」


「そういうわけだ。ザコ鎧を倒しつつ宿まで戻る。いいな?」


「いいよー。明日に備えよう!」


「そうね。まだ初日。危険は避けましょうか」


 というわけでかなり数が減ったザコ鎧を蹴散らして帰り道を行く。

 俺以外の三人が強いので、正直苦戦することはないだろう。


「帰って寝よう。お前らもちゃんと寝ろよ。今日はベッドに入ってこないこと」


「……今日は?」


「違う違う。入ってくるな。いつも駄目だからな」


 いかん気が緩んでいる。口実を与えてはいけないのだ。

 遠くで戦闘の音が続いているせいか、集中がかき乱されたんだな。

 きっとそうだ。気をつけよう。


「宿屋って襲撃されたりするのかな?」


「どう……だろうな」


「鍵はかけておいた方がよいじゃろう。何かあればアジュの部屋に集合じゃな」


 万が一の避難場所になった。こういう打ち合わせに異論はない。


「それは許可する。鍵はかけておいていいんだな?」


「問題ないわ。全員どうにかする手段があるもの」


「怖いわ」


 さらっと言われたけれど、これ俺ピンチだよな。

 味方に襲撃される恐れがあったわけだ。


「あまり遅くならぬうちに帰るのじゃ。運動後はしっかり休まね……ば……なんじゃあやつは」


 路地からそーっと出てきた虹色に輝く鎧。

 細身でどシンプルな形状なのに派手なその姿。あれって確か高ポイントの。


「レアなやつだよな、あれ」


「だよね。あ、こっち向いた」


 こちらに気が付き、ダッシュで逃げようとするレインボーアーマー。


「シルフィ」


「はいさー」


 シルフィに鎧の時間を止めてもらう。

 止まっているうちに、イロハとリリアが鎧の手足を砕く。


「うし、準備完了」


「こっちもいけるよ」


 止める必要がなくなったので、時間停止を解除してもらう。

 剣に魔力を充填し、シルフィと一緒に駆ける。


「セイヤアアァァ!!」


「雷光一閃!!」


 ちょいと手応えが硬かったが問題なし。

 鎧さんは十字に斬り裂かれて消えていった。


「よーし、いい感じ!」


「指示出さなくても、これくらいできるのは楽でいいな」


 これが連携プレーというものだ。

 実際には俺がやりたいことを察して動いてくれているだけだがな。


「うむ。わしらだけができる芸当じゃな」


「そうね。他の人ではこうはいかないわよ」


 以前誰かに言われたな。

 俺を中心として完璧に動く上に、個々が強いから成立していると。


「それについては感謝している」


 何やらでかいものが崩れるような音がした。

 そちらに目をやると、どうやら鉄蜘蛛が倒されたようだ。


「おおー、あれ倒せるのか。流石勇者科」


「強者が集められておるのう」


 勇者の素質があるんだ。頑張ればあれくらい倒せるんだろう。

 結果的に放置して大正解だったな。


『緊急クエストを終了します』


 アナウンスあり。これで今日の戦闘は終わりだ。

 もうすっかり日も沈んだし、帰って風呂入って寝よう。


「今日はお疲れ様。ちゃんとお風呂に入るんだよ?」


「わかってるよ」


「タオルや着替えはあるわね?」


「召喚機のスロットに入っている」


「脱いだらまとめておくのじゃぞ」


「俺そんなだらしないか?」


 お前らはなぜにそんな過保護ですか。

 俺は本来一人なんだから、身の回りのことは大抵できるんだよ。


「普段の言動からしてそうじゃろ」


「最低限だけはやる感じだよね」


「いいんだよ最低限やってりゃ」


 身の回りは自分で。あとはミナさんのお仕事である。

 メイドさんがいると家が綺麗でいいわねえ。


「よければ手伝うわよ」


「何をだよ」


「まず服を脱がすわね?」


「俺に聞かれましても」


「お風呂で背中を流します!」


「そして添い寝じゃな」


「いやなフルコースだな」


 俺の安息の場所がなくなるじゃないか。

 こいつらは本気だ。俺が許可したら次の瞬間には部屋にいるだろう。


「ちゃんと寝とけよ。大規模戦とか難易度上がるぞ」


「むうぅ……早く試験クリアしないと……」


「欲望が蓄積されていくわね」


 急いでクリアする必要があるかもしれない。

 でも今の環境は面白くて嫌いじゃないんだ。試験なのにな。


「全員で合格したらご褒美を貰うというのはどうじゃ?」


「それだ!」


「それだじゃねえよ。俺も突破するんだから、ご褒美あげるのおかしいだろ」


「そこは私達もご褒美を出せばいいのよ」


「前回がキスだったから……」


「やめろランクを上げようとするな。そういうのは却下。まずちゃんとクリアすること。それ以外を考えるな」


 よし、宿屋についたぞ。これでこの話終わり。


「仕方がないのう……まあ何か考えておくのじゃ」


「ちゃんと寝るのよ。明日は朝から行動するのだから」


「おやすみ! また明日ね!」


「はいはい。お前らもな」


 それからは本当に部屋に来ることもなく、安心してちょっと狭い風呂に入った。

 家の風呂めっちゃでかいんだなと、再確認したよ。

 疲れが溜まっていたのか、着替えてベッドに入ると即眠気が襲ってくる。


「明日からもまた戦闘……クリアできるのかねこれ」


 無事に四人で合格する。今考えることはそれだけだ。

 余計なことは後回し。眠れるうちに眠っておこう。

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