真っ赤な姉妹
サクラさんはシルフィのお姉さんだった。
そして話があるとかで、前に連れてこられたカフェにやってきたまではいい。
今日も女子がそこそこいて盛況のようだし、多少の声ならかき消されるだろう。
「さて、久しぶりねシルフィ。元気そうで嬉しいわ」
そんな環境で俺とシルフィの前でにっこり微笑むサクラさん。
俺はどうしていいかわからず、ラザニア食う作業に戻る。
やっぱこの店のシェフは凄いな。何食っても美味いし、何食っても魚介類入ってんなここ。
「姉さまも元気そうでよかったよ。でもなんで学園に……ていうか制服って……」
「似合うでしょう? 引っ張り出してきたわ。まだまだ心は十代よ」
コスプレってことか。今何歳なんだろう。
シルフィの姉で……まあ三つ四つ上くらいのイメージだ。
「今年で二十よ。サカガミくんは年上は嫌い?」
「いえ、別にどっちでも」
「あら、意外と貪欲なのね。シルフィだけじゃ満足できないのかしら?」
「ふっふっふーそれは違うよ姉様」
シルフィが大きな胸を張って誇らしげだ。
そういやサクラさんの胸はシルフィより小さいな。それでも大きい方だけど。
「どういう意味かしら?」
「姉様は今、年上年下どっちの女の子もいけます。って意味だと思ったでしょ?」
「……違うの?」
「それがアジュ素人が陥りやすいミスだよ。正解は『別にどっちだろうが俺が女に好かれることはないから、どうでもいいです』という意味なのさ」
ここまで完璧に俺を把握しているとは、やるなシルフィ。
正にその通りだよ。どっちだろうが俺に関係ない。
「そうなの?」
「まあ、ぶっちゃければそうですね。あとアジュ素人ってなんだ」
「普通の人が素人。わたしとイロハが見習い。マスターがリリア」
「そんな区分はいらん」
「難儀な王子様ねえ……」
「王子様ってさっきも言ってましたね。どういうことです?」
「あーいやそれはほら……アジュは知らなくていいことっていうか」
お、シルフィがわたわたしてる。何か隠しているっぽいので、目でサクラさんに『言ってください』と合図する。
「シルフィからの手紙にね、いつもピンチになると助けてくれる綺麗な鎧の王子様のことが書かれてるのよ」
「うわわ、ちょっと姉様! ダメだって!」
「ちょっと鈍感というか女の子に外道で捻くれているけれど、優しくて守ってくれる大切な人ですーって」
「うあぁ……なんで言うのさもう……」
「今更恥ずかしがるほどか?」
「恥ずかしいんです! もうひどいよ姉様!」
シルフィの顔が赤い。二人共赤髪だし赤色率たっかいなここ。
「俺はそんな大層なもんじゃないですよ。鎧がハデなのは事実ですけど」
「そうね、さっきの鎧は綺麗だったわ。それにサカガミくんも偉いわよ」
「俺なんかしましたっけ?」
「ちゃーんとシルフィを守ろうとしたじゃない。偉い偉い」
「そうでしたっけ?」
すっとぼけておく。そういやそんなことしたな。鎧着てると気が大きくなるっていうか、守るぜーって気持ちが強くなるな。
「俺から離れるな、とか言ってたね」
「ええ言ってたわね。よかったわねシルフィ」
二人揃ってニヤつきやがって。なるほど姉妹だ。根っこの部分も雰囲気もちょっと似てる。同じ表情されるとわかってくる。
「言ったかね? 忘れたよ」
「つまり無意識のうちに言ったのね」
「それだけわたしが大事だったんだね」
まずいな、逃げ道がないぞ。話を戻そう。
「今はサクラさんがどうしてこっちにいるかの話だろ?」
「サカガミくんが気になったから。シルフィがここまで入れ込んでるのよ? お姉さんとしては、気にならないわけないじゃない」
「それだけなら普通に客として来ればいいと思いますけど」
別に学園は関係者以外一切が立ち入り禁止というわけじゃない。一般解放されている区域もあるし、学園の品を買いに来る人もいる。親族なら手続きさえ踏めば割と楽に入れるはずだ。
「こっそり人となりをみたかったのと、私も学園の卒業生だから、つい懐かしくなっちゃって」
「ついで制服着ないでよ姉様……」
「卒業生なんですか?」
「そうよ、高等部を騎士科、魔法科、ギャンブラー科主席卒業よ。凄いでしょう?」
ギャンブラー科て……王族なのにいいのか? 自由奔放な人だな。
「姉様はルーレットとかカードゲームとか異常に強いんだよ」
「時間止めてるんですか?」
「んーどうしても勝ちたい時にちょっとだけ。普段はそんなことしなくても20%くらいの確率なら絶対に外さないわ」
「言い切りますか。それで、そんなサクラさんから俺とシルフィはどう映ったんです?」
「今のところ合格かしら。ルックスは別に悪く無いわよ。止まった時の中に入っていける力もある。これならシルフィを任せてもいいかもしれないわ」
「ほんと? やったね!」
俺にまかせても良い要素があるとは思えないけど、シルフィが俺のギルドにいるのは事実。同居していることも事実だ。なら仲間として、ギルマスとして、できるだけお姉さんを安心させることも役目といえば役目だろう。
「シルフィを大切にするのよサカガミくん。ちゃんと守ってあげてね」
「はい、任されました。俺にできる限り全力で大切にしていきます」
「ふふっ、その意気やよしというところかしら」
「アジュ、絶対自分が言ってることの意味わかってないでしょ……」
真っ赤になりながらジト目で俺を見てくるシルフィ。なにを疑ってるんだか知らないけれど、嘘は言っていない。
「頑張るのよシルフィ。欲しいものは勝ち取るの」
「わかってる。先は長そうだけどね」
「まあ守ってもらうのは俺かもしれませんね。時間止めるとか反則でしょう」
「そうねえ。いつの間にか私より力が強くなっちゃって……よかったら王位、継いでみない?」
「わたしが? もう、何言ってるの姉様。長女なんだから姉様が継ぐものでしょ」
シルフィは冗談だと思っているみたいだけど、ちょっと本気で言ってないかこれ。
「正直乗り気じゃないのよ。内政なんてひたすら面倒なだけだし、支えてくれるいい人は現れないし」
「縁談とか来ないの? 昔全部断ってたよね?」
「だってつまらないんだもの。全てにおいて私に劣っていて、お金と地位にしか興味が無い人ばっかり。お金なんて適当にカジノで稼げば生活できるのに」
「それは多分サクラさんだけです」
「高等部にいた時は楽しかったわ……大学部に入ろうかしら……いいわねそれ。本気で入ってみようかしら」
本気だ。本気の顔もシルフィと似てるから何となく分かる。内政とか聞くだけでクソ面倒くさそうだもんなあ。そらやる気しないわな。
「いっそサカガミくん貰っちゃおうかしら」
「それはダメ! アジュはわたし達が攻略中だから!」
シルフィが俺の腕にくっついてくる。
いつもより力が入っているのは、本当にとられると思っているからか?
「攻略中ということは私が先に攻略してしまえばいいのね?」
「むう……無理だと思うけど……姉様だし……」
「内政めんどいとかいう理由で攻略されるのはちょっと……」
それ結局俺も面倒に巻き込まれてるじゃないか。
イヤだしできねえよ国どうこうなんて。
「まあ半分冗談よ。サカガミくんが本気になってくれないとどうしようもないし」
「その前にわたしが攻略します!」
「攻略されるかどうかはともかく、俺じゃサクラさんみたいな凄い人には釣り合いませんよ」、
適当にこう言っておけば大丈夫だろう。これで引いてくれればいい。
「そう、じゃあやっぱり入学しようかしら」
「なぜそうなるんですか」
「学園にいればいい人見つかるかもしれないし。いなければいい人になってくれればいいわ」
「入学するとして、わたし達の家に住むわけじゃないの?」
「それも楽しそうだけど……だめでしょう?」
「だめですね」
ここではっきりしておかないと家に来るだろう。
俺が守る人間はもう増やせない。今だって三人は多いんだから。
「あの家は俺達の家というか居場所なんですよ。それに俺の両腕も、膝の上も、勝手に予約されちゃいましてね。これ以上誰かを守ることも一緒にいることもできません。多分する気も起きません」
「それはこれからもずっと脈なしということ?」
「先のことはわかりません。少なくとも今一緒にいたいのは、サクラさんじゃなくてシルフィです。シルフィが俺を嫌いにならないうちは、絶対にこの気持ちは変わりません」
「そう、残念ね。今回はシルフィが大切にされていることがわかったからいいわ。一番聞きたいことも聞けたし」
「聞きたいこと?」
「追い込まれると本音が出るタイプかしら、サカガミくん?」
「うぅ……ぐすっ……」
「なんで泣いた!?」
俺にくっついたままシルフィがぐずっている。泣く要素どこにあった。
「よかったわねシルフィ。ちゃんと貴女を見てくれる人ができて」
「姉様……うぅ……はい。よかった……です……」
「意味が全くわからん」
「シルフィの手紙にね、大切にされてるんだろうけど、今一つ本心がわからないから不安だーって書いてあってね。ちょっと試してみたの」
はめられたってことか。最初から俺の本心を聞き出すための芝居だったと。
「入学も本気だし、サカガミくんが気にってるのも本当よ。ただシルフィのお姉ちゃんとしては、いつも笑顔でいて欲しいの。ほっとくと色々抱え込んじゃう子だから」
「まあわかります。少しは解消できてればいいんですが」
「できてるわよ。心の支えでいてあげてね」
「はい、なんとかやってみます」
「ここの支払いはしておくわ。色々手続きがあるからまたね。二人とも」
サクラさんがシルフィの頭を優しく撫でている。こういうところがお姉さんっぽい。シルフィもすぐに泣き止むし。きっと何回か行われているやり取りなんだろうな。
「ありがとう姉様。またね」
「ええ、すぐに会えるわよ」
「お世話になりました」
「こちらこそ。じゃあねー」
サクラさんは現れた時同様に優雅な動きで去っていった。
「はぁ……つっかれた……これ精神的にくるな」
「そうだね、でもよかった。姉さまも元気だし。アジュの気持ちも知れたよ」
さっきから笑顔のシルフィが離れようとしない。
「あんまくっつくな。人に見られる」
「見られるのはいや?」
「ぶっちゃけいや。シルフィがじゃなくて目立つのがいや」
「ここは端のほうだからあんまり見られないよー。ほらほらもっとくっついてみよう」
「やめろ外でそういうことするな」
「お待たせしました」
店員さんが持ってきたのは、いかにもカップルで食ってくださいといわんばかりのパフェ一つと紅茶二つ。
「いや、頼んでませんけど」
「あちらのお客様からです」
店の入口で手を振るサクラさん。なにしてくれてんだ。
「食べ物を無駄にしちゃダメだよ。さあ交互に食べさせあいっこするよー」
「マジか……」
「はいあーん」
結局シルフィは俺から離れようとしなかった。まあ喜んでいるみたいだし、サクラさんに任されたと言ってしまったし、今日くらいはいいだろう。
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