ギルドレベルを上げていこう
クエストもないので普通に座学終わって昼休み。
リリアとミナさんがお弁当作ってくれたので、芝生にシート敷いていつもの四人で飯を食う。
「まさか算術とかあると思わんかった……しんどい……」
「算術・戦術・歴史とか面倒じゃろ。日帰りクエストでも受けるんじゃな」
「ギルドのランク一つあげるってのマジで考えようかな」
「いいんじゃないかしら。できることが増えるのはお得よ」
「そうだよー。ちょっと余裕出てくるよー」
まだまだこの世界はわからないことが多いからな。色々知っていかなきゃいけない。そんなことを昼飯食いながらぼんやり考える。
今日はおにぎりだ。形が完璧で死ぬほど美味いのがミナさんだな。
ちょっと崩れてるけど、味付けが完璧に俺好みなのがリリアのだろう。
「まあそれはそれとして……もっと大切な話じゃが……」
「なんだ? なんかトラブルでもあったか?」
珍しく真顔だな。ちょっとまじめに聞いてやるか。
「わしら最近……全然ボケとらんじゃろ」
「なんじゃそら」
まっじめーな顔して言うことかい。
「そうね、ちょっと最近心に余裕がなさ過ぎたわね」
「戦闘が多かったねー。じゃあここからボケも混ぜながら交流を図るということで」
「ボケはいらん」
俺の負担が増えるじゃないか。昼食くらい静かに食わせてくれ。
「ほーらこれじゃ。なんじゃいその反応は」
「反応が淡白になっているわね」
「これが倦怠期だね!」
「ちょっと待て誰にそんなこと教わった?」
「ミナだよ?」
どんな教育してるんですかミナさん。むしろなんで教えたんですか。
「ミナは何でも教えてくれるからね!」
「なんでも教えすぎだよ」
「ちょっと前までなら何でも教えすぎだろうが! とかツッコんでおったじゃろ」
「私達に飽きたのね?」
「違うわ。しいて言うなら慣れてきたんじゃないかな」
この異常な環境に適応してきているんだろう。人間って凄いなあ。
「やっぱり倦怠期じゃない」
「違うっつーの。嫌いになったわけでも飽きたわけでもない。ってか飯食ってる時にツッコミさせんな」
「大声を出すと行儀悪いからのう」
「行儀悪いし疲れるしな。ただでさえ頭使って疲れてるし。俺はスタミナないだろ」
都会っ子を舐めてはいけない。俺は努力も根性も大嫌いだ。
こうしてゆっくりおにぎり食っているくらいでちょうどいい。
卵焼きが出汁と塩だな。とてもよい。甘いやつはおにぎりに合わない。
「そんなことで実技試験は大丈夫なのかしら」
「まあなんとか…………なるかね? 戦闘ありだよな?」
「何か取ってこいとか、依頼を完遂しろとかもあるよー」
リリアが差し出してくるソーセージを食いながら、今後のことを考える。
クエで数日潰れるなら、やはりある程度の収入は必要か。
休日が減るのは絶対にゴメンだ。
「だといいけど……ん、美味いな」
「じゃろ? ミナさんと合作じゃからのう。質が上がりまくりじゃ」
「今さりげなくあーんを受け入れたね? わたしが苦労して真っ赤になりながらじゃないとできないことをさらっと……」
「こういうのはさり気なくやるものじゃ」
確かにさり気なくやられると自然と受け入れるな。リリアの理由不明の親しみやすさもあってか、つい食べてしまった。
「さり気なさ……わたし達はそこまでの信頼を勝ち得ていないってことかも」
「試してみればいいのよ。さあ、食べなさい」
イロハがソーセージを咥えたまま顔を近づけてくる。
「それを俺が食べると思ったら大間違いだ」
「急ぐでないと言ったばかりじゃろ。まずこうしておにぎりを食べさせるのじゃ」
一つ食い終わったタイミングで、口の前におにぎりが出される。
まあそりゃ食うさ。おにぎり一つで腹一杯にはならん。
「このようにタイミングとギリギリを攻めるさじ加減が大切じゃ」
「なるほど、はいお茶よ」
「じゃあわたしは卵焼きだ!」
リリアのおにぎりを食ったので、ここは素直に受け取ろう。
普通のお茶だし、一人だけ特別扱いは良くない。
「こういうのんびりした時間はいいよな……弁当作ってまた来るか」
「おお……アジュが前向きだ……」
「なら次の弁当は何にするか考えておくのじゃ」
「次はわたしとイロハで作ってあげるよ!」
「そうね、そうしましょうか。安心しなさい。普通に作るわ」
「楽しみにしてるよ」
なんだかんだ全員料理できるからな。その次は俺も作るとするか。
「よし、やっぱギルドレベル一つだけ上げよう。こういう時間が増えるし、弁当も今よりいい材料買えるし」
食費は無駄遣いせずやりくりしている。別に貧乏ってわけじゃないけどな。
「珍しくやる気を出しておるのう。おぬしがやるなら協力するのじゃ」
「よーし頑張ろう!」
「貴方のやりたいようにやればいいのよ。私はどこにでも付いて行くわ」
「よし、レベルってどう上げる?」
「何度もクエスト成功させてると、試験を受けられますよーってお知らせが来るよ」
「そこで成功すればランクアップよ。ダメならまた何度か依頼をこなす必要が出てくるわ」
「よし、じゃあ飯食ったらクエスト探しに行くか」
んでもってやってきたのはクエストボードの前。今日もそこそこ人がいる。
「Fランクの依頼がいつもより多くないか? 種類も豊富な気が……」
「全科で試験があるからねー。下準備じゃない? 鍛冶科とか錬金科が材料集め。戦闘系の科は戦闘に備えて、装備の新調とか」
「FからBくらいまで全体的に依頼が増えるのじゃ」
Fランククエも教室の黒板四枚分くらいある。手分けして見ていこう。
「私達は左はじから見ていくから」
「俺達が右はじからだな。行くぞリリア」
いつものザコ狩りからちょっとした手伝い、材料集めのクエも増えている。
「ギルドもそうだけど、俺のレベルも上げないとな」
「うむ、精進するのじゃ。シルフィ達に鎧なしでもついていければ、ほぼ負けんじゃろ」
「果てしなく遠い道のりだな。あいつらなんであんなに身体能力高いんだ。剣とか普通に振ってるし」
「ふむ、それこそがレベルの意味というか役割の一つじゃ。年寄りでも女の子でもレベルが上がれば強くなる」
「確かレベルが上がると下がらないんだよな。だから最低限の強さは保証されると」
「とはいえ老いには勝てぬ。全盛期ほどの力は出せぬし、やがては寿命で死ぬじゃろ。戦士として使える期間が長くなる、という程度のものじゃ」
もちろん同レベルなら戦闘のカンが失われていたり、使える魔法や攻撃手段、体型なんかで勝敗は変わる。
「つまり緊急時に老若男女の区別なく戦士として補充できるわけじゃ。戦いの中で強い遺伝子が受け継がれれば、達人が生まれる可能性も増えるじゃろ」
「そういうもんかねえ……」
「ちなみにレベルについてはこの世界の人間はなんのためにあるのか、そもそもレベルがあることすら知らんものが多いのじゃ」
「知らないうちにレベルが上って戦士として使えるようになっていく、と」
「そんなものじゃな。まあ難しく考えんでもよい。おぬしは自分のハーレムを……」
「おーい、二人とも。こっち来てー」
シルフィが呼んでいる。声が聞こえるけど、うるさくない程度で周囲に気を使っているところがシルフィのいいところだ。気遣いのできる子だな。
「どうした? なんかよさげなのあったか?」
「これどう? 四人でできるよ?」
シルフィが指差す先にあったクエストを手に取り読んでみる。
「えーっと……臨時の四天王急募。戦闘あり。全試合勝利で報酬二倍。依頼者は高等部魔王科一年の…………魔王科ってなんだよ!?」
「魔王を育てるところだよ?」
「意味わからんよ! 育ててどうするのさ! 勇者はいいとして魔王増やしたら人類がやばいだろ!」
「魔王がいなければ魔界が荒れるじゃない」
「じゃないと言われましても!?」
「人間界を勇者が、魔界を魔王がなんとかするものじゃ。ちゃんと育てた魔王は魔界をよりよく導くわけじゃな」
なんかそういうものらしい。後でちゃんと聞いとこう。納得いかん。
「ふむ、戦闘ありか……ザコ狩りだけではつまらんじゃろ。実技試験の前の前哨戦じゃ」
「待ち合わせ場所は、魔導闘技場前ね」
「闘技場? そんなのあんのか」
「学園は本当に施設が多いからのう」
「面白いわね。報酬も悪くないし、いいんじゃないかしら?」
「いざとなれば鎧着れば大丈夫だよ!」
魔王科に勇者科が協力するのはどうかと思ったけど……貼り出されているクエは学園の審査を通ったものだけだ。ならまあ問題無いだろう。
「やってみてもいいか……でも四天王って名前からして強くないとダメだろ。本当にFランククエか?」
「そこはちゃんと確認したからだいじょーぶ!」
「そんじゃあ受けてみるか」
そんなわけで俺達勇者候補四人組は、魔王候補に協力することになった。
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