魔王見習い颯爽登場

 クエストを受けた次の日、指定された闘技場とやらに行ってみる。

 コロッセオみたいな建物を想像していたがハズレだ。

 むしろドームに近いというか、ちょっと近代的な施設っぽい。

 戦闘準備を万全にして来いと書かれていたので、ここで戦う可能性大。


「魔導闘技場だっけ? なんかそんな名前だったよな?」


「うむ、魔導力により、仮想空間を作って戦える闘技場じゃ」


「おおーなんかかっこいいなそれ。楽しみだ」


「その前に依頼人を探しましょう。四人で行くことは伝えてあるわ」


「待ち合わせはこの辺だけど……誰もいないね」


 昼指定されたので早めに昼飯食って来てみたけど、これは早すぎたか。

 入り口前には人がいない。みんな授業中か飯食ってるんだろう。

 腹が減った状態で戦うのはアホのすることだからな。


「フフッ……クックック……ハーッハッハッハ!! 待たせたな人間ども!」


 上空からバサバサとマントをなびかせて現れる女。

 あれが依頼者か。華麗に着地して両手を腰に当ててふんぞりかえる。


「オレ様はマコ。マコ・シェルク。よく来たな! 歓迎しよう!」


 身長160くらい。胸大きめ。赤いマントが派手。

 クリーム色の長髪と、赤と紫の中間のような自信たっぷりな瞳が、魔王というイメージに合っている。合っているけど、その登場の仕方はどう反応していいかわからんぞ。


「ああ……よろしく」


「ん、どうした? 魔王っぽくなかった? 私のせい? 頑張って練習したのにまた間違えたか……」


 キャラ作りかい。魔王様がしょげているので、さっさと自己紹介してちゃっちゃと本題に入ろう。


「依頼は臨時の四天王募集ってことだったな。詳しく頼む」


「ああ、今度魔王科でそれぞれの四天王とその部下による集団戦のテストがある。だが運悪く四天王が全員いなくなった。そこで臨時募集だ」


「どんな状況じゃそれ。そもそもなぜいなくなったのじゃ?」


「一人は母親が病気で一週間ほど実家に帰った。一人はやりたいことが見つかったとかでアイドル科に専念している。後二体は召喚獣を入れていたが弱すぎてついてこれなくなったから返した。以上だ!」


「ボロボロじゃねえか……」


「ああボロボロだ。だがこの程度で挫けていては魔王は務まらんさ! 本来私……オレ様だけで蹂躙できるのだが、最低五人いないと不格好だ。やはり魔王には四天王が必須といえる」


 大きめの胸の前で、腕をくんで偉そうにしてる魔王候補は、ちょっと悲しそうだ。


「そこで形だけでも整えようと募集を出したのだ」


「そこなんだが、なんでFランクなんだ? 勝ちたいならもっと上でいいだろ」


「簡単だ。欠員が出た時の助っ人は、フリーでもギルドでもDランク以上が禁止されている」


「そうしなければBランクの三年生でも連れてくればいい話だもの。当然ね」


 そらそうか。あくまで魔王科一年の試験なんだから、高ランクの上級生に全部やらせちゃダメなんだな。

 ギルドは全体のランク、フリーならこいつは一人でこれくらい出来ます、というランクがあるのは横着させすぎないためでもある。


「高ランクが雇えるほど予算もないしな……」


 マコが遠くを見てらっしゃる。予算がないのはどこも一緒か。

 頑張ろうマジで。食費が増えればおかずも増える。

 いつでも飯はしっかり食えるようにしておかないとな。


「別に低ランクで全勝しようなどとは思っていない。オレ様の不徳のなすところだ、大怪我しないように戦ってくれればいいさ」


「わたし達にドーンとおまかせ! 頑張るよ!」


「受けたからにはちゃんとやらないとな」


「ありがとう。それじゃあ移動して早速打ち合わせだ。最低限戦えるようにしておきたい。何ができるか教えてくれ」


 途中で買った飲み物片手に闘技場内の一室で会議が始まる。ソファーや鏡、テーブルがあるシンプルな控室だ。


「わしは魔法全般じゃな。遠近両方できるが、なるべく魔法支援で頼むのじゃ」


「なら後方支援をお願いしよう。回復と強化を重点的に。安全第一だ」


 まあリリアは後衛でいい。

 あのしっぽが出る力はめったに使いたがらないしな。


「わたしは前衛かな。色々武器が使えるよー。剣・槍・ナイフ・鎖鎌……」


 腰のベルトからドンドン武器が出てくる。

 でかい十字手裏剣まであるじゃないか。


「前衛っと、ちなみにその武器はどうやって出している? 何もない場所から出なかったか?」


「あーそっか……まあ手品みたいな? そういう感じだよ。あと回復と攻撃魔法もちょっとだけ」


 時間止められますとか言わないように、前もって言ってある。

 みんな本当の力は隠しているわけだ。悪用しようとするアホが出そうだし、そんなん一々処分してたら俺の自由時間が減る。


「私は忍術で遠近両方いけるわよ。分身や暗器もあるわ。どちらかというと誰かのサポート向きね」


「ふむ、それではピンチになりそうな味方の援護を頼む。こちらから指示がない限り遊撃でいこう」


「俺も一応遠近両方いけるけど……できれば接近戦は避けたい。ぶっちゃけ一番弱いし。けど一発逆転の切り札がある。あんま使いたくない手段だけどな」


「マスターなのに一番弱いのか?」


「その通りさ」


 キメ顔と出来る限りイケボで言ってみる。キメってかキモ顔だなあ俺だと。

 恥ずかしいので記憶の奥底にしまいたい。


「かっこいい顔で言ってもかっこわるいよー」


「そうね、その顔は別の場面で見せなさい」


「その顔でどうにかできるのはわしらだけじゃ」


 どうやらギルメンには好評らしい。君らの美的感覚はどうなってるのさ。


「一発逆転というのはどんな効果だ? 逆転という表現は曖昧すぎるだろう」


「あーそうだな。超強くなる。どんな存在だろうが楽勝でぶっ飛ばせるし、どんな攻撃でも傷一つ負わない完全無欠の存在になる」


「冗談にしか聞こえないぞ……」


「だろうな」


「実際に見ないと信じらんないよねー」


 いかにも信用出来ないという目つきだ。

 俺だって突然こんな話をされたら信じないだろう。だが一切の誇張なし。


「信じてくれなくてもいい。最終手段にとっておこう。マジで俺一人で全勝できるから、マコの試験にならない」


「わかった。判断は任せる。無理強いはしないさ」


「すまない。敵が強かったら使うよ」


「なに、ようは勝てればいい。オレ様は強いからな。四天王に頼り切りなんて威厳がないだろう」


 優しいな魔王様。こんな優しくてなぜ魔王になりたいんだろうな。俺よりよっぽど勇者だよ。


「オレ様は遠近どちらもこなす。魔法も使える。だから安心して頼るがいい。この五人の力を合わせれば一勝くらいはできるはずだ! 団結し、勝利を掴みとろうではないか!!」


 身振り手振りもそうだが、発声としゃべりの抑揚の付け方も含めて、味方の士気を上げるのがうまいな。この辺は見習おう。


「失礼します。試験の準備が整いました。一回戦のルール説明の後、会場へご案内致します」


 ノックして現れたのは闘技場の係員さんだ。

 どうやらこの時間は、闘技場を魔王科の試験のために使うらしい。


「いいのかねえ……この闘技場結構でかいのに独占して」


「闘技場や訓練施設はほかにもあるのじゃ。スケジュール調整もされておるから問題ない」


「そもそもこのシステム自体が、監督官のいる時に申請しないと使えないものだ」


「どちらにせよ私達が気にすることではないわ」


「そうそう、これからどうやって勝つのか考えないとね」


 シルフィの言う通りだな。やる気出してるみんなのために、足だけは引っ張らないようにしないと。


「今回のフィールドは大きな川原です。指揮を執る者が戦闘不能となるか、降参するかによって勝敗が決まります。登録者が戦闘不能になると強制的に自陣の脱落者ゾーンに戻され、出ることができなくなります。ギブアップも脱落者として転送されます」


「シンプルでよいのう」


「うむ、オレ様が全て薙ぎ倒せばいいのだ!」


「あまり気負うなよ。四天王なんだからまず俺達が戦えばいいんだよ」


「そうそう、頑張るよ魔王様!」


「よし、では新生魔王軍、出陣だ!!」


「おー!!」


 意気揚々と乗り込んだ闘技場内は完璧に野外だ。

 空間をいじってるのか、映像を実体化させているのか知らんがめっちゃ広い。

 大きいが流れの緩やかで、見る限りでは膝の下くらいの深さの川がある。

 なんだか戦国武将とかが対峙すれば後世に語り継がれそうだな。


「試験監督のガドルだ。全員近くの魔導ビジョンに注目しろ。お前達は川を挟んで向かい合っている。自分達の背後にある赤い壁の向こうが脱落者エリアだ。そこには入れないから気をつけろ」


 俺達の横にある魔導ビジョン越しに話してくるごついおっさん。


「魔王は四天王以外に部下を五十人、もしくは自分の眷属を五十体まで召喚できる。それと四天王に自分を合わせた五十五人が一チームだ。これ以上の人数は入れないし、五十五人から減っても補充は認められていない。打ち合わせ時間はこのビジョンが消えてから三分。その後戦闘に入れ。以上だ」


 説明だけして魔導ビジョンは魔法陣の中へ消えた。

 戦闘で壊さないように別の場所に転送したんだろう。


「さてどうする? これってあっちが先に来て罠を仕掛けたり出来ないよな?」


 川の先によく見えないがかなりの人影がある。

 男か女かすらわからない距離だ。


「できんな。試験である以上、どちらかを明らかに有利に設定したりはしない」


「それじゃあ一点突破する? 全員で迎え撃つ?」


「ふむ、ではザコを狩りつつ四天王が来たら対応していこう。シルフィ・リリアとアジュ・イロハチームに別れて戦うぞ」


 俺の実力が心もとないのでサポートにイロハをつけて、前衛後衛がしっかりしているシルフィとリリアで戦う方針だな。


「無論オレ様も協力する。大怪我をしないようにいこう」


「まず眷属というのを召喚したらどうかしら?」


「そうだな……いでよ我が眷属! 我が剣となり、盾となれ!!」


 召喚魔法陣から続々出てくる水が人の形をとっているなにか。

 胸に輝く宝石からわずかに光が漏れている。


「これは精霊か。よい精霊と契約しておるのう」


「うむ、複数の精霊を仲間としている。川原なので水の精霊が活かせると思い呼んでみた」


「良い選択だと思うわ」


「弱点とか無いの?」


「五十体限定で呼んでいること。胸の宝石は結構もろくて、壊されれば一発アウトだ。これはオレ様の力不足で、強力な精霊が呼べていないことが原因だな」


 なるほど、超強力な助っ人にはならないか。しかし綺麗だな。水が人の形をしているだけといえばだけなんだが……なぜか女性の形で、芸術品に近いなこれ。

 ちゃんと水で髪の毛っぽい部分も存在するから丸坊主には見えないし。


「そろそろ時間じゃ……あっちは普通に人間がおるようじゃな」


「なんでもいいさ。勝てばいいんだ」


「そういうことだ! さあ往くぞ! 我等の力を思い知らせてやるのだ!!」


 戦闘開始の花火が一発打ち上がり、いよいよ戦闘が始まる。

 ギルドレベルを上げるためにも勝ちにいくぜ。

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