四天王の初戦闘
川原での戦闘開始。
とりあえず水の精霊もどきに戦わせて、相手の出方を見る作戦だ。
「しまった……二つ名を考えていないではないか!」
そんな切迫した状況での、我等が魔王様の第一声がこれである。
「何言ってんだ急に」
「魔王四天王に異名が無くてどうする!」
いやどうするって言われましてもさ魔王様よ。あったらどうだってのさ。
「一理あるのじゃ」
「ねえよ。一ミリたりともねえよ」
「なんかかっこよさそう」
「やめろ乗るなシルフィ」
「戦闘中に名乗っている暇なんて無いでしょう」
「だから最初に名乗るんだろう!」
こんなんで大丈夫かうちの魔王軍は。
どんどん敵が川に入ってるし魔法っぽいの撃ってきてる。
そこで俺の腕輪が光った。
「ん、なんか光ってるぞ」
俺達の前に飛んできた魔法が光の壁に阻まれる。
ガードキー使った時に似てるな。
「オートガード機能じゃな。便利じゃろ」
「めっちゃ便利だな。っていうか魔法撃たれてんぞ」
「仕方あるまい……異名は戦いながら考えろ! 相手は川の中だ。精霊に水中を先行させている。うまく連携するように!」
川の中から現れる水でできた味方。それで数が少なかったのか。
「よーしいってみよーう!」
「ま、報酬分は働くとするかの」
リリアが魔法で飛び、並んでシルフィが空中を走りだす。
足の裏の時間を止めているため、下に落ちるという時間が来ない。
だから空中を自由に壁や床として使えると言っていた。ずるくないかそれ。
「ほいほいほいっと!」
羽の生えた敵が、突然空中を疾走するシルフィに慌て、攻撃しながら高度を上げる。敵が弓矢を一発打つまでが長い。おそらく時間を遅らせているんだろう。
その間にもガンガン加速して切り倒していくシルフィと、ホーミング機能のついたビームを連射し続けるリリア。
「おお、なんだ強いじゃないか! あの走っているやつはどうやってるんだ?」
「残念だがそいつは秘密だ。とりあえず俺は援護に回る」
『ショット』
精霊が囲んで身動き取れない相手を狙っていく。
対人戦の心得なんて無いんだから遠距離戦でいこう。
「んー動く人間てのは当てるのむずいな」
さらに盾や鎧に当たるとダメージ減。こいつはめんどい。
精霊はそれほど強くないのか二、三人を相手にするとすぐ負ける。
すでに十体以上が倒されている。
ちょっと思いついたことがあるのでイロハを呼ぶ。
「イロハ、いるか?」
「いつも貴方の側にいるわ」
「……こいつら俺が時間止めて倒したらダメか?」
「試験には監督官がいるわ。敵が倒れた理由付けが面倒よ」
はい作戦失敗。時間止めました、という説明をしないとダメ。
つまり能力が全員にバレる可能性あり。
「しゃーない……敵こっち来てるし援護頼む。接近戦できない」
「任せなさい。そして撫でなさい」
とりあえず銃をショットガンタイプにして散弾をばらまく。
突っ込んできているのは、鎧を着込んだ人間と砂利を固めて作ったゴーレムだ。効いているか微妙だけど足止めはできる。
「おいゴーレムとか増やしていいのか? 五十五人までだろ? 分身の術とかどうなってんだかわかんねえぞ」
「おっと補足説明しておこう!!」
遥か上空からよく通るおっさんの声がする。魔法かなにかかな。
「そのゴーレムは五十五人のうちに含まれている。よって問題はない。分身は実体を持たせない。あくまで映像として使うならセーフだ! 攻撃・盾要員として使えるものは禁止ということだな! 以上だ!!」
「どうするかな……とりあえず数を減らす。イロハ、適当にあっちの四天王減らすぞ」
『バースト』
その辺の砂利を拾って爆弾に変えたら敵に向けて振りまく。しっかり爆発を起こして敵を減らしてくれる。爆風から逃れる敵を、イロハが火遁や風遁の術で追撃してくれてとっても楽だ。
「四天王はもうシルフィ達が三人倒してるわよ」
「はえーなおい。でもこれで敵の数は減ってるな」
「だが妙だな。こちらが水の精霊を使っているのだ、川に入って突っ込んでくる意味が無い。向こう岸から魔法で攻撃すればいいではないか」
「魔王様のおっしゃるとーりでござい。川での戦闘が激しくて向こう岸が見えないし……どうすっかね」
「上の敵は終わったよー」
シルフィとリリアが俺達の横に降りてくる。
ありがたいことに迫ってくる敵を倒しながらだ。
「お互いに戦力は半分以下じゃな。ただしこちらは四天王と魔王が健在。まあ勝ちじゃろ」
「四天王の最後の一人と魔王はどうした?」
「上にはいなかったよ。川の向こうは結界が張られてたし、深入りするのもどうかと思って行ってない」
「良い判断だ。ではそろそろオレ様の力を見せてやろう。全軍突撃だ! オレ様に続け!」
ダッシュで川に入っていくマコ。一人にするわけにもいかんし、全員で渋々後を追う。
「ふはははっはっはっは!! 魔王爆砕撃!! さあひれ伏すがいい!!」
マコが両手から溢れ出ている魔力を乱暴に叩きつけた。それだけで敵が蹴散らされ、川が荒れ、敵が悲鳴をあげる。なかなか暴力的な戦いかたで魔王っぽい気がするな。
「あ、敵の結界に穴が開いてるよ」
よく見るとこちらに向けてぽっかり穴が開いている。いかにも開けましたよーというくらい綺麗に丸く開いているじゃないの。
「なーんか罠っぽいねー」
「だな、あんなん突っ込むアホなんて……」
「待つのじゃ、中から大きな魔力反応がある。何か仕掛けてくる気じゃ」
「マコ、なにかおかしいわ。いったん戻って作戦を……」
「いかん、長距離砲撃魔法じゃ。来るぞ!」
砲撃ってことは穴から魔法が飛んで来るってことだよな。急いでソニックキーを使って指示を出す。
「シルフィ!」
『ソニック』
「わかった!」
スローになった世界で、敵の結界に空いた穴からゆっくりと赤いビームが出てくるのが見える。リリアとマコを抱え、シルフィがイロハを担いで斜線上から離れるため、全力で駆け出した。
「うおおお!?」
なんとか回避が間に合った……川を引き裂き脱落者ゾーンのある障壁にぶつかり爆発を起こす。結構な爆風がこちらまで届いている。
「あっぶねー……まーじかい」
「すまない、助かったぞ」
「うむ、よい仕事じゃ。ちょっとかっこよかったのじゃ」
「川にいるのがみんなゴーレムに変わっていたわ。おそらく囮に使って私達を倒すつもりだったのね」
「おかげでずぶ濡れだよチクショウ……」
「アジュが庇ってくれたおかげでわたし達は濡れずに済んだよ。ありがとね」
「別に礼はいいさ。マコ、俺達で結界ぶち破って全滅させるぞ」
『シルフィ!』
もういい。即終わらせよう。めんどくなった。
というかこいつらをずぶ濡れにしたくない。
真紅のパワードスーツに身を包み、マコを小脇に抱える。
「おおぉぉ……美麗極まる鎧だ……神々しさすら感じるぞ! 正にヒーローの鎧だ!」
「魔王の部下がヒーローっぽくていいんかね? んじゃ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
超加速で敵の結界目指して大ジャンプ。
半円型の結界のためてっぺんに乗ってしまえばいい。
「これからどうするんだ? このままだとすぐにバレてしまうぞ」
「決まってんだろ」
『ソード』
「ぶった切るのさ。全てをな」
この剣に斬れぬものなどありはしない。スパっと結界を切り裂いて中へ入る。
落下中に乱暴に剣を振るい、風圧で敵を薙ぎ倒しておく。
地面に巨大な魔法陣が見える。あれが砲撃魔法に使われているんだろう。
「敵の魔王はどいつだ?」
「あそこにいる灰色の髪の男だ」
「了解、魔王様」
中心に降り立ち、横一閃で魔法陣をかき消しておく。
ついでに敵の魔王以外をぶっ飛ばす。
「なんだ貴様ら! どこから入ってきた!」
「なんだと聞かれては、名乗らぬ訳にはいくまいて……オレ様は未来の魔王マコ! そしてこいつは臨時四天王の…………異名とか考えておいたか?」
「悪い、忘れてた。むしろ忘れていたかった」
「ふざけるなよ貴様ら!!」
「いやもうほんとゴメンな。ほらみろ怒られただろうが」
「四天王のくせに二つ名もないとは何事だ貴様!」
「えぇ……怒られるの俺なの?」
どうやら人間と魔王では、感性に大きな隔たりがあるみたいだ。
なんか男に猛抗議されている。
「さっさと決めろ! 格好がつかんだろうが!!」
「いや決めるも何も戦っちまえばいいだろうに」
「もうぶっちゃけ詰みだろうが! せめて格好良く名乗って倒してくれ!! せっかくヒーローっぽい見た目をしているんだから!」
そんなお願い初めてされたよ。華々しく散るというのはそんな大事かいな。
「ちなみに、貴様らを苦しめたゴーレムと砲撃魔法の使い手は鋼鉄参謀と名乗っている」
「俺にそんなセンス求めないでくれよ……えーわかった。俺は魔王軍四天王が一人!」
とりあえず剣に魔力を込めて、殺さないように魔力の刃だけを飛ばそう。
「冗談切札(ジョーク・ジョーカー)アジュ! 魔王、成敗!!」
魔力の刃は名前も知らぬ敵魔王に直撃した。
「ありがとおおおぉぉぉ!!」
お礼を言いながらふっとばされる人なんて初めて見たわ……世界って広い。
「そこまで!! 勝者マコ!!」
おっさんの声が終了を告げる。長かった……とりあえず最低限の仕事はしたな。鎧は解除して、ようやく戦いが終わる。
「ありがとう! 本当にありがとう!!」
感極まった様子でマコが抱きついてくる。
正直どうしていいのか、どうするのが正しいのかわからないんで、やめて欲しい。
「まさか勝てると思わなかった! 私……依頼を受けてくれたのが貴方でよかった!」
「そう言ってもらえると助かるんだけど……」
「けど?」
「あいつらがめっちゃ見てるんで離れてくれ」
「アジュがまた女の子と抱き合ってる……」
俺達を迎えに来たシルフィ達三人がこっち見てる。めっちゃ見てる。
「あわわ……ごめんなさい! その、私、嬉しくってつい……そういうつもりじゃないの!」
結局わたわたと誤解をとこうとするマコが微笑ましかったので、和んでしまった。
まあ無事勝ってなによりさ。貴重な経験だよこれも。
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