長巻に慣れよう

 屋上で敵指揮官っぽい黒装束とバトル開始。

 両腕に黒い手甲がついている。


「頑張ってください。私たちは見守っていますので」


「がんばってアジュ」


「普段どおりやればいいわ」


 もう敵軍団が壊滅寸前である。観戦ムードが漂い始めていた。


「というわけで、ここはオレが指導と共闘をする」


 大太刀使いのSPさんだ。

 どうせ達人だろうし、ここはサポートに回りたいが、どうも俺メインくさい雰囲気だよ。


「ガキが相手とは、なめられたもんだぜ」


「ガキの集団に壊滅させられただろお前ら」


「ならおめえらの命だけでも貰い受ける!」


 面倒だねえ。なぜそんなにやる気だよ。

 仕方ないから真面目にやろう。市販のカトラスを腰に装備。

 長巻だけでいけるかわからん。


「死ぬ前に一花咲かせようってか?」


 会話中に装備確認。長巻とカトラス。コートの中にクナイと回復丸とまきびし。

 あとは左腕に鉤縄だが、これは屋上だし使わないだろう。

 長巻の練習も兼ねて、なんとか接近戦をやってみるかね。


「死ぬまで人が殴れればそれでいい。気分良く殺し合って死ぬだけだ!」


「お前の精神状態がわからん。サンダースマッシャー!」


 簡単に手甲で打ち消された。やっぱりそれなりに強いな。


「もっと本気で来い!」


「それじゃあ後輩よ、ともにリクエストに答えようじゃないか……君の名前を聞いていなかったな」


「サカガミです。やるしかないか、リベリオントリガー!!」


 回復丸飲んで、リベリオントリガーをきっちり最大出力だ。

 これでダメなら、かなりきついぞ。


「リグかリグさんと呼べ。こだわりだ。親しみと敬愛を込めるんだ」


「そいつ変なとこバカだから、気にしないでいいぜーい」


 SP仲間だろうか。知らん人からフォローが入る。


「誰がバカだ老け顔!」


「老けてねえダンディだ!!」


 SPにリグさんと同年代とは思えない、渋いおっさんがいた。

 よくわからんやりとりが繰り広げられている。

 俺はどういう気持ちで、これを見ていればいいんだか。


「茶番はそこまでだ。こちらから行くぞ!!」


 敵のボスが動く。かなり速いが、目で追いきれないスピードじゃない。


「はっ!」


「とうっ!」


 左右に飛び、横薙ぎに振り抜く。リグさんが下段、俺が上段狙い。


「ぬるいぞ!!」


 手甲で弾かれる。だが着地地点にまきびしを巻いておいた。


「ああん? 効かんなあ!!」


 その場で踏み潰している。どうやら無駄だったか。


「底に鋼鉄と魔力壁が仕込んである。小細工は通用しねえんだよ!」


「なるほどねえ……面倒なやつだ」


「ならば王道を征くのみよ!!」


 リグさんの戦法を観察する。

 手甲の隙間を狙い、本体へと突き出す。

 最初から装甲の薄い場所を狙っての斬撃だな。


「なんの!!」


 大きくバックジャンプし、太刀の間合いから逃げるようだ。

 同時にボスの手へと炎が集まっていく。


「マグマボール!!」


 そこそこのサイズの火球が飛んでくる。


「ダブル!」


 俺にも。いやいや俺の存在は忘れてくれていいから。


「サンダースマッシャー!」


「無駄だ! オレに小細工など無用!」


 俺は魔法で、リグさんは武器で火球を破壊。楽勝やね。

 敵は魔法が得意じゃないみたいだ。


「剣の修行なんじゃから、魔法ばかりではいかんじゃろ」


「組み合わせりゃいいんだよ」


 そろそろ本気で行くぞ。着地に入るボスへと接近。

 ガードされることを承知で、手甲に向けて軽く斬りかかる。


「ちっ、やはり硬いか」


 強度を確認したかった。結果として、あれは市販品で切るには硬すぎることが判明。作戦変更だ。

 刺突で両腕の防御を抜けようとしつつ、黒装束の隙間を確認する。


「そんなもんかあ!!」


「さあ? どうだろうな」


 リーチはこっちが上だ。距離を詰められないように動きつつ、足を止めて打ち合わない。一撃離脱を繰り返す。


「小賢しいわ!」


「だろう? そこが気に入っていてね」


 距離を取るとマグマボールが来る。

 投げてくる直前に、火球にクナイを投げ入れた。


「あん?」


「こういうのはいかがかな?」


 サンダーシード発動。電撃と炎がボスの顔にかかる。


「ああああっちいいい!?」


 ここが好機。リグさんと俺で、表裏挟み撃ちに入る。


「いくぞサカガミ!」


「了解!」


 今度は俺が下段から、すくい上げるようにボスの左腕へと刃を差し込む。

 だが切断はできず。ならばと急遽方針変更し、腹に一撃入れて離脱した。

 リグさんは上段から背中を斬りつけ、そのまま右腕を跳ね飛ばしていく。


「ぶはああぁぁ!?」


「こんなもんかな。リグさんには届かなくて当然だとして、課題が多いぞこれ」


「あとは練度次第だ」


 敵はもう右腕を失っている。圧倒的アドバンテージだ。


「なぜだ! コーザ家の末裔であるおれが! ガキに負けるはずがない!!」


「知らんよそんな家」


「知らんだと! 世界を逃げ回り、好きなものを殺し、奪うコーザ一家だぞ!」


「クソみたいな家族だなおい」


 よく生きていたなお前。その歳まで生きているだけで運がいいぞ。


「だが二十年前、家族は殺された! 騎士だの衛兵だの、よくわからん連中によって、無残にも皆殺しの目にあった! なぜ我ら一家がこのような目に! 貴族の家に盗みに入って金庫爆破しただけなのに!」


「どう考えてもお前らが悪いだろ」


「ぬくぬくと生きてきたガキにはわからんだろう。この苦しみが! ガキのくせに知ったふうな口を利くんじゃねえ!」


「お前みたいなもんを産んで育てた時点で、家族も同罪だ。死んで当然さ。むしろお前を産まずに死んどきゃ百点満点、いや五十点くらいだったのにな。はっはっは!」


 まあ挑発で返しますわな。そらそうよ。死んで当然の一家だねえ。

 本当にどうでもいいよ。無駄な時間使わせんなアホ。


「うおおおおお!! 絶対に許さねええええ!!」


「えぇ……お前が挑発してきたくせに切れるなよ……」


「そら切れるじゃろ。アホなんじゃから」


「難儀な人ですね。私も言えた口ではありませんが」


 どうせ今から死ぬアホだ。別にいいんじゃないかな。

 挑発も効いているし、さっさと倒そう。


「じゃあ俺が終わらせます。助かりました」


「できるのか?」


「こだわらなければ。サンダーフロウ!」


 長巻に電撃をまとわせ、そこそこ高くジャンプ。

 ここで小細工を仕込んでおく。


「せえええりゃあ!!」


 それっぽい掛け声とともに振り下ろす。


「あめえんだよガキが!!」


 それを手甲で受けるボス。予定通りだねえ。

 俺を見上げ、怒りの形相だ。判断力が鈍っているぞ。


「こんなもんでなあ! おれが倒せっかよ!!」


「いいや、これでいいのさ」


 気づかないか。気づいてももう遅い。

 斬りかかったのは、左腕と、雷で作った右腕だ。

 本物の右腕はコートの内側よ。


「なにっ!? しまっ……」


 素早く腰のカトラスを抜き、敵の喉に突き刺した。


「うっ、がばっ!?」


 上から行ったのも、顔を上げさせ、首をがら空きにさせるためだ。

 隙間があるのは見抜いていたからな。

 腕が一本なければ、ガードもできまい。


「ば……かな……」


「そんなもんさ」


 崩れ落ちるボスの首に向け、長巻を振り下ろした。

 無事一刀両断。これにて終幕でございます。


「よーし終わり。部屋に戻るぞ」


「うむ、見事じゃ」


「やりますねえ。さすがは天才のダチ」


「やっぱり真面目にしていれば素敵ね」


 すでに屋上は清掃まで完成していた。

 逃げた敵も全員捕まったらしい。


「いいぞ。オレが教えた動きを自分のものにするのだ」


「助かりました。今後の参考にします」


 リグさんの動きは勉強になった。

 あとは本当に慣れだな。早く武器完成させよう。


「では戻りましょうか。夜は冷えますので」


「お前が行くって言い出したんだけどな」


「もう深夜だね」


「明日に備えて眠るとします。そちらももう寝てください」


 とりあえず眠る時間は確保できたか。

 あとはSPと取り調べ班に任せ、俺達は朝まで眠るのだった。

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