花と迷路と変な敵

 色とりどりの花が綺麗に並び、咲き誇る迷路へと足を踏み入れた俺たち四人。

 中はかなり広く、四人が横に並んでいても三倍以上の余裕がある。

 壁には緑のつるや草。そして花が咲いている。


「おおぉ……綺麗だなここ」


「花の香りが混ざりすぎないように工夫されているわね。過剰に混ざると嫌な匂いになるのに」


「そこは学園の技術だねー」


「広場でたまーに新種の発表会とかやってるぜぃ。劇で使うやつもある」


「本物使うのか」


「造花もある。状況によるな。花に負けないよう、けれど勝ちすぎないよう演じるのは難しいんだぜ」


 めっちゃ真面目に演技してんのね。

 やはりガチ勢が多いんだな学園って。素直に凄いわ。


「さあさあ、こっちは気にせず腕とか組んでみちゃどうだい?」


「だめだよばっくん。あじゅにゃんは繊細だからね。恋人つなぎくらいでいこう!」


「できねえよ」


 できてたまるか。

 しれっとイロハが手を繋いでくるが、この時点で軽く変な汗が出ています。


「別にこれはこれで満足よ」


「そっからさりげなくやっちまえばいいのさぁ」


「方法がわからん」


「どういうことだい?」


「ここから自然につなぎ方を変える方法を本当に知らん」


 素でわかりません。他人と手をつなぐことなんてほぼ無いからね。

 俺にそういう知識を期待するやつはアホだと思うよ。


「こう……なんつーかねぇ? こう手をだなぁ」


 バスクードが自分の両手を使って、一人で恋人つなぎへの変形を説明している。


「妙に器用な真似しやがるな」


「他人の彼女と手をつなぐわけにゃあいかねえだろ? それはおれの魂とポリシーが許さねえ。だから自分で見せるしかねぇんだわこれが」


「律儀な人ね」


「おれは本気で恋の仕掛け人をやってんだ。半端なやり方はしねぇんだぜ」


 この実直さ……いや実直かどうか曖昧だけども、とにかく誠実なのは認めよう。

 ヒカルも似たような行動パターンだよな。さすがはライバル。


「せっかくだからやってみましょう」


「はいはい、頼むぞ」


「こうよ、こう」


 手を離すと、ささっとイロハがつなぎ方を変えてくれる。


「動きづらくね?」


「まず素早く動くという前提を捨てて。ゆっくり恋人のように歩くのよ」


「ゆっくりお花を見ればいいじゃん。今日はそういう時間だよ」


「いいこと言うねぇ。箱はおれがしっかり持っててやるからさ。楽しんでおきな」


 まーた箱を出している。しかも二個。

 周囲に人はほぼいない。けれど警戒はしろ。


「俺なりに楽しんでいるよ」


「私達はこういうものだから」


「ならいいさ。こっちはこっちで適当に楽しんでっから……」


 そこで周囲の花がざわめき、植物のつるが箱に巻き付いてかっさらっていく。


「おぉ?」


 猛スピードで茂みへと消えていく箱。悪くはない手段だ。

 人間が奪うより警戒もされないし、誰が犯人かもわからない。


「おわあぁ!? やっべえ! 待ちやがれちくしょう!!」


 バスクードが慌てて追うが遅い。

 壁の隙間をするすると抜けて、箱は消えた。


「さて追うか」


「だな」


 あくまで普通は無理ってだけだからね。

 さっさと犯人の元へ行きましょうか。





「本当にこれか?」


「間違いないよ。ラウル・リットが渡した箱だ」


 少し歩いた先に、壁際でこそこそ話している連中を発見。

 男女二人だな。制服だが学生かは怪しい。


「とりあえず二個か。急いで戻るぞ」


「残念。それ偽物なんだわ」


 こっちを振り向くがもう襲い。四人で包囲している。


「どうしてここが!?」


「言ったろ、偽物なんだよ」


 ついでに箱にかけていた魔法も解除。

 ミラージュキーでチョコの空き箱に幻影を被せたものだ。

 随分あっさりと引っかかってくれたもんだな。

 ちなみに魔力探知はチェイスキーで魔力の発信機を入れておいた。


「流石は実力派俳優。名演技だったぜ」


「だろ? 気に入ったら劇場に来てくれよ」


 どうせ敵もバスクードが箱を持っているのは知っている。

 なら見せびらかして囮にすることにした。


「かかるのが早くて助かるぜ」


「逃しはしないわ。おとなしく捕まりなさい」


「どうかな?」


 敵の袖から大量の植物の根が飛び出す。


「どういう攻撃手段だお前」


「はいちょっとごめんよ!」


 迎撃体勢を取る前に、バスクードが綺麗な花を片手に躍り出る。


「いやお前はお前でなにやってんだよ!」


「咲かぬなら、咲かせてみせよう恋の花!」


 花が光り輝き、美しい彫刻をあしらったレイピアへと変わる。

 彩り鮮やかで、持ち手にも花の装飾がついていた。


「恋慕百蓮華!!」


 飛んでくる根っこを全弾撃ち落としていく。

 その全てが違う動作で、かっこつけながら切り刻んでいった。

 地味に凄いな。


「お粗末さまでしたぁ!」


 最後にポーズを取っておしまい。

 実に絵になっている。


「おぉー……やるね」


 思わず皆で拍手。少ないが観戦していたギャラリーもつられている。


「おれは恋の仕掛け人、バスクード! 散っちゃいけねぇ恋の花、見事守ってみせましょう!」


「決め台詞あるやつって強いな」


「あじゅにゃんも作る?」


「いらね」


 さて確かめておかなきゃいけないことがある。

 白黒はっきりさせてから倒しましょう。


「最後に確認したい。これこの施設のアトラクションとかじゃないよな? こっちは特殊なクエストを受けている。マジで傷つけるつもりでやるから、こういうイベントならそう言ってくれ」


「あぁ? ああ…………そうそう、イベントだよ。だからもう帰らせてもらえるかい?」


 嘘つくの下手すぎじゃないかな。こんなアホをよこすってどうなの。


「じゃあ箱返せよ」


「偽物なんでしょう?」


「客から取ったもん返さねえイベントってあんのかい?」


「無駄だ。こいつらは話すふりをして距離を詰めているだけ。予定通り倒して帰るのだ」


 俺たちの足元から木の根が飛び出す。

 わからないとでも思ってんのかこいつら。

 既に全員上空へと退避済み。


「さては威力偵察ってやつか。お前らみたいなのが主犯じゃないだろうし」


「あまりにもお粗末すぎるものね」


「ならば真の姿をお見せしよう」


 植物が敵二人と同化していく。

 その姿は最早人ではない。髪がつると花びらに。

 皮膚が木に変わっている。


「おいおいあれも魔法か?」


「聞いたことがないわ」


 着地するとつるのムチが飛んでくる。やはり避けられるレベルだ。


「おとなしく倒れるのだ。命までは取らぬ」


 全員でつるを迎撃。攻撃そのものは威力がないが、数が多すぎる。


「ここじゃ魔法が使えない。無闇に花を傷つけたくないし、場所を変えたいが……」


「本当に人以外に優しいわね」


「賠償とかさせられたらどうするんだよ。目立ちたくない」


 雷魔法なんぞ使えば、花園が燃える。

 立派に咲いているので、できれば保護したいが。


「箱を渡せ。でなければ死ぬぞ」


 口から大量に紫のガスを吐き出す敵。

 もう完全に人間じゃないなこいつら。


「花が枯れっちまうじゃねえか!」


「そうだそうだー!」


「人間にのみ効く猛毒だ。箱を渡せば消してやる」


 そこでなんとなく思いつき、右手を敵にかざす。


「リキュア」


 白い光が毒ガスに向けて飛び、青白く発行してかき消していく。


「アジュ、お前さん解毒できんのか?」


「今ぶっつけ本番でやったらできた」


 どうやら解毒とか異常回復っぽい魔法が出た。

 よくわからんきっかけで出たなあ。

 ちょっと唐突すぎて自分自身心の処理ができないわ。


「あじゅにゃんは魔法のセンスめっちゃあるからね」


「間抜けな敵も、少しは役に立つのね」


「とはいえ、簡単な毒じゃないと完全な浄化はできないらしい」


 光と毒がちょうど中間でぶつかり合いを続けている。

 完全には消しきれないし、勢いが増していくせいで押されそう。


「早めに倒してくれ」


 敵は足元からどんどん地面に根を生やしている。

 少々まずいことになりそうだ。


「後は任せて。水遁、氷葬流し」


「私もやっちゃうよー。水遁フリージングフィールド!」


 まず敵の足元を完全に凍らせる。

 そこへバスクードが肉薄した。


「はいはい景気よくぶっ飛びなさいや!」


 レイピアを巨大なバスターソードへと変化させ、凍った根っこに突き刺した。

 どういう仕掛けかちょっと気になるな。


「ぬうぅ!?」


「なんですって!?」


「恋の天地大返し!!」


 そのままシーソーのように片方に体重をかけ、敵二人を遙か上空へとふっ飛ばした。


「豪快だねえ……」


 イロハに影の階段を作ってもらい、そのまま二人で駆け上がる。


「やっぱ無事かよ」


 敵は投げられただけ。逃げようとしている。


「早く終わらせて、恋人つなぎの続きをするわよ」


「善処はするさ。雷光一閃!!」


 イロハとともに敵を一閃。

 殺しはしない。そこそこ加減してやった。


「ぎゃあああぁぁぁぁ!?」


 植物だからか、雷は結構な効果だったようだ。

 黒焦げになりながら落下していった。


「まったく……普通に遊んで終われないもんかね」


「一緒なら楽しいわよ」


「限度がある」


 影の滑り台により無事着地。

 敵をももっちとバスクードが縛ってくれている。


「おつかれ」


「お疲れ様、そのまま縛って警備に突き出しましょう」


「もうラウル先生に伝令飛ばしたよー!」


「おつかれさん! なんだよ強いんじゃねえか! 派手で気に入ったぜぃ!」


「そりゃどうも」


 ここは人目につく。急いでこの場を離れる準備をしていると、ずっと喋らず抵抗もしなかった敵がおかしい。


「おいおいこいつらなんか変だぜ!?」


 急に敵の体が灰色になり、ばらばらと崩れ落ちて木片になった。

 肉片なんて欠片もない。


「どういうことだ……?」


「殺してはいないはずよ」


「縛っている間もちゃんと生きてたもん!」


「なにがどうなってやがんだ」


 どうやら予想以上に面倒な依頼らしいな。

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