フウマ・イガ・コウガの違いについて

 あまりにも意味わからんかったので、遊ぶのを中止してラウル先生の元へ行くことにした。


「何やら大変だったようですね」


 花の迷路のゴールで先生が待っていましたよ。

 どうやら伝令入って即こっちに来たらしい。


「説明が難しいんですが……」


「あちらでゆっくりお聞きしましょう」


 休憩所があるので、ゆっくりお茶飲みながらトーク開始。

 木のような人間が襲ってきたこと。

 最後に何故か木片になって消えたこと。

 その他気づいたことを話していく。


「制服まで完全に木片になっているようで、特定が難しいですねえ」


「そもそも魔法なんですかあれ?」


「魔法で変化したか、それ以外の技術か……単純に体質やそういう種族という可能性もあります。そういう種族の話は聞いたことがありませんが、新手の精霊かもしれませんし」


「対象が絞れないってのは厄介だねぇ。なんか手はないもんかな先生」


「不審者が出入りしていないか調べてみますが、あと二日用心していただくしかありませんね。なので戦闘能力の高い人に依頼をしています」


 犯人や組織不明のテロみたいなもんだからな。

 完璧に対応は難しいだろう。仕方がないか。


「危険なら相手に箱を渡してしまってください。命だけは取られないように」


「敵は生け捕りにできる可能性が低くなりましたが」


「捕まえようにも崩れてしまえばそれっきりですからねえ……無理だけはなさらないでください。逃げることもおすすめですよ」


「気をつけます」


「また何かあったら私の研究室か、関係者とか警備さんに伝えてください。本当に危険そうなら研究室に泊まってもいいですよ。プロに依頼してあります」


「ありがとうございます」


 正体不明の敵とは厄介なもんだな。

 似たような魔力を探そうにも、学園は広すぎるし、どうしたもんかね。


「では十分に気をつけてくださいね。お仲間と一緒にいると安全かもしれませんよ」


「はい、先生もお気をつけて」


 そして部屋を出て、四人で歩く。

 同じ事件に遭遇したからか、なんとなく離れないのは不思議だ。


「面倒なことになったわね」


「なぁに、生きてりゃいろいろあるってもんさぁ!」


「そうそう、あじゅにゃんもそうでしょ?」


「ありすぎて平穏が恋しくなっているまである」


 これ神様ぶっ殺し案件にならないだろうな。

 本当に面倒なんだぞ。鎧使わないといけないレベルは勘弁してくれ。


「おれの想像よりずっと戦えてたぜ。もっと胸張ってりゃいいじゃねえか」


「みょ~に自己評価低いよねあじゅにゃん」


「評価できることなんてなかったからな」


「強くなっているって、何回も言っているのだけれどね。どうも実感が湧かないみたいなのよ」


「俺より圧倒的に強いやつに言われてもわからん。お前ら三人に絶対勝てないからな」


 間違いない。断言できる。こいつらに正面どころか小細工しても勝てるビジョンが浮かばない。学園は超人が多すぎ。


「FやEランクの魔物は狩れるはず。そこから先は一切の確証がない」


「忍者やってみない?」


「意味がわからんぞ」


「あじゅにゃんの小細工と用意周到さと冷酷残忍なところが忍者っぽいと思います!」


「忍者に謝っとけ」


 世の中の忍者さんに失礼だぞ。かなりハードなお仕事なんだから。


「忍者って派手でいいよなぁ。劇場とかで映えるんじゃねえか?」


「忍べ。忍者なんだから」


「忍者の戦隊が活躍してたりすんだろ? あれは違うのかぃ?」


 まったくわからん。この世界の情勢とか知らんのよ。

 オルインは広いし、特殊な成り立ちをしているため、そのへん網羅できんのだ。


「コウガのことかしら?」


「あいつらド派手じゃねえか。忍者ランド出身の精鋭なんだろ?」


「どういうことだおい」


 こっちの世界での忍者ってなんなのさ。

 もう定義が曖昧すぎませんかね。


「フウマ・イガ・コウガの違いがわからん」


「フウマは私たちよ。フウマの里に行ったでしょう?」


「イガが私だよ。イガ忍法使ってるし!」


「忍法違うんだっけ?」


 余計こんがらがる。これ歴史の勉強になっていく気配だぞ。

 歩きながら理解できるのか不安だ。


「しまったな……リリアがいない」


「解説役のリリアちゃんが欲しいね」


「いないとありがたさが身にしみるわね」


 こういう時にいて欲しい度120%ですよ。

 満場一致で来て欲しい。切実に。


「わしを呼ぶ声がしたのじゃ」


「一周回って怖いわお前」


 普通にすっと出てきやがった。

 お約束では済まされないホラー感が出てまいりましたよ。


「新顔さんだねぇ。しかも恋の花が一層強く咲いてやがる」


「その嗅覚がマジで怖いからやめろ」


 こいつはこいつで得体が知れん。俺の周囲変なやつしかいないな。


「鼻の効く者がおるようじゃな」


「おれの名はバスクード! 天下に轟く恋の仕掛け人さ!」


 なんだかんだ自己紹介は終わりました。

 悪いやつではないし、恋路を応援するタイプだからか、悪印象も抱かない。


「でなんじゃ? 忍者の話かの?」


「頼む」


 長くなりそうなので、適当な休憩所見つけて座る。

 いっそちゃんと勉強しておこう。


「まずイガじゃ。これはこの世界に古くから伝わる諜報・暗殺・戦闘から警護までの歴史と知識の集大成。まあCIAやSWATのような特殊部隊やシークレットサービスじゃよ」


「しーあいえー?」


「まあ特殊で伝統的な権力ある組織じゃな。王族の警護や秘密の任務につく」


「なるほどわかりやすい」


 リリアいないとだめかー。今回のことでそれがよくわかったよ。

 しれっと膝の上に座っているのも許そう。


「イガとコウガの術は名前が似ておる。おぬしにわかりやすく言えば横文字オンリーがコウガ。フウマの技術を見よう見まねで入れたイガは横文字七割で、漢字三割と思えばよい」


「よくわかんにゃい。完全にあじゅにゃん向けの説明だね」


 横文字と漢字が伝わらないからな。

 そこは別の形でさらにリリアが補足を入れ、理解させている。

 地味に凄くないですかね。


「コウガはイガと同じ源流で、さらに大衆向けに忍者を浸透させ、エンタメ性を取り入れつつ人気商売にしようとした者たちじゃ」


「そんな目立っていいのか? 反発起きそうなもんだが」


「部下を食わせていくためには仕方ないことだったんじゃよ。もっとも今は本人たちが乗り気じゃ。結果的には大勢力になり、正解だったんじゃろ」


 試験で出会った忍者さんもそんな感じだったな。

 しかも強いもんだから反応に困る。


「んじゃフウマはどうなんだぃ?」


「フウマは突然この世に現れた別文明じゃ。技術も種族も完全に違う。秘伝の技術もほぼ国外には出ない。学園のようにフウマの店があるのは珍しいのじゃ」


「それが長い年月でちょこっと混ざったのがイガだね。取り入れてアレンジするのも得意だよ!」


 時勢も知って、裏に生きる感じがイガだな。

 独自文明を大切にして生きるのがフウマか。


「フウマの忍者伝説が多すぎて、隠密が忍者で固定され、そこから全部忍者になったんじゃよ。昔は呼称が複数あったはずじゃ」


「ほー……伝統あるもんなんだな」


 忍者の解説は続く。これは面白い。

 無駄に暗記する授業は嫌いだが、こういうのは苦にならないな。

 ほぼ話し終えたところで、誰かがこっちに走ってくる。


「いた! バスクードさん!」


「おん? どうしたい? そんな血相変えちまって」


「もう稽古二十分前ですよ! いつまでふらふらしてんですか!!」


「うえぇ!? マジかよ! 悪ぃ!!」


 どうやらバスクードの知り合いらしい。


「箱の依頼と並行してんのか?」


「本業は役者だからな。やっぱ舞台のおれこそ本当のおれよ! つーわけでまたな!」


「おう、頑張れ」


「またねー!」


「道中気をつけるのじゃ」


 大慌てで去っていった。嵐のような男だ。

 それでも爽やかというか、不快感を与えないのは、役者としての立ち回りなのかもしれない。


「さて帰るか」


「シルフィが待っているわ」


「よーししゅっぱーつ!」


「……ついてくる気か?」


「あじゅにゃんの家が一番安全だし!」


「却下だ」


 家というのは安らぎを与えてくれる場所だ。

 ももっちがいたら、うるさくてかなわん。


「観念してイガ忍軍といればいいじゃない」


「そうじゃそうじゃ。むしろプロと一緒なら心強いじゃろ?」


「お泊まり会したいです!」


「やめてくれ頼むから……」


 結局説得に時間をかけてしまった。

 こんな調子で最終日までもつのだろうか。

 無性に不安になってきた。

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